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創世する世界のイヴ # Genesis to the world's Eve  作者: 遍駆羽御
本編―――― 第2章 1000キュリアの祈り
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第67話 愛されたいと、愛されたいの狭間で……

 第67話 愛されたいと、愛されたいの狭間で……


 視点 凪紗南りりす

 場所 クイーン王国 イクサの森

 日時 2033年 4月4日 午後 6時00分


 クイーン王国ヌルイア街ワールドゲートからクイーン王国に入国した。我らは羊飼い達と羊、盗賊団の生き残りの少女 メイヤを保護した。このまま、戦場にいるであろうイヴお姉様の処へ行くわけも行かず、我とその下僕 漆黒のキャット リルは「イヴを迎えに私も共に行きます! 近親相姦希望厨二病皇女!」というふざけた発言をする弱すぎる聖剣使い アイシャや我のお尻に極大なダメージを負わせてくれた未来お姉様に羊飼い達や羊、メイヤを任せて、イヴお姉様の下へと向かう。


 少々、歩くのが難儀な獣道が続いている中、我は確実に進んでゆく。

 途中、黒猫 リルが我と謁見したいと分不相応な願いを甘い鳴き声でうるさく、示してきたので古代魔法 バベルスペルで会話が可能にしてやった。我は下僕に寛容なのだ。


 太陽が沈んだ深い深い森では視界の範囲は極端に狭まる。しかし、我は恵里お母様に幼い頃から戦闘技術を叩き込まれて、その中に高魔力探査、高SOUL探査で敵、味方を魔力、SOULで区別する戦いを学んでいた。

 よって、我は比較的、危険種動物達が少ない方向に進み、尚かつ、イヴお姉様の魔力を探知してその方向へと確実に進んでいる。


 リル「にゃーん、にゃー、にゃー!(皇女様、皇女様。あの人間達、心配にゃん。皇女様のご親戚だけで対処しきれないにゃん!)」


 黒猫のリルが我の暗黒の運河の如し長髪を鋭き爪で触れてくる。

 触れられるだけと思い、我慢する。

 そんな戯れに興じているリルを肩に載せた我 漆黒の歌姫皇女 凪紗南りりすは危険種動物が高魔力探査及び高SOUL探査に引っかかるとまだ、目視できない距離であるのにも関わらず、無慈悲に……古代魔法 エーテル スピアを心理詠唱式で唱える。

 危険種動物達は己の頭上で、一瞬……何やら、光ったと感じる間もなく、天空より振りし強烈な稲妻に貫かれてゆく。


 ………我の高魔力探査及び高SOUL探査では危険種動物を33体、屠れたと確認した。

 33体分の経験値がいずれ、消えてしまうであろうバニッシュ ヒューマンの我の身体維持に貢献する。その為、Levelが上がることはない。維持を外せば、経験値は入手可能だが、この程度の経験値は誤差に過ぎない。


 りりす「腐ってもあやつは聖剣 ローラントの使い手。剣を振ればここいらのLevelの危険種動物は軽く屠れる。羊飼いの住んでいる村 ナナクサ村には有名な戦士もいるそうではないか。馬車に乗っているのだから村までも近い」


 木々の間には黒く煤けた箇所が数カ所、点在していた。獣の臭い匂いを残して、危険種動物達は消滅してしまっていた。ここの危険種動物の魔力及びSOULの脆弱さでは仕方の無いことだ。


 特に感慨もなく、ミュージシャン活動であるGarden of the GodsのLilith以外に人々に魅せる感情の読めない顔で進んでゆく。その無表情はりりすスクールの子ども達(我の忠実な下僕達)や我のマネージャー(我の召使い)から改善するように願われている。練習したのだが、鏡の前に立つ我はイヴお姉様の即興物真似笑顔以外にはできなかった。


