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創世する世界のイヴ # Genesis to the world's Eve  作者: 遍駆羽御
本編―――― 第2章 1000キュリアの祈り
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第58話 竜変身

 第58話 竜変身


 視点 凪紗南イヴ

 場所 クイーン王国 イクサの森

 日時 2033年 4月4日 午後 6時15分


 真央の上下に揺れる振動に耐えるべく、真央の華奢な両肩に回した両腕に力を込める。予の身体は治癒魔法をかけたというのに……疲労が相当、貯まっていた。一時は治癒魔法で収まったはずの両足の痙攣が今も続いている。

 意識が定まらない。どうやら、熱があるらしい……。

 おかしい? 今まで治癒魔法を唱えて全快しないなんてことはなかった。


 真央「……イヴ」


 イヴ「………」


 真央「……イヴ」


 イヴ「真央、今、予を呼んだのか?」


 微かに真央の真剣な声が聞こえたのだが?


 真央「あんた、今、あたしが言ったことを聞いて……いや、イヴ、それは……」


 イヴ「予はまだ……」


 大丈夫! 戦えるから……ルルリとルルリママを助けて、ハッピーエンドで終わらせるから、と言いたいが舌が上手く回ってくれない。

 背中に重りがのし掛かっているようだ。


 るーちゃん「奥義 龍葉波の影響じゃ。バランスが崩れたのじゃ、一時的に。本来、神の血とヴァンパイア族の血とは相性が悪い。少女神 リンテリアとの誓約により、詳しくは話せないがイヴに流れる神の血は特別製じゃ。それこそ、ヴァンパイア族の王族 クイーンの血を神の血と同居させられる程に。そこに真央との竜の婚約式による竜の祝福、どうやったかは想像ができない妖精族の因子が加わることでさらに安全に神の力を押さえ込むのに成功した。如何に神の器として完成度が高い凪紗南イヴでもそれがなければ、何処かで力の暴走を起こし、死んでいたであろう」


 ”力の暴走を起こし、死んでいたであろう”と、そんな魔剣レーヴァティンに宿るるーちゃんの言葉だからこそ、真実なんだとぞっとした。

 ”1度”、暴走のようなモノを起こしているが……還って来られたのはそれらの力が全て、この小さな139cmのみに宿っていたからだ。

 だが、神、ヴァンパイア、竜、妖精、人間がこの身に宿っているのは偶然なのだろうか? いや、偶然ではない必然だ。

 同じことを考えているのか、真央、セリカは黙って歩を進める。


 時折、森の中で不気味な鳥の声? が聞こえる。何処から鳴き声を出しているのだろうか。

 何だか、怖くなり、真央の頬に自分の頬を寄せた。

 真央はしょうがないなぁーとそんな溜息を吐きながらも、それを許してくれる。

 セリカがずるいですわーと言うように真央の手を握りしめた。

 それも許す真央なのだから、相当なお人好し竜族だ。


 セリカが言いにくそうに口を開く。

 ピンク色の髪が風に煽られて、セリカの少し尖った耳を刺激する。その度に無意識なのだろうか? 微妙に尖った耳がぴくぴく、動いていた。


 セリカ「誰が、凪紗南イヴ……幼女神を必要としたのですね? しかも……幼女神?」


 考え込むセリカの言葉を引き継ぐように、自国が陰謀の渦中にしばらく、あった真央が口を開く。


 真央「幼女神……将来、イヴにこの世界を管理させるってあの駄目神が言ったけど、それ、ここまでの事を仕組んでそこで終わる? あたしはね、それって――――」


 イヴ「ねぇーよ」


 真央「あたしの台詞を取るな。ラノベだったら、あたしのドヤ顔のシーンよ、そこ」


 イヴ「幼い頃からずっと、疑問に思ってきた。何故、予なのか? と。当たり前だ、これだけの才を与えられて、今日からボクは神様見習いだ! と信用するのは馬鹿げている。今も予はあれを警戒しているのだ。少女神 リンテリア? ただの地球、リンテリアを管理している神様であるはずがない。転生神 ローナと同等に話しているのが……いや、ローナの方が会話をサポートしていた事から相当、地位の高い神様。あの変態性も演技であろう」


 これがそこら辺の国民ならば、騙されただろう。しかし、予は日本の皇族であり、異世界 リンテリア クイーン王国の王族だ。帝王学として、力の運用は学んでいる。誰よりも厳しく。勇者と英雄の娘はそれ程、影響力があるのだから。


