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創世する世界のイヴ # Genesis to the world's Eve  作者: 遍駆羽御
本編―――― 第2章 1000キュリアの祈り
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第41話 希望を司る神

 第41話 希望を司る神


 視点:リン・クイーン

 場所:転生宮

 日時:2033年 4月4日 午後 4時10分


 星型の形をした転生宮の中央の開けた空間に庭は存在している。そこにリンが育てた蒼薔薇が微風に揺られて、闘いに明け暮れる神々に選ばれたメシアと呼ばれる方々に微笑みかけている。

 私はその蒼薔薇達に微笑みかける。


 蒼薔薇は私の大切な宝 いーちゃんのお印だ。日本の皇族とクイーン王家共通のお印、それは地球と異世界 リンテリアが繋がった証にもなっている。そして、文明の異なる二つの世界の心達に笑顔を、と今も不可能とされている完全な鮮やかな蒼薔薇に込めている。

 それを願った代表であり、いーちゃんの母親であるリンはミル・リンテリア未来神様に訴えなければならない。

 槍を持った7歳児にしか見えないふわふわの羽根を背に持つ天使達に護衛されて、ミル未来神様は本を読んでいた。凄く、真剣に。


 リンテリア「むぅー、うむー、やっぱり、ト〇ブルのみかんちゃんはエロロリぃん♪」


 天使達は早く、こいつを野戦病院に連れて行かないと……そんな困った表情をしている。

 そんな天使達が私を見て、みんな可愛らしく、敬礼をしてくれている。

 ここでの私の身分はいーちゃんを産んだ功績により、聖母の地位を与えられている。聖母として、メシアの管理を任されている。

 メシアとは、魂のしらべとなって、この世界――――第7神層世界 転生宮にて、転生の時を待つ者から選ばれて、闘う力を神から与えられた存在。私は知らず知らずに闘う力をいーちゃんから授かっているらしい。


 少女天使1「聖母 リン様、ミル様に――――」


 リンテリア「リンテリアと呼びなさい天使A! むぅー、せっかく、現実逃避してたのにん……」


 リンテリア「前の創世神と同じ名前って何って罰ゲームよん。偉いリンテリア家じゃなかったら、虐められていじめられていたわん」


 リン「お願いがあって参りました。リンテリア未来神様」


 リンテリア「何を言うか……知っているから言わなくて良い。既に世界の行き着く先、イヴ・クイーンと邪神王との全面戦争まで見えている。そうねん、このままではイヴは邪神王に勝てない。知り合いの神様とイヴで邪神王に手傷は喰らわせられるのだけどん……。イヴは優しいから邪神王にトドメを刺せない。そこをって……」


 リン「邪神王は……」


 いーちゃんが躊躇う。それはきっと、いーちゃんの知り合いのはず。

 老獪な猫のように銀髪の少女 リンテリアは、にやりと微笑む。


 リンテリア「イヴの知り合いだよん。裏切りっていうより、思い詰めちゃったんだねん。今はその兆候無し。私が軽く今から殺して来ても、その先の未来で必ず、イヴは積んじゃう。せめて、ラグナロクの上級 エクサ ラグナロクが撃てないとこの闘いの勝利は見えてこない」


 リン「やはり、神々の闘い、それも最深部にイヴを派遣するんですね」


 リンテリア「ん、正しくはイヴは、ある人間の敵討ちの為に、人類の為に立ち上がるんだよん。1年以上の慟哭の果てに。その人間がイヴに教えてくれるのん。命の大切さ、命の一瞬の輝きを」


 リン「それって……、未来お姉ちゃん」


 リンテリア「あの虫、根性あるよ。認めても良い。普通の精神力ならば、廃人コース。身体中を蝕んでいる皮膚癌に対抗している。イヴの治癒魔法 ヒールなら、治せるけど、治す対象をイヴが認識していないと効果はない。上級魔法 エンジェルヒールはそれさえ、無視するんだけどねん」