 リル「にゃーん、にゃー、にゃー(憧れのイヴお姉様とあと少しで対面ですにゃん)」


 りりす「あ、憧れてなどおらぬ、我は。我は暗黒を愛する魔法少女。イヴお姉様のような太陽に晒されれば、陰る。そんな中途半端な俗物でしかない……」


 リル「にゃーにゃー、にゃーん!(珍しく、皇女様が弱気!)」


 りりす「………我はイヴお姉様のように人助けをしても我のお母様はテロリスト。闇に連なる者の子が失笑だろう、漆黒のキャットよ」


 我は思い出す。

 我がGarden of the GodsのLilithとして出演した27時間TV 温もりは地球を救うの一場面を……。


 あれは一年前のことだ。

 我が東京都 第一地下都市 大和 商業区にあるムーンサンスタジオで無報酬の音楽チャリティーコンサートのネット募金で1億5000万円を視聴者から引き出せたと喜んで、イヴお姉様の笑顔を真似していつものように「我が臣民よ、大義であった」と微笑んだ時、何処か遠くから響く音と共にニュースの一報が入った。

 我の母親 バベルの塔の首領 華井恵里が第一地下都市 大和 工業区にある鍋淵なべぶちメタンハイドレート生成工場を7歳の少女に爆弾を持たせて、自爆テロを決行させた、と。


 我は忘れていた……とお手洗いに駆け込む。お母様より闘う者に弱点となる感情はいらないと教えられた為、鏡の前で苦悩する顔も涙も流せずにそう、後悔していた。

 忘れていたのだ……。


 恵里『出来損ないのりーちゃん、貴女があの女の子ども いーちゃんを殺す任務を引き受けてくれる代わりに連れていけるお友達は…………80人まで。後の1500人のお友達は色々、使い道があるから駄目よ』


 その言葉は所詮、イヴお姉様が出資して自らも参加している子猫のしっぽのような完全な善の行いとは違うのだとがらんどうの人形のような我に教えてくれていた。教えてくれと頼んでいないのに…………。

 我はただ、洗面器を拳が血に塗れて、黒猫 リルに止めろ! と鳴かれるまで殴り続けていた……。

 それが唯一できる憧れてはならない者への憧れに対する苛立ちを示す方法だった。


 これが初めてではなかった。

 イヴお姉様が巨大トルネードの被害を受けた敵国のはずの米国の人々を治癒魔法により助けて、我はイヴお姉様と同じ勇者の父親の血に従って家屋に閉じ込められた人々を正体を隠して救った。しかし、あざ笑うかのようにその災害地区で恵里お母様が率いるバベルの塔と繋がるマフィアが違法薬物を売り捌く。人々の心の闇に付け込んで……。


 そんな例が何回も繰りかえせば解る。

 偽善にさえ到達できない悪人の血を保つ我の善……。

 それにどんな意味があるのだろう?

 それにイヴお姉様に対するリスペクトとするのはどうなのだろうか?


 何度も、何度も、何度も、何度も……イクサの森を突き進み、危険種動物を超距離から古代魔法で屠り、進んでいる時も我は必死に表情に現すことがないわだかまりと共に否定する。

 息を不自然に吸い込み、吐く。それがどんな効果をもたらすのか? は解らない。


 りりす「我がイヴお姉様に憧憬を抱く等、失笑もの。漆黒のキャット リル」


 そう口にすると、我の中にある恵里お母様に愛されたい我が満足な表情を受けべ、「それで良いりりす」と肯く。

 そう口にすると、我の中にあるイヴお姉様に愛されたい我が不満な表情を受けべ、「嘘つきりりす!」と罵る。

 相反する二人のりりすが心の中にいて解らない!


 我は付近の巨木に背をもたれさせて、凪紗南天皇家の宝剣 天叢雲剣を一振りし、訳の分からないムズムズする! 腹から叫びたい! 気持ちを断ち切る。

 しかし、断ち切れない。

 上歯と下歯を強くかみ合わせる。


 もうすぐ、イヴお姉様に会える! と胸が躍るりりす。

 駄目、駄目、イヴお姉様を殺すんだ! と強く心を縛ろうとするりりす。

 二つの意志が絡み合い……


 ……

 …………なんか、イライラする。


 りりす「どうすれば……この後に及んで!」


 気がつけば、叫んだことがない。感情を吐露した声を発せない我が叫んでいる?

