第32話 それも一つの道 個の平民、個と集の貴族と王族
第32話 それも一つの道 個の平民、個と集の貴族と王族
視点:凪紗南イヴ
場所:クイーン王国 クイーン王国城下街
日時:2033年 4月4日 午後 1時27分
予達が城下街を歩いていると、当たり前のように視線が集まる。それは当然のことだ。王族の者が3人もいるのだから。
手を振ってくる民達に予は物心つく前より両親から教わっていた笑顔と手を振り返す動作を続ける。
道ばたには浮浪者がいなく、地球の地下都市ではまず見られないアスファルトのない土の道をブーツで踏み歩いてゆく。
木々から木洩れ日が差し、その光の眩しさに手で日傘のようにして、光を減少させたいが民に手を振る動作を止められない。
民達の視線に慣れないのか、耳と尻尾を垂らせて、ルルリは俯き加減に予達の後ろというポジションでついてくる。
ルルリ「うー、なんか……ルルリは大勢の目線が気になるのです」
真央「あんた、びくびく震えすぎ。もうちょっと! ほら、ちゃんと」
真央は歩く速度を落として、ルルリの後ろに回って、その背中をダメージにならない程度に叩いた。
ルルリ「ひゃうん!」
と情けない鳴き声をあげる。
とはいっても、いきなり叩かれたら、予もびっくりするかもしれない。
真央「背筋を伸ばして。悪いことしてないんだからね」
おっ! もう、そんな時間なのか、と予は予と同じ体格の男の子と女の子が手を繋いで仲良く、家へと目指している姿を発見する。
今日の給食はどうだった? という話題で盛り上がっているようだ。
セリカ「イヴちゃん、両世界で一番、人気で優しいので見て怒るってことないし……ほら、あれですもの」
予は小学生の二人組のところへと駆け寄ってゆく。
イヴ「お、今日も小学校で勉学に励んだか?」
男の子「はい、イヴ女王様!」
女の子「はい、イヴ女王様!」
イヴ「おう、元気だな。よし、予が褒美をやろう。待っているのだ」
近くにあった屋台へと予は駆け寄って、そのカウンターの中でせっせと棚の整理をしている店主に声をかける。
露店主 ハチロウ「へい、いらっしゃい。今、棚を整理してるっからちょい、待ち」
いや、待っていたら、数十分も待たされるなