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創世する世界のイヴ # Genesis to the world's Eve  作者: 遍駆羽御
本編―――― 第2章 1000キュリアの祈り
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第39話 ママの教え。例え、世界(ルルリ)が終わろうとも残るモノ。

 第39話 ママの教え。例え、世界ルルリが終わろうとも残るモノ。


 視点:ルルリ・ミカサギ

 場所:クイーン王国 クイーン城下街

 日時:2033年 4月4日 午後 2時55分


 ルルリはイヴ女王様に頼まれて替えのお洋服と下着を確保するべく、ゴシックろうでお買い物をしている。

 イヴ女王様から渡された資金は5万キュリア。それを胸にぎゅっと抱きつつ、ルルリはオドオドしながら、店内のゴスロリ衣装やその他の衣装を眺めている。

 どれも丁寧な仕事で自分のような貧しい民が修繕しながら着ている服とは雲泥の差がある。しかし、それはルルリ、いや、クイーン人にとって誇りなのだ。ここの商品やクイーン王国ほとんどの製品は地球製品ではなく、クイーン王国 自国製品だ。ルルリも何点か、洋服を売ったこともある。


 リン前女王様が異世界 リンテリアで起きた当時はプリミティブイデアの枯渇による心臓発作での死という原因を知り得なかった謎の死により、減った労働者を纏めた時代~イヴ女王様の時代、世界天秤条約により地球の技術情報が閲覧可能になった機械技術に頼るのではなく、思い思いのデザインを労働者が村や街に創られた工場で手で縫う工程を大切にした手法で世界に一点ものの暖かさがクイーン王国のファッション産業の武器とした手腕により、今並んでいるどの洋服も努力の結晶の歴史という輝きで煌びやかに映っている。


 ルルリ「悩むのです……。特に着る人が着る人ですし……」


 ルルリは元来、恥ずかしがり屋さんなので、一緒に来た若い女性地方騎士達には入り口で待ってもらっている。

 ここまで護衛としてイヴ女王様につけてもらったのだが、貴族でも、有名な商人の血縁の者でもない自分を攫う人間なんているわけもない。王族だから、それが普通だと判断したのだろうか? どう思おうと他者の心等、誰にも解らない。


 しかし、ママに教えてもらったことがある。

 イヴ女王様は本来、お体の弱いお人でそれを理由に王座に座り、家来に指示するだけでも民は支持しただろう。けど、それをよしとはせず、自分の国の為にそこに在る笑顔の為に色々と働いているんだよ、と。


 信じるんだ、英雄の娘 イヴ女王様がルルリのママを救ってくれることを。

 ………信じ切れない。いや、違う。ルルリは自分でママを助けて「偉いね、ルルリ」といつものように犬耳を撫でててもらいたい。

 ………信じよう。そんなのは不可能であり、ルルリはイヴ女王様達の出立の準備しかできない。イヴ女王様はきっと、自分を連れてってくれないだろう。


 紅いゴスロリ風ドレスを睨み付ける。

 それはママが今、流しているであろう鮮血に見えた。いや、そんなことない! とふるふると首を振る。

 ママは死なない。

 お婆ちゃんも死なないと思った。けど、呆気なく、病気で死んだ。

 ママに昔、聞いたことがある。

 ルルリは死が怖いの と。


 視点 ルルリ・ミカサギ

 場所:ルルリのお家

 日時:約1年前の冬


 寒い冬だった。暗い自分のお部屋で寝ていると……昼間に英雄物語で読んだ勇者 春明様とクイーン王国前女王 リン様のハッピーエンドを思い出した。

 勇者 春明様とリン前女王様はお互い最初はぎこちなかった。何でも勇者様は日本の皇族で住めなくなった大地の代わりに数が限られている地下都市をかけた戦争に地球はその頃巻き込まれていた。

