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創世する世界のイヴ # Genesis to the world's Eve  作者: 遍駆羽御
本編―――― 第2章 1000キュリアの祈り
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第52話 大空に舞う三日月

 第52話 大空に舞う三日月


 視点:美麗幼子

 場所:地球 旧世界 東京都 千代田区、地球 新世界 東京都 凪紗南市

 日時:2033年 4月4日 午後 5時10分



 ファクトリー地下30階、魔法水晶を引き詰めたフロアにある数台のエレベーターのうち、【第0格納庫】と記されたエレベーターに歩を進めた。

 乗り込む時にテスラがカードキーをエレベーター内、側面にある凹みに差し込んだ。

 それを受けて、エレベーターは前進する。


 ここ、ファクトリーは大変、面倒だが、研究員が所持するカードキーと、エレベーターの天井にある監視カメラの内部にある虹彩自動認識システム RIPにより、入場レベルが仕分けされている。

 具体的には、一般レベルのCランク~最重要秘密レベルのSランクまで区分けされているそうだ。守護十家はその事を警備上、知らされている。

 また、皇族の血を引く銀色の瞳を保っている者はRIPによって、カードキー無しでファクトリー内部フリーパスである。


 エレベーター内はあたし、英、らら、マリア、テスラとなかなか、大所帯になってしまったが……充分、まだ、スペースがある。

 何しろ、緊急に様々な部品をここから運び出す可能性も考慮されているからだ。あたしは腰にぶら下げた酒を手繰り寄せて、栓を開けて、一口飲んだ。


 幼子「喉が渇くぜ……」


 どうやら、緊張しているらしい。まだ、確定した未来ではないが、八咫鏡に映った重傷のイヴを見たのだから、仕方ない。

 珍しいと言いたいかのような少し、あたしの顔色を窺う左眼眼帯野郎――――我らがリーダー 雨雲英の右眼に気づく。


 幼子「何だよ、何か、言いてぇーことがあるのかよ」


 あたしは酒で濡れた口を腕で乱暴に拭う。


 それを見て、何やら、背の低い黒髪と桃色髪の頭――――ららとマリアはあたしを心配そうに見ている。この子達は雨雲家次期当主と、シーリング王国第二王女様であることから、イヴの件を聞いているのだろう。それでいて、変わらないのだから恐れ入るぜ……。イヴの時代は安泰だな、

 頼もしい。


 テスラが溜息交じりに美味だ棒 チョコレート味を囓り始める。


 英「そうですね。一言だけ」


 幼子「何だよ」


 英「イヴ様は貴女より先に死にません。安心して、酒飲み過ぎの肝硬変で転生宮に行って下さい」


 爽やかなイケメン 英がそう、あたしに言った。だけどよ、英……そいつは無理なんだなぁ、と唇を緩めた。

 天井のLEDの光を見つめて、思わず、あたしに似合わない臭い台詞を吐く。


 幼子「あのよぉ、わりぃけど、死なないよ。だって、肝硬変になっても、イヴが治してくれんだろう」


 そう言うと、すぐにテスラから、美味いだ棒 塩味を貰ったららが言葉を返す。


 らら「イヴ様、ららが凄いお熱出したら、すぐに治癒魔法で治してくれたぁー、治って良かったのだって、泣いて喜んでくれたぁー。そんでそんで、お見舞いに大剣をプレゼントしてくれたぁー」


 それ……見舞いの品にするようなもんじゃねーだろう、イヴと、何処かで無茶やっているイヴにツッコミを心の中で入れた。

 ららの父親は苦笑しつつ、ららの言葉に追加情報を加える。


 英「去年の夏、日本全国で児童ポルノ違反者が増加したことがあったんですよ。原因は……インターネット上にアップされた獣人族の女児の違法ポルノ映像が一部マニアで人気になってしまったことにありました。獣人族とアリス族のハーフであるららの身を案じて、イヴ様がお見舞い品として、ららに与えたんですよ。相当な名のある大剣ですよ、しかも軽いです」


 幼子「ああ、お前が言うなら、相当なのだろうなぁ」


 らら「イヴ様、大剣でいたずらしようとしてくる人間がいたら、迷い無く、首ちょんぱにしなさいってお目々が怖かったぁー。でも、でも、未来様が半殺しにしなさいって言ってたぁー。いけんのそうい? って言うんだぁ」