 リン「どうして……」


 拳を握りしめる。

 汗が噴き出す。

 そんな悲劇の未来をいーちゃんが耐えられるはずがない……。


 リンテリア「見当は付いてるよ。身をもって、命を何とでもできると無意識に思い込んでいる神様に教えるため、もう……決めている凪紗南未来は自分の命を賭けることを」


 母親代わりだった未来お姉ちゃんを近い将来、失う。不甲斐ない母親だったばかりに。

 私は俯き、呟く。

 遠い彼方にいるいーちゃんには届かないだろう、決して。


 リン「いーちゃん、ごめんね……」


 リンテリア「贖罪すべきはミル・リンテリア。そんな名前の馬鹿な神様だけだよ。命は巡るから、生きようとするから、美しい」


 リン「え?」


 リンテリア「娘。私の娘 フール・リンテリアが昔、私に教えてくれた言葉。だから、行くべき場所に」


 リンテリア様の腹部から、透明な魂が現れて、リンテリア様の身体に触れてじゃれつく。


 リンテリア「この子を生かせる。未来を変える為に。その代償に”ミル・リンテリアが消滅する未来”に変わる」


 消える。それは転生することではないのだろう。

 完全な無になるのだろう。

 皇命を蘇らせようとしている私と同じ滅びの道を歩むのだろう。

 ああ、この方は私と同じ娘を思いやれる母親なんだと初めて、ミル・リンテリアという小さな神様に共感した。


 リン「人間の為に……」


 リンテリア「勘違いしないで。ミル・リンテリアを含める多くの神は気づけないでいる。人間が虫ではないことを。願うのはこの子が。フールの妹 ミシテア・リンテリアが凪紗南りりすと共にパンドラの箱に残った希望とならんことを」


 そして、母親である神様は我が子に言い聞かせるように言葉をゆっくりと紡ぐ。


 透明な魂。

 産まれなかったミシテア・リンテリアに。


 きっと、魂だけは、と数千年もその身で我が子を護っていたのだろう。そう思うと、涙が自然に溢れた。


 リンテリア「別れはもう、数千年前に。さぁ、生きなさい。多くの人間を観察してその中で貴女の姉 フールのように愚かな……いいえ、栄光なる者の夢想を描きなさい。母 ミル・リンテリアは時々、ちょっかいを出しに行きましょう」


 その言葉に戸惑うようにきょろきょろと左右に揺れ動いていた透明な魂 ミシテア・リンテリアはやがて、母 リンテリアに力強く頷くと、青空へと飛翔した。

 その足取りにもはや、躊躇いは無い。


 リンテリア「これで私の子達は全て、巣立った。次に会う時はきっと、前創世神の創った神層世界初の希望神 凪紗南りりすの一部でしょう……」


 リン「希望神」


 リンテリア「世界は変わった。ミル・リンテリアが死んで、神層世界全ての人類と凪紗南イヴと凪紗南りりすの姉妹を支持する神々が集結する流れに、約束の地に。それ以降は……見えない。何も……ああ、こんなこと、初めてだ。自分の子どもの死さえ見えていたのに」


 涙を、陽に輝く涙を私は指摘できなかった。

 それはとても、美しい。


 人間と変わらない子どもを思う純粋な涙だったから。

 共に涙を流す私とリンテリア様は互いの手の平をテーブルの上に重ね合わせる。


 リン「………」


 リンテリア「ああ、良かった。越えるのね」


 リン「……リンと同じ道を?」


 リンテリア「仕方ない、仕方ない。ロリ可愛いんだから、今も、昔も」


 リン「それでロリ本を?」


 リンテリア「そうかもねん」


 歴史は母から娘へ。

 常にそうやって、世界は巡り巡ってきた。

 世界に溢れる子達を祝福するように転生宮の鐘が鳴り響く。

 軽やかなメロディー。

 それなのになんて、重いバラードなのだろう。



 視点 ミシテアの魂

 場所:転生宮

 日時:2033年 4月4日 午後 4時20分


 お姉ちゃんのいる世界に急がないと。

 世界を巡って、私は様々な希望を観測する。

 観測の結果、私の力は正しく、安定する。そういう神様なんだってお姉ちゃんがママのお腹にいた私に教えてくれた。


 最強の神様 フール・リンテリア。

 全てを滅ぼせる力をその身に宿しながら、弱い人類を虫と言って小馬鹿にせずに、同じ生命として、各世界で奇跡と称して人類を何度も滅びの道から救い上げた私のお姉ちゃんに会いに行こう。


