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創世する世界のイヴ # Genesis to the world's Eve  作者: 遍駆羽御
本編―――― 第2章 1000キュリアの祈り
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第69話 HP1の死闘 レベルイーター編

 第69話 HP1の死闘 レベルイーター編


 視点 神の視点  ※文法の視点名です。

 場所 クイーン王国 イクサの森 洞窟内部

 日時 2033年 4月4日 午後 6時38分



 マークの妹 クイナにいつも、「お兄ちゃん、髪がサラサラ。これじゃあ、街の女の子が放って置かないね」と言われた金髪は汗でべとついていた。身体が人間ではない何かになってゆく。

 マークがこの時、狂気の快楽に身を委ねずに……平静の心を保っていたならば、既に彼は人間の身体を捨て、邪神樹の苗床になりかけていると気づいただろう。


 しかし、その気づきは何ら、狂気の復讐鬼 マーク・リバーには益をもたらさない。


 既に彼の目標は目の前で倒れている胸元から鮮血の華を咲かせて、眠り姫のように夢の世界の混沌に墜ちている銀糸の如き髪の主 凪紗南イヴ女王様を惨たらしく、殺すことにある。

「うへぇ……」とマークはほくそ笑む。そして、ゆっくりと壁に獲物である鼠を追い詰めた小狡い猫のような鋭利な視線をルルリ、真央、セリカに向ける。


 その間にもイヴ女王様が帯剣している鍔の左右にはヴァンパイアの羽根を意匠にし、鍔の中央にはラグナ石が収まっている魔剣 レーヴァティンに宿る最期の魔王 ルリア・クイーンこと、るーちゃんが倒れているイヴ女王様に呼びかける。


 るーちゃん「イヴ! 目覚めるのじゃ! イヴ!」


 その声は不思議と絶望に満ちたモノではなく、何かを待望している声だった。


 マークは3人の内、イヴ女王様にルルリの母親を生き返すのはできないと言われたルルリの表情に対して、憎しみの心が芽吹いた! と歓喜した。真央、セリカという油断できない敵がいなければ、彼はルルリに近寄り、ようこそ! と言い、共にイヴ女王様の身体を切り刻もうと誘っただろう。友達に野球でもやる? って気軽に誘うかのように。


 真央が怒りに身体を震わせて、再び竜変身を行おうとするが……セリカが真央を押し止める。


 セリカ「駄目ですわ、真央ちゃん。真央ちゃんの竜変身は強大な力を得られますけどもし、解けたらそこを盗賊王さんに狙い撃ちされますわ」


 真央「けど、イヴを! あたしが助けるんだから!」


 その叫びと共に真央の身体が深紅の輝きに包まれてゆく……。

 深紅の塊が真央の小さなサイズから何倍もの大きさへと変わってゆく。

 それをマークは触手をハンマーに変えて待っていた。何も急ぐこともなく、屠れるという自負はある。


 マーク「そこのクソガキが!」


 マークは静かに呼吸を繰りかえしているイヴ女王様の腹を容赦なく、踏み付ける。

 イヴ女王様の身体が揺れる。


 それでも、深い眠りから覚めることはない………。

 それを見たセリカが黙っていられずに真央の竜変身が完了するのを待たずして、召喚器 冷厳なる雪月花をこの世界へと召喚して握り締め、走り出す。


 セリカ「イヴちゃんをよくも踏み付けたな!」


 マーク「このクソガキが! Level差? があれば勝てるなんて幻想だと抜かしていたが! 結果は! このザマだ!」


 セリカの槍が届く前に、マークは洞窟内に響く程の笑いを浮かべながら、何度も、何度も、イヴ女王様の腹部を踏み付ける。


 ルルリ「そうだ……そうだ……そうだ……ママを生き返さない……”イヴ”なんていらない。殺せ、殺せ………殺せば良いのですよ」


 ルルリはマークがイヴ女王を踏み付ける度に自分では制御できない喜びを感じた。

 ああ、この歓喜に身を任せてしまえば、ママを失った悲しみや憎みの感情を何処かへぶつけることができる。しかし、それはママが言った『ルルリは恩を忘れるような子になっちゃ駄目よ』に違反している。


