第35話 ふわりハンバーガー講座 後編
アイリーンストーンをエルフストーンに修正しました。2015年 5月5日。
第35話 ふわりハンバーガー講座 後編
視点:凪紗南イヴ
場所:クイーン王国 マクドファルド
日時:2033年 4月4日 午後 2時20分
ハンバーガーを食べ終えた後、ふわりが予に決意を語る。
語るふわりの顔は喜怒哀楽の楽しか示せていないが……雰囲気が違った。周囲の空気がしまっている気がする。
ふわり「ふわり、決めたがぉ。散らばったローリンの民を集めて、意識してイヴ教の巫女をやるわん。宗教国家 ローリンを建国するめぇー」
イヴ「強いなぁ、メイリも、ふわり姫も……それに比べて予は」
と、予はレイお兄様に未来お姉様との訓練のことを語る。無論、妹の話は省いてだが……。
語っている間、レイお兄様は口を挟まずに静かに聞いていてくれた。
予が話し終わると、レイお兄様は予の頭に手を置いてゆっくりと思考と言葉を並列させるように喋る。
レイ「敵を斬りつけても、人を傷つけたくない意志が働き、ヒールが刀身に宿るか……」
学院生1「高等技術ですね、それ魔法剣っていうんですよね。まず、魔法出力に耐えうる武器がないと成功しても駄目って」
予の話した召喚器という武器の特性情報を所有している人間は少ない。予、セリカ、真央、アイシャ、未来お姉様、テスラ、心愛、レイお兄様、心お姉様、学園長くらいだろう。後はファクトリーの人間だ。
明日葉に「メカニズムを教えようか……」と視線を明日葉に向けると……予にハーレム系ライトノベルだと真央が以前、紹介してくれた本 悪魔で男の娘! を読んでいた。顔がにやにやしていて、これが国内1位のシェアを誇る新刀寺銀行の御曹司だと思うと……あの銀行の社員が可哀想だ。なんだか、教えたくなくなってきた。どうせ、勉強をしないのだから、理解できないだろう。
以前、魔法の在り方について、講義した時に寝ていたし。
その時と同じように、明日葉が今日も予の話を聞いていなかった(話している途中、あー、暗い話か、俺、嫌いなんだよねー)ので……判断は間違っていないだろう。
レイ「妹君は王族だ。そういうのには事欠かない。エルフストーンを装備していないらしいな。その事情は把握している。”今回”はそこにいるルルリの件で動くのだろう」
そう言って、レイお兄様は一人の従業員にチップを渡して一言二言話して、レイの経営している少女衣服専門店キュートクールガールへと走らせた。
それと同時にふわりも二階の自分の部屋へと上がってゆく。
しばらくすると、レイお兄様は従業員から大きな宝石箱を受け取り、ふわりも大きな宝箱をその身体に似合わず、持ってきた。
レイ「未来様から預かったモノだ。もう、反省しただろうから返してやれ、と」
その言葉を聞いた瞬間、何か、事を起こすのを予想されていたのだなぁーと予に対する信頼心のなさが露呈したような気が……と軽く落ち込む。
レイ「それは違うぞ、妹君。お前の事を未来様は案じている。きっと、今回の事もジョーカーを通して、未来様に伝わっていることだろう」
イヴ「うげー、お尻ペンペンなのだぁ」
おでこをヒンヤリとしたテーブルにくっつける。
どん、どん、とおでこを離しては、押しつける。
真央と、セリカはそれぞれ大きな宝石箱から自分のエルフストーンを手にする。
<真央は下級ドラゴンのブレスレット 魔法性能力 3678を装備した>
<セリカは雪結晶のリング 魔法性能力 4045を装備した>
真央「何、こつこつ、やってんの? あんた、あたしとセリカ、アイシャの見ている前で未来天皇代理様にお尻丸出しでペンペンされるのなんて日常茶飯事でしょ。ほら」
イヴ「ありがとう。しかし、日常茶飯事にはしたくなかったのだぁー」
真央から予のエルフストーンを受け取る。
<イヴはプリンセスリング 魔法性能力 12500を装備した>
ふわり「イヴ、これ、もってくわん」
