第51話 2017年から来た少年
第51話 2017年から来た少年
視点:秋島大介
場所:地球 旧世界 東京都 千代田区、地球 新世界 東京都 凪紗南市
日時:2033年 4月4日 午後 4時55分
俺はこのくそったれな世界から抜け出したい。
訳が分からなかった。
半年前の俺の世界で言うところの2017年 8月11日のことだった……。
視点 秋島大介
場所 地球 北海道 夕張市
日時 2017年 8月11日 午後 3時20分
俺 秋島大介は期末テストも全て、結果が返ってきて、黒髪おかっぱ頭がチャーミングポイントの長身の妹 秋島縁が日頃から家事をやってくれている事に感謝を示すべく、何処へ連れて行けば良いだろうか……と頭を悩ましつつ、自転車を漕いでいた。
坂道をトップスピードで駆け抜けることの快感は忘れられない!
大介「しゃほぉおおおおお!」
縁「こら、兄貴! もっと、スピードを出しなさい! まだ、行けるはずよ。熱血よ、熱血! 心の師匠 シュウゾウさんみたいにもっと、熱くなりなさい!」
荷台に横向きに座り、俺の肩をぎゅっと、掴んでいる縁がそう、俺の心に入魂の言葉を与えてくれた。
俺達 秋島家の人間にだけある熱血器官 ブレイブフォース(※ そう思っているのは……秋島大介と秋島縁だけです。)が目覚めて、俺の心臓の鼓動のビートを熱く刻んでゆく。俺の熱さは朝、食べてきた納豆ご飯 5杯、ちょっと焦げた卵焼き、塩分濃度がハードに設定された味噌汁と昼、やはり、ちょっと焦げている焼き肉入りお握り 5つが根源だ。今日は米が多めにエネルギーとして供給されているからだろうペダルがいつもより、軽い。息切れは少なく、このまま、何処まででも、突っ切ってシュウゾウさんファンの聖地 ウィンブルドンまで行けそうだ。
縁「この速さ、この熱さ、尋常じゃないね、兄貴。このまま、ウィンブルドンまで行けそうだね!」
大介「おう、縁もそう思っていたか! しかしな、縁よ」
縁「うん、兄貴……」
俺達は共に息を吸い込んだ。
吸い込んだ空気は北海道の澄んだ空気を大いに含んでいて大変に美味しい。俺と妹は地元愛に溢れている。北海道が女だったら、俺は北海道と何度も寝ていることであろう。無論、妹も北海道が可愛い女の子だったら……と考えているはずだ。
吸い込んだ空気を全て、使い、青春の咆哮を放つ。
大介&縁「「ウィンブルドンには米がないんだぁああああああああ! 1日たりとも暮らせない!」」
そう、懸命な読者諸君ならば、気づいたことだろう。俺と妹は米を熱血器官 ブレイブフォース(何度も言うようですが……そう思っているのは……以下略)のエネルギー源とは優秀だと評価しており、それがなくては俺と妹は生きられないだろうと、心が死んでしまうだろうと確信している。
しかし……
大介「海外に旅行に、熱血旅行に行きたい。ウィンブルドンは無理でも……米、それも純粋な日本米、日本人が製造したのさえ、あれば……俺は海外に熱血旅行できると言うのに!」
俺と妹は米を食べないと身体の調子が悪くなる身体的欠陥を保っている。
きっと、米が他の食品に、特にパンに嫉妬しているのだろう。俺と妹は米の気持ちは理解している。だからこそ、絶体にパンに浮気はしない。
さすが、北海道。土地が広く、冬は寒さが厳しい為、あまり人口が多くない。おかげで、俺はノーヘルメットで悠々と熱く、ペダルを漕いでいる。汗が流れてきた。こんなにも涼しい北海道の夏なのに……。
縁「兄貴! いつもよりも速いよ。このままいけば、夕張市中心に建っているスーパー ベアリスへの到達時間更新……あ、ごめん……兄貴」
大介「良い。ベアリスは俺の心の中に生きている……あいつは最期まで米を愛して死んでいった。いつか、日本の米の聖地 秋田県で米を作るんだって意気込んでいたなぁ!」
ベアリスの名がベアリスの父親 冬至さんが新しく始めた飲食関係のスーパー名に採用された日、確かに俺は冬至さんを殴った。
大介『あんた、それでも父親か。ベアリスはあんたの会社を継ぎたかったんじゃない。米を作りたかったんだ……あんたは死んでも尚、あいつを操り人形にする気か!』
冬至『違う……坊主。ベアリスは米を中心にしたスーパーだ。せめて、あいつの名だけでも米関係の仕事に……』
そこに、俺は無限の父親の愛を感じた。俺が感じたことのない父親の愛を……。
負けたぜ、愛情の熱に俺の独り善がりの心は溶かされた。
だから、今は笑って言える。
