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創世する世界のイヴ # Genesis to the world's Eve  作者: 遍駆羽御
本編―――― 第2章 1000キュリアの祈り
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第44話 魂のしらべ

 第44話 魂のしらべ


 視点:凪紗南イヴ

 場所:クイーン王国 イクサの森

 日時:2033年 4月4日 午後 5時15分


 安らかに眠る盗賊3を9人の盗賊達が神妙な顔で見つめている。まるで良い死に方をしやがって、と視線で語るように。

 予は草むらに隠れている女性の腕をその盗賊3の安らかな顔と見比べる。

 もう少し惨たらしく殺害することにより、罰とすべきだったのでは? と考えが浮かぶが……


 リン『いーちゃんは人に優しくすれば、世界はハッピーになります』

 という過去の残滓が予の苦悩を和らげる。


 深淵の刀を握る圧力を落とす。力むのは、対象物に白刃が触れる刹那、振り上げの速度と共に……そんな基本を予は忘れていた。


 女性の腕から、すっと、拳くらいの塊が現れる。魂のしらべだ。死んだ約1時間後に身体から、それはもう……お前は死んだと言うように生前の身体から追い出される。このしらべを目視で確認したり、触れるのは、魂のしらべの運び屋たる妖精族か、神様、神族辺りだろう。予はこのうちの神様にあたるので当然、目視、または触れる。


 女性【私は……死んだの? でも、死んだ記憶はないわ。……村のリンテリア教会にお祈りと家で焼いたクッキーをシスターにお渡しした処までは覚えているわ。変ね、何も思い出せないわ……】


 やはり、か。

 死んだ人間は自分の死で錯乱しないようにどうやら、死ぬ寸前の記憶がないらしい。だが、予の蘇生魔法で死から復活した者は死ぬ寸前の記憶が在るので……記憶の底に封じられているのだろう。とても、優しく、とても、悲しい世界のシステムだ。

 こんな魂のしらべに予は時々、出会う。

 そんな時は必ず、こう話しかけるのだ。


 イヴ「貴女は貴女の人生を頑張って生きたのだ。しかし、まだ、人生は続く。この後、妖精さんにより、転生宮に送られ――――」


 盗賊4「何、あらぬ方向に話しかけてるんだ。そら恐ろしいぜ」


 おちょくるように盗賊4が予に言うが、そんな事は気にしていられない。予は女性に淡々と状況を説明する。

 予の代わりに真央とセリカ、レイお兄様が予を護るようにして、囲んで、盗賊達を邪魔するなと威圧する。


 セリカ「死者への冒涜は許しませんわ。今、イヴちゃんは女性の方とお話中ですわ」


 真央「あたし達には見えない……そんな世界があんのよ。あんたら、慈悲があるなら、黙ってなさい」


 レイ「外道に墜ちようとそれくらいの仏心はあるだろう」


 盗賊達は何もない処に話しかける予に何か、恐怖を感じたのだろう。後退りする。


 イヴ「何か、言い残すことなんかはあるか?」


 女性【私はワアード・レイア。お母さんに先に行って待っているって伝えて下さい、イヴ女王様。私は貴女の国で暮らせて良かった】


 イヴ「予は……何もしてない……」


 生のしがらみから解き放たれたのか、大抵の魂のしらべはこのように穏やかに自分を見つめて、最期の言葉を予に託す事が多い。

 胸が痛い。心が痛い。


 思い出す、それは予とお母様の最期の会話を彷彿とさせるのだ。


 リン『人生の全て。神たる永遠を使って優しさを追求しなさい。それが力ある者、王族の誇りですよ、イヴ女王様。さぁ、これがリンの、お母様の遺言です』


 いーちゃん『お母様!』


 それと、同時に怒りの記憶も思い出す……。


 華井恵里『まだ、おねんねしない。教えてあげる。憎みやすいように。馬鹿女王を焼き殺した魔法だけど…………古代魔法 ドラグ マグマ。炎を極めた神の炎よ』


 その両者がせめぎ合うが……常に予の感情はお母様の優しい残滓に、陽だまりのような記憶に傾く。だから、予は笑うのだ、下手くそな泣きそうな微笑みだけど。


 イヴ「解った、伝える、必ず……。また、この世界に戻ってくるのだろう、ワアードさん。その時はまた、予の国に産まれて来てくれ」


 少し間が開いたが……ワアードさんは答えてくれる。


 ワアード【いつか、産まれるイヴ女王様の大切な姫様に私の得意の苺のクッキーを献上する為に戻ってきます。好きなんです、貧しい私のような者でも、3食のご飯と御菓子の勉強を支援してくれた故郷が……。ああ、楽しかったなぁ】