ふわりが自分の持ってきた大きな宝箱を開けるとそこには………ローリン布で作られた装備品が入っていた。
予には、マジカルプリンセスドレス。
真央には、烈空のコート。
セリカには、洗練なるエルフのローブ。
どれも、予が見たことがあるふわりの親族達の作品の一部だ。
わずか、短時間で予達に適合するロイヤルローリンシリーズを見繕ってきたのだろう。
やはり、小さな少女の姿とは似合わず、ふわりも最高の魔法織物士の血を引く家系の人間なのだ。
イヴ「………こ、これはふ、ふわり、お前」
ふわり「もう、増やちゃ駄目にゃん。悲しみを!」
いつも、のんびりとした小動物然していたふわりには似合わない素早さをもってして、予のドレスの生地を掴んで詰め寄った。
真央「あたし達の分まで。1着 120万円くらいの品なのに」
セリカ「凄いですね。魔法織物は堅くて重い鎧の何倍もの防御力と着やすさですから……これくらいの良いデザインのモノはなかなかですね」
イヴ「形見であろうに……」
ふわり「生きるにゃん。いつか、心を取り戻すわん。イヴ、自分の弱さと闘うにゃん。命を奪う意味と命を救う意味を考えることのできるイヴが大好きにゃん」
予達は2階のふわりの部屋を借りて、ローリン布で編まれた魔法織物を装備する。
<イヴはマジカルプリンセスドレス 物理防御 7500 魔法防御 8080を装備した>
<真央は烈空のコート 物理防御 6600 魔法防御 7040を装備した>
<セリカは洗練なるエルフのローブ 物理防御 5558 魔法防御 8600を装備した>
予達は支払いを済ませて、レイお兄様が少し、ここで待っていてくれ、と言うのでしばし、露店の売り物を見ながら、待機する。
ルルリに風車を買ってあげた。
早速、ルルリは息を吹きかけて、紅い色の風車を廻す作業に没頭し始める。
明日葉「回復アイテムなんかはいつも、聖女にどつかれる都合上、用意してるぜ。俺もパーティーに入れろ」
イヴ「仕方ない、明日葉を連れてくか」
どうせ、ここで断っても数メートル、離れて尾行してついてくるのだろう。鬱陶しいのでパーティーに入れた方が楽だ。
明日葉「なにそれ、ペットの犬も連れてく的な感じ」
イヴ「駄犬であろうに………」
近くの武器屋で武器の品定めを始めた逞しい背中にまん丸と膨らんだリュックサックという登山にでも行きそうな明日葉に聞こえないように呟いた。
様々な露店が賑わいを見せている。
この賑やかさはお母様、お父様が生きていた時と変わらない。
だから、予は護らなければ……普通に笑顔で人々が暮らせる世界を。
今回はルルリやルルリと同じように親しい者の失踪という不幸に見舞われた人々を救う。
今までの戦い方は凪紗南流の素早さに頼ったモノ。それでは駄目。
刀が封じられれば、そこで終わる。
未来『闘う時は相手を格下と思い、侮るな。隙を見逃すな。綺麗に勝とうと考えるな。命が在る者が勝者だ』
しかし、予の身体では未来お姉様みたく、長時間、相手を素早さで翻弄しつつ、ミスを狙うなんて無理だ。
露店の様子を見ていた予の視界にこの世界では違法のはずの革製ショルダーケースに入った無骨な兵器が過ぎる。
レイ「イヴ、受け取れ」
何やら物を投げたフォームのまま、レイお兄様が言った。
周囲の民達がざわめき始める。
たこ焼き屋の露店主「勇者様の武器だ!」
男子学生「あれ、ショットガンって言うんだろう?」
運送のおっちゃん「ああ、そうだ」
10代少女観光客「実物、見ちゃった」
レイ「ウィンチェスターの改良版名称 レクイエムファイアだ。完全な異世界リンテリアの銃で勇者 凪紗南春明が開発した初期の勇者の相棒だ。お供にはぴったりだ」
イヴ「……未来お姉様のように刀で接近戦。お母様のように魔法で中距離戦。お父様のように相手の急所を突く遠距離射撃。そして……凪紗南イヴの超長距離殲滅魔法。これが予の闘いの型」
閃いたように見えた。自分の欠点を補う闘いが。
この体格のフリを帳消しにする多彩な戦闘法が。
