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創世する世界のイヴ # Genesis to the world's Eve  作者: 遍駆羽御
本編―――― 第2章 1000キュリアの祈り
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第66話 不敗の衣

 第66話 不敗の衣


 視点 凪紗南イヴ

 場所 クイーン王国 イクサの森 洞窟内部

 日時 2033年 4月4日 午後 6時27分



 予は深淵の刀を握り締め、マーク・リバーの胴体に狙いを定める。

 真央は何処に大穴を掘るか? 鋭い目つきで探す。


 セリカは自分のアナムネーシスの器に眠る魔力に働きかけるべく、口を堅く閉ざす。


 予は心理詠唱式で地魔法 ロックバインドを唱え、マークの右足を拘束する。

 全てのあらゆる物質には耐久度、HPが存在する。そのHPが0になれば、物質は死を迎える。有機物ならば、心臓停止で動かなくなるが、命のない無機物ならば、自然崩壊を始める。

 予が今、唱えた地魔法 ロックバインドにはありったけの予のMPを全て、ぶつけた。


 よって、マーク・リバーの右脚の自由を奪っている地の鎖は、HP341000。

 これだけ魔力を込めたロックバインドをすぐには破壊できず、驚愕の表情を浮かべ、やたらに右脚を動かそうと藻掻く。


 マーク「こんな! 上級魔法! 何故、イヴ女王が! 温室育ちのガキが!」


 真央が屈んで両手で犬のように無数の大穴を掘りながら、野獣のように吠え散らすマークに反論する。とても、強い口調で。


 真央「あんたには解らない! 妹さんの気持ちを考えなくなったあんたには! こんなお兄ちゃんの姿を妹さんだってみたくない。そうでしょ!」


 と、周囲の空気を吸うような動作を真央がした後、灼熱の炎が真央の口から飛び出す。それはあらゆる物質を溶解させる竜の砲撃 竜魔法 ファイアドラゴンブレス!


 そのブレスが迫ってくるのに、マークは動じもせず、触手を人間が覆えるほどの盾に変形させて身構える。


 マーク「妹 クイナはあのガキに騙されていたんだ! 俺は聞いた! 全てを! そこの銀髪の気持ち悪いガキが幼女の生を見守る神だってふざけた存在を華井恵里様に紹介された邪神 メディアース様に! お前は人間界を管理する悪魔だ!」


 華井恵里の名が出たのはやはり……と思ったが、邪神とは……。予では厳しいかもしれない。邪神は神のルールに抵触し、役職を剥奪された神の事を指す。故に神と同じ魂のステージにある者しか邪神を倒せない。倒せる可能性があるのは……知り合いの神(協力は無理そう)、少女神 リンテリア(性的なことを要求してくるだろう)、予自身だけだ。


 予は口を大きく開けて、どうだ、お前の悪事を知っているだぞ、と笑うマークを心底、アホだと思った。


 イヴ「素養の無い人間が、戦いの訓練さえしていない人間がすぐにでも邪神樹に飲み込まれるぞ、マーク!」


 マーク「本望だとも! 妹の復讐ができて、華井恵里様の人間救済をお手伝いできる! 神の意志が人間を家畜のように管理し続ける? 許せるか! そんな理不尽……」


 マークは竜の炎が近づくと今までの余裕の表情が嘘のように焦って、竜の炎を盾では受け止めず、身体を屈めてやり過ごす。

 マークの背後の土壁が轟音と共に崩壊し、人が一人、イクサの森へと出られる大穴が開く。その大穴を開くのに内在する魔力を使い果たして、竜魔法 ファイアドラゴンブレスは自然消滅する。


 マーク「炎なんて恐れることない……。恐れることない……」


 恐怖に顔を歪めているのを予達に隠す為に両手で顔を覆って苦悩の呟きを口ずさむ。


 戦闘経験のない者には人間が原始的に恐れる炎魔法で対処しろと未来お姉様がまだ、両親が存命だった頃に、護身術として予に教えてくれた。

 その時に近くで一緒に話を聞いていた勇者のお父様が「いーちゃん、お父様がお母様に頼んでいますぐ、ルーン フレアをいーちゃんに伝授させるから。いーちゃんはそれで悪者を消毒しなさい」という言葉も思い出した。


