第47話 誰もが生きている歪な世界で。
第47話 誰もが生きている歪な世界で。
視点:レイ・リク
場所:クイーン王国 イクサの森
日時:2033年 4月4日 午後 5時27分
単純な盗賊共が俺を追いかけてくる。
クイーン王国の分家筋 リク家の当主とはいえ、クイーン王国 女王や竜族の治める国 北庄 第1王女、エルフの治める国 シーリング 第1王女の方が圧倒的に地位が高い。
人質としての利用価値、女性としての利用価値……その他、諸々の事柄を考えれば、確実に……と思考して溜息を吐く。
レイ「俺はいまいち、妹君の役には立てないなぁ。マリアエルフ第二王女様が日曜朝に毎日、欠かさず、見ている格好いいヒーローモノのブラックにはなれないらしい」
毎日、リク家の屋敷の庭で身体を鍛えている成果か、全く、息切れ無く、足を前へと動かせている。
さすがに野山を走るのは、数年前に卒業していた為、落ちている枝や石ころに足を取られないように進んでゆく。
盗賊9「待ちやがれ! 蒼髪のキザ男」
心外だな、俺はキザではなく、自分の身だしなみをビジネスに有利なように常にアップデートしているだけだ。やれやれ、女性をレイプすることしか考えられない無粋な輩には知的フィールドは理解できないらしい。
レイ「妹君の国にこのような輩が侵入しているとは……やれやれ、何処にでも毒団子が必要な虫がいるモノだ。世界天秤条約がなければ、無骨な殺虫剤を仕入れたいものだ」
さしずめ、可能であれば、日本軍最強の機械兵、凪紗南未来天皇代理様の右腕と左腕 双子の機械兵 ディオスちゃんとアトラちゃんを招集したいものだ。未来様の事だ。喜んでディオスちゃんとアトラちゃんを行かせるであろう。
レイ「まぁ、それは無理だ。実際、機械兵は全て禁止され、あらゆる国で保有することはできないとされている」
盗賊の一人が痺れを切らしたようで、地魔法 ロックボール――――石の塊をプロの野球選手並みの豪速球で投げてきた。
これでも、昔、妹君とセリカ様を含める貴族連中で勇者様がこの世界に伝えてくれた野球をして、妹君のコントロール不能な速球を身体で受け止めて死にかけた身。いや、妹君が治癒魔法をかけてくれなければ、死んでいた。
その体験があり、俺は野球のボールを回避するだけの特訓をした時期もある。あの頃は若かった。そんなことして、何になるのか? 野球は打て、投げて、取って、走って、のスポーツである。無論、回避は含まれていない。
レイ「役に立つものだ」
と、私は妹君の――――
イヴ『よし、イ〇ロー選手に教えてもらった予のスペシャルボールを魅せてやるのだ! 神化』
――――神の力を利用した文字通り、神速のボールの恐怖を思い出して、俺は石の塊が通過する場所を避けて走った。
レイ「どんなに早いボールでも単調な線を描いていれば、回避可能だ。これでも球技系は得意でね! 妹君とスポーツするのは! 命懸けなんだよ!」
正しく、魂の底から俺の青年の主張。
妹君は尊大な口調なのに、それに反して、誰にでも優しく、スポーツでも真剣にルールを守ってやるが……俺とスポーツをする時には甘え? もあるのか、それ禁止だろうという神の力を使ってくる。さらに脳内処理速度を上げて、疑似未来予知が可能な金色の左眼――――魔王の魔眼まで使用する徹底的な負けず嫌いを示す。
盗賊10「嘘つくな! あんな細い腕、細い足であんたみたいな鍛えている男と対等に戦えるわけないだろう!」
盗賊9「おいおい、余裕だな、優男。喋りながら」
レイ「なぁ、お前達はどんな理由で妹君の国民の命を奪う?」
これから殺す者のそうせねば、ならなくなった発端をふと、聞いてみたくなった。聞いたところでこんなの大抵は虚しくなるだけだ。
きっと、どうにもならない理由だろう。
世界にはそんな理由で恨み、恨まれが多く内在している。俺の商売だっていちゃもんをつけてくる者もいる。
