第70話 HP1の死闘 妖精族の誇り編
第70話 HP1の死闘 妖精族の誇り編
視点 凪紗南イヴ
場所 クイーン王国 イクサの森 洞窟内部
日時 2033年 4月4日 午後 6時49分
予は破ってしまった。
妖精女王 レア・ミィールの、妖精族の誇りを…………。
水深き湖水、妖精の祖 アイリスが自分と同じ妖精の羽根を持つ者を集めて、転生神 ローナから告げられた神のお告げ――――魂のしらべを回収し、転生宮側に手渡す神命を今まで自分と同じように世界から差別されていた仲間達に告げた場所 聖地 アイリス湖で当時、3歳の両親を失った予にレアは妖精魔法を授けた。
レア『いいですか? イヴ様。妖精魔法 クリアを用いた通常戦闘は止めて下さい。儀式により、貴女様に私の魂のしらべの一部を移植しました。これにより、貴女は妖精族にしか使えない妖精魔法を』
イヴ『………いやだ。えりりんをボクは殺す』
レア『貴女様は決して、復讐に塗れてはいけません。復讐は途方もない闇の力を生む』
レアの言葉の通り、予の目の前に立っているマーク・リバーという男は人間の身体を捨て、邪神の力を得て、人間の形をした全身木の化け物に変わった。
歪んだ眉間、復讐の意志に燃えた瞳は変わらず、予を射貫く。その瞳に涙が流れた。
イヴ「もう、止めよ。復讐は出口のない袋小路。耐性がないのに邪神の力に触れて魂のしらべが濁った貴様は転生宮に赴くことは叶わん。妹にも会えないのだぞ!」
マーク「死んだ妹に会ってどうなる! この腕に、この腕に、妹を抱いて助かって良かったね……と………う………」
マークが頭を抱えだす。
もうすぐ、マークは完全に邪神の操り人形になる。
転生神 ローナ曰く、一番隠れるのが上手い陰険な植物を操る邪神 メディアースの操り人形に。
その前に倒す!
レアの言葉が蘇る。
レア『どうですか? これが妖精族の誇り、魂のしらべ回収作業。魂のしらべを回収して次の人生へと、転生させるのですよ。だから、対象者の魂のしらべに近寄る為に発動する透明化の魔法、妖精魔法 クリアは私達 妖精族の誇りなのです。決して血で誇りを汚さないで』
予は首を振る。涙が零れた。
予の力では例え、魔王魔法剣 レベルイーター Ⅰを繰りかえしても、あの邪神の手下と化したマーク・リバーには勝てない。
だから、使う!
イヴ「…………これっきりなのだ……」
マーク「何?」
イヴ「……これっきりなのだ!」
少し前から気配を感じていた。
竜の姿から人間の姿に戻った真央の近くにいるであろう妖精族の少女に話しかける。
イヴ「レアに伝えておいてくれ、予は約束を破った……。そして、また、破る。多くの人の幸福な現世の人生をマーク・リバーは刈り取ったのだ。予は絶対に許せない」
妖精族の少女「それは貴女様が3歳の時に言った復讐の為、ですか?」
真央のすぐ傍に現れた妖精族の少女が予に問う。
3歳の頃、レアに妖精魔法を授けてもらった儀式にいた見届け役 エレノア・ミイーサ副女王様は予に久しぶりに会ったのに変わりなく、妖精族を表す四枚羽根の透明な輝きを失わず、碧い長髪を隠すように愛用のベレー帽を被り、碧い瞳は厳しく予を観察し、だが……エレノア副妖精女王の唇は少し緩んでいた。
真央は「いたのか……妖精族」
と、驚きの声を上げていた。セリカは魂のしらべが発生するからそんな事もあるのかも、と思っているようで戦況を見守っている。
ルルリはじっと、黙って予とマークの対峙を眺めている。その視線の力は強い。
イヴ「いや、違うのだ。上手く言えないのだ……。マークに対する同情なのかもしれぬ……」
あそこまで壊れてしまったのはやはり、予の存在にある。
様々なメディアが予を色々な言葉で表現するが、中でも春上輝という元アナウンサーの作家が書いたインタビュー記事の予を的確に表す文章が衝撃的だった。
――――銀色の長髪は誘蛾灯のように人々を集める。その灯りは優しさであり、自分という存在の限界を感じさせる強すぎる光。優しささえも快楽を与える麻薬となるだろう。
銀と金のオッドアイは欲深き大人を厳しく射貫き、理想に高き大人はその瞳の視線の先が見たくて集まる。
身体の全てのパーツが触れれば、壊れてしまうと思わせる程に儚い。まだ、女性になっていない少女の愛らしさが表現されたそれらは百戦錬磨の賢者さえ油断させる。
淡い桃色の唇が開く度に飛び出す理想と偉そうな言葉、子どもらしい発言の絶妙な比率は賢さと無邪気さを難なく、同居させている。
今や、英雄の娘、日本の皇女、異世界 リンテリアのクイーン王国女王の肩書きを保つ小さき銀の姫 凪紗南イヴ皇女様は存在一つで多くの人生を幸福にも、多くの人生を不幸にもさせるであろう。
凪紗南イヴ皇女様は筆者との対談で様々な刺激的な言葉を繰り出して戴けましたが、特にこの言葉が予言めいていて、刺激的であった。
「優しい世界を創るのだ」
世界は良くも、悪くも、凪紗南イヴ皇女様の影響を受ける。
