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創世する世界のイヴ # Genesis to the world's Eve  作者: 遍駆羽御
本編―――― 第2章 1000キュリアの祈り
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第59話 偽りの力を誇示する者

 第59話 偽りの力を誇示する者


 視点 凪紗南イヴ

 場所 クイーン王国 イクサの森 洞窟内部

 日時 2033年 4月4日 午後 6時25分


 奇跡なんて起こらない。そんな言葉を口にする事自体、予にはないと思っていた。あまりに当たり前過ぎるからだ。

 暗闇の中でも解る金髪の男性がこちらを視て、舌舐めずりして、左手でルルリの首を持ち上げていた。

 予は躊躇することなく、ルルリの身体に遮られることなく、目視できる金髪の男性の心臓部に狙いを定めて、ウィンチェスター RFの引き金を引こうとした。


 トリガーに力を入れた瞬間……

 金髪の男性の右腕から突如、出現した触手の剣により、ルルリの首が飛んだ。

 ルルリは怯えた表情のまま、長い黒髪の頭上にある犬っ耳さえも硬直しているように見えた。


 ウィンチェスター RFを背中に背負い直して、ルルリの頭部を予はしっかりと抱きしめる……。


 イヴ「ルルリ……そんな……」


 ルルリの瞳には涙が貯まっていた。

 予はルルリの涙をそっと、ハンカチで拭き取り、ルルリの開いていた眼をゆっくりと閉じた。


 予の悲痛な顔が大層、楽しみだとばかりの男性の顔を睨み付ける。

 それが男性には、命を盗む盗賊王には、大好物だったのか、少年のように柔やかなえくぼを作る。

 予はルルリの頭部をセリカに預ける。


 盗賊王「おや……遅いお着きですね、イヴ女王」


 イヴ「……人の命をなんだと思っているのだ! 盗賊王!」


 叫びと共に、真央竜から飛び降りて、深淵の刀を空中で呼び出し、盗賊王の頭上を狙う。

 盗賊王はルルリの首から吹き出している血にも気に留めず、邪魔だとルルリの胴体を投げ捨てて、触手を盾に形取り、予の深淵の刀を受け止めた。


 隙無く、予は回し蹴りを盗賊王の脇腹に加えるが……盗賊王は痛がる様子もない。

 小学生のような体型から繰り出される蹴りが効くわけない!


 バックステップの要領で下がり、目線は盗賊王を射つつ、心理詠唱式で素早く、風魔法 トルネードを唱える。

 盗賊王の頭上に突如、現れた竜巻に盗賊の身体は傷つく事無く、盗賊王は饒舌に話し始める。


 盗賊王「貴女様こそ、人の命を何だと思っている。貴女様の眼に止まった者はどんな難病からも治癒魔法でお救いして貰える。巷では、数々のあざなで誰もがお優しい貴女様を称える」


 不快だと! 盗賊王は触手を斧に変えて、風魔法 トルネードを掻き消す。

 今の攻撃で盗賊王の反応速度は耐久力やトルネードを掻き消した攻撃力に比べて遅い。反応速度はLevelでは補えない。盗賊王は鍛錬以外の何かで強くなっている。

 予は盗賊王の自分勝手な主張に耳を貸さず、冷静に分析した。


 鍛錬以外の要因?

 あれだよ、イヴとばかりに真央竜、セリカが共に視線を盗賊王の腕に絡まっている触手に向けて、顎を下から上へと動かす。

 あからさま、と予は余裕たっぷりに盗賊王に向かって微笑んでみせる。

 盗賊王がやや、不快そうに眼を細める。


 挑発慣れしていない。

 やはり、戦いに慣れていない?