 ルルリ「けど……けど……。あいつはきっと、ママを”本当”は生き返すことができるのです。ルルリが子どもだから、馬鹿にしてるんです……」


 ルルリは躊躇無く、ママの教えを破り、”安易”な救いに身を委ねた。委ねたが、イヴ女王様を殺す力のない、”八つ当たりする”力のないルルリは俯き、地面を眺めた。

 地面には無数の蟻が自宅である巣に帰る帰宅ラッシュの列が構築されていた。ルルリはそれを躊躇無く、踏み付けた。

 20匹ほどの蟻の身体が潰れて、黒い物体になった。手足や胴体等、区別が付かない。ルルリの心に言い知れない達成感が生まれた。


 マークがイヴ女王様の腹部を踏み付ける。

 ルルリが蟻を凄絶な笑顔を浮かべて虐殺し始める。


 マークはそれを眺めて、例え、あり得ないが、自分が復讐を果たさずに死んだとしてもイヴ女王様に復讐するルルリがいる限り、自分の復讐は続いてゆくのだと確信した。


 ”ようこそ、小さな犬耳お嬢ちゃん! 何の生産性もなく、何の救いもない破滅のみの修羅道 復讐鬼の道へ!”


 そう、マークは唇の形を動かした。


 その際、よほど、自分が思っているよりも興奮していたようで、唇の端から涎が垂れてしまった。

 その涎はイヴ女王様の豪奢な青いドレスを汚す。


 セリカ「イヴちゃんを汚すな不埒者がぁあああああ!」


 セリカは願った。

 自分が勇者の仲間である魔法槍士 シーリア・アストの娘ならば、シーリアが得意とした魔法剣の魔法基礎応用が可能なはずだ。

 もう、死んでしまった母親に愛する人を救う力を! と願った。


『心を穏やかに、けれど、感情は殺さずに……』


 昔、母親に槍を習っていた時の言葉を思い出した。

 愛する者を護りたくて魔法槍士になりたい! と母親に告げた想いは今日まで何ら実を結ぶことはなかった。


 セリカ『わたくし、お母様みたいな魔法槍士になります! もう、ハーフとか気にしません。わたくし、イヴの親友ですもの』


 シーリア『でしたら、あなたはいーちゃんの太陽になりなさい。決してどんな状況でも沈まぬ太陽に』


 セリカ『太陽。うん、なりますわ』


 その幼き一場面がマークの足をなぎ払おうとするセリカの槍に心理詠唱式の風魔法 トルネードを宿らせた。


<セリカ・シーリングは風魔法剣 トルネードを習得した>


 風を纏った一撃はマークの無防備な両足を容赦なく、切断した。HPのダメージは0。しかし、両足を失ったマークは無様に仰向けに後ろへと倒れた。


 真央「セリカ! よくやった! どんなにLevelが上がろうと無防備な肉体の強度は変わらない。あたしに任せて後ろに下がりなさい! イヴをすぐにあんたの処に連れてくるから」


 セリカ「はい! ですわ!」


 未だに魔法剣 トルネードはセリカの槍 冷厳なる雪月花に宿り、絶大なる破壊力を有していた。

 魔法剣は1分事に宿した魔法のMP分、MPを消費する。未熟な者が使用するとそれ以上の約2~10倍のMPを持って行かれるのでそれがないという事は自分の実らなかった魔法槍士としての訓練も無駄ではなかったとセリカはその実感を胸に抱きながら、痛みのあまり、地面に転がり続けるマークとの距離を取る。