大介「白血病でベアリスは死んじまったけど。俺達の心に生きている。だからよ、妹、高校卒業したら、大学で俺、農業を学んでスーパー ベアリスに俺の米を並べてやるんだ。どうだ、ベアリスってな!」
車道に行き交うトラックの走行音と、妹の啜り泣く声が聞こえた。それをしばしのBGMに俺は自転車をかっ飛ばす。
俺達兄妹は自衛隊の父親と同じく、自衛隊の母親の間に産まれた。半年前に絶体、大介のお嫁さんね、と絶賛していたベアリスの死を追うように……両親は揃って戦死した。尖閣諸島に近づいた中国機 5機に警告を与えるべく、俺達の両親を含める自衛隊員 10名は戦闘機に飛び乗り、スクランブル発進した。
そして……両親を含める自衛隊員 10名は返らぬ……人となり、俺達が手にしたのは父親の右手とそこに填まっていた結婚指輪、そして……中国政府と日本政府から支払われた見舞金 1億2000万円だった。
かっ飛ばしている間は、それらの不幸を忘れそうな気がした。生来、俺はスピード狂だ。自転車とは思えないスピードでJRの踏み切りを越えて、そのまま……スピードを落とさずにカーブを曲がる。
初めはヤバイ、曲がれないなんて事もあったが1年経ち、高校2年生ともなれば……慣れたもので全く、危なげの無い曲線を前輪、後輪、共に描いてゆく。
きっと、こんな風に滞りなく、人生の時間は流れて終わるのだろう。
そこに不思議はなく、世界というシステムは俺を、俺達を決して特別にはしない。
いつものようにトンネルを潜る。
最近のトンネルは明るく、なって――――
大介「い、いや……明るすぎる!」
冷たい。
雪が降っているのか……。
縁「あ、兄貴。夏だったのに……雪に……しかも、テントが設営されて、ぐ、軍事、自衛隊ぃいいいい!」
なんだ……。
何がどうなっていると思い、俺は自転車を止めて、トンネル入り口があるはずの場所を振り向き、確認する。
そこにはトンネルなんてない。
高そうなお洒落着物を着た銀色の髪をツインテールに整えた少女が立っていた。驚いたことに日本刀を帯刀している……。
背は中学生くらいだろうか、平坦な胸からしてやはり、中学生だろう。
自衛隊?「未来天皇代理様に近づくな。怪しい学生め!」
鳥羽学園の制服である白いブレザーを着ていた為、俺と妹が学生だと解ったらしいが……いきなり、現れたのが悪かった。いや、俺と妹はこんなところに現れたくて現れたわけではないのだが……自衛隊らしき? 迷彩服を着た強面のおっさん達が俺と妹に向けてライフルの銃口を一斉に向けてくる。
それに対して、銀色の髪の少女――――未来天皇代理様が不適に微笑む。
未来天皇代理様「異邦人だ。心配ない。そこでしばし、じっとしていろ、”桜花学園”の学生」
大介「ち、違う、俺達は!」
俺がその学園の生徒ではないと否定しようと口を開く。
しかし、開けなかった。
いつの間にか、喉元に日本刀が突きつけられていた。
日本刀を抜いた未来天皇代理様の銀色の鋭い瞳が物言わずに……邪魔だ、黙ってろ、と言っていた。
鞘に日本刀を納刀して、未来天皇代理様は隣にいた水色のセミロングの少女と話し始める。少女は白衣を着ていることから、何かの研究員らしい。
俺達は黙ってろ命令が出されているので……頭の中はかなり、混乱しているが……黙っているしかなかった。
未来天皇代理様「ネームレスキャノンを真央の奴に装着させろ。大丈夫、あいつは今回の作戦に怯えを見せん。むしろ、これで大学までの費用が貯まると巫山戯た事を抜かしている……」
水色髪の研究員「一回が限度。どう見ても、イヴの神様魔力全開をそれ以上、受けられない。ニコラ・テスラ時代を含めての最高傑作 ネームレスキャノンも神の力にはお手上げ」
水色髪の研究員はテスラという名前のようだ。
あれ? でも、テスラと言えば……ニコラ・テスラ? なんか、発明した科学者の……。
俺の頭の悪さではそれが限界だった。妹も俺と似たような頭の悪さなので聞かない。
未来天皇代理様「いいじゃないか。地力が高い皇女は凪紗南天皇家にとって、むしろ、心強い」
テスラ「んじゃあ、”セイブ クイーン 試作武装 ネームレスキャノン”とイヴ皇女様を軸とした隕石破壊ミッション開始ね」
未来天皇代理様「”セイブ クイーン”本体が完成していれば、イヴ皇女一人で宇宙空間から狙撃できたのだがな……詮無いことか。テスラ、邪魔をしようとしている国は……」
