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創世する世界のイヴ # Genesis to the world's Eve  作者: 遍駆羽御
本編―――― 第2章 1000キュリアの祈り
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第68話 虫と神

 

 第68話 虫と神


 視点 神の視点 ※文法の視点名です。

 場所 アメリカ合衆国 第一地下都市 ワシントン ペンタゴン地下125階

 日時 2033年 4月4日 午後 6時00分



 59年という年月を重ねた年輪の如し顔の頬に幾つも走る皺が歪む。

 かつて、アメリカ合衆国は世界の警察と呼ばれる程の軍事力に任せた地位があった。勿論、戦争パトロールをし、勝利すれば、敵国のマンパワーとマネーパワー、マテリアルパワーの大半を我々 正義の味方が報酬として戴く権利がある。さらに、「助けていただきありがとうございます」と敵国に怯えていた近隣諸国も我々に有利な貢ぎ物をしてくれる。実に世界の警察というのは美味しい地位だった。


 戦争パトロールがお休みの時期はどうするか? って世界の警察をするパワーがないと嘯けば、「そんなこと、言わないで先頭に立って悪を挫いて下さいよ~、アメリカさん」と大した軍事力や資源もない国々が我々になけなしのそれらを拠出し、勝手に接待をしてくれるのだ。

 それがどうだ! あの雌にその役割を奪われた! と強い憤慨を込めて、世界の常識的な大富豪であり、ホテル王と異名を取るアメリカ大統領 クラティカル・ヘイザー氏はワックスの効いた光沢のある机に両拳を叩き付ける。


 この憤慨を押さえる為にいつも通り、ポーションという回復アイテムで命をある意味、人質にしているずる賢い日本の皇女 凪紗南イヴを悪役に仕立てようと彼は画策した。今の処、成果は上がっていない。

 だがその画策に、旧中華人民共和国及び周辺国連合 ガーネット国(韓国、北朝鮮の存在していた場所にある通称 CU)、アフリカ王国(土地の大部分が重力弾で地形が動物の住みにくい荒れ地になっている)、ドイツ、フランス、イギリスと資本力の高い国や戦闘能力の高い国が賛同してくれている。それと秘密裏ではあるが、バチカンも賛同してくれている。


 残念ながら、日本びいきのロシアの大統領 ルーテン・マスコラド氏は賛同する処か、「お主には武士道や騎士道という尊い精神がないのか! 正々堂々、闘え、戯け!」という主旨の抗議文をこちらに送ってきた。そして、親日派のリーダーを気取っている。

 そのリーダー気取りのロシアを筆頭にイタリア、ポルトガル、スウェーデン、スイス、タイ、モンゴル王国、オーストリアは日本というよりも、イヴ皇女に愛情を注いでいる。そこには、クラティカルが分析しても打算以外の何かがあると思えた。


 仕方が無い、どんなことにでも味方、敵と分かれるものだと彼は溜息を吐いた。心臓に病を負っている為、HPが一時間に10%低下する。薬と一緒にポーションを彼は飲み干した。

 ポーションはバナナ味だった為、甘さが口内に残る。この年になってもクラティカルは大の甘党で愛娘の15歳になるパティー・ヘイザーと共にデザート散策に週一度は出掛けている。ちなみにあれだけ、ハンバーガーが大好きだったアメリカ人のほとんどが仮想敵国の日本の皇族 イヴ皇女が照り焼きバーガー好きと知るとデザートにシフトした。特にバケツタイプのアイスが今、アメリカ国民の中では熱い!


 パティーとイヴ皇女を婚約者にしたいと惚けたことを言っている32歳の跡取り ガイ・ヘイザーがクラティカルの両隣に座っている。

 密談の為、その3名とミザリー・アイスクアメリカ合衆国大統領首席補佐官だけ、広々としたペンタゴン 地下125階の重力弾さえ届かない、例え、届いても三発ならば完全に防げる大理石が敷き詰められたフロアにいる。


 彼らが覗いているのは、反日本派の旧中華人民共和国及び周辺国連合  ガーネット国(韓国、北朝鮮の存在していた場所にある通称 CU)、アフリカ王国(土地の大部分が重力弾で地形が動物の住みにくい荒れ地になっている)、ドイツ、フランス、イギリス、バチカンの指導者達が映像として映っている中空上のホログラム ウィンドウだ。


 白髪交じりの肩まで掛かっている金髪の天然パーマな部位を必死にヘアーブラシを使って直そうとするがすぐに元に戻る。そんな非生産的な行動をクラティカルは自分でしているとは思わなかった。

 ミザリー補佐官の咳払いでようやく、それに気がつく。

 恥ずかしいそうにクラティカルは頬を掻いてから、無数にあるホログラムウィンドウの一つに映るポンチョン・ビールドアフリカ王に尋ねる。


 クラティカルアメリカ大統領「人員は後腐れのないように奴隷身分の者を使うと言うことだね……。我々の用意した漁船は外見はショボイが中身は最先端だ。勿論、偵察用のドローンもね」


