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創世する世界のイヴ # Genesis to the world's Eve  作者: 遍駆羽御
本編―――― 第2章 1000キュリアの祈り
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第73話 俺達の故郷(ふるさと) 前編

 第73話 俺達の故郷ふるさと 前編


 イヴという物語が【創世する世界のイヴ】本筋ならば、本来、彼らの話は語られずとも良いのかもしれない。

 しかし……彼らも世界の一部なのだから、どうか、彼らにも幸福な日々を。


 そんな彼ら、人間を愛している転生神 ローナ曰く、


 ローナ「人間はね、虫みたいに群がると何故か、運命さえも変えてしまう力を発揮する。不思議だね。だから、私は人間を深く愛して観察対象として見守っているのさ」


 と昆虫採集に夢中な子どものように笑う。


 物語は凪紗南イヴが盗賊王 マーク・リバーを撃破する前に戻る……。


 視点 神の視点   ※文法の視点名です。

 場所 クイーン王国 ナナクサ村

 日時 2033年 4月4日 午後 5時20分



 夕焼けの茜色を血の朱に変えるように紫色の狼煙が上がっている。

 ブルーム伯爵がイヴ女王様より任された土地の一つであるナナクサ村所属地方騎士隊長 ロジャー・バートンは村が見下ろせる小高い丘に建っている木製の兵舎の窓から狼煙を見つめていた。


 紫色の狼煙は危険種動物が500体程度のギルド依頼、貴族が個人的に所有する武力 地方騎士で対抗できる規模だ。

 これならば、自分達だけでも対処が可能だとロジャーは安堵と共にここを切り抜けて生き残らなければ……と考えていた。


 そして、護りたい者がロジャーには多すぎた。

 ロジャーはイクサの森周辺にある複数の湖で漁をすることで生計を立てる者と、勇者が立ち寄った時に広めたたこ焼きをクイーン城下街で露店売りして生計を立てる者が多いナナクサ村で産まれ育った。

 未熟児として産まれ、母親 キミミ・バートンはロジャーが身体の弱い子として将来、苦労するのでは? と心配していたが、その心配を余所に竹馬の友 ヒイタ・シーギと共に村の住民達から、悪ガキと称されていた。

 その村の住民達や1年前に癌(地球から人道的にもたらされた病気情報と照らし合わせてそうだったと思われる)で死んでしまった母 キミミが愛した素朴な草原や木々が多く生い茂る羊飼いが行き交う村を護りたい。そういう願いから、城下街にある騎士専門学校に入学し、卒業後、イヴ女王様からクイーン王国騎士勲章を授与され、ナナクサ村に所属する地方騎士になる為に面接をブルーム街で受けて、ナナクサ村所属地方騎士になった。


 8年、経った今ではロジャー・バートンは隊長の地位にあった。


 ロジャーは隊長室の光沢のある机に置かれた不器用な縫い目が粗い弁当袋を優しい気な表情で眺めた。それはロジャーにとって、隊長室の机 90000キュリアよりも価値のあるものだった。

 そう真っ先にストーレートにこれを作った妻のジェーナに言ってしまったら、騎士専門学校時代のように「このぼんくらが!」と蹴りを入れられてしまうだろう。


 ロジャーが何よりも護りたいのはその妻と、妻との間にできた4歳になる娘 キミー・バートンだった。

 愛する者を護る為に自分は騎士になった! ならば、震えそうになる身体を強靱な意志で雁字搦めにして、武器を取ろう。


 ロジャー「ここは…………俺達の故郷ふるさとだ! 誰にも渡さない。すぐに皆が集まる練兵場に行かねば」


 壁に立て掛けていた長年の相棒である正規の騎士ならば、イヴ女王様より貸与される国への忠誠の証 騎士の剣を帯剣した。

 そして、ここにはもう、戻ってこられないかもしれないと思い、眺めた。


 案外、ものが少ない。

 高価な机と椅子、騎士の武勇伝の書かれた本や剣術指南書、業務指南書が整然と並べられた本棚。額に飾られた2年前のイヴ女王様の視察の時の写真。

 その写真に写っているのは、ロジャーの娘のキミーを抱っこしたイヴ女王様を中心にロジャー、リン前女王様の専属メイド兼専属料理人だったナリス・ブラン、悪友 ヒイタ・シーギであった。