テスラ「居ないわ。地球が無くなったら、誰もが困る。……というより、イヴ皇女様の底力を計りたいから……」
突然、テントの外にあった腕時計から声と同時に空中に姿が映し出される。
銀色の長い髪に金と銀のオッドアイの小学生女児が巨大な紅い竜に乗っている。竜の背には巨大な大砲が装着されていた。
尊大な声の少女『位置に着いたのだ! ネームレスキャノン、正常に魔力充填……魔力漏れ無し。予がラグナロクを――――』
未来天皇代理様「大陸が蒸発する魔法だろう。オーバーキルも良いところだ。お前が世界の危険因子と認識される可能性がある。以後も、それは隠せ、皇女」
ツンデレみたいな声の紅い竜『イヴ! あたしの大学の費用の為に特大隕石を流星に変えてやるわ! 2000万円。やってやるわ!』
竜が喋った、と言いたかったが……今、喋ったら……日本刀で斬殺されそうだ。必死に俺と妹は口を押さえた。
妹よ、何故、俺の掌で押さえる……。
未来天皇代理様「真央、竜族の姫としても、イヴの婚約者としても、品がない。後で指導する」
え? あの紅い竜と結婚するの? サイズが違いすぎるだろうと言いそうになったが口はチャックだ。
ツンデレみたいな声の紅い竜『は、はい……はしゃぎすぎましたぁ』
未来天皇代理様「では、地球を頼むイヴ、真央」
やっと名前が覚えられたイヴ&真央『『はい!』
銀の少女と紅い竜の姿は消えて、吹雪が激しく、視界がゼロに近い中空へと……イヴと呼ばれていた銀色の少女が紅い竜 真央に跨がり、飛んでいた。
大介「竜が……」
縁「空を飛んでるよ?」
少女と竜は遙か、高みへと飛んでゆく。
3分も経たない時間で姿が見えなくなった……。
間違いなく、ここはラノベでありがちな異世界だ。しかも、少しの違いこそはあれ、ここは地球のようだ。
しかし、ファンタジー要素有りの。
つまり、俺と妹は異世界に来てしまった?
未来天皇代理様「さて、ようこそ、異邦人。今日は世界が救われる日だ、まずは隕石撤去祝いの照り焼きバーガーパーティーに参加してくれ。そこで色々、異世界 地球について教えよう」
大介「ちょ、ちょっと、待て、そこは米だろう。勝利の味と言ったら米だ、日本人は米だ」
そこだけは譲れない俺は未来天皇代理様に抗議した。
テスラは溜息を吐いた後、「……空間の移動で頭のネジが」と失礼な事を考察し始めている。俺の米への純愛はホンモノだ。
未来天皇代理様「そこなのか……。しかし、イヴ皇女が好きなのでな、照り焼きバーガーが。特にマクドファルドの」
マクドファルド? 米にとっては黒船みたいな存在だ。
俺は未来天皇代理様とイヴ皇女様が偉い、尊い方だと忘れてつい、言ってしまった。
大介「皇女とあろう者がちっ」
舌打ちした瞬間、あ……これ、まずいなと思ったが、口が止まらない。
大介&縁「「売国奴めっ」」
妹よ、お前もかぁああああ! と感想と共に近くの自衛隊?(後で解ったが日本軍)に連行されて、俺と妹は異世界 地球初日 拘置所で過ごすことになった。
よりにもよって、夕食は高い松阪牛を使った照り焼きバーガーだった……。
この日、2032年 10月28日 無数の流星が夜空を彩った。
英雄の娘 凪紗南イヴが英雄と同じく、地球を救った日だった。
あの時は……俺と妹が何でこんなくそったれな世界に来たのか? 解らなかった。数々のトレーニングや任務を熟し、そして、悟った。
視点 秋島大介
場所 地球 旧世界 東京都 千代田区、地球 新世界 東京都 凪紗南市
日時 2033年 4月4日 午後 4時55分
俺は妹にほくほくのご飯の入った熱保存できる弁当箱を手渡した。
ファクトリーのエレベーター内に緊張が走る。
俺は妹に向かって、にやりと微笑んだ。
研究した。
研究したさ。
俺達がこの世界から、元の世界に帰還する為に!
大介「最高の米を用意した」
縁「さすがだよ、兄貴!」
大介「きっと、俺達は米の神様によってこの俺達とは異なる地球に召喚されたんだ」
縁「うん、私もそう思う。それしかないよね!」
大介「照り焼きバーガー好きの皇女を米好きにしろ、という天より与えられた使命を果たせば――――」
縁「――――帰れる」
エレベーターの扉が開く。
さぁ、行くぞ。
イヴ皇女様を救いに……。
超高速武装輸送機 三日月パイロットの、米の伝道者の俺 秋島大介がいなければ、このミッションは始まらない。
イヴ皇女様の命は俺の米への情熱が左右する。
大介「大丈夫、俺の米への愛は無限だぜ」