 真央「むしろ、演技であって欲しいわ。行き過ぎよ。自分がロリ体型なのに無類のロリスキーって、誰得な新ジャンル」


 るーちゃん「あれが本当の変態か、どうかは知らん。しかし、少女神という神の役職は”存在しない”。数千年、かけてやっと、調べ上げた真実。あれには本当の目的がある。誰にも知らない目的が。決して、心を許すな。神は人間を雑草程度にしか考えていない。なのに、あそこまでイヴに入れ込む自体、おかしいのじゃ」


 もしかしたら、少女神 リンテリアと敵対する未来が待っているのかもしれないと思うとぞっとした。融合魔法のほとんどは少女神 リンテリアから教えてもらった。


 リンテリア『神罰を与えるのに”一番弱い”ラグナロク。これがベストチョイスね。それ以外だと、星が一つ、大変なことになるよん』


 *


 徐々に回復し始めて、予は自分で歩くと、真央に申し出た。

 真央、セリカに大丈夫? と何度も声を掛けられた。その度に魔剣のるーちゃんが不思議な事を言う。


 るーちゃん「心配するでない。あれが作動していないのじゃ、そこまで追い詰められてはいない。あれがあるからこそ、ヴァンパイア王族は当時、最強として恐れられてきた。威厳を保て、今代のヴァンパイアの女王よ」


 そういうるーちゃんは嬉しそうだった。

 ここが地図に記されていたであろう怪しげな洞窟を先行して、捜索してくれたるーちゃんのコウモリが予達の潜んでいる木々の影に戻ってきた。直ぐさま、るーちゃんにコウモリは鳴き声で洞窟内部の様子を伝える。


 すると、すぐにるーちゃんは叫ぶ。


 るーちゃん「ルルリが若い男性に持ち上げられて、剣を突きつけられておる! 急ぐのじゃ」


 真央「中は竜が通れる程、広い?」


 るーちゃん「広いようじゃが……どうする?」


 セリカ「あのーお空は止めて欲しいのですが……」


 びくびく、全身で震えを表現するセリカ。

 あー、昔、セリカ、真央竜から落ちたんだよね。前まではジェットコースター大好きな子だったのに……それ以来、高所が。

 もう、既にセリカの眼から涙が溢れだしている。それはお城の天辺くらいの高さから落とされれば、誰だってトラウマになる……。


 予は5歳の頃……未来お姉様にお空での戦闘を想定した訓練とか、言われて軍用ヘリから落とされた。鬼だと思う……。


 真央「却下! 高速でいくわ! 竜変身!」


 真央の身体が真っ赤な光に包まれて、その光が徐々に大きさを増してゆく。

 赤い光が収まった時に……そこに在ったのは一頭の大きな紅い竜――――ルビーサラマンダードラゴンだった。

 幼竜である為、変身解除後はHP10%までに消耗するリスクはあるが、飛行機と同じくらいの速度で飛行。STRENGTH 1.5倍、SPEED 2倍、DEFENCE 1.5倍、HP 2倍になる。

 言わば、真央の奧の手だ。


 真央「さぁ、乗りなさい。そこで号泣しているハーフエルフ! もう、覚悟決めなさい。死にはしないわ。死んでもイヴが蘇生魔法で生き返してくれるわ!」


 セリカ「ふぁわい……」


 本当に号泣しているセリカを引き連れて、予は真央竜の背中に乗った。


 乗った瞬間、真央がいきなり、トップスピードで薄暗い洞窟に突入する。


 盗賊1「うわぁー、ドラゴンだぁー」


 盗賊2「くそっ、竜族! 北庄軍がクイーンに肩入れしただと!」


 盗賊3「いや、あれ、北庄真央姫様じゃねぇーか」


 盗賊4「イヴ・クイーン女王様と、セリカ・シーリング姫様がいるぞ! イヴ様の魔法で粛正される。いや、巨大な大砲かもしれないぞ。地球に到達しそうだった隕石をぶち抜いた」


 何やら、うるさい盗賊 約50人くらいいるであろう大きな空間を真央竜は遠慮することなく、轢いて回った。時間にして、わずか3秒程度。

 ある意味、彼らが思っていた以上の酷い結末だ。

 それを予想していたセリカは予の身体にぎゅっと、しがみついて眼を瞑っていた。


 セリカ「ねぇ、ねぇ、終わった! 終わったって言ってよぉおぉおおおおお! 眼が、眼がぁぁあああ」


 決して、滅びの呪文でどうにか、なった訳ではなく、ただ、眼が開けられないのだろう。いや、予も眼を閉じておくべきだっただろうか。

 死に慣れさせるという理由で未来お姉様と一緒に刑務所の死刑台見学を強制させられた数々の思い出と、時折、襲ってくる襲撃者をミンチにしちゃうアイシャとジョーカーの無慈悲な攻撃の思い出がなければ、予もこれは……と思ってしまう。