 イヴ「そうか、来世ではさらに楽しくなるように、予は国の発展に尽くそう」


 魂のしらべに背を向ける。

 泣いてしまった。

 こんなんだから、予は未だ、未来お姉様に統治者として合格点を貰えないのだ……。


 イヴ「王は……頂点は、冷静でいなければならぬ。ならぬのだ……」


 歯と歯の間から、空気と同時に吹き抜けた言葉は予の到達すべき理想の王の形だ。

 だが、それを否定するようにセリカが肩を叩く。


 セリカ「そんな機械みたいな王様に誰もつきませんわ」


 そして、真央も肩を叩く。


 真央「馬鹿ね、あんた。いつも、孤高を気取って人には優しいくせに。ぶつけなさい! 奴らに自分の大切な民を殺された怒りを! あたしも手伝うから勿論、セリカも」


 セリカ「はい、ってやりますわ。怒り、ぷんぷんですわ」


 レイ「危険種動物の氾濫に近い行動からすると、あんたら、彼らのテリトリーを荒らしすぎただろう?」


 盗賊達「「「…………」」」


 レイ「図星か。妹君、奴らに情けはいらない。実践の訓練だと思え!」


 しかし、彼らにも同情する余地があるかもしれないと、深淵の刀を振るうのを躊躇う。それを見越したのか、レイお兄様は叱咤する。


 レイ「馬鹿妹君! どんな事情があっても、無抵抗の者を傷つけてはいけないとリン様に言われただろう。大好きな照り焼きバーガーを作ってもらいながら。子守歌のように」


 お母様の教え。

 それは予の絶対的なアイデンティティーを形成するコアの一つだ。自然と心が熱くなる。迷うことない、振るうのだ、亡くなった女性の為にも。


 イヴ「記憶にないであろうが、そこの外道達はワアードさんを殺したのだ。予が死刑に処する。罪状は殺人罪、重度の反逆罪……その他諸々なのだ」


 ワアード【お願いします……イヴ女王様】


 その言葉を受けて、予はセリカ、真央、レイお兄様に英雄の娘、勇者の娘として、命を下す。

 腹部が張り裂けんばかりの声で叫ぶ!


 イヴ「散開!」


 セリカ「はいですわ!」


 真央「このLevelの盗賊なら1外道につき、30000キュリアね! ってやりますわ!」


 レイ「おう! 妹君、作戦!」


 みんながそれぞれ四方に散らばるのを確認して、森の木々が織り成す暗闇が目に入った。

 これだ! と予は閃いた。


 イヴ「皆、かくれんぼ、なのだ!」


 セリカ「エルフは森ガールですわ、得意です」


 真央「本気でかくれんぼ、だけになるんじゃないわよ、セリカ」


 セリカ「はい?」


 真央「あんた、敵をぶっ殺すのが目的。懸賞金が貰えないじゃない!」


 セリカ「真央ちゃん……そんなにお困りですか」


 真央「危険手当 100万円であこがれのタブレット MXGー8900を入手。さらに! 一年に一度のステーキ肉を食べるイベントを開催するのよ!」


 イヴ「予も呼んでくれ! 但馬牛たじまぎゅう一頭、持ってゆくのだ!」


 セリカ「わたくしもですわ! 第3次世界大戦で1本だけ生き残ったマルゴーを持参しますわ!」


 真央「こ、これがブルジョアか! 眩しい」


 レイ「お前ら、余裕だな! さすが各国の王族。動じない」


 そんな会話をしながら、予のかくれんぼというワードを各々が理解して、深い森の中に入ってゆく。


 ワアードの魂のしらべの方を向くと、真面目な妖精族のイメージ通り、背中に羽根の生えた妖精族の少女がしっかりと魂のしらべを抱いていた。

 こちらに気づき、丁寧にお辞儀をしている。

 少女が盗賊達に悟られる心配はない。

 妖精魔法 クリアが発動している最中は妖精魔法 クリアを習得した者だけしか姿が見えない完全なステルスの魔法だ。

 だからこそ、予もこの魔法に頼ろう。


 イヴ「妖精魔法 クリア」


 一瞬、予の身体が透明になって、すぐに元に戻る。

 これで予がクリアを解くまでクリアを習得している者以外には見えない。抜け道もあることにはあるが……。微量の魔力か、SOULを感じられるのは相当な手練れだ。故にこの魔法は盗賊達には有効だ。


 イヴ「さぁ、その魂のしらべを大事に抱いて、ワアードさんに新しい人生を!」


 妖精族の少女「了解しました! 神託ですね、神託! きゃはぁ、私、幼女神様のファンなんですぅ。後でサインお願いします。では、私はお仕事に!」


 やけにテンションの高い妖精族の少女はそう言って、羽根を羽ばたかせて、曇り空の下を飛んで行く。勿論、ワアードさんの魂のしらべを胸に抱いて。


 イヴ「……来世では優しいエンディングを」


 魔法で姿が見えなくなった予もセリカ、真央、レイお兄様に続き、暗闇が支配する森に入ってゆく。

 さぁ、一方通行なかくれんぼの始まりなのだ!