 その言葉にポンチョンは薄気味の悪い笑顔で肯く。

 ポンチョンはその悪人ですよーと印象づけるような笑顔さえなければ、何処にでもいる何の変哲のない黒人の風体に見える。しかし、ターバンを巻いたその黒人の趣味は最悪だ。無理矢理、年端もいかない男女を交配させて、その両親から産まれた子どもを両親の前で色んな虐待方法を試し、最期には殺害するという趣味の持ち主だ。


 アフリカ王国の法では王が絶対の為、彼が裁かれることはないだろう。イヴ皇女が一番、潰したいのはこの男かもしれない。そう噂されているだけにポンチョンは日本の裏切り者からリークされた情報――――イヴ皇女も、未来天皇代理も日本を離れ、守護騎士十家の大半が日本を留守にしている情報を利用し、今のうちに日本を国籍不明の不審船で襲い、イヴ皇女に嫌がらせをすると見せかけて、それを囮に多国の思惑を含んだ工作員を送り込む計画に積極的だ。


 ポンチョンアフリカ王「その通りさ、人員は全て奴隷。陽気にあの保護者に隠れたちびッ子の穴にじわじわと効く太いお注射をぶっさしてやるさ! ヘイ、ヘイ、ヘイ!」


 リドルド教皇「我々、地球人が信じてきた全ての宗教における活動を利用したお銭稼ぎがあの悪魔のおかげで全然です。多くの者がイヴ教やリンテリア教に改宗しました。何せ、本物の神の実在が証明されたのですから」


 ピーナイギリス首相「全く、君には宗教家として清廉な魂ってのがないのかね?」


 リドルド教皇「そんなのありませんよ。本物の神を知る以前から我々は無意味な言葉を操り、民衆を洗脳し、お金を頂くシステムとして宗教を利用してきたのです。死は恐ろしいでしょう? 人間の悪意は恐ろしいでしょう? 例え、洗脳だとしても恐れがなくなる偽物の言葉は民衆の助けとなったのです。ウィンウィンな関係じゃあ、ありませんか。それを壊されて困っているんですよ。あの悪魔がやった事は何も揺らぎのない川に石を投げ入れたに等しい行為なのです」


 クラティカルアメリカ大統領「言いたい放題だね。しかし、私も些か、あの雌には怒りを通り越して、憎しみすら感じる。何も粗のない無垢な幼女のような打算無き聖女ぶり。おかげで粗を探すために動かした人員と資財が無駄になったよ……。ないなら、作れば良いということで我々は今日、この時を迎えたわけだ。現在、船はどの位置にある?」


 日本付近の地図を映し出したホログラムウィンドウをクラティカルは横目で眺めた。

「どうやら……順調に工作員を送り込めそうな予感……」と漁船に扮した七隻が日本の秋田県に後2時間で到着するであろう海上を走っていることを確認する。


 ヤンガーネット女王「良かったわね……。これで水中を潜水して工作員達は日本に到着し、4月10日に皇立桜花学園に入学予定のパティーお嬢様と工作員のリーダー ジョン・スミスが連絡を取り、情報を交換してそれを元に日本の国際的な不祥事を誘発させる。まぁ…………イヴ皇女のスキャンダルでも良いでしょう。但し、あの死神のようなジョーカーカードのガードを抜ければ……ですが。百合の私としてはイヴ皇女は私に頂きたいくらいです。あれだけの美貌、産まれてくる子は才にも美にも恵まれるでしょう」


 元中国人の豪族の血を引いているヤンガーネット女王が穏やかな口調でそう、言った。ヤンは理性の塊と呼ばれる程に残酷なまでに機械的な計算づくしの人生を送っている。言葉一つ一つに悪意があり、善意があり、全く、そこには遊びなどない。

 怖い女だ……という本心をクラティカルは隠して、ヤン女王に反論する。


 クラティカルアメリカ大統領「駄目だ。うちの息子があの銀髪の雌にご執心なのだよ。血統もすこぶる良い」


 ガイ「そうそう、あれには12年前のお披露目から僕が目をつけているんだ。あんなに美しい幼女は他にいないよ。ぜひとも、味見したいよ。今まで500人程、幼女を味見してきたけど、あれは最高に美味しそうだよ」


 腰の辺りまで伸ばした金髪と朱色のスーツの上からも解る筋肉質な身体のおかげでガイが舌で唇をぺろりと舐めても下品にならず、セクシーに見える。現にガイはファッション雑誌 マーツに載る人気モデルだ。

 兄の言葉に女優をしている妹のパティーが反応する。彼女も兄と同じくらい美に恵まれている。ウェーブのかかった金色の髪にほっそりとした腰、バランスの良い手足と世の女性が羨むルックスである。


 パティー「あら? お兄様、その後はいつものようにあたくしにお譲り下さる? あたくしもイヴ皇女の幼女体型を気に入ってますの」


 ガイ「答えはノーだ。あれは永遠に僕のモノにする。パティー、それと幼女体型ではなく、幼女だよ、イヴちゃんは」


 二人のやり取りに無骨な軍人気質のような体型に恵まれたニッケルドイツ大統領がホログラムウィンドウごしに笑う。笑うと頬の傷と額の傷に似合わず、チャーミングなのだ。ドイツでは気持ち悪くて可愛いとご婦人方に言われている。