 それを確認した竜へと変身を果たした真央がイヴを両手で包み込むようにして回収してゆく。

 そこで真央は不思議なことに気がつく。


 真央「イヴの胸元の傷から流れている血が極端に少ない……。いいえ、止まっている? 何、これ! 何なのよ?」


 取り乱しそうになる真央を魔剣に宿っているるーちゃんが説明をする。


 るーちゃん「目覚めるのじゃ。幼き頃、半覚醒した力が華井恵里に重傷を負わされて以来、目覚めるのじゃ」


 巨大なルビー色の真央竜と桃色の長髪を靡かせて併走しているセリカがるーちゃんの説明を促す。既に魔法剣 トルネードは解除している。


 セリカ「どういうこと? イヴちゃんは大丈夫?」


 るーちゃん「ああ、大丈夫。死に至る程のダメージを不敗の衣 プリンセススペル インフィニティコートが微かに作動して押さえてくれているのじゃ……そして――――」


 真央がイヴ女王様を地面に横たえた。

 それを待っていたかのように銀色の魔力で全身を輝かせてイヴ女王様は立ち上がる。


 何ともなかったのようにHP1の状態を心理詠唱式で唱えた銀色の魔力 エンジェル ヒールで回復させて、胸元の傷も同時に修復される。

 ゆっくりと開かれた瞳は両眼ともに怒りに満ちたマグマの如き、紅さを示す色に染まっていた。


 イヴ女王様がここではない空間から召喚器 深淵の刀を召喚する。

 深淵の刀は紅く、紅く、光輝いていた。


<凪紗南イヴは魔王魔法剣 レベルイーター Ⅰを習得した>


 イヴ「マーク、無様だ。レベル差? それが全てではないとわざわざ、宣言してやったのにそのザマ。そして、そのLevelを喰らってやろう」


 イヴ女王様がその真っ赤な剣を振るうと、イヴ女王様の身体を包むように紅いコート プリンセススペル インフィニティコートが現れた。

 その剣の輝きとコートはヴァンパイア王族の血を原料に作られた本来、好き放題を地上でし始める神と名の付く者を滅する対神様カウンター用兵器。


 無様にも転がっていた邪神樹に取り込まれそうなマークはその破邪のオーラを本能的に嫌い、飲み込まれても良いからあの血から、あのヴァンパイア王族の血から逃げたい! と願った。その願いを邪神樹が叶え、辛うじて人間の形を保っていたマークを木の化け物に変えた。

 顔が、胴体が、手が、足が、枝に変わってゆく。金髪の代わりに無数の葉が繁茂した。


 マークは立ち上がると、イヴ女王様に宣言した。


 マーク「この身体! 今までよりも動くぞ! 動くぞ! 俺は復讐を果たすんだ! 妹はお前に治癒魔法を与えられずに死んだぁああああああ!」


 イヴ「もう、御託を並べるのは止さぬか。身分を弁えろ。予は予の国民を無惨に殺され、キレている。故に――――」


 イヴ女王様の身体が掻き消える。

 そのように心理詠唱式で唱えた妖精魔法 クリアが可能にしてくれた。

 透明になったイヴ女王様の背中には妖精の4枚羽根が生えていた。心理詠唱式で唱えた妖精魔法 フェアリーフェイザーがそれを可能にした。そして、誰にもバレずに高速で飛んで、マークに接近する。