 その戦場を戦い抜くことこそ、春明様の望みだった。

 その望みを絶った春明様を召喚したリン様を嫌うのは必然だった。


 春明『冗談じゃない。僕は僕の民の為に闘う。剣の腕が立つけど病弱な妹が僕の帰りを待っている。君達の世界の事情を押しつけるな!』


 リン『お願いします、リン達は貴方の未来を変える干渉力にかけたいのです。異邦人の皆様にはそれがあります。多くの歴史を変えてきた』


 春明『黙れよ。僕は聖人君子じゃない』


 リン『………』


 春明『そのナイフで僕を切るのか? 君の腕では僕の心臓を貫けない。せいぜい、豚肉くらいだ。厨房で豚丼でも調理してろ。僕は勝手に元の世界に戻る方法を英と探す』


 春明『なんで自分の腕を』


 リン『覚悟があります。貴方がこの世界の勇者にならないのでしたら、私はここで自分の心臓を貫きます。王族の誇りにかけてそうします』


 英雄物語の中でルルリが好きな場面がある。

 病弱な少女 クリア・スールの語らい。

 勇者様とリン様、そしてその仲間達はクリアに料理やお勉強、日本のファッションを教えて共に語らった。


 春明『君と話していると病弱な妹 未来の事を思い出すよ。早くあいつの傍に帰ってやらないとね』


 クリア『ごめんなさい、勇者様。私達、異世界の者の為に貴方の世界は』


 春明『心配しないで。元気になって僕やリン、英にまた、服を見繕ってくれ。買いに来るよ』


 クリア『そんな日が来るのでしょうか?』


 春明『どんなことも信じることから運命は開かれるんだ。そう危険種動物との戦いや邪神との戦いで僕は教わった仲間や敵に』


 クリア『勇者様は死が怖くないのですか?』


 春明『最近、思うんだ。人間は何かを成す為、夢に邁進する為に、生きるのだと。それに向かう意志を保っている限りは怖くない』


 クリア『強いですね……。私はもっと生きたいのです、勇者様』


 ルルリは闇の中で勇者様の言葉を口ずさむ。


 ルルリ『永遠なんてないからこそ、人間は激しく命を燃やすんだね。君の命は美しい白い色だったよ』


 きゅんと心臓が痛んだ。

 恐怖がルルリを包み込んだ。ルルリは勇者様でも、最期の命を使って自分の死期を早めると知りながら夢を叶えた、生きる意味を完結させたクリアのように勇気のある者ではないらしい。

 その事実により、ルルリの心はずっと生きていたい! 欲望の色彩に染まってゆく。

 息が苦しくなった。


 ルルリ『結局、春明様も、リン様もハッピーエンド。お子が産まれた後、殺された。ルルリは生きたい、生きたいの!』


 涙が零れてきた。

 どんなに足掻いてもルルリは死ぬ。それはいつなのだろう?

 5年?

 10年?

 50年?

 100年?

 150年?

 獣人族の寿命は約150年。たった、それだけしか、神様に生きることを許されていない。世界を管理するリンテリア少女神様の降臨によって、全ての種は死んだら、転生宮に魂のしらべが送られて次の人生を待つのだと両世界に知らされている。

 けど、次の人生にはルルリの記憶を保っていけない。


 嫌だ。それはもう、自分ではない。

 握りしめた掛け布団から、お日様の匂いがした。これでさえ、変わってしまうのだろうか?

 そんな些細な事柄さえ変化するのならば、次の人生に意味はない。

 涙が溢れ、頬を伝い、ルルリの頭を包む枕は濡れた。


 ルルリのママ『どうしたの? ルルリ』


 壁越しにママがルルリの声を聞いたのだろう。ママはすぐにルルリの部屋の扉を開けて、真っ先にルルリの身体を抱きしめてくれた。

 ママの安心する匂いと温もりがした。

 それでも、ルルリは怖かった。

 どんなに剣の腕が立っても……。

 どんなに魔法の腕が立っても。

 どんなに偉い人でも!

 どんな種族でも!!

 死は免れない。

 ルルリは震える唇で必死に言語を操る。


 ルルリ『死が怖いの』


 ルルリのママ『ええ、実はママもそうなのよ。けどね、ルルリ、終わりは何にでもあるものよ。長丁場過ぎる映画はつまらないでしょ? 観客だって眠くなるわ』


 ルルリ『ママ……』


 ルルリのママ『ほら、勇者様のお知り合い クリアのように』


 と、ママは机の上の蝋燭に炎魔法 ファイアで灯りをつけると、本棚から英雄物語を取り出した。

 そして、ページを捲って、挿絵――――勇者 春明様が最終決戦前にクリアの遺品 白いオペラグローブを抱きしめていて、その周囲にはサイズ違いの数十の白いオペラグローブが華のように咲き誇っていた。日差しに浴びて、それはまるでクリアの命の花園だった、とルルリに見せた。

 挿絵の下には勇者 春明様の言葉、『永遠なんてないからこそ、人間は激しく命を燃やすんだね。君の命は美しい白い色だったよ』


 ルルリのママ『人は自分の命の花園を育てる為に生きて、誰かにそれは美しいと言われる為に生きるだろうね。そう思うとママは怖さが薄れる』


 ルルリ『育てられるかな、ルルリに?』


 ルルリのママ『ええ、ルルリはきっと、大丈夫。ママのお花もこんなに綺麗に咲いている』


 そう言ってママは微笑んで、ルルリの髪を撫でてくれた。


 ルルリ『お花?』


 ルルリのママ『ひみつよ、ルルリ。でも、そのひみつもルルリが大きくなったら自然とばれてしまうわね』



 視点 ルルリ・ミカサギ

 場所:クイーン王国 クイーン城下街

 日時:2033年 4月4日 午後 3時05分



 男性の声「おい、このドレスを金に換えてくれ」


 カウンターから聞こえる荒々しい男性の声でルルリは身体がびくっと跳ね上がり、紅いゴスロリ風ドレスから目を離す。


 違う男性の声「おお、大量ですね。大量。いやぁ、旦那のお陰で儲けてますよー。最高級の品ですね。そっちは女性をさらってHして、こっちは女性の洋服や宝石類で金儲け。まさに盗賊王様様です」