 マリア「まぁ、まぁ、わたくしの場合、そのような方には止めるようにお説教しなさいってお姉様が言ってましたわ。めっ! って言えば、きっと、解ってくださいますわ」


 マリアがテスラから貰った美味いだ棒 みそ味を振り振りしながら、和やかに応えた。この子の周囲だけ、空気が聖なる気に満ちている気がする。


 幼子「眩しいや……」


 *


 エレベーターがゆっくりとスピードを緩めて、停止した。


 扉が開き、第0格納庫が姿を現す。

 そこは広い空間だった。


 その空間に最新鋭機 三日月みかづきが中央に待機していた。三日月はファクトリーの資料を先程、見た限りでは輸送戦闘機というジャンルの迷彩柄の機体のようだ。戦闘機自体、もう廃れていて、要人暗殺にはドローン等の人の乗車しない超小型ヘリが使われる。こいつはイヴの処に1日10機以上は飛行してきている。全部、イヴの周囲の人間が撃破しているが……まっ、ちょっと邪魔くさい小石のようなモノだ。ならば、軍事拠点の攻撃はどうか、というと……ディメンションモンスター 通称 ディスターと呼ばれる明らかに人型の機械兵なのだが、人工知能ではなく、人間が搭乗している。自動式戦闘機、または、ミサイルでの攻撃となるが……こちらは基地の迎撃システムに破壊される可能性が高い。

 以上の理由から、1人~2人が乗る戦闘機は旧物の品となり、今では戦闘機といえば、輸送戦闘機が一般だろう。


 三日月の背後の大きな扉が上に自動的に開いて、短髪黒髪の少年 ガッツと日本軍で呼ばれている秋島大介と、兄 大介と同じ長身の黒髪おかっぱ少女 秋島縁が姿を現した。共に迷彩服を着ている。

 ガッツはよく分からないが……ご飯を手に持っている。ほかほかなのか? 美味そうな湯気が上がっていた。


 大介「こんにちはっす! 美麗さん。これから、イヴ皇女様を”米”で助けるサーガが始まるんですね! いやぁー、燃えてくるぜぇえええええ! 熱くなれよぉ!」


 英「………」


 ガッツの熱い叫びに比べて、英の表情が冷たく固まってゆく……。

 こんなパパ見たことがないと言うようにららが固まっている。

 ああ、巫山戯てるなぁーって認識されたんだなぁ。こいつ、素なんだよ、と言うべく、英の肩を掴もうとしたが……空を掴んだ。


 英が大介の前に立ち、手をさっと差し出す。

 目は笑っていないが、表情は爽やかだ。


 英「僕はイヴ様を護る守護十家のうち一家 雨雲英。よろしく、学生君」


 大介「ああ、よろしくっす。”米”でイヴ皇女様を元気に――――」


 と、ガッツが米のみの入った弁当箱を置こうとするが、その弁当箱を英が振り払った。


 美味そうな米が床に散らばった。弁当箱が欠けて、地面に転がっている……。


 英「舐めているのかい? イヴ様の命は米で救われる程、安いもんじゃない。覚えておくことです、学生君。ここは貴方の知る平和な日本ではないのですよ。未だ、第3次世界大戦の余波が残る危ない時代です。わきまえて行動しなさい」


 それをガッツは聞いていない。ただ、「俺の米が……自慢の俺の米が……」と呟いている。こいつは本気で米を食べれば、世界は救われると思い込んでいる可哀想な熱血野郎なのだ。今も悲しんでいるのではなく、この熱血漫画にありそうな自己否定からのさらなる飛躍というのを頭に思い描いて次の行動を吟味していることだろう、米しか入っていない頭で。


 次に英が縁の前へ立って、すっと、手を差し出した。

 こちらはスムーズに握手する。

 どうやら、変人の感覚は通用しないと、先程のやりとりで学習したのだろう。


 縁「あ、秋島縁特別技能小隊員です! 秋島大介特別技能小隊員の妹です。よろしくです!」


 英「ああ、よろしく。君もわきまえておくことです。学生の職業訓練ではありません。これから行く場所は人が簡単に死ぬ場所。迂闊ですと死にますよ」


 幼子「あー、感じ悪くなっちまった。あ? テスラ?」


 やはり、思った通り、テスラは研究員特有の冷静さでそれよりも、器具のチェックをしなきゃと、除細動器、輸液ポンプ、人工呼吸器、生体情報監視装置、電気メス、CT装置・MRI装置等の医療器具を指差し確認した後、実際に作動させていた。

 テスラ・リメンバー、こいつにできないことはないだろう。


 それでも、医療の腕はあたしの方が上だ。それが美麗のお家芸だからな。


 テスラ「医療器具はちゃんと積まれている。三日月を空中凪紗南市ワールドゲートから突入させて、異世界 リンテリアのクイーン王国 ナナクサ村付近に着陸させる。それから、そこをイヴの治療施設にする。三日月内に待機するのは……私 テスラ・リメンバー、らら、マリア、パイロットの大介、サブパイロットの縁だ」