剣技は未来お姉様から、魔法は駄目神と学園長から、銃はレイお兄様から教わっている。それらのパーツが予の闘いの型というパズルを完成させた。
予はショルダーケースを肩に通して、ウィンチェスターRFの重さを確かめる。
イヴ「軽い………のだ? それにお父様のそれはロングアートという名称のはず」
レイ「ローリン女王の提案で次世代を率いるイヴの欠点を補う為、勇者の武器 ロングアートを参考にしてクイーン王国の軍部が制作した究極の軽量銃だ」
イヴ「そうか、ローリン布の秘技を銃に転用したのか………。しかし、ニーテ女王の寿命は」
レイ「覚悟していたのだろうな。自分の国が生き残れない。少なくとも、自分は生きられない未来を。あの方は政治力に長けて、とても聡明だった。それが故に見えてしまったんだな、不幸なことだ。その銃は4年前に異世界連合の認定を受けて特別にOKを貰っている。違法にはならん」
ああ、これは、と予がグリップを眺める。
予の予想通り。
”神に捧げます。私の10年の命の時間を”
拙い日本語がグリップに刻まれていた。
本当の意味は……きっと、いや、無粋な推論だ。
イヴ「軽いのに、一番重いのだ。3年前は遺言も言わなかったのだ。今更」
レイ「俺も行くぞ。見届けてやる、妹君の本当の初陣を」
悲しみと嬉しさを噛みしめて、予はレイお兄様の言葉に頷いた。そうか、今まではその場の状況で巻き込まれてが多かった。
予はきっと、人間の命を能動的に奪う。
気持ちが悪い。
吐きそうだ。
しかし、前を向こう。
<イヴはウィンチェスター RF 攻撃力 7777を装備した>
レイ「お前ら、行くぞ!」
セリカはキツネのお面を顔側面に被っていた。
真央はチョコバナナを頬張っている。
ルルリは水鉄砲の水を付近の井戸から補給している。
予が武器の逸話に感動している最中、みんな、勝手をしていた。
さぁ、言い訳を聞こう。
セリカ「露店のおじ様には病気の子どもがいらっしゃると言うことなのでわたくし、売り上げに貢献していましたわ。残りのお面もシーリングのお城に運ばせますわ」
真央「チョコバナナのセールをやっていて、しかも、一本買うとくじが引けるのよ。……外れたけど」
ルルリ「セリカ様に買って貰いました。ルルリの武器です! これに辛子を入れようと思います!」
明日葉「俺より酷いだろう? こいつら」
イヴ「おい、明日葉。その背中越しに隠している本を見せるのだ………」
明日葉「これは、男には必須のアイテムだ!」
そう言って慌てる明日葉の手中から、そのアイテム ロリ少女の全裸写真集が地面に落ちた。
いたずら好きの風が数ページ、捲ってゆく。どれも7歳~13歳のロリ少女のヌード集だった。日本では児童ポルノに分類されるので逮捕されるだろう。
時が止まったように予の時間は停止した。
イヴ「騎士よ!」
騎士「はっ、イヴ女王様」
イヴ「この変態を日本に連れていけ! 新刀寺の者に引き渡すのだ!」
騎士「はっ」
明日葉「そん、そんなぁー、イヴちゃん! お兄ちゃんに酷い仕打ち!」
二組の騎士に腕を掴まれて、地面に両足を引きずるようにして、明日葉は運ばれてゆく。後生大事にロリ少女の全裸写真集を胸に抱きながら。
予はあのような邪な男を戦場に連れていくつもりはない。
レイ「地方騎士局に何か、情報が入っているだろう。俺の店の者がイヴ女王様がそちらへゆくと先触れをしてくれている」
戦闘パーティーメンバー
凪紗南イヴ Level 5 職業:凪紗南天皇家 皇女、クイーン王国女王
北庄真央 Level 22 職業:北庄王国 第一王女、人気イラストレーター(秘密よ! by真央)、南屋の牛丼店 バイト店員
セリカ・シーリング Level 13 職業:シーリング王国 第一王女、子猫の鳴き声代表
レイ・リク Level 40 職業:クイーン王家分家 リク家当主、ファッション業界で色々、と。
同行メンバー
ルルリ・ミカサギ Level 1 職業:小学生、街人