 その声が危険種動物 パワーヘイトベアを呼び寄せた。生意気にも我に向かって、きつね色の毛皮に胸部から腹部にかけてだけ黒色の毛皮の雑魚は吠える。威嚇しているつもりなのか? その威嚇が意味も無く、うるさいと感じた。

 気がつけば、我は初めてになるであろう狂ったような叫びを上げて、両腕で天叢雲剣を握り締め、地面を舐めるように下から上へと剣線を描いた。

 パワーヘイドベアの頭部だけが宙に舞い、首から血を吹き出して頭部から下の部位は草むらへ仰向けに倒れた。


 しばらくして、胴体の上に頭部が落下した…………。

 パワーヘイドベアの経験値が我の消えるであろう時間を先延ばしにする糧となった。


 はぁ、はぁ、はぁーと何度も息を吸い、吐いて整える。攻撃の動作ではなく、心に蛇のように絡まる何かが我の疲労を誘発している。

 黒猫 リルが我のアリスゴシックドレスの裾に軽く触れた。


 リル「にゃー、にゃー、にゃにゃん…………(皇女よ、手鏡を見よ。驚くべきことに皇女は感情を露わにしている。大丈夫かにゃん…………)」


 悲しそうに高い声で鳴くリルの言葉に我はまさか……と思った。

 直ぐさま、いつも携帯している手鏡で我の顔をチェックする。


 そこに映っていた凪紗南りりすは、

 天然素材の淡いピンク色の唇を微かに震わせて、

 輝かしい艶やかな長い黒髪とは対照的に銀色の瞳は充血して、

 頬には……我の物心が付いてからの初めての涙が流れていた……。


 そっと、透明な雫を指先で拭き取る。

 濡れた指先を見つめてぽつりと声を零す。


 りりす「我は泣いている……」


 リル「にゃーにゃー?(どうしてかにゃん?)」


 黒猫 リルが我の足下で可愛らしく首を傾げる。

 黒猫 リルは我と同じ年の産まれの黒猫とブラックキャットという危険種動物の血の混ざったハーフだ。

 ずっと、傍に居るからだろうか? 自然とまたしても声が零れた。


 りりす「我はお母様に愛されたい。我はイヴお姉様に愛されたい。できることならば、子を宿したい……イヴお姉様の子宮に」


 その二つは達成できない。

 何故ならば、恵里お母様の下を離れる時に念押しされているからだ。


 恵里『良い? 絶対に私の堪忍袋の緒が切れるまでにいーちゃんを、貴女のお姉様を殺しなさい。それが出来損ないのりーちゃんの唯一の存在理由。忘れないで貴女が選別した80人の子ども達を私はいつでも赤子をブッチ殺すよりも楽に殺せる。そう言えば、勇者の春明君のお人好しな血が半分、入っているりーちゃんならば何を優先すべきか? 解るよね……』


 しかし……今はりりすスクールの子ども達 80名の事を把握している凪紗南天皇家が保護をしてくれるかもしれない。

 そう思って我は凪紗南りりす第二皇女様を名乗った。

 最低限、言うことを聞いている限り、おそらく、日本の皇家は人道的に子ども達を扱うだろう。


 イヴお姉様と接触するのも殺す為に信用を得るんだとお母様に主張すれば……表面上はまだ、シーソーの両端のどちらにも傾いていない状態になる。

 先送りだと解っていても気持ちが晴れていつもの無表情を保てる。


 我は黒猫 リルを抱え上げて、右肩に載せた。

 そして、良い子、良い子とリルを何度も撫でながらイクサの森の闇を歩む。


 りりす「我はもう、平気。いつもの凪紗南りりすでいられる。我はいつか選択する為にイヴお姉様と暮らす。その為に……ゆくぞ、漆黒のキャット」


 リル「にゃん!(仰せのままに皇女様!)」






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