 男性の声「おい、聞かれたらどうするんだ!」


 違う男性の声「大丈夫ですよ、今は誰もいませんから店内に。ゴスロリを多く扱うゴスロリ楼はマニアックなんですよ、まだ。あんな奇抜な衣装を着たがるのは毎年毎年、ドレスとオペラグローブなんかで着飾る女王様くらいなものですよ」


 どうやら、ルルリは背が低いから気づかれていないらしい。

 ラッキーなのか? ラッキーなものか! 身体が恐怖で硬直してしまいそうだ。


 男性の声「自分の国の女王様なのにえらくきついなぁ。しかし、大丈夫なのか? この店ってイヴ女王様の親戚の店だろう?」


 違う男性の声「日本語には灯台下暗しっていう良い言葉があるんですよ。その親戚も気づいてません。第一、この店は規模が小さいのでほとんど、レイ様は名前を私に貸しているだけですよ。経営方針はレイ様ですが、それを伝えに来る小間使いは早朝来るんですよ。それからはフリーダム! 盗品を闇市場に流す窓口に変わるってわけ」


 男性の声「なるほど、王族関連の店に聞き込むわけには地方騎士連中も無理ってわけか。ドレス、幾らになる?」


 怖いけど、確かめなきゃとルルリは思い、ドレスとドレスの間から顔だけを出して、店長の顔と客の顔を盗み見る。

 店長は長身で中肉中背のスーツを着た髪型がカッパのような男。

 客の盗賊王の仲間は軽装のアイアンプレートを胴に身につけた紅いバンダナを頭髪部に巻いた目つきの鋭い長身の男。


 店長「ええ、とドレスは全部で50着。55万キュリアですね。えーと、宝石を」


 宝石をと言われて、盗賊は持っていた袋から次次と宝石をカウンターに並べる。その中にルルリの知っている宝石が混じっていた。

 ルルリの身体に寒気が走った。


 ママが死んじゃう……。


 カウンターに並べられた宝石の中、一際、ルルリにとっては輝いて見えるオオカミが口に深紅のエルフストーンを加えている意匠のペンダント。

 ルルリは思わず呟いた。


 ルルリ「……ミカサギ家の家宝 ルルリのおうちのエルフストーン 修練真紅の飾り」


 もはや、ルルリの怒りは頂点に達していた。

 身体の震えはない。

 ママはまだ、生きているかもしれない。

 早くしないとママが殺される……。

 覚悟は決まった。

 ルルリは店内に並んでいたナイフを一つ、盗み、装備した。


<ルルリはミスリルナイフ 攻撃 3100を装備した>


 罪悪感はあるけど、武器がなければ、ママを助けられない。ナイフの使い方はママに教わった。将来、どんな職業についても刃物は使うかもしれないとママが教えてくれた。そして、人を傷つけるな、とも。

 葛藤があった。けど、そんなのはママを助ける行為に比べて細い糸のようなものだった。簡単に踏み越えられる。いざ! という時に。


 店長と盗賊の商談が終わった。

 ルルリは腰を曲げて背を低くして、そのままの体勢で店の裏口から誰にもばれないように出た。

 ルルリを連れてきてくれた女性地方騎士達にばれないように………慎重に盗賊が馬に乗った瞬間を狙って、馬車内に入った。

 ここで人がいれば、どうにかして殺さなければいけなかったが……誰も居ない。


 安堵の息を吐きながら、樽や武器、食料、衣装などの積まれているスペースに紛れ込む。

 数分も経たないうちに、ルルリを乗せて盗賊が操る馬車でママがいるであろう場所を目指す。


 ルルリ「ママはルルリが助ける」


 言葉にすれば、簡単にも思えるが……自分にできるとは思わなかった。

 心臓が引き返せ! イヴ女王様に報告しろ! とルルリの心に激しくノックする。

 ママがその間に死んでしまうとそんな喪失感で恐怖を誤魔化し、ルルリは涙を堪える。


 ルルリ「ママはルルリが助ける」


 ナイフを握りしめた。

 汗で上手く、柄に力が伝わらない………。





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