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創世する世界のイヴ # Genesis to the world's Eve  作者: 遍駆羽御
本編―――― 第2章 1000キュリアの祈り
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第40話 打ち抜く銀色の弾丸

 第40話 打ち抜く銀色の弾丸


 視点:凪紗南イヴ

 場所:クイーン王国 地方騎士局 クイーン城下街支部

 日時:2033年 4月4日 午後 3時35分


 倉庫内には埃を被らずに理路整然と瓶が棚に積まれている。その瓶にはラベルが施してあり、何が何なのかがはっきりと解る。

 予やセリカは医療用瓶を馬車に積むための荷車に詰め込む。その荷車をアリス族よりも速く馬車へともって行ける真央が担当していた。

 一緒に作業している地方騎士達は最初の頃は――――


 男性地方騎士1『イヴ女王様、このような労働等、下々の騎士にお任せ下さい。貴方は我らの女王様、この国の象徴なのですから』


 イヴ『ならばこそ、予は率先して戦の備えをするのだ。未来叔母様も戦時中は兵士と同じ食事や労働時間を心がけていたのだ』


 男性地方騎士1『いや、あのお方と比べるのは……次元が……』


 女性地方騎士1『セリカエルフ姫様、医薬品は大変、危険なモノですので……姫様にはちょっと……』


 セリカ『あら? わたくしはこう見えてもボランティアで鍛えてますから! むっ』


 真央『筋肉、盛り上がってないし……あんた、騎士さんの言う通りよ。瓶、割る前に他の仕事を……帳簿でもつけなさい』


 女性地方騎士1『………セリカエルフ姫様はほんわかした人で有名なので……』


 セリカ『うぎゃあああ! イヴちゃん、瓶、割れて液体が掛かりましたわ! ヒールを早く! ナウですわ!』


 イヴ『落ち着くのだ! ただのエタノールなのだ! 消毒用の!』


 セリカ『え、エタノール。攻撃イ、イデアワードですか!』


 真央『何の攻撃イデアワードなのよ。魔法事典に載ってないでしょうに』


 女性地方騎士1『あ、あのー、セリカエルフ姫様が暴れて床がひどいことに……』


 男性地方騎士2『よっと! このくらい積んでも俺のパワフルな筋肉ならば造作もない』


 真央『これ、時給、幾らだろう? 後でイヴに請求しないと』


 セリカ『えー、奉仕の心ですわ、真央ちゃん』


 男性地方騎士2『ど、何処まで……積むんだ? 真央竜姫様』


 真央『セリカ、覚えておきなさい。タダより高いモノはこの世にないのよ。例えば、他国の王族がポーションっていう優れた回復アイテムを大災害に限り、無料提供するでしょ? その王族は製造元だからそんな頭の狂ったことができるのね。周りはそう思う。けど、無償で命に関わるモノを提供されたその被災国の民は? その国の王族を好きになるでしょ? 被災国は今後もイヴ……あ、名前、言っちゃったか……』