 ニッケルドイツ大統領「支配層の人間は変態で困る。貧民よりもストレスの多い責のある職に就いている反動だろう」


 その言葉にピエロに扮したニスフランス大統領が一口、ワインを飲んだ後に疑問を呈する。


 ニスフランス大統領「おお、自分は違うって目線?」


 ニッケルドイツ大統領「僕も変態さ。身体の部位が欠損した女性が大好きなんだ。ああ、その欠損部位にはかつて、どのような部位がついていたのか? 想像しただけで達してしまうよ」


 話が脱線してきたので、ここから作戦遂行途中のシリアスなテンションに戻さねば、とクラティカルはわざとらしく、大きな口を開けて笑う。


 クラティカルアメリカ大統領「はははっ。我々に共通の話題があってよかっ………な、なに……」


 何気なく、クラティカルが日本付近の地図を映し出したホログラムウィンドウを眺めると、漁船に扮した7隻の船の赤いマーカーが全て、消えていた。

 突然の事に誰もが、日本が気づいたのだと勘繰った。


 しかし……それはないと誰もが知っている。

 日本にいる彼らの協力者はイヴ皇女にさえ、苦言を呈する事ができる地位であり、その協力者が偽りの情報で日本の軍事力を北海道に集結するように調整してくれた。

 ならば、何故? と誰もが考える。


 解らないまま、沈黙の帳が落ちたまま、時は過ぎる……。


 リドルド教皇「跡形も無く、船が消えた?」


 クラティカルアメリカ大統領「現地の映像に切り替えろ」


 偵察用ドローンが映し出したのはドアップの銀髪セミロングヘアの幼女だった。幼女はよれよれの日本語で楽してお金を稼ぎたいよねと記された人間として最低のTシャツに、Tシャツが強風に揺れる度に見え隠れする子ども用のパンツを穿いていた。靴は履かずに素足のまま、上空を飛んでいる。恐らくは風魔法 エアで飛んでいるのだろうとクラティカルは推察した。

 それが居眠り中でもこの幼女ならば、可能だと誰もが知っている。

 何故ならば、我々がホログラムウィンドウごしに見ている幼女は最初に明確に地球人が神として認識したお方だからだ。


 少女神 リンテリア、それが幼女の名前だ。

 小さな身体で地球、異世界 リンテリアを管理する神である。到底、逆らえるような存在ではない。我々なんぞ、神の機嫌を損ねなくてもただのきまぐれでちょっとコンビニに行ってくるという感覚で殺される。


 ドローンのカメラ部位に少女神 リンテリアが近づいた為、リンテリアの綺麗な銀色の虹彩がドアップで映し出される。

 それに気にすることなく、「あ……早く、終わらせてトイレ、行かないとマジ漏れるん。小便系ロリ少女になる……」と呟いた後、クラティカル達に対して、言葉を紡ぐ。

 敵対心のない無邪気な笑顔だ。


 少女神 リンテリア「はーい、悪いゴキブリちゃん♪ 私、少女神 リンテリア。あんまり、かさかさ言ってると叩き倒すぞ」


 ポンチョンアフリカ王「…………なんだ……と! 神が何故!」


 少女神 リンテリア「私達は基本、人間は虫だと思っているのねん。ちなみに君達のしょぼいお船を壊した魔法はただの魔力球。こんくらいねん♪」


 少女神 リンテリアは偵察ドローンのカメラ部位に自分の小指を近づけてドアップにする。

 そこには銀色に輝く小さな米粒大の光が宿っていた。


 そして、少女神 リンテリアは「ぶいーん、ぶーいん!」とドローンの飛行する音を全然、真似できていないが……真似しながら、未だにホバリングしているドローンを両手で掴まえて無理矢理に海面を映させた。

 その少女神 リンテリアの破壊の跡に誰もが絶望の吐息を吐かざるを得なかった……。


 格が違いすぎる。


 海面には鉄板一つ、浮いていなかった。ただ、粉のような不純物が無数に浮いている。これのみがそこに何かがあったと証明してくれている。

 格が違いすぎるのだ人間(虫)と神では…………。


 リドルド教皇「神………の前に人間は……」


 少女神 リンテリア「そうそう、リンテリアちゃんの動く条件だけど、教えてあげないよーじゃん。今回はね、ちょっと、厄介事をいーちゃんに押しつけたので珍しくサービス? みたいな感じねん」


 その言葉に若すぎて、神の威を理解していないパティーのみがツッコミを入れる。


 パティー「お、教えてるし」


 しかし、パティーの声は震えていた……。


 少女神 リンテリア「んじゃあ、いーちゃんの良い経験値になってくれ! 反いーちゃん派のみんな! バイバイ♪」


 少女神 リンテリアはそう言った後、海へと「さぁ、海へお帰り……」と囁き、偵察用ドローンを沈めた。


 ドローンが映し出すのは無数の粉で濁った海中の様子と、そこにたまたま、通りがかった小魚の規則正しく泳ぐ群れのみだった………。

 もはや、世界は人間のモノでないのかもしれないとクラティカルは思案する。






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