創世する世界。
それを成すイヴ皇女様。
創世する世界のイヴ。
その物語、そのイヴ皇女様の軌跡は何を産み、何を滅すのか? 両輪のような二者が片輪で走ることはない。決してない……。 <イヴ皇女様の暮らし 17巻 378ページより抜粋 著:春上輝>――――
それが予の本質ならば、この胸に広がる悲しみはマークや被害に遭われた人々に向かう感情ではない。それよりも尤も、広く深い場所へと向かっている。
予は静かに首を横に振る。
エレノア副妖精女王に予は言葉を紡ぐ。
イヴ「お父様やお母様、英さん達が二つの世界の明日を作ってくれたのだ! だから、予はマークや被害に遭われた人々がまた、この世界で過ごしたい! って明日を創るのだ。お父様やお母様の意志を継承する」
エレノア「そうです、イヴ様。それが神の運命に抗えぬ、公。だからこそ、復讐なんて個人の利益に収まる水をイヴ様のような大海の如き、器に注ぐのは相応しくない。なって下さい、人間を虫とは呼ばない神様に。我々の神に、人類の神に! ですから、破りなさい! そして、恥じなさい。妖精族の誇りを破ることでしか救済できない。自分や仲間やマーク・リバー、その被害者達をそれでしか救えない未熟な自分を。それは決して悪いことではないのです」
エレノア副妖精女王の言葉を聞きながら、
るーちゃん「止めろ! イヴ! 耐えられない、お前の身体は対神様兵器と言ってもいいヴァンパイア王族の血と神様の力の因子を宿した血を有している。その両立には厳しい。実現したとしても崩壊を始めるのじゃ!」
そんな魔剣のるーちゃんの悲痛な言葉を聞きながら、現時点で届く聖句を詠う。
イヴ「神化」
神の本質に至るその短き聖句はヴァンパイア王族の血で構築されたプリンセススペル インフィニティコートを纏ったまま、神の完全顕現を実現させる。
銀色のノエシスの光が予の小さな身体から産まれて空へと飛んでゆく。
静かに深呼吸して、ノエシスを身体に押し込める。ノエシス中毒を治癒するアイテムはこの世にない。人は予が生成するノエシスに触れ続ければ、3時間ほどで死亡する。
同様にSOUL中毒を治癒する術もないので、産まれゆくSOULをコントロールする。
高濃度のプリミティブイデアが予の身体から産まれ、飛び出るのもコントロールする。
だが、産まれる魔力までコントロールするのは今の予には不可能だ。
魔力が人間に危険な量になるのを阻止する固有空間ヴァルキュリアを発動させる。
予の背から銀色の翼が生えて、その翼が広がり、透明なドームがイクサの森を包んだ。
翼はそれが構築されるのを見届けると、予の背に消えてゆく。
ゆらゆら、と白銀の雪が洞窟内に降り注ぐ。その雪は触れた人間のMPを無制限に回復させる神の奇跡だ。
腕時計携帯電話のホログラムウィンドウが勝手に立ち上がる。
神化維持限界時間 45分。
<イヴのステータスが変動します…………>
Level 78
HP 3841→11523 素質 D
MP 64350→∞ 素質 goddess
SOUL 40120→∞ 素質 legend
STRENGTH 6718→20154 素質 C
SPEED 15750→47250 素質 A
MAGIC ATTACK 29640→88920 素質 SSS
CONCENTRATION 11460→34380 素質 B
DEFENCE 2265→6795 素質 D
MAGIC DEFENCE 23105→69315 素質 SS
INTELLIGENCE 28910→86730 素質 SSS
little girl ∞(一生涯、ロリの呪い) 素質 impossibility
属性適正 炎・水・地・風・氷・雷・光・闇・毒・無・古代・蘇生・治癒・妖精・竜・魔王 complete!!!
常識外魔法 融合
武術 凪紗南流
<神化が解除されるまで維持されます…………>
イヴ「神化完了。幼生のイヴ。予がマーク・リバーを裁く。予はここで倒れるわけにはいかぬ。よって神の力に頼る。卑怯だと思うな? これが貴様の望んだ復讐の先、死の世界なのだ…………」
マーク「感じる。これが神の、神の威圧か! 全然、違う。存在のレベルが違う……」
マークは俯き、くっくっ……と低く笑う。
そして、叫んで触手と化した腕を伸ばして、予の左腕を吹き飛ばした。
激しい吐き気を催す痛みを感じるが……HP1のまま、留まる。
コートの効果でHP0になることはない。代償が気になるが、今は、と心理詠唱式でエンジェルヒールを唱えて、左腕を完全修復する。
吹き飛んで転がった左腕は完全修復が成された瞬間、煙のように消えた。
マーク「これならば! これならば! 勝てると思ったか! 小娘!」
妖精魔法 クリアで姿を消し、未来予知まで算出できる金色の左眼――――魔王の魔眼を発動させた。
激しい頭痛の中、脳は未来の算出に挑み始めた。