 予は緊張が解れ、セリカの手を横に振る合図に気がついた。

 セリカに合図を返すべく、予は併走するセリカを横目で見て微笑んだ。

 セリカもわかったんですわね、という意を込めて、微笑み返す。

 その行動がマークの逆鱗に触れたようで、マークは未だ、右脚の自由を奪う土の錠に触手を変化させた杖で叩き始めた。


 マーク「うがぁああああああ! くそガキめっ、くそガキめっ! 掴まえたらまず、その可愛い顔を殴り続けてやる! 許して、と言う程に! 許さない! 許さない……」


 赤く充血した目球は恐怖対象だったようで、遙か後方に控えているルルリから悲鳴が漏れ出す。もはや、優しいかったであろうクイナの兄 マーク・リバーの面影はない……。

 近づいてくるセリカと予には視線をくれずに汗を垂らしながら、マークは尚も触手の杖で土の錠を叩き続ける。「くそガキめ、犯してやる。お前の国民の前で……」「竜族の姫を殴りながら……」と悪態をつきながら。


 セリカ「ライトニング ボールですわ!」


 と、唱えたセリカの手のひらから、電気の塊が打ち出される。

 狙うはマークの左肩だが、マークはやっと、気づき、触手の盾でガードする。


 電気の塊は盾を一瞬、光らせただけで消滅した。

 完全に防御できたことにほっーとしたマークは油断していた。予はその油断を好機と捉えて、再び、ロックバインド破壊に挑もうとするマークに凪紗南流 夢幻鏡突むげんきょうとつで挑む。

 力強く土踏まずで大地を踏み締めて、膝を曲げて、そのバネをも技の昇華に利用する。SOULの銀色の光が突きの型を形成する深淵の刀の刀身部に集まり、輝く。


 イヴ「凪紗南流 夢幻鏡突」


 深淵の刀の突きが油断をしていたマークの脇腹に深くめり込む。咄嗟に構えたマークの触手の盾を貫いて……。

 マークは腹を押さえて、苦しそうに喚く。


 マーク「ば、馬鹿な! この邪神樹の盾を! 通常の邪神樹を邪神 メディアース様のお力で強化された邪神樹が!」


 イヴ「闘わずして力を得たから常識も、先程の闘う者では当たり前の人間に本能的に備わった炎を恐れる習性を理性で御せないのだ!」


 ほとんどの流派には修練をし続けると、一定の防御無視を可能にするほどの技の熟練に達することがある。予の凪紗南流 夢幻鏡突もその一つの例だ。

 だから、侮ってはならない初見の技を。


 まず、喰らわず、回避をしつつ、その技の本質を観察する。これは闘う者ならば、当たり前の常識だ。

 それをわざわざ、教える必要はない。これは新兵の訓練ではないのだ。


 当初の作戦通りに痛みに脂汗を流すマークを無視して、予はセリカの腕を引いて、真央の処まで後退する。


 真央「イヴ! 明日葉からぶんどったミドル エーテル ライト!」


 イヴ「げっ、駄目神の唾液で生成されたMP40%回復のお水………。飲みたくないのだぁー」


 真央「その事実、初めて知った。だから、イヴがあれは飲むな、エーテルライト系は飲むなって……」


 セリカ「あら? もう、飲めませんね」


 イヴ「駄目神のにやにや顔が浮かぶ。えーい、飲む!」


 予は嫌々ながらも真央からミドルエーテルライトを貰い、直ぐさま、飲み干してMPを40%回復させた。

 心理詠唱式で闇魔法 シャドウミストを発動させる。

 洞窟の暗闇が周囲の景色目視不可能な闇の霧に侵食されてゆく…………。


 やっとの思いで触手の杖で土の錠を破ったマークをも闇の霧の中に包まれてゆく。勿論、予達は闇の霧に包まれない位置にいる。魔法の威力内ならば、コントロールできる魔法の基礎技術応用 コントロール マジックで調整したのだ。

 今や、マークは独り、暗闇の中を彷徨っている。しかも、真央の掘った無数の穴がある。

 暗闇の霧に予は呼びかける。


 イヴ「マーク! お前の隠れ家にしては道中の盗賊の数が少なすぎる。それとお前のペットのはぐれ竜族はどうした?」


 その予の問いかけを聞いたマークは腹の底から可笑しいというかのように不気味な高笑いを辺りに響かせる。


 真央「まさか、あんた!」


 セリカ「非人道的な」


 と言う真央、セリカの非難の声にも応える事無く、マークの高笑いは続き……止む。

 少しの静寂と、マークのこちらを目指して進む足音。


 マーク「盗賊 180人、竜族のフェリスタは今頃、氾濫寸前の危険種動物達に紛れて、偽善者気取りのくそガキの国民を蹂躙してるだろうさ。さて、幾つ集落が滅びるか。見物だ。くそガキの味方をする人間はみんな、滅んじゃえ……」