 この時、イヴ女王様が娘にかけてくれた言葉を今でも覚えている。


 イヴ『キミーのほっぺはぷにぷになのだ! きっと、美人さんになるぞ、予が保証する』


 キミー『イヴさまのほっぺもぷにぷにぃ』


 イヴ『そうか、嬉しいのだ。女の子は肌が命なのだ』


 キミー『はだがいのちぃー』


 ロジャーはその写真をじっと、見つめる。

 うんと強く頷いた。


 ロジャー「…………」


 扉をゆっくりと開けて、隊長室を後にした。


 *


 扉を閉めて、溜息を吐いた瞬間、肩に強い衝撃が加わる。


 ヒイタ「よぉ! ぼんくら! 俺達の故郷ふるさとを護る為に頑張ろうぜ! それが騎士ってもんだろう」


 そう、騎士の在り方を語る男 ヒイタ・シーギはメンテナンスの悪い傷だらけの鎧を装備し、イヴ女王様が刀を装備しているから、という理由で日本刀を帯刀していた。

 ひげ面の中年男性の顔がいたずら坊やの表情を浮かべていた。

 いつもの村付近の危険種動物狩りだと勘違いしているのだろうか、と一瞬、疑いそうだが、ヒイタは昔から度胸の据わった男だ。


 本来ならば、ロジャーが隊長ではなく、ヒイタが隊長であるべきだとそんな性格から適切だとそう、考えていた。

 ヒイタはそれを察したのか、にやりと笑った。


 ヒイタ「ぼんくら、俺が隊長になったら適当なことを言って、隊の人間を困らせるぜ、きっと」


 ロジャー「だから、副隊長に甘んじるのか?」


 ヒイタ「ちっちっ」


 ヒイタがロジャーの前で指を左右に振る。違う、違う、と表現しているようだ。


 ヒイタ「大事なのは――――」


 ロジャーの鎧に覆われた胸部を軽く叩く。


 ヒイタ「――――心だろう?」


 ロジャー「ああ、そうだな。ロジャー、君が高台から危険種動物を確認してくれたのか?」


 ヒイタ「まぁな。丁度、練兵場で隊の連中は訓練しているから書類仕事を終わらせて、若い見張り役にお前も訓練してこい! って代わったんだ」


 ロジャーとヒイタは並んで兵舎とは渡り廊下で繋がっている練兵場へと歩を進め始める。ヒイタの言葉通り、この時間帯は多くの地方騎士が有事に備えて自分の武を磨いている。


 ロジャー「随分、副隊長として気配りができるようになってきたじゃないか? 女の子の服の中にカエルを投下していた悪ガキ ヒイタがな。年はとるもんじゃないなぁ-。視力が衰えすぎてどうやら、あり得ない光景が見えるようになってしまったらしい」


 ヒイタ「うっせー。お前も落とし穴に牛のウンコを入れて、通り掛かった人間をその穴の餌食にしていた悪ガキ ロジャーの癖に。今じゃあ、筋肉質で神経質そうな顔をした中年男性に見えるぜ。年はとるもんじゃないなぁー。視力が衰えすぎてロジャーがまともに見える」


 そう、いつものように互いを貶し合った後、竹林でできた手すりに触れながら、長年の雨風で腐りかけた木製の渡り廊下を踏み締める。

 今にも踏み抜きそうで、ここで踏み抜いたらあいつは笑うなと場違いな事を考えた。

 何か、このしんみりとした空気が気にくわなくて、その考えを口に出して悪友の反応を見ようとした。

 だが、口から出たのは違う言葉だった。


 ロジャー「死ぬなよ」 ヒイタ「死ぬなよ」

 それを二人同時に言ってしまうのだから、ロジャーとヒイタは互いの元気のない顔を指差して大笑いするしかなかった。

 ひとしきり笑った後、練兵場の扉を開く。


 開けた円形状のスペースには既にロジャーとヒイタをナナクサ村を護る地方騎士 総勢 70名が直立不動、鎧と騎士剣を装備して待ち構えていた。

 彼ら、彼女らの緊張した鋭い視線をどうほぐせばいいのだろうと一瞬、考えた。

 何しろ、隊長 ロジャーや副隊長 ヒイタでも危険種動物の氾濫寸前の状態は勇者 凪紗南春明とリン・クイーン様が現役で闘っていた頃、伝え聞いたくらいだ。

 若い騎士の多いナナクサ村所属地方騎士にはその事を聞いたこともないだろう。それでは比べる対象がないのだから、想像力を逞しく巡らせても仕方が無い。


 だが、それで戦いの時に動けなくなり、戦死するのとは別だ。


 だからこそ、ロジャーは声を張り上げて叫ぶ!