 男性地方騎士2『くっ、まだ積むか! 負けない。俺は姫様に負けられない!』


 地方騎士達『『『いいぞ! マッスルオカダぁあああ! 竜姫様に俺達の筋肉を魅せてやろうぜ! 積め、積め、オカダぁああ! マッスルぅうう!』』』


 セリカ『そんな蜂蜜みたいに甘いことするの、イヴちゃんだけですわ。ここぞとばかりに半額でポーションを押しつけますわ、わたくしならば……いいえ、王族ならば』


 真央『まぁ、ねぇ。半額ってとこがポイント。何事も原材料費がかかる。だけど、あれって……』


 セリカ『ボロ儲けですわ! ところで真央ちゃん、それ、押せますの?』


 真央『ああ、余裕よ。イヴ、時給 2000円』


 イヴ『高いのだぁ。時給 1990円』


 真央『いいえ、時給 2100円』


 イヴ『な、何故? 増やすのだ!』


 地方騎士達『『『マッスルぅううう、全然、押せてねぇー』』』


 男性地方騎士2『お、この筋肉がぴくぴくと俺にお前の力はその程度か? と言ってるぜ。竜姫様、あんなに軽々と引いている。しかも、イヴ女王様達と会話しながら……』


 真央『後、突入時には危険手当、1時間につき、2万円発生』


 イヴ『マリアが遊んでいる遊〇王のトラップカード発動みたいに言う……』


 セリカ『イヴちゃん、マリアがお小遣い 月に200万円つぎ込んでいたのってそれでしたの? 何やら、教材かと思ってましたわ』


 真央『あんたの妹が勉強するわけないでしょ? あたし、馬鹿マリアに悪のドラゴン、この魔法少女 マリアが成敗してやる! って玩具のステッキでしこたま、ぶん殴られたんだけど……』


 セリカ『それでマリアちゃん、未来様にお尻ペンペンの刑で成敗されちゃったですわねー』


 イヴ『マリアは凄いのだぁ、この痛さが快感とか、言っていたのだぁ』


 真央『………ツッコミはなるべく止めよう……』 セリカ『お父様に言って何か対策を』


 男性地方騎士2『何故、天井すれすれに積んで。あれだけ余裕なんだマッスル』


 地方騎士達『『『マッスルの筋肉が敗北を認めた! マッスル留学するしかねぇー』』』


 ――――と、こんな感じで騒ぎもあったのだが、今は落ち着いている。


 ちなみに予のポケットマネーから、真央、セリカ(レイお兄様は国に請求する。これは国の業務だから、とクールに言っていた)には危険手当を含めて、100万円が支払われる。


 真央「これで新しいタブレットが購入できる。最新のホログラムウィンドウに描き込む方式の……あこがれのMXGー8900があたしの手に……。はかどるわ! よっしゃ、盗賊、皆殺しよ! あたしの萌え絵の糧にしてやんよ」


 そう言って真央は特急鉄道真央と化して、次々と荷車で馬車へと必要物資を詰め込んでゆく。

 真央のおかげでほとんどの地方騎士は身体を温める素振りや軽い手合わせに集中できる。


 一緒に混じって訓練していたレイお兄様が戻ってきた。

 相変わらず、あまり汗を掻かない体質のようだ。

 爽やかな風がレイお兄様の青い長髪を揺らす。それだけで絵になる美男子だ。


 レイ「妹君、手伝わないですまんな。戦場では良い働きができそうだ。思っていた以上には身体が動く」


 イヴ「ボクより強いのに皮肉に聞こえるぞ、レイお兄様」


 セリカ「イヴちゃん、弱いんですから。わたくしがイヴちゃんを護ります!」


 力拳を作るセリカの言う通り、予は弱い。

 139cmという小柄な筋肉の付きにくい体質もあるからだろうけど……本来、アルビノである予は太陽の下では極端に皮膚にダメージを受けてしまう。それはHPをも削る。それを阻止しているのはコントロールできていない魔力による僅かな自動治癒のおかげだ。

 それでも、念には念を入れて数時間につき、一回、治癒魔法 ヒールをかけている。

 ステータスの素質もあまり、戦闘向けではなく、魔法支援タイプなのだろう……。

 決して、未来お姉様や学園長、華井恵里、ジョーカーという超人達には渡り合えない。


 苛立ちが募る。

 英雄の娘なのに、とじっと、持っていたゴムで丸めてあるクイーン王国周辺の詳細な地図を見つめる。


 イヴ「世界は広いのだ……。焦るな、イヴ」


 けたたましい音共に、予やセリカ、真央、レイお兄様、地方騎士達の耳に信じたくない凶報が響く。


 ルルリと共にいた女性地方騎士「ルルリさんがいなくなって! 他の4人が今も辺りを捜索――――」


 イヴ「……間違いないのだ! ゆくぞ、るーちゃん」


 鞘に入った魔剣 レーヴァテインにそう囁きかける。


 るーちゃん「イヴ、女王としての責務は指揮じゃ! 慌てるで――――」


 イヴ「現場に行かねば解らない! そう教えてくれたのはお父様の残した著書 上に立つ者気構えなのだ」


 るーちゃん「本来、女王は次の子を成すのが――――」


 イヴ「もう、予の……」


 蘇るのは予がお母様を救えなかった記憶。強くなりたかった! 例え、強くなれない体質であっても!