 予は怒りを抑えつつ、冷静に次の一手 竜魔法 ウォータードラゴンブレスを放つ。予の口から放たれた大量の水は速さのある激流となって………闇の霧内にいるマークを襲う。

 藻掻くような声が聞こえるがもう、遅い。

 高魔力探査の技術でマークの位置が真央の大穴に落ちたことを確認する。


 予は次にMP100消費分で構築した魔力球をマークのいる大穴を目指して飛ばした。

 そして、その太った人間程の規模の魔力球はぴったりと水が満載の大穴の蓋に適合した。

 水攻めは残酷だが………マークのした事を考えると許容範囲だろう。


 マークの藻掻いているであろう水を激しく掻く音が洞窟内に響き渡り………しばらくして、止まった。

 予達はマークという高Levelの相手をほぼ損害無しで倒せたことにほっとした。


 イヴ「相手が戦闘において未熟で助かったのだ。後は首を切り落とすだけなのだ」


 ルルリ「………イヴ女王様! お願いがあるのです!」


 背後を振り返ると、ルルリの姿があった。そのルルリの瞳は強い意志に満ちていた。

 その内容は解っていた。

 いつも、自分の力が足りない範囲の出来事は心苦しく思う。しかし、神とて、完全ではない。


 イヴ「それはできない」


 闇の霧と魔力球を解きながら、ルルリの両肩をそっと、叩いてそう言った。


 ルルリが口を開くよりも早く――――

 ――――言い知れない痛みが予の胸元に広がった。


 セリカ「イヴちゃん!」


 真央「イヴ!」


 二人の悲痛な声が聞こえる………。

 予は痛みの場所――――胸と胸の中心に突き刺さる黒い槍 闇魔法 ダークランスを確認した。


 予はそれを引き抜き、投擲した相手を確認すべく、ゆっくりと振り返った。

 そこには、水中内から地上へと空気が吸える触手を変形させた筒を予に見せつけるように掲げて、無傷の全身がずぶ濡れたマーク・リバーが仁王立ちしていた。


 マーク「あまり、年長者を馬鹿にするからこういう反撃を受ける。さぁ、そのクソ生意気な顔をたっぷり殴らせてくれ。それとも、傷を負った胸元を蹴るのが苦しいかな? ああ、そうしよう」


 イヴ「離れるのだ! ルルリ……」


 ルルリは予の言葉に親の敵を見るような冷たい視線で涙を浮かべながらも、素直に従う。

 それを確認すると、予はゆっくりと意識を手放した……。


 マーク「おや? これはクリティカルヒットってやつなのか?」


 と言う敵の声を辛うじて耳にしてから……。


 ……

 ………

 ……………

 暗闇の中、意識の底で、失われた都市 イカロスで出逢った金髪の女性の声が聞こえた。


 ???「活性化に成功。不敗の衣を纏わせた。今代のヴァンパイアプリンセス、聞きなさい」


<魔王魔法 プリンセススペル インフィニティコートが発動しました>

<瀕死の状態である程度の害意からヴァンパイア王族 イヴを保護します……>


 不敗の衣。

 魔王魔法 プリンセススペル インフィニティコートの情報が脳に刻まれた。

 その瞬間、理解する。

 幼き頃、華井恵里に痛めつけられて助かったのは……この不敗の衣のおかげだと。


 ???「邪神の力に負けることは許されない。ヴァンパイア族とは邪神を滅する力を有した神様に対するカウンターの役割を担った一族」


 イヴ「邪神を滅する?」


 ???「ヴァンパイア族はコウモリを下僕とし、己の血で構築した血装けっそうを纏って、この世をいたずらに乱す邪神を古来より討ち滅ぼしてきた。覚えておいて、ヴァンパイアは神との戦いからは逃れられない、と」


 イヴ「覚えておくのだ」


 ???「さぁ、戦場に行きなさい。まだ、幼きお姉様の子孫、最期の魔王の血を引く正当なるヴァンパイアプリンセス」


 イヴ「リリア・クイーン?」


 リリア「ええ、イヴ女王様」


 暗い空間が赤い光、血の如き光に覆われて、これが予を目覚めへと導いてくれるのだと理解できた。


 さぁ、盗賊王 マーク・リバーにヴァンパイアの王族の名の下に裁きを下そう。

 未熟故に舞台衣裳は用意できない。






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