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創世する世界のイヴ # Genesis to the world's Eve  作者: 遍駆羽御
本編―――― 第2章 1000キュリアの祈り
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第36話 宝石箱

 第36話 宝石箱



 視点 凪紗南イヴ

 場所:クイーン王国 地方騎士局 クイーン城下街支部

 日時:2033年 4月4日 午後 2時40分


 地方騎士本局は地方騎士局を纏める機能が強く、連絡役の色合いが強い。現場の現場といえば、地方騎士本局の下に位置する地方騎士局であろう。

 と、ルルリに予が説明していると。


 ルルリ「なんだか、こんがらがります」


 真央「イヴ、ルルリをこの建物に入れるのはちょっと……」


 予の耳元で真央が囁く。

 真央が言いたいことはすぐに理解できた。むしろ、予から言い出そうとしていた処だ、お節介好きの竜族 真央が言い出さなければ。


 右側には馬が一時的に待機している簡単な屋根のみの馬場があり、大人の大きな巨体の馬達がまるで「今日は暑いわね、エールでも一杯飲みたいわ」「あら、私はココアが飲みたいわ」と会話しているように嘶く。

 セリカが近づいて白馬の頭を「よしよしぃ♪」と言いながら暢気に撫でている。レイお兄様が「そんなことしている暇はない」とセリカに声を掛けつつ、セリカの服の袖を握って無理矢理、予の処まで戻ってくる。

 左側には馬が引いていない大小様々な馬車があり、予の専用のコウモリ模様のクイーン王国国旗と、イヴ・クイーン女王様を表す蒼薔薇の旗を翻した豪奢な銀色の馬車もその中にはあるが、予の馬車には人が近寄らないように女性地方騎士 5名が警備していた。それぞれ騎士の槍を装備している。


 予が傍を通過すると、予の歩みを邪魔しない礼儀を重んじて無言で静かに頭を下げた。その女性地方騎士の礼儀を「認識した」と予も声を掛けずに片手を挙げる。予が片手を下げてもしばらく、女性地方騎士は頭を下げたままであった。これを止めてくれ、と地方騎士を管理する貴族大臣 ティフ・ガーソン に言ったのだが、「イヴ女王様は敬うのは国民の義務です」と弱気な彼とは思えない程、強気な態度で予に意見をした。