 先程まで、飲み喰いしたり、カード遊びをしていた盗賊達は残らず、ミンチになった。飛行機ほどの速度があるモノに追突すれば、そうなる。


 予は何も感想を述べずに、心理詠唱式にて、ヒール リフレッシュを予とセリカ、真央竜の分、唱えた。

 身体は清潔になったが、あの記憶は消えそうにない。慣れないものだ、人の死は。


 真央「あたしを酷いと思う?」


 セリカ&イヴ「「当然の報い」」


 真央「だよねぇー」


 地球の国民だったら、人権が! とか、この独裁者とか、色々と反発が生まれたであろう。しかし、ここは剣と魔法の中世のような考えが未だ、根付く異世界 リンテリア。そんな文化はない。どちらが悪いということではなく、ここでは、王の命が絶対だ。

 そして、この土地の王は予。イヴ・クイーンなのだから。

 ルルリを見事、救出して、この盗賊団の主 盗賊王とやらに本物の王の裁きを下す。


 予はウィンチェスター RFを構える。

 盗賊王が視界に見えた瞬間を狙い撃つ!

 構えたと同時に、洞窟内に男の酷く残酷な、それでいて何処か愉快な笑い声が鳴り響く。弱者を屈服させる獣のような声だ。


 盗賊王?「お前のママんだけどさぁー。ルルリちゃんが食べたカツサンド。あれ、ルルリママんのお肉でしたぁ! どうどう、どうどう、今、どんな気持ち? ねぇねぇ! ぎゃははははっは!」


 ルルリ「嫌、嫌ぁああああああ!」


 ルルリの悲鳴が盗賊の声に続いて響いた。

 予はウィンチェスターRFのグリップを握りしめる。あれは許してはならない。華井恵里と同等の悪鬼だ。


 真央竜で飛んでいる道もよく、見ると……様々な年頃の女性達の骸が服も着せられないまま、放置されていた。酷い匂いを放っている。


 セリカ「急ぎましょう。わたくし、あれは許せません」


 真央「間に合え!」


 真央竜はさらに速度を上げて、ルルリと盗賊王がいるであろう洞窟奥を目指して飛行する。



 視点 華井恵里

 場所 クイーン王国 イクサの森上空

 日時 2033年 4月4日 午後 6時15分


 上空にいる私に飛んできた銀龍を私は左右に手を振るだけで消滅させた。なぁに、難しいことは一切していない。あの銀龍に異物――――私のSOULをたたき込んだだけ。技のプロテクトが完全ではない技をあの土壇場で使えるのは、凪紗南未来があれを教えたのだろう。

 しかし、と私は唇を微笑みに歪める。

 黒く染めた白衣の両ポケットに両手を突っ込む。


 恵里「凪紗南流 奥義 龍葉波。雄々しい技名に比べて……この程度? やはり、あの女の体格を受け継いだいーちゃんでは……厳しいわね。邪神の力を得た盗賊王との戦いは……」


 詳しく、観察したかったが……色々、厄介な人間達がここへと目指しているらしい。好かれているようだ、いーちゃんは。

 だから、殺したい。

 あの女に似ているあれを! 最高の状態で。究極の絶望で。


 恵里「ふふっふっふ。あの出来損ない。華井恵里の血ではなく、勇者 凪紗南春明の血を選ぶと言うのか。間に合うかな?」


 さて、あの出来損ないならば、私がここにいると知れてしまう。結果を本拠地で待つとしよう。

 私は心理詠唱式で古代魔法 レアテレポートを唱えた。

 この魔法は私にしか唱えられない。行った事のある場所かつ、自分の魔力を宿したモノを設置した場所に瞬間移動できる魔法。

 エンチャントと呼ばれる魔力を他へと宿す技術を習得している者は数少ない。


 尤も、これはあの女から教わった魔法だ。それだけで屈辱的で……どうにか、なってしまいそうだ。

 私は烏色の長髪を弄りながら、その場を後にした。


 さぁ、私の出来損ないの娘 華井りりすと、あの女に似ている凪紗南イヴ。どう出逢うのかしら。

 いずれ、殺し合うのに。

 そう仕向けるのは私、華井恵里。

 悪い母親ね、本当に……。


 お姉ちゃんと闘わせるなんて。

 絶望に染まればいい。妹の手で……いーちゃん。


 恵里「憎たらしい程に愛している」






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