盗賊10「俺の母親が謎の病気で死んだ。……その後、医者になるんだって勉強して日本に異世界留学した。クイーン王国のまだ、7歳だったイヴ様が立法してくれた異世界留学奨学金制度を利用した。俺は感謝したイヴ様に。ようやく、あの時、母親の手を握り、助かる! と嘘を吐くことしかできなかった……俺が、俺が!」
盗賊9「マーティー……」
レイ「………」
気づけば、俺と盗賊達は対峙していた。しかし、武器をすぐに振り上げることはできなかった。俺は敵に同情してしまったのだ。未来天皇代理様に言われた事を思い出す。
未来『戦場では決して敵に戦う理由なんぞ、聞くな。得てして、私達と色の異なる正義をそいつも胸に秘めている。命の取り合いはレイ、究極的な宗教観の違いだ。そこに和解はない……。私は戦場で友人を殺した。ドイツのスパイだった。友人だから、聞いてしまった。何故、日本を裏切ると……ああ、ろくでもない。弟の病気を治してくれる軍医がドイツにいるから、そのお金もドイツが工面してくれる。友人の弟は手術しなければ、確実に死ぬ状況だった。……結局、姉も、弟も、死んだよ。なぁ、ろくでもないだろう、レイ』
レイ「……ほんとうだな、未来様。くそたれだ……」
そう俺は呟いた。
きっと、人間として正しい心を保っていたが故に狂ったのだろう、ここの盗賊達は。
しかし、容認できない。
周囲を見てみろ、女の死体がそこら中に散らばっている。
危険種動物が食い散らかしたような肉片になってしまった……年齢が解らないが、性器だけは残されていて女性だと解る死体。
右腕のない小学生くらいのエルフの少女の死体。
両足のない高校生くらいのアリス族の少女の死体。
頭のない竜族の40代くらいの女性の死体。
………数え切れない。
………数えたくないが俺の本心か。
盗賊10「留学の初日に書かされたよ、異世界留学規約書を。地球の中世レベル以上の知識は俺らの世界 リンテリアに流出させるな。させたら……懲罰部隊が全てを隠蔽するって。ああ、理解した。なんで、リンテリアからの交流が制限された留学と、ただの観光に案内人なんていう人間がつくのか……あれは親切でやってくるんじゃない。俺らを檻から逃さない為の監視だ! 何故、勇者は……」
レイ「勇者様とリン様は決断したんだ。地球の監視の中、俺達のリンテリア世界を存続させることを。そうしなければ、リンテリア世界は……地球の植民地になっていただろう」
盗賊10「解ってんだよ! 解ってんだよ……ちょっと、知識のある人間なら誰でも辛うじて、地球の植民地化を逃れているんだって状況自体。……世界天秤条約とその規約書のせいで俺は結局、日本で4年間、習った知識を故郷でいかせられない。文明が混乱するから、いや、違う! 事はもっと、複雑なんだ! でも、そんなの関係ないだろう、目の前でマラリアに罹って死んでゆく子ども達を見て、助かる方法を知っているのに俺はできなかった……ちくしょう。そんな俺を尻目に……」
妹君はそう考えると、罪深い存在なのかもしれない。
彼の正義はイレギュラーな妹君により――――
盗賊10「一瞬だったよ。高熱で苦しんで嘔吐までしていた子ども達が治癒魔法で治った。ああ、神様……ありがとうございます、と祈りもした……けど、医者である俺は!」
盗賊10は曇り空に挑むかのように「あああああぁあああああ!」と絶望の叫びを上げる。
盗賊10「自分の力で助けたかった。イヴ様がいなければ、病院のベッドに60人の子ども達の冷たい身体が……。ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、俺は……イヴ様を、世界を憎む! この世界を力ある者とない者に選別した世界を……」
そう言って力なく、座り込む盗賊10の姿を見て……俺は武器である伸縮の杖をその場に投げた。
からん、と伸縮の杖は地面に転がる。
困惑する盗賊9の横を通り過ぎて、俺は盗賊10の肩に優しく片手で触れた。
見上げる鼻水を垂らして、涙を流す青年 盗賊10に俺はただ、ただ、残念な気分で、酷い二日酔いになったような気分で、しかし、言わなければ、と言葉を発した。