 そんな木々に囲まれて影が多い涼しいカントリー風のどかな風景の奥にある3階建ての木造洋館風な建物にルルリを連れてゆくのが嫌な訳ではないのだ。


 ルルリ『10日前です。地方騎士様に連絡したのは9日前です』


 と城でルルリにそう聞いた時にここから先は……ルルリにはつらい結果になると予達には予想できた。

 ルルリのお母様がどのように殺されたか? 等聞かせたくない。

 予は真央の囁きに頷いて、ルルリを手招きする。


 ルルリ「何ですか? イヴ女王様」


 イヴ「替えの下着や服を購入するのを忘れてしまったのだ。これでルルリに買ってきて欲しいのだ」


 ルルリ「イヴ女王様、その間にママ探索に行かないで。ママを最初に抱きしめるのはルルリなんだから」


 と、予がまだ、絵本の無敵の勇者様の娘だと幼い心で理解して、それを頑なに信じているのだろう。


 ごめん、ルルリ。予は万能ではない。そう心の奥で謝罪した。


 イヴ「ルルリ、これは皆の洋服代とサイズ――――」


 真央「なんであたしのサイズ、知ってのよ!」


 イヴ「未来お姉様が将来のパートナー達の身体のことくらい、知っておけ、とデータをくれたのだ、アイシャと真央とセリカの身体測定のデータを」


 真央「プライバシーがぁ、個人情報ぉ」


 イヴ「真央は知らないのだ。社交界にデビューしていないから……」


 セリカ「わたくし達王族に個人情報保護法なんて類いの法律はありませんわ。国の為でしたら、血の一滴まで利用する。それが王族ですわ」


 真央「そういう教育は……家庭教師から受けてるわよ、今は。リイーシャ、心愛、テスラを筆頭とした頭のねじが常人とは完全に解離している連中に。おかしいわよ、あいつら」


 真央は予も受けている帝王学に文句があるらしく、溜息を吐いていた。

 予は幼い頃から熟しているので別段、苦ではないのだが……凪紗南天皇家 及び クイーン王国の帝王学はストイックを超越したストイックとして有名らしい。

 政治論文提出に本を300冊ほど一週間で読み込み書くとか、疑似戦争戦略シミュレーションとか、他国の食事マナーや文化とか、護身術等々。

 別名 完璧人間作製プログラムとも他国では呼ばれている。


 絶対なりたくない職業ランキングで殿堂入りしているのがお姫様なのはきっと、それのせいであろう。


 ルルリが王族の教育と聞いただけで震えるくらい拒否反応を起こしている。それくらい、王族とは能力を向上させる努力を常に求められる。


 イヴ「皆の洋服代とサイズを書いた和紙」


 ルルリの小さな手にそれらが入った袋を手渡す。

 ルルリは予想以上の重さに身体のバランスを崩しそうになる。

 そんな様子を不審に思った真央がその袋をルルリの手からかっ攫って検める。


 真央「このブルジョアが! あたし、イヴ、セリカ、ルルリの替えの下着、洋服代で10万キュリアも使おうとすんな」


 硬貨ばかり入った袋を真央はジャラジャラと揺らす。

 ちなみに基本、お店ではクイーン銀行カード(イヴ女王様のこの銀行での預金 30兆キュリア)等のカードが使える


 セリカ「めっ! です、イヴちゃん。女王様はみんなに見られる国の象徴でもあります。わたくしがあげますわ、わたくしのお洋服代も含まれていますので遠慮はいりませんわ」


 セリカが小切手をポケットから取り出して、金額を書き込もうとする前に、真央がセリカに声を掛ける。


 真央「ま、待って、セリカ! 幾ら書き込む気?」


 セリカ「イヴちゃんのドレスに5000万キュリアはかけたいですわ。華やかで清爽な感じがいいですわ」


 両手を胸の前で組んで何やら、悦の境地に入るセリカに真央は一歩、下がってしまうが、一歩、進み直す。


 真央「ねぇーよ……」


 セリカ「うーん、真央ちゃんはでしたら、どのくらいのお値段が?」


 真央「ここはファッションセンター し〇むら一択! 安さは正義!」


 イヴ「レイお兄様の前でそれは……」


 レイ「大丈夫だ、実力社会だ。日本でシェアはしま〇らに軍配が挙がっているが、リンテリアでのシェアは俺が展開しているブランドの方が上だ」


 相変わらず、クールな顔でペロペロキャンディーを加えながらそう応えた。タバコを加えていた頃は渋いとおなごに言われていたが、ペロペロキャンディーにしてからはクール可愛いとおなごに言われており、縁談も数多く来ているらしい。


 イヴ「ユニ〇ロと……」


 真央「ああ、ユ〇クロ。最近、値段が上がったのよ。高級路線? あたしはお金を掛ければ簡単にクオリティーは上がるみたいな主義嫌いなのよ」


 レイ「そんな崇高な意志、ないだろう、真央。お金の節約と可愛さを天秤に掛けてどちらも平行になる位置を求めているだけだろう」


 真央「まぁね。そういう主義もあり、うーん、レイ様をここは立てて、ゴシックろうで安めのゴスロリ衣装。どうせ、イヴは目立つだろうからゴスロリさせておきましょ」


 イヴ「また、Lilithと間違えられるのだぁ」


 真央「あんたら、本当に似てるわよね」


 セリカ「イヴちゃんや真央ちゃん、アイシャちゃんとライブに行った時、びっくりしましたわ。イヴちゃんが舞台で歌ってる………まともに(小さな声で……)……と思いましたわ」


 真央「ほら、ルルリ、これでお願い」


 ルルリに袋を手渡して、残りの硬貨を予の猫ちゃんポーチに入れた。

 ルルリの袋に5万キュリアが入っていることになる。

 その袋の中を覗いて、


 ルルリ「大金です。これは無くさないようにしない、と」

 と意気込む。


 イヴ「残ったお金は小遣いにして良いのだ」


 ルルリ「え! 良いんですか」


 イヴ「OK牧場なのだぁ」


 そう予がルルリの手を引きつつ、応えると、予の頭上(背が低いと声が……)に、


 真央「古すぎっ! それ……」


 セリカ「バッドチョイスですわ」


 レイ「お笑いセンスを……磨くな。清楚路線で頼む」


 と攻撃力 9000程ありそうな心にぐさっと刺さる言葉の暴雨が襲う。

 予は少し、戻った処にある予の銀色の馬車を警備している女性地方騎士の処まで戻って声をかける。


 イヴ「すまぬが頼みがあるのだ」


 女性地方騎士1「はっ! イヴ女王様」


 イヴ「この子の護衛を頼む。この子はルルリ」


 ルルリ「宜しくです、お姉さん」


 女性地方騎士2「か、可愛い犬っ耳子」


 女性地方騎士3「私の娘と同じ年みたいですね」


 女性地方騎士1「こら、イヴ女王様の任務の詳細を聞くのが先よ」


 女性地方騎士4「すいません、イヴ女王様。目的地は何処でしょうか?」


 イヴ「レイお兄様のお店 ゴシック楼まで頼むのだ。決して目を離すな。敵にルルリが狙われていると想定して護衛せよ」


 女性地方騎士達「「「「「はっ、国旗と蒼薔薇に我が命を捧げて!」」」」」


 予の命令に五人の若い女性地方騎士達は膝を地に伏して、槍の穂先を自分の胸に向けて破ったら、自分の命は予に捧げると言う意志を見せる。

 中には本当に任務を達成できずに自殺してしまう者もいる。


 それ以来、予は騎士達に文章で命を粗末にするな。自分の家族の為に命を散らせと女王の名において命令している。

 これはクイーン王国の歴史の教科書に蒼薔薇女王宣言として記載されていて、騎士だけではなく、国民全員に文章でくまなく、通達されている。

 通達した日、魔剣のるーちゃんに言われた。


 るーちゃん『イヴ、死ぬことが怖くないのか?』


 イヴ『怖いよ。けど、それを回避するのに多くの民の血が流れるのは間違っているんだ』


 るーちゃん『王座にある者が死ぬことは許されない、そんな理想論は捨てるべきじゃ』


 イヴ『理想って素敵なのだ。だから、予はそれが不可能でも、心っていう宝箱に大切にしまって置くのだ』


 そんな記憶を思い出しながら、予はルルリとルルリに優しく話しかける5人の女性地方騎士の背中を見送った。


 るーちゃん「変わらないなぁ、イヴ。理想論はまだ、宝石箱の中か……」


 イヴ「突き通すのだ………。優しい世界の為に、神様の力を使ってでも」


 るーちゃん「それは神討伐魔法 ラグナロクを唱えることになっても?」


 イヴ「無論」


 るーちゃん「それは”エデン”を唱えることになっても?」


 イヴ「………」


 急激に腹部が痛くなる。

 目の前がぐらぐら、する……。

 涙が自分の意志に逆らって、地面の茶色を薄くしてゆく……。





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