 華井恵里『まだ、おねんねしない。教えてあげる。憎みやすいように。馬鹿女王を焼き殺した魔法だけど…………古代魔法 ドラグ マグマ。炎を極めた神の炎よ』


 剣術は未来お姉様に、魔法は詩卯うたう学園長、頭脳は心愛やテスラに鍛えてもらったのに思うような成果は出せていない。それでも……予は。

 覚悟を決める。

 一歩、一歩、凶報により悲痛な絶望感に沈む人々の合間を歩いてゆく。

 召喚器 深淵の刀を召喚し、自分の腰に帯刀する。

 台に置いてあったウィンチェスター RFをショルダーケースに入れたまま、装備する。


 倉庫からゆっくりと出る。

 何人か、予の後を追う足音が聞こえた。

 真っ直ぐ、振り返らずに進もうかつて、英雄達が歩いた茨の道を。

 沢山、多くの人間を殺すのだろう。

 沢山、人に恨まれるだろう。

 それでも、予は………。


 イヴ「ボクのような悲しむ子どもを増やしたくない。闘うのだ、力の限り」


 地方騎士局 クイーン城下街支部の建物から出ると、目映い太陽が予の視界を奪おうとする。

 日傘代わりに手で太陽の光をガードして、

 イヴ「もう、怖くない」

 と自分の魂に火を入れるように口ずさんだ。


 それは自然に出た言葉で、しかし、誰かに背を押された気がした。

 予の右肩を真央が叩く。尻尾が心なしか、緊張したようにつーんと上向いている。しかし、それを読ませない口調で予に知らせる。


 真央「イヴ、行くんでしょ? 支度は完璧!」


 真央の眼差しの先には銀色の予の馬車が準備されていた。きっと、必要な食料や簡単な衣服、予備武装等が積まれているのであろう。

 お見通しか。

 予の左肩をセリカが叩く。可愛らしいちょっと尖ったお耳は緊張で真っ赤になっている。大規模戦闘はこれが初めてなのだろう。

 予は心の中でセリカにごめんと謝罪する。


 セリカ「お馬さんの操縦でしたらわたくしに。全ての可愛い動物はお友達ですわ」


 銀色の馬車に繋がれた白いペガサス 2匹がセリカの声に応えるように嘶く。

 馬ではなく、ペガサスを用意したことはいざという時の脱出を念頭に置いているのか……。

 予はゆっくりと頼んだぞ、という意図を込めてペガサスの立派な羽根を撫でる。


 レイ「やれやれ! お守りか。それも悪くない。さしずめ、俺は英さんのポジションか」


 調子を確かめるようにレイお兄様は組み立てた伸縮の杖を何度か、振るう。

 凶暴な一撃の音が何度か、空気の流れを邪魔する。


 真央「あの耳っ子にしか性的興奮を覚えないイヴのパパの親友。あたし達、竜族も耳っ子なのに差別して……」


 セリカ「性的な嗜好は人それぞれですわ。わたくしのお友達にもドS~ツンデレまで揃っていますわ」


 真央「おい、そのツンデレはあたしか!」



 視点 凪紗南イヴ

 場所:クイーン王国 地方騎士局 クイーン城下街支部

 日時:2033年 4月4日 午後 3時45分


 馬車を進めてすぐに異変が起きていることに予達は気が付いた。

 予は風魔法 エアで馬車の頭上に昇り、匍匐前進の姿勢でウィンチェスター RFを数百メートル先の異変――――危険種動物達の群れに向ける。

 どれもイクサの森周辺にいる危険種動物だ。


 考えられるのは……。しかし、この程度ではまだ……。


 イヴ「狙撃を開始するのだ……。いちいち、危険種動物に構っていられないのだ! 怯ませて押して通る!」


 危険種動物の群れの中にいる集団ウルフの額に狙いを定める!