 ロジャー「諸君! 何も顔を強ばらせることはない! イヴ女王様より貸し与えられた我々の住処 ナナクサ村を、イヴ女王様が国民全員、宝物だと言った言葉を、そして、俺達の物語が描かれるべきナナクサ村という故郷ふるさとのキャンバスを護るだけだ! それで諸君の幸福は約束される! 簡単ではないか! なぁ、簡単だろう!」


 ロジャーの何処から出しているのか解らない程のときの声に地方騎士達は少し押し黙るが……次第に「………やってやる!」「やりましょう……」「護るんだ……」「もう、10年も住んでいるんだ、ここが俺の故郷だ」という肯定的な独り言がぽつりぽつりと地方騎士達の心に戦いの炎を宿させる。


 そして、一斉にイヴ女王様より貸与された騎士剣を、彼らの誇りを天に掲げる。


 茜色の空は彼らの血で染まる未来を予想しているように赤い。

 しかし、彼らはきりっとした顔で言う。


 地方騎士達「簡単であります! 隊長殿!」


 彼らのアンサーに隊長 ロジャーと副隊長 ヒイタは静かに騎士剣を掲げて応える。

 今こそ、彼らはナナクサ村を護る国家の歯車と化した。それは再び、休息の平和が訪れる為。


 ロジャー「重装備武器庫に入っている投石機 10台を出せ。本来ならば、イヴ女王様の大切な国民に助力を頼むのは忍びないが。何せ、我らは寒村の為、少数精鋭!」


 それに反論するのではなく、気持ちをほぐす為に若い獣人族の女性地方騎士がツッコミを入れる。


 獣人の女性騎士「隊長。寒村でもイヴ女王様は補助金を沢山出してくれてますよ。おかげで不漁の時でも飢えずに済んでいますよ。もっと、ソフトにお願いします」


 ヒイタ「あー、許してくれ。こいつ、昔から悪ガキの癖に真面目という変なカテゴリーにある男なんだ。要するに、わりぃけど、投石機を村外れまで運ぶの手伝ってよ。お金はうちのナナクサ村地方騎士団にないから無償でよろ~だな」


 獣人の女性騎士「なんか、それ聞くとヒイタ副隊長の方がイヴ女王様に不敬な気が……」


 ヒイタ「馬鹿、言うなって俺ほど、イヴ女王様を愛している人間はいないぜ。俺は愛国者だからね」


 それを証明する為にヒイタは鎧と服の間に手を突っ込んで、自分が首から提げている袋を取り出すと、その中に入っていた写真を取り出した。

 何の写真か、解るように地方騎士達に掲げて見せつける。


 それは多くの国民に請われて、イヴ女王様個人の資金から出しているイヴ女王様自身の写真だった。毎年、日本国民とクイーン王国民に配布される日本製の写真だ。

 ヒイタが掲げた写真は9歳の頃の今よりも少し身長が低いイヴ女王様が当時、お気に入りの猫の縫いぐるみをぎゅっと抱きしめている光景を映したモノだった。


 地方騎士の間から苦笑と共に、「ロリコン」「ロリコン」「ロリを愛し者」「幼女愛の探求者」「性の開拓者」と口々に中年おっさん ヒイタ副隊長への非難が集まる。


 ロジャー「お願いだからうちの娘に近づくな、ヒイタ」


 ヒイタ「え? そ、そういう意味じゃあないよ。たくっ、これじゃあ、俺が損した気分だ。で、投石機はどの配置で?」


 ロジャー「ナナクサ村に円を描くように配置するんだ。俺達のLevelはだいたい88~120。幾ら、低Levelの危険種動物だからってスキを突かれれば、ステータスの値なんぞ意味はないと騎士専門学校で習ったことをきちんと頭に入れておけ! いいな!」


 地方騎士達「了解であります! 隊長殿!」


 ロジャー「いいか、お前達もイヴ女王様の大切な宝である国民だ。決して最期まで諦めるな。命の炎をたぎらせろ!」


 ヒイタ「ロジャー、そろそろ」


 ヒイタがロジャーの肩に手を置く。

 心配性だと妻 ジェーナにも言われる。悪い癖だ、それで話が長くなるのは。


 ロジャー「では、行動!」



 ――――ロジャーは思う。

 俺達は決して勇者 凪紗南春明様のような強さを保っているわけではない。

 俺達は決してイヴ女王様のような不屈の精神を日頃から保っているわけではない。

 俺達はここが光を初めて見た者でも、そうでない者でも……ナナクサ村の土に還っても良いと思うからこそ、死守するんだ。見たかった世界はここに在るのだから。――――






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