 政争の類いも経験したことがない。


 もう、少し、煽ろうと予はセリカの肩と、真央竜の右脚をトントンと二回、叩く。


 セリカ「困っている人を助ける。それが貴方にはご不快なのでしょうか?」


 セリカはいつもの天然笑顔を交えた予に味方をする意見を堂々と盗賊王にぶつける。

 さらに、不快そうになる盗賊王。

 効いてる、効いてる。


 真央が右手で盗賊王を指差し非難し始める。


 真央「違う、セリカ。こいつはイヴに恨みを抱いている。それも単純な恨みじゃない。あたしは紛争の時、それを身近で嫌って程に見た。あんた、どんな恨みがあるの」


 盗賊王「人は砂漠で一杯の水を与えられれば、その恩人を一生、恩に思うでしょう! しかし、その一杯の水を間近に…………それに与れなかった者は! 憎しみの炎に身をたぎらせるでしょう!」


 ついにキレた盗賊王は洞窟の端に置かれていた本を握りしめると、獣のような声と共に地面に激しく打ち立てる。

 地球産の丈夫な本なのに、すぐにバラバラになって、そこら中に散らばった。

 予は偶然にも、その表紙を見つける。


 表紙には【2032年版 凪紗南イヴ皇女様解体新書】とタイトルが記されていた。

 その本は大事にして何度も読んだのか、端々がボロボロになっていた……。

 予がそれを拾う前に盗賊王は、


 盗賊王「風魔法 トルネード」


 と唱えて、残らず、本のページを切り刻み、粉々にした。

 盗賊王の眼は赤く、泣いていた。悲しみに浸っていた。


 そうか……これは盗賊王自身の持ち物ではなく、誰かの……盗賊王の大切な誰かの持ち物。


 イヴ「それが予を恨む理由だと言うのだな?」


 盗賊王「1人の少女がイヴ女王……いや、偽善者に憧れた。それは、それはいつか、偽善者の処で働きたいと言っていた! しかしな、病弱な妹 クイナ・リバーは偽善者の馬車の手前で俺が……妹を治癒してくれと直接、言えなかった。そのせいで死んだ。うわぁああああああ! 畜生!」