 希望神 ミシテア・リンテリアと無限神 フール・リンテリアが紡ごう世界の全ての命の道を。

 世界を巡って、私は様々な希望を観測する。


 ミシテア「今なら解る。足りなかった私はこの時代にいたのね」



 視点 華井りりす

 場所:クイーン王国 イクサの森より西側

 日時:2033年 4月4日 午後 4時25分


<華井りりすの身体を形成する為に習得経験値 97800が消費されました>


 我達を目指していないだろうに、邪魔だと言わんばかりに危険種動物達の群れが近づいている。今度の群れはおよそ、1000匹。

 少し透明になっていた身体が安定する。

 やり過ぎたと脳裏に過ぎったが……どうやら、まだ、滅びの時ではないようだ。


 ならば、と自分の身長 139cmよりも高い鎌を握りしめる。

 強大な力を宿していた刃はもう、既にない。

 残念ながら、血と肉の海に沈む集団ウルフの頭部に刃のみ突き刺さっている。


 りりす「身体の安定の材料になる経験値をわざわざ、提供しに。我への供物になりに。千客万来」


 未来「退くぞ。私も、お前も、アイシャも長時間戦闘は得意としていない」


 冷静に未来叔母様は判断する。

 逃走の最中、何人か、羊飼い見習いが犠牲になるのも織り込み済みなのだろう。甘いお姉様の親族には見えないクールな判断だ。


 我は是とするか? 否。


 もう、いらないとただの棒になった鎌を投げ捨てる。集団ウルフの胴体に当たって、血の海に沈んだが気にしない。

 あれはただの道具。切り捨てれば良い。


 しかし、りりすスクールの子ども達と同じくらいの子ども達を我は決して見捨てない。

 残忍なお母様とは違うやり方で世界を救おう。


 りりす「聖剣使い」


 駆け付けた金髪の少女 アイシャ・ローラントに黒猫のリルを押しつける。

 豚を見る眼をしていたが、いつものことなので気にしない。

 咄嗟にアイシャは黒猫 リルを胸に抱きしめる。なんだか、少し嬉しそうに見える……。


 アイシャ「何ですか、雌豚」


 りりす「未来”叔母様”と一緒に羊飼い見習い達と羊達の避難を。我は身の程知らずの危険種動物達を軽く屠りに」


 アイシャ「鎌が折れている! 危険です!」


 その言葉と裏腹に表情は早く、死んでください……に見える。


 りりす「蔑んだ養豚場の豚を見る眼は止めよ。その眼をして良いのは……王たる我のみぞ」


 未来「継承権があるから間違ってはいないが、厨二病は調教して治さんとな。任せる、りりす第二皇女」


 りりす「それを名乗るつもりはない。我は華井りりす。闇にて、闇を喰らう者」


 未来「りりす!」


 未来叔母様が投げたリングをキャッチする。

 それはお姉様が身につけているはずのクイーンリングだった。


 りりす「リング?」


 未来「その中に天叢雲剣、凪紗南天皇家の宝剣が入っている。使え」


 アイシャ「未来さん!」


 未来「資格はある。凪紗南天皇家の者だ、りりすは」



 視点 ルルリ・ミカサギ

 場所:馬車内部

 日時:2033年 4月4日 午後 4時25分


 ルルリ「暗いし、息苦しいです。積載量無視ですね。漁のお船だと沈んじゃいます」


 ルルリです、なんだか、酸素が足りないです。

 ルルリです、なんだか、ママを助ける前に窒息死しそうです。


 暗い馬車内の荷物と荷物に挟まれて、荷物に埋もれるように身を隠している。そんな状況であれば、仕方がない。

 犬耳と尻尾が萎びる……。


 ルルリ「今、どの辺……」





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