 イヴ女王様の姿が見えぬまま、何処だ! と探っていたマークの身体に紅い線が一瞬、刻まれる。それが消えたと同時にマークはあり得ない程の倦怠感と力の衰えを感じた。


 イヴ「――――容赦なく、予はマーク・リバーを処刑する。頼みのLevel とやら? は消失したぞ! 代わりに予がこの処刑の間だけ貰い受けるのだ!」


 イヴ女王様が膝を突いて、自分のステータスカードでLevelを確認しているマークに叫ぶ。

 ヴァンパイア王族の姫の紅い瞳は逃がさない……と静かに邪神の手下と化したマーク・リバーを睨み付ける。


 マークは確認し終わると、洞窟の天井に虚ろな瞳を向ける。

 片言で「俺のLevelが……俺のLevelが……俺の……」


 イヴ「努力した訳ではなかろう。安易な、不相応なLevelなのだ……」


 真央「何! 今の! 説明しなさいよ! 解説役のるーちゃん!」


 るーちゃん「魔剣 レーヴァティンのるーちゃんじゃ! 人を戦いについていけなくなったキャラにありがちな解説キャラにするでない! 今、イヴが振るったのは魔王魔法剣 レベルイーター Ⅰ。邪神の力を帯びた邪神の信徒のレベルを喰らう魔法剣じゃ!」


 セリカ「今のイヴちゃんから……とんでもない力を感じますわ」


 るーちゃん「ヴァンパイア王族のみが使える対神様用魔王魔法剣 レベルイーター Ⅰはその奪ったレベルをその者との戦いだけ、自分の力として使えるのじゃ」


 真央「本当? イヴ!」


 イヴ「その通りなのだ! 証拠」


 イヴ女王様は黙りこんだままの暗い表情を浮かべるルルリ、ぽけっーとしたセリカ、興奮して「チートよ、それ、チートよ」と呟き続ける真央に自分のステータスカードのホログラム ウィンドウを3人にも見える設定に一時的に変更する。



 ――――凪紗南イヴ(なぎさな いぶ)


 ~ステータス~


 Level 78

 HP 3841 素質 D

 MP 64350 素質 goddess

 SOUL 40120 素質 legend

 STRENGTH 6718 素質 C

 SPEED 15750 素質 A

 MAGIC ATTACK 29640 素質 SSS

 CONCENTRATION 11460 素質 B

 DEFENCE 2265 素質 D

 MAGIC DEFENCE 23105 素質 SS

 INTELLIGENCE 28910 素質 SSS

 little girl ∞(一生涯、ロリの呪い) 素質 impossibility

 属性適正 炎・水・地・風・氷・雷・光・闇・毒・無・古代・蘇生・治癒・妖精・竜・魔王 complete!!!

 常識外魔法 融合

 武術 凪紗南流



 真央「Levelがめちゃ、上がっている」


 マーク「貴様、俺のLevelを盗んだなぁああああああ!」


 イヴ「おかしいな? 人の国民の命を散々、盗んだ癖にそう、叫ぶとは……。心の脆弱さが知れるぞ、邪神の手下」


 マーク「邪神の手下になったつもりはない。復讐の為に利用したんだ」


 マークは金と銀の瞳に戻ったイヴ女王様にそう、語る。

 だが、イヴ女王様はその主張をばっさりと切る。


 イヴ「いや、貴様は……もうすぐ、自我を失い、完全に邪神樹そのものとなる。そうなった者は転生神 ローナ曰く、ただの邪神の操り人形になる。よって、もう、マーク・リバーはいない。貴様はただの邪神樹だよ」


 イヴ女王様のマークを見る眼はもう、人を見える目では無く、危険種動物を見る眼だった。

 その通り、マークの全身は木そのものであり、誰がどう見ても化け物と言うだろう。


 セリカ「そこまではエルフの国 シーリングにも伝わっていませんでしたわ」


 真央「はぁー、これであんた、終わりよ」


 つまらない俗物を見る眼で深紅の竜と化していた真央がマークの未来はないと評価した。

 イヴ、真央、セリカがマークの事を見て、化け物だと評する中、ルルリだけは深紅のコートを自身の魔力で靡かせて、背に妖精の4枚羽根をつけたヴァンパイア族の姫 凪紗南イヴ女王様を睨んでいた。


 ルルリ「化け物……。そんなに化け物なら、ルルリのママを生き返せ……」


 と、ルルリは戦闘から離れた洞窟の壁に背をもたれさせて呟いた。





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