 イヴ「……あっ」


 ここで重要なことに気が付いて、トリガーを引く手が緩む。


 レイ「妹君、弾丸は俺の家に……すまん。どうやら、連日の会議で疲労していたらしい!」


 申し訳なさそうにレイお兄様がそう叫んだ。

 予が知る限り、レイお兄様最大の失態だった。

 事業家は忙しいもの、と予は自分もそれっぽい事をしているので共感できた。


 セリカ「魔力操作で」


 とセリカが言った後、下から魔力球が上へと浮かんできて、予の近くでぷかぷかと浮いている。

 さすが、魔力に長けたエルフ族。


 セリカ「ほら、このように球を創り、それを装填してみては? イヴのお父様の魔法ですわ」


 イヴ「予には………」


 *


 幼い微かな記憶がぼんやりとした森林の、イクサの森でのハイキングの光景が脳裏に蘇る。帰りはずっと、疲れてお父様の背中で眠っていた。楽しい家族の思い出。


 リン『いーちゃんにはリンの古代魔法、全部、教えるんです』


 予が魔法の練習をしているのに予のことを見ずにお母様は早くも予の将来の展望を語っていた。


 春明『リンみたいにドジじゃなくて良かったぁ。自分の魔法で火傷しそうになるなんて笑えない』


 リン『こらっ! 勇者様!』


 春明『ここまでおいで』


 いつものように愛する二人の恋の追いかけっこが始まる中、幼い予は必死に魔法の基本である魔力球を制作していた。

 それはできたのだが……幼い予には不満だった。それではないのだ、とその場で怒りをぶつけるように大木を蹴りつけた。


 いーちゃん『むぅー、マジカルバレットできないよおー』


 結局、できずにつらい思い出から背けるようにマジカルバレットを試そうとはしなかった。

 今代の勇者様 凪紗南春明の通り名は魔弾の勇者。

 予のお父様は銃魔法の唯一者。

 魔法の基礎である攻撃力の差ほどない魔力球を攻撃魔法に昇華した常識を打ち破る学者肌の勇者。

 決して勇者は強くは無かった。しかし、仲間を知恵により、救った。


 春明『いーちゃん、僕には無い頭で必死に考えることしかなかった。力も、技術も、ない自分。魔力球しか創れない攻撃魔法や支援魔法のできない自分にできる何かを、ね』


 それは実った。

 地味でありながら、銃の存在しない弓矢の世界に魔法以外の遠距離を成した勇者の銃弾が異世界 リンテリアを創世した。

 古い異世界 リンテリアに風穴を開けて。


 *


 イヴ「今のボクならば、できる。信じるのだ! 自分を!」


 集中する頭に描いている魔力球ではウィンチェスター RFが自壊する。

 予の強力な魔力があだになっている。

 予と魔力の波長の合う人間がいれば……魔力コントロールの修練も効率が良いのだが……未だ見つからない。


 徐々に小さくなっていく。

 頭に描いた魔力球を実在させる。


 アナムネーシスの器から魔力が解き放たれる。魔力球ではなく、銃魔法 マジカルバレットとなって。

 銃魔法は魔力球を極めたイデアワードのある魔法ではない純粋な魔力の放出技術の昇華。故にイデアワードは要らず、それはサイレントキラーとなる。銃を知らない者にとって。

 故に無双し続けた予のお父様、勇者 凪紗南春明。


 さぁ、喰らわせてやるのだ!

 勇者の、英雄の、一撃を!


 イヴ「弾丸装填」


 すっと、魔力の塊であるマジカルバレットが予の構えているウィンチェスター RFの薬室にすっと、溶け込んだ。

 今や、一発の魔を退ける弾丸が装填されている。

 危険種動物の集団の中、集団ウルフの額に的を絞り、撃つ!