レイ「残念だ。お前らがこんなことをしなければ、お前はいつか、来る聖戦の仲間として共に闘っていただろうに」
盗賊10「聖戦?」
盗賊9「……聖戦?」
レイ「どうせ、お前達の人生はここで終わる。妹君は裏で、ファクトリーで自分の戦力を増強させている。あれでも優しい言葉だけの皇女様じゃない未来様に育てられた銀色の獅子だ。さらにポーションで両世界の支配層を間接的に脅している。HP 0になれば、心臓麻痺で死ぬ。以前はその原因が分からないから、自然の摂理だと割り切っていたんだろうな」
盗賊9「……ああ、俺達は」
盗賊10「……なんて、ことを」
レイ「ポーションを創れるのは妹君だけ。命を握られた人間は渋々、そいつに従うしかない。さらにポーションやステータスカード、英雄の娘という自分の価値を筆頭にして掴んだ世界一の金持ちの力を奉仕活動に向けて、両世界の住人達の人気を得ている。たいしたものだ」
盗賊10「……入りたかったな……聖戦の仲間に」
盗賊9「………俺も、入りたかった。かつてない英雄の闘いを傍で見たかった。勇者 凪紗南春明の娘 イヴ様の闘いを」
レイ「お前らが気づいた通り、妹君は必ず、両世界の民の為にこの矛盾した世界を変える為に動くだろう。本人はまだ、意識していない」
あまりのスケールの大きさに口を開けたまま、座り込む盗賊10と、茫然としている盗賊9を尻目に俺はスーツのポケットから止めたはずの……長年の恋しさのあまり、取って置いた缶から煙草を引き抜き、指先に灯した炎魔法 ファイア――――火だねで煙草に火をつける。
レイ「だが、意識せざるを得ないだろう。妹君の口癖の優しい世界を創る為にはな。未来様は将来、妹君と妹君の妹君の二人を主力にした神様さえ滅ぼす布陣を考えている。少女神 リンテリアは何というか、わからんが……あの方は妹君が成長することを望んでいる。戦闘訓練を喜んで観戦していたしな」
火の灯った煙草を加える。
自分達の頭では想像できない世界の話をされて、こんがらがっているのだろう盗賊の2人の顔は真っ青になっていた。
ふぅーと息を吐く。
白い煙が中空に広がった。
レイ「美味く感じない……」
盗賊9「何故……」
盗賊10「俺達に話した……」
レイ「お前らにより絶望して死んでもらいたからだ。見ろ……」
と、俺は首を振る。
少女達の、女性達の、死体の散らばる場所に……。
レイ「あの子達はお前らの絶望の八つ当たりで死んだ。さて……」
もはや、闘う意欲のなくなった盗賊2人に背を向けて、地面に転がしていた伸縮の杖を手に取ろうとした。
それを待たずに――――
盗賊9「うっ……」
盗賊10「あっ……痛………あ……」
――――と低い何かを我慢しているような呻き声が聞こえた。それは男性の声。それが誰なのか、俺は知っている。
自分の槍に心臓を貫かれて……盗賊 2人は絶命していた。
何かに絶望して、そして、何かに憧れて、そんな相反する表情をまぜこぜにしたとても、人間らしい表情を浮かべたまま、死んでいる……。
俺は缶から煙草を取り出すと、盗賊 2人の唇を無理矢理開けて、煙草を無理矢理加えさせた。
レイ「悪いな、火は……」
指先に炎の魔法――――ファイアを宿らせて、煙草に火をつけ、吸った。
肺に胸くそ悪さが広がった。
俺はこんな健康に悪そうなモノを何年も吸っていたのか……。
レイ「火は転生宮でもらってくれ」
そう、盗賊 2人に言葉を残して、俺は自分の走ってきた方向へと引き返す。
世界は理不尽に満ちている。
その理不尽に二人は飲み込まれた。
さぁ、一番の世界の理不尽である妹君の顔を拝みにいこう。
……
………
……………
セリカから電話を受けて、俺はセリカの知り合いの風 凛菜ちゃんの案内を受けて、妹君達と合流を果たす。
イヴ「息が臭いのだ。レイお兄様、ボクとの約束を破った」
銀色の髪と、貧乳、低身長、三種の神器が揃った俺の従妹――――妹君が頬をわざとらしく、膨らませて俺を責め立てた。
レイ「……煙草、全部、捨てよ……」