 幼子「まぁ、あたしは英と一緒にイヴ達を引き連れに行けば良いんだな」


 テスラ「時間が合えば、腕時計型携帯電話をしていない事からまだ、何も状況を知らない未来様と、未来様が脅し……もとい、迎えに行ったりりす第二皇女様と合流できるでしょう」


 幼子「そいつは心強いなぁ、未来がいれば大抵の事は大丈夫だぜ、機械兵でも、ミサイルでも、ガーゴイルでも、ドラゴンでも、何でも来やがれ!」


 らら、マリアと手を繋いで、三日月内に入る。


 中には、集中治療室があり、その奥の部屋に通常のジャンボ飛行機と同じく、席が並んでいた。冷蔵庫があり、そこに食材が管理されている。

 床下の扉を開ければ、そこにはサバイバル用品や非常食、土木用具が入っていることだろう。


 英「その方達にはご遠慮願いたいですね」


 英も三日月内に入り、イヴが眠るであろう集中治療室用の寝台をちらっと見た後、英には似合わない殺気に満ちた低い声を発する。


 英「ですが……僕の親友の忘れ形見、イヴ様を救う邪魔をする輩は斬り捨てます」


 *


 全体が席について、迷彩色のベルトを締める。


 英は人気アーティスト Garden of the GodsのLilithの写真を眺めている。

 これはジョーカーがりりすの監視の時に盗み撮りしたモノだ。


 銀色の両眼、長い黒髪が特徴的な少女 華井りりすが黒猫 リルの頭部を左手で撫でつつ、無表情でカルボナーラをフォーク先でくるくる巻いていた。

 写真が撮られた場所はペットOKの東京都 第一地下都市 大和 商業区にあるレストラン トレンディーというリーズナブルなお店の個室だ。


 幼子「嬉しそうだな、英」


 英「解りますか?」


 幼子「ああ」


 英「春の子ども イヴ様とりりす様が闘わずに済むのですよ。喜ばしい」


 テスラ「りりすって子が妹だって知ったら、どうなるかしら?」


 らら「イヴ様、りりす様をきっと、毎日抱っこするぅー。ららが小さな時もそうだったぁー」


 口の周囲に美味いだ棒の粉をくっつけたららが微笑む。歯にも粉がついていた。

 英が優しく、ららの口の周囲を拭く。


 マリア「あら、わたくしもですわ。お姉様と代わりばんこに抱っこさせられていましたわ。古き良き時代でした」


 美味いだ棒の粉がくっついた唇を高級そうな花柄ハンカチでゆっくりと拭きながら、マリアが嬉しそうに言った。


 幼子「あり得そうだな」


 英「ええ、確実でしょう」


 大介「んじゃあ、皆さん、発進準備を始めますよ!」


 操縦室はロックの掛かった扉の向こう側にあり、ガッツの声が聞こえてきたのは天井のスピーカーからだった。


 英「頼みます」


 と、一言、短く英は応えた。

 未だ、米発言が尾を引いているようだ。仕方ない、ケモノ耳にしか性的興奮を覚えない真面目男だからな。


 幼子「例え、世界天秤条約を破っても……イヴは助ける。あいつは近寄りがたいあたしに気さくに話してくれて仲間のありがたみを教えてくれた。そんな良い奴が死んでいいはずがねぇ」


 今でも思い出す3歳のイヴの言葉。


 いーちゃん『お酒、飲んでる幼子って格好いい! なんか、大人なのだぁ』


 だから、あたしは”過去、飲めなかった酒”を飲み続ける。いつの間にか、”酒が大好きになっちぃまったが”……。


 *


 そして……戦闘輸送機 三日月は動き出す。

 第0格納庫がエレベーターのように部屋事、移動する。

 移動した先は、人工に作られた山 陽の国山。

 その山の開けた場所に隠れていた滑走路が偽装していた草原とカードを引っ繰り返したように場所を変わった。


 第0格納庫の扉が開かれ、日の光が常識外れの巨大な戦闘輸送機 三日月の機体を輝かせる。

 翼の背面に装備されたそれぞれ二機ずつのファクトリー製の世界には存在しないはずのバーストテクニカルエンジンが火を噴く。その方向性のある力の陽炎が飛行の自由を与える。

 今、その力が静かに解放された。


 大空をスピードスケートの選手の如く、駆け抜けてゆく。


 凪紗南市上空に存在する巨大な門。

 その門には凱旋門と呼ばれる類いの門でデザインは両世界共通。


 門の柱には英雄の娘、両世界の絆の象徴である予を表す蒼薔薇達が彫られていた。門上部には右側に勇者 凪紗南春明、左側にリン・クイーンが彫られてあり、その2人が手と手を取り合っていた。

 その門――――空中凪紗南市ワールドゲートを三日月は地球最速の速度で潜り抜けてゆく。


 それは一閃の昇り龍のようだった。





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