 イヴ「行けぇえええええ!」


 反動が予の腕を少し、ぶれさせる。

 成人男性ならば、さほど、苦にならない反動だが、予にはきつい。

 音速の速さで集団ウルフは額に風穴を開けて足を滑らせたかのように倒れた。

 もう二度と起き上がることはない。


 素早く、足の止まった危険種動物達を打ち抜く!


 危険種動物達は魔法ではない音速の訳の分からない攻撃に晒されてその場に右往左往している。


 無双せよ!


 お父様のように!

 勇者のように!

 英雄のように!

 そして――――


 ウィンチェスター RFでの攻撃、集団ウルフが倒れた。


 るーちゃん「命中じゃ!」


 イヴ「どんどん、行くのだぁ!」


 トリガーを引く。

 マジカルバレットに弾丸を手動で装填するアクションはない。隙が生じず、一方的な狩りが始まる。


 ウィンチェスター RFの乱射、集団ウルフ 2匹、キノコ ドール 3匹が鋭い音の後、次々と絶命した。


 仲間を訳の分からない攻撃で殺された危険種動物達は恐れを感じたようで、予達の馬車から離れる。

 ただ、ひたすらに自分達の命が助かるまで、息を切らせながら、その様子を見て予は可哀想だと思った。


 だって、”これは人間のせいなのだから”。


 理性を無くしそうになるくらい、キレそうだ。

 キレないように、気をつけなければ、力の暴走だけはしてはならない。朧気ながら覚えている記憶が。

 少女神 リンテリアがみんなの記憶から消してくれた予の暴走の記憶がキレるなと警告を鳴らす。


 イヴ「予は……いたずらに傷つけない。決して……」


<危険種動物達の群れを退けた>

<凪紗南イヴはLevel 7に上がった>

<セリカ・シーリングはLevel 14に上がった>



 予は風魔法 エアを唱えて、馬車内に戻る。


 一仕事、終えた予に真央が瓶に入った蜂蜜ドリンクを手渡してくれた。

 予は一口飲み、「甘い」と呟いた。即座に真央が「イヴの頭みたいにね」と言い返す。


 真央「ねぇ……危険種動物が何で? こんなに溢れているの?」


 セリカ「殺しすぎましたわ……。森がそう囁いて、わたくしに教えてくれていますわ」


 ペガサスの手綱を引きながら、そうセリカがやや、重い口調で真央に話した。


 真央「さすが、エルフ。って、森から来てるの、丸わかり!」


 セリカ「そうですわねー」


 レイ「まだ、真央は小学生だから習っていないな。王族としての仕事もまだ、だろう。イヴ、セリカは知っているな?」


 イヴ「………荒らしすぎたのだ。こんなになるまで! 人間を500人以上、惨たらしく殺さないと無理なのだ。”戦争”歴史学によればなのだ」


 真央「何、それ!」


 レイ「真央、戦争が長引かない、一度引く原因は危険種動物が氾濫しないように、だ。彼らは臆病で生物の血の匂い、感情に敏感だ。まさに野生の勘だ」


 セリカ「誰かが、狼煙をあげていますわ。数十カ所も」


 予はセリカの言葉を確かめるべく、外を眺めると……

 各国で決められていた黄色、狼煙が多くの場所から上がっている。

 予が眺めている今も!