 視点 凪紗南りりす

 場所 クイーン王国 イクサの森より西側

 日時 2033年 4月4日 午後 5時15分


 何も無い広野にて、下僕にする為のサバトを開催して約30分。


 りりす「早く舐めなさい、いつまで、我を待たせる……。これが汝の天の糸と知れ」


 と、我は常に無表情と棒読みで人間に話しかける。


 メイヤ「……む、むり、むり。そんな人間のすることじゃない!」


 紅いツインテールが特徴的な6歳くらいの盗賊少女 メイヤは必死に己の生存と己の人間性を天秤にかけている。

 先程から、大きな瞳に涙を浮かべている。


 ちょ、

 ちょっと、楽しくなってきた。

 最初は怖がらせて、もう悪さをしないよう戒めるだけだった。

 今はそれ+、ドSの楽しみがある。

 そう、我は自分がドSだと知っている。

 ドSの中のドS、華井恵里……お母様を見て育ってきたからだ。

 ………9歳まで。


 誰が言ったか、ドSはドSを知る。至言だ。

 痺れを切らせて、我は黒いニーソをメイヤの鼻先に近づける……。

 メイヤの鼻息がニーソを通して、足先に感じられる。生暖かい。


 メイヤ「な、なんだか、良い香りがします。こ、これは薔薇ですね、薔薇」


 りりす「そう、我のお姉様も自然にそんな香りをほのかに漂わせているらしい。書物で読んだ」


 メイヤ「なんだか、良い香りですよ」


 りりす「照れる」


 未来「おい」


 メイヤ「これなら、か、嗅ぐくらいならアリ?」


 りりす「いや、我は妥協せぬ」


 未来「おい」


 何者かに肩を叩かれた。しかし、我にはサバトがある。

 忙しいと我はその腕を振り払った。その瞬間、お尻に激しい痛みが生じる。


 りりす「うきゃぁああ!」


 未来「やっと、向いたな、りりす第二皇女。なんだ、この少女虐待現場は?」


 虐待?

 我の黒ニーソをメイヤの鼻先に近づけている。

 この構図は誰がどう見ても――――


 りりす「我の下僕にする為のサバト。闇の眷属の仲間入りには必要な儀式ぞ」


 未来「お前はこの件が終わったら、正式に第二皇女様だ。約束だろう? りりすスクールの子達を凪紗南が面倒を見る」


 りりす「しかし、それとサバトとは……」


 未だに黒ニーソはメイヤの鼻先で固定している。

 何やら、メイヤの鼻息が荒くなってきた……。


 未来「外聞が悪い。早く止めろ」


 未来叔母様の殺気に気づき、直ぐさま、黒ニーソに包まれた我の足をメイヤの鼻先から退けて革靴を履く。

 まだ、未来叔母様の殺気は静まらない。


 未来「さぁ、次は楽しい楽しいお仕置きだ。サバトを今後できないように修正してやる」


 りりす「表現の自――――」


 未来「ない」


 りりす「………」


 メイヤ「あ、あのぁー」


 未来「少し、お仕置きをしている間、待ってくれ。慰謝料等の談判をする」


 メイヤ「あ、あのぁー、ち、違うのに……」


 そんなメイヤの言葉を間の悪く、現れた未来叔母様が聞くわけもなく、我は静かにお尻を未来お叔母様に向けた。

 直ぐさま、未来叔母様の手でショーツが膝まで摺り下ろされる。


 未来「さぁ、修正してやる!」


 無情にも未来叔母様の右手の平が我のお尻に向かって振り下ろされた…………。



 視点 凪紗南イヴ

 場所 クイーン王国 イクサの森

 日時 2033年 4月4日 午後 5時20分


 イヴ「な、なんなのだ……この途轍もないお尻の痛い感覚は……。おかしい、予は未来お姉様にお尻も鍛えてもらっているのだ……」


 決して、お仕置きなどではない。

 木の枝の太さを瞬時に判断して、それが折れないと結論づけたと同時にその枝に飛び移る。予の飛び移る木々の遙か下の方で、盗賊が4人、右往左往している。

 人は頭上には注意がいかない。

 どんな猛者でも油断が生じる。






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