 盗賊王は男性にしては恥ずかしく、しかし……理解の出来る理由で号泣して、思いっきり、洞窟の壁を殴りつけた。

 その拳は血に染まり、拳をぶつけた箇所が紅く染まる。

 真っ赤な小石がぽろぽろ、地面に落ちた。

 予は今からでも……助けることはできると伝えたくなった。盗賊王が罪を認めて、予の手で首を刎ねられるならば。


 クイーン王国で最高の刑罰は王族の手で処刑されることだ。

 その案を提示しようと、予は口を開こうとするが、セリカに口を左手で塞がれた。

 言って良いですよ、真央ちゃんと、セリカが囁くように真央に促す。


 真央竜は怒りの咆哮を上げる。

 その咆哮は洞窟を揺るがせる。

 そして、静かに怒りを込めて、真央は口を開ける。


 真央「逆恨みじゃない。イヴの治癒は都合の良い奇跡なんかじゃないのよ」


 盗賊王「黙れ! 偽善者の力に這い寄るハイエナめっ!」


 過剰反応した盗賊王が触手を拳に変えて、真央竜の胴体を打つ。

 真央竜は意図も簡単に吹き飛び、その巨体を壁に激しく打ち付ける。

 紅い閃光と共に真央の身体は元のちびサイズに戻ってしまった。


 真央「うぐがぁ。何、こいつ……一撃で竜変身が解けた」


 素人のような拳と予は感じ、驚愕したがやはり、真央も予と同じく、そう感じたようで自分の背中を擦りながら、驚愕に声を上げた。

 真央の呼吸は荒く、竜変身直後はHP10%以下に下がる為、相当に疲労している。直ぐさま、予は真央に駆け寄る。


 セリカ「拳が初歩。素人と判断して良いLevelですわ……。なのにあの拳の重さ、危険ですわ」


 真央「竜の鱗を真っ向から相手する強さがあるとは思えないと思ったけど、単純な手で挑むのは悪手ね」


 イヴ「真央! すぐに治癒魔法で」


 真央の背中を覗き見ると、壁の凹凸に傷つけられたのか、服に血が滲んでいた。

 少し心配なので、心理詠唱式でSSランクの治癒魔法 エンジェル ヒールを唱えた。

 銀色の光が真央の背中の傷を治し、HPを全回復させる。

 見る見るうちに、真央の呼吸は平穏を取り戻す。


 真央「助かった、イヴ。あいつの装備している妙な触手? あれ、普通じゃない」


 るーちゃん「正解じゃ、真央。あの触手、腕だけではない。盗賊王の身体全体を覆っている。生物を糧に育つ邪神樹じゃ」


 邪神樹? お友達(転生神様が予との関係をそう言っていた)の転生神 ローナから聞いた事がある名称を魔剣のるーちゃんが口にした。


 イヴ「普通、手に入らないのだ……」


 真央「どうせ、ろくでもないルートから手に入れた力でしょ」


 セリカ「邪神樹はおよそ100年前に戦争で使われて以来、30年掛けて、各国が協力し邪神樹を焼き払ったそうです。シーリング王家が管理している文献に記録されていますわ。何でも、人間の素質とLevelを極限にまで強化するメリットはありますが……いずれ、邪神樹の求める経験値に外部からの摂取だけでは耐えられなくなり、宿主までも食い殺す恐ろしい植物です」


 イヴ「ほう、技量に違う威圧的なSOULや魔力を放っているちぐはぐさの理由はそれか? 要するに経験の足りぬ力馬鹿」


 るーちゃん「あれに勝利するには……神剣 エデン装備状態で防御無視の技。それを狙うのじゃ」


 盗賊王「神剣 エデン。幼女の生を見守る神が振るう神の力。確かにそれを撃つ隙があれば、可能。だが、俺のステータスには勝てない。ハンデだ。俺のステータスを見て、絶望するがいい!」


 ステータスカードを予達が見えるように起動したのか、予達の眼前に盗賊王のステータスが透明な四角い映像として表示される。


<マーク・リバー


 Level 77

 HP 570000 素質 devil

 MP 800000 素質 devil

 SOUL 679000 素質 devil

 STRENGTH 28900 素質 devil

 SPEED 45000 素質 devil

 MAGIC ATTACK 22870 素質 devil

 CONCENTRATION 32900 素質 devil

 DEFENCE 12000 素質 devil

 MAGIC DEFENCE 10000 素質 devil

 INTELLIGENCE 9000 素質 devil

 属性適正 風・闇

 常識外魔法 ――――

 武術 人間系


 装備

 人の魂を喰らい育つ名も無き触手 攻撃 24900 魔法性能力 12000 レア度 goddess 自由自在に伸縮、刃先を変える事で剣、大剣、槍、拳、盾にもなる。盾の場合は物理防御・魔法防御 2倍。

 トランクス 物理防御 0 魔法防御 0 レア度 N



 習得魔法

 ~風魔法~

 エア

 飛翔魔法。飛行速度 徒歩 約時速4㎞ MP10~∞ 1分~∞

 飛行速度 飛行機 約時速 900㎞ MP50~∞ 1分~∞

 エア タンク

 体内酸素維持。唱えた瞬間、肺呼吸から魔法呼吸へと変わる。1分毎に、MP10。MP10~∞。1分~∞。水中活動や、酸素を吸い込んではいけない猛毒地帯や、火事現場で利用される魔法。

 エア ボール

 MAGIC ATTACK 10% MP5 単体攻撃 C

 エア ガード

 MAGIC DEFENCE 10%  MP27 範囲防御 C

 ウィンド ハンマー

 MAGIC ATTACK 20% MP15 単体攻撃 B

 エア ウェア

 MAGIC DEFENCE 20% MP20 単体防御 B

 トルネード

 MAGIC ATTACK 30% MP45 範囲攻撃 A

 エアメイル

 MAGIC DEFENCE 30% MP50 単体防御 A

 タイフーン ラプソディ

 MAGIC ATTACK 40% MP80 範囲攻撃 S

 ~闇魔法~

 シャドウミスト

 暗闇の霧。視界を狭める効果。光魔法ライトなどでかき消すことができる。維持時間はMP10毎に1分。 MP10~∞ 1分~∞。小学4年生で習うCクラス魔法。

 ダークボール

 MAGIC ATTACK 10% MP5 単体攻撃 C

 ダーク ガード

 MAGIC DEFENCE 10%  MP27 範囲防御 C

 ダーク ランス

 MAGIC ATTACK 20% MP15 単体攻撃 B


 技

 ――――                >


 これは……本人の力量に比べて、倒すのが困難そうだと思わず、溜息を吐く。


 イヴ「神化しても勝てそうにない。ならば、神化せず、神剣 エデンを使わず、予の生……15年で培ってきた記憶で偽りの力に勝とう、盗賊王 マーク・リバー」


 真央「あたしも手伝うわ。止めても無駄」


 セリカ「わたくしも共に闘います」


 勝算はある。

 これよりも数十倍強い未来お姉様に予は剣を学んだ。心愛、テスラ、英さんなどから戦術を多く学んだ。


 目の前でどや顔している盗賊王は”戦術”を全く理解していない。だからこそ、このようなアホな行動ができる。

 予は盗賊王に”ありがとう”と言いたいくらいだ。その馬鹿さ加減に。

 微笑み、銀の髪を指で弄ぶ予の姿を見て、馬鹿にされたと勘違いした盗賊王は怒鳴る。


 盗賊王「神の力を使わなければ、ただのひ弱の小娘ではないか!」


 イヴ「大切な事をマーク・リバーは――――」


 盗賊王「黙れ。マーク・リバーは死んだ。妹と共に」


 イヴ「――――失念している。だからこそ、予達にステータスを誇示した。忘れているだろう。所詮、マーク・リバーは卑怯な殺人鬼でしかない。予がここでお前を…………」


 右手で深淵の刀を握りしめる。


 イヴ「処刑する!」


 そう宣言し、ルルリを殺したのは無駄だとばかりに予は左手でルルリの黒髪を撫でると同時に――――


 イヴ「リヴァイヴ」


 と唱えて、ルルリを生き返らせる。


 ルルリの胴体が掻き消えて、ルルリの頭部の下に胴体が瞬時に現れて、頭部と身体が引き合うようにくっついた。首筋に傷一つない。

 ルルリは助けられた……。


 しかし、ルルリのママは残酷な殺され方をし、魂のしらべがここにないことから、妖精族が回収したのだろう。

 今頃、転生神の管理する転生宮に在るだろう。

 転生神 ローナに確認するまでもなく、魂のしらべは濁っているだろう。よって、生き返らせたところで精神が崩壊している……。

 残念ながら、予の治癒魔法では……人の心は治せない。


 予は微かに瞼が揺れるルルリの姿を見ながら……自分の不完全さに苛立った。いずれはその領域に到達するとしても、もう……ルルリのママを助けられないだろう……。

 ルルリの瞳が唐突に開かれる。

 ルルリは予やセリカ、真央の顔を三回、素早く、確認して、両手を自分の眼前に動かして……驚く。


 ルルリ「ルルリは! ルルリは殺され……あ、生きてる。何で……」


 生きてると理解した瞬間、ルルリの眼から嬉し涙が流れた。

 放心状態のルルリにセリカが手を差し出す。


 セリカ「ルルリさん、危ないですから下がって!」


 ルルリ「あ、は、はい」


 ルルリはセリカの手を取り、立ち上がる。

 そして、予、真央、セリカの背後に控えた。


 イヴ「さて、記憶を」


 人差し指を額に添え、眼を瞑る。

 まさか、公務の高速化(表向き 本当は鬼未来様が人間に処理不可能な勉強を強いるので)の為に編み出した魔法が役に立つとは……と苦笑しつつ、頭脳処理の高速化 無属性魔法 インテレクト オーバーを心理詠唱式で唱える。

 普段の並列思考から、8列思考に脳内構造がシフトしてゆく……。

 眼を開けて、あらゆる記憶から最適な戦術を検索。

 検索終了まで5秒。


 盗賊王「蘇生魔法……さすが、神。神が人間のまねごとか。滑稽だぞ、偽善者」


 イヴ「予を何故、神だと知っているか? についてはどうせ、喋らないのだろう? マーク・リバー」


 検索完了。

 脳内に戦術と戦術のマインドマップが浮かぶ。


 真央「イヴも解ってきたわね。あたしがラノベ教育した成果が出てきた。常識よ、こういうのはね、小者なの、小者」


 セリカ「あら? あの方、キレてますわ」


 きっと、乳酸菌が足りないだろうと皮肉を予の一つが分析し、そこに付け入る隙があると分析する。そのやり方もマインドマップに組み込まれた。

 最適化………。


 イヴ「まずは戦術 3ヶ月前の視察」




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