 レイ「おそらくは戦争歴史学を学んでいる貴族達だ。クイーン王国で危険種動物の氾濫が起きそうなのは……約十年ぶり。記憶の彼方だろう、民にとってはな」


 お父様やお母様の代で識字率は60%まで上がった。

 中世ヨーロッパレベルでしかない文明ではそれでも、遙かに高い方なのだ。

 学校を整備して、近所に住む高校生が年上に教える寺子屋も作って、予の時代でやっと、識字率は75%。

 難しい本を読む貴族達くらいしか、この氾濫を身近に感じ取ることが出来なかったのだろう。

 歯がゆい。人は機械ではないのだ……。


 真央「起きそう?」


 イヴ「警戒レベルはLevel D~Level SSSまで存在するなのだ。Level C、なるべく屋内に留まること! なのだ!」


 るーちゃん「元を絶つのじゃ。盗賊王の殺戮を止めて、イクサの森を清めるのじゃ」


 魔剣のるーちゃんの声に従い、セリカは2匹のペガサスに急ぐよう、話しかける。

 すると、2匹のペガサスは人の言葉を理解したように歩を早めた。



 視点 羊飼い見習いの少女 メリーナ

 場所:クイーン王国 イクサの森より西側

 日時:2033年 4月4日 午後 4時10分


 ????「我の下僕になる予定の子ども達を殺そうとするなんて、貴様らは血みどろの刑。喜べ、化け物。本当の殺戮を演じて魅せよう」


 そう言って、私を助けてくれた。

 黒い髪のお城の城下街で流行っているゴスロリ衣装を着た私と同じくらいの背の小さな子が危険種動物を殺してゆく。

 その動きに容赦という言葉はない。


 ”銀色の瞳”は何処かで見たことがある……。

 何処だっけ? と頭を抱えて思い出そうとする。そうしていると、同じ羊飼い見習いのベルリルが私の服の袖を引っ張った。


 ベルリル「ねぇ、あの子ってイヴ女王様じゃあ――――」


 メリーナ「まさか、女王様がこんなとこまで」


 ベルリル「でも、背丈も、顔つきも、胸の無さも……何より凪紗南天皇家の血を引くお方のみが持つ銀色の瞳!」


 メリーナ「昔、王族は暗殺を恐れて、下の子を隠れ里に住まわせる風習があったって親戚の歴史学者のおじ様に聞いたことが……確かに」


 やがて、危険種動物の死体の浮かぶ海から、イヴ女王様にそっくりな少女が帰ってきた血塗れの折れた大きな鎌を背負って……血に汚れていない風貌で……。

 どうすれば、100体以上の危険種動物を相手にそんな芸当が可能なのだろう。

 同じ魔法の同時発動は確か……できないはずなのに、黒髪の少女はさも、当たり前のようにそれを成した。

 非力なはずの身体で自分よりも高い大きな鎌を自由自在に振り回して、今も肩に掴まっている小さな黒猫を気遣う余裕まで魅せていた。


 ????「なるほど、いつの間にか……我の偽りの瞳が……そういうことか、策士めっ」


 ベルリル「貴女様のおかげでここにいる羊飼い見習い 30人と多くの羊が助かりました。ありがとうございます」


 羊飼い達「「「「ありがとうございます」」」」


 ????「我の通行の妨げになるので、始末したまで礼はいらぬ」


 メリーナ「貴女様のお名前は? 凪紗南天皇家! イヴ女王様のゆかりの者ですよね?」


 小さな黒猫「にゃー、にゃーにゃー」


 ????「しかし、それではりりすスクールの子達を……」


 小さな黒猫「にゃーにゃー」


 ????「よかろう、無垢な民には我の名を知らせておく必要があるだろう」


 私を含めた羊飼い達は息を呑んだ……。


 未来「何処で道草をしているか、と思えば、人助けか、”凪紗南りりす第二皇女様”」


 りりす「またしても退路を断ちおったな! 卑怯者」


 銀色のツインテールの女性で日本刀を持ったお方といえば、凪紗南未来様。勇者様の妹しかいない。

 私達は助かったのだとそのとき、理解し、気づけば、みんなが泣いていた。

 ああ、これでお家に帰れる。


 りりす「………民よ、我は凪紗南りりす。イヴお姉様の妹。安心せよ、我の鎌から逃れられた敵はいない」


 その言葉に誰もがツッコミたいあのーという申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

 何処か、りりす様はやはり、イヴ様に似ていてなんか、甘い。

 ……

 ………

 …………

 りりす様、鎌、折れてますよ?







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