第3話 がんばれ、真央ちゃん!
第3話 がんばれ、真央ちゃん!
視点:北庄真央
場所:地球 旧世界 東京都全域、新世界 東京都 凪紗南市 南屋の牛丼店 凪紗南天皇支店
日時:2033年 4月2日 午前 11時00分
珈琲色の羽根と尻尾がぴくぴく、と動く。
手持ちぶさたにヴァーミリオン色のミディアムヘアーを一房、撫でる。
頭にある左右の角が周囲のぴりっとした空気を感じ取る。この感覚は竜族特有のものだ。
チェーン店である南屋の牛丼店は狭い。だけど、狭い店内が貧乏なあたしには妙に落ち着く。
今日は落ち着くなんて、口が裂けても言えないが。
セルフサービスの赤しょうがが、カウンター席や数少ない窓際席の上に置いてある。おかしい。普段なら、赤しょうがを補充している時間だ。その席達にはもうすぐ、お昼だということもあり、賑わって…………いなかった。
中間管理職のおじさんみたいな渋い顔をした高価なスーツを着たアリス(人族)の男性や女性が9人、座っている。
スーツの男性1「イヴ様の援護の為に送った戦闘機の到着が現地に――――分、だそうだ」
スーツの女性1「それでは間に合いません。緊急用の例のあれを――――」
スーツの男性1「予算オーバーですよ」
スーツの女性1「未来様が予算オーバー分はバカ皇女………様に――――」
スーツの男性2「畏れ多い」
スーツの女性2「くっ、胃が痛い。胃に優しさが欲しい」
スーツの男性2「あれは風邪薬だ。今は、耐えろ。俺も胃が――――」
スーツの女性1「昼間で良かった。人間を多く導入できる」
おーい、店内のお客様? こっちは貧乏学生のアルバイト世界なのに、なんで、あなた方はハリウッド映画に出てきそうなダーティーなシチュエーションなのよ。いや、わかってますけど、すげー、わかりたくないけど。
窓の外には、宮内庁から派遣されたであろうお前らはヤクザかよ! とツッコミたくなる程の眼光の鋭いアリス(人族)の男性と女性の構成 約30名が自動装填銃を構えて、無駄に国民を威圧していた。いや、彼らからすれば、そうではないだろうけど。
国民はそれが何の為に行われているか、大体予想がついている。普段よりも、テンション高めにその場を後にする。
イヴんとこの国民10代前半男の子「うわぁ、中に貴族様がいるんだね、誰かなぁー」
イヴんとこの国民10代後半女の子「あたしはイヴ皇女様がいると思うけど、ね」
イヴんとこの国民10代前半男の子「それはないよぉー。十家の人がいないでしょ。来るんなら詩卯ちゃん、かな」
イヴんとこの国民20代男性「お前、詩卯様を。あの人、くそ強いんだぜ。一説によると、未来様と互角とか」
イヴんとこの国民10代前半女の子「闘ったら、日本、崩壊………するんじゃあ」
3人「「「……………」」」
3人「「「あっははははっははっは!」」」
あたしは私立藍心学園の制服の上に着けたアニメ調の豚のロゴが中央に位置している緑茶模様のエプロンで必死に拭いては滲み出てくる、拭いては滲み出てる汗を拭いていた。
厨房の隅であたしの同僚 兎耳の獣人族の桃李ゆい(とおり ゆい)が両手、両足を必死に動かし、何やら、奇っ怪な踊りをしている。
はぁっ! と思うが、まぁ、理由は解る。あたしら、貧乏人の聖域、牛丼屋にお前が来るのか! とツッコミたくなる。しかし、ツッコむと確実にオーバーキルされる最凶のブルジョア様がいらしているからだ。
ゆいは、こう言いたいのだろう。
その言葉をあたしは勇気を振り絞って、美麗な着物を着た十代後半くらいの女の子に放つ。もう、これはドラ〇エの光の玉を使っていない〇ーマ戦だ!
眼を逸らすな、あたしのエメラルドの瞳よ!
真央「あ、あの~、未来様、注文して下さい。こ、怖いです、あたし」
言ってやったぞ! やったぞ!
ゆいはこちらを労うようにあたしにサムズアップをしている。
両眼を閉じ、約5分間、静かに怒りのオーラを放っている女の子 凪紗南未来天皇代理様が銀色の眼を開いた。
こ、怖いよ~、おかあちゃん! もう、おうち、かえる。
あっ、厨房でゆいが泡を吹いて倒れている。兎耳がヘタレているよ。
未来「ほう、怒りのオーラを感じるか? さて、イヴが何処にいるのか? 吐いてもらおう。私が所望するのは、おねしょ皇女様のお尻ペンペン丼 つゆ(涙)だくだ」
妙に未来天皇代理様はご自身の帯刀している召喚器と呼ばれる種類の日本刀 夢幻を気にしている。
え、斬るんですか! なにを。もう、おうち、マジかえるぅー。
昔、殺気で危険種動物を殺害したと噂される銀色の眼、可愛らしいお嬢さまみたいな銀色のツインテールに端正な顔立ち。可愛さと凶器が見事に調和している存在の圧力があたしの唇を震わせる。言葉が上手く出ない。
出たのは自国語のドラゴニック語だった。
真央「…………む、むり、むり、むり、イヴ様、むり、未来様を誤魔化せなんてむり。しかし、これに耐えれば、お礼にイヴ様がラノベを――――」
未来「いいか? 真央、貴様にできるのはひたすら、皇女の居場所を吐くしかない。その一点だ」
異世界の言葉であるなんて関係なしに理解する未来様の強い言葉。それに逆らう術はない。
真央「…………吐きます」
よ、良かった。日本語に戻った。
未来「懸命だ」
そこで始めて、目の前の緑茶に気づいたか? のように唇を潤す程度に未来様は飲む。
そして、威圧的な目線をこちらに向ける。
未来「なんだ? このお茶は渋さだけで、ぜんぜん、香りがない。甘い苦みがない。不合格だ。よくも、私にこんな緑茶もどきを飲ませたな」
あー、未来様、お嬢さま……いや、御姫様だった(今はクラスチェンジして、恐怖の帝王フ〇ーザ様)から、庶民のお茶の味を聞いた事はあっても、実際に飲んだこと、ないのね。
それ、庶民緑茶 1杯 60円程度の業務用でございます。
真央「このランクの緑茶を庶民は飲んでいるんです。一杯 60円です」
未来「何、それはすまんな。何分、お嬢さま時代は好きに飲み喰いはできんかったから。想像のみだった。しかし、これ程の差か、勉強になる」
未来様の両眼は今度、倒れているゆいに向く。
ゆいは豪快に床とキスをするような形で倒れていた。床を清掃したばかりなので、不幸中の幸いと言えるかもしれない。
未来様が来る前、ファーストキスは何処でしたの?
という話があったが、あたしはそれに答えられず、ゆいは乙女チックに夕日の見える丘で大好きな王子様とキスをするの♪ と答えた。
すまん、ゆいのファーストキスは床王子様だ。
せめて、同僚の情けでこの事実はお墓まで隠し通そう。竜人の寿命は約700年なので、獣人のゆいにはしばし、待ってもらう必要があるが…………。
未来「あの者は何故、あそこで自らの業務を…………待て、あれは皇立桜花学園 中等部在籍予定の桃李ゆい、だな。業務中に居眠りとは弛んでいるな。イヴだったら、お尻ペンペンの刑だっただろう。しかし、これは」
真央「…………ゆい、ご愁傷様」
どう見ても、あなた様の殺気で気絶したんですよ、とツッコミが入れられない恐怖系ツッコミ キャンセラーな未来様。
その未来様は顎に手を当てて、ゆいに死刑宣告を下す。
未来「学園長の詩卯に電話するか。うむ、説教だ」
未来様は腕時計型の携帯電話を操作し、ホログラム ウィンドウを表示させ、何やら、事の次第をホログラム キーボードに打ち込み、素早く送信する。
真央「うわぁー」
未来「ところで、私の頼んだ松阪牛の丼はまだか?」
真央「メニューねぇーよ! このブルジュアが! しかも、頼んでないしー」
や、やばい、いつものイヴ、セリカ、アイシャの三人にツッコミを入れる口調に!
数秒の間もなく、殺気が飛ぶ。
<未来の殺気により、真央はHP7890のダメージを受けた>
あれ? ダメージを受けた!
<北庄真央 HP 22360/30250>
未来「今、何か、言ったか…………」
真央「すいません。けど、まだ、頼んで」
未来「すまんな。では、ウナギを頼む」
あれ? ウナギって養殖でも、今だと、王族でしか食べられない超高級食材。
えーと、確か、1枚 約1億5000万円。
ねぇーよ、時給 750円の店に、ねぇーよ、それ。
どうしよう?
真央「…………とりあえず、こっそり、英さん、呼ぼう、そうしよう」
描いてくれたイラストレーターはトシさん。イラストは北庄真央です。真央ちゃんの芸人気質が伝わったでしょうか。彼女の貧乏? 話はこれからも続くよ。あれ? と思った方はそのことにいつ、真央ちゃんが気づくのか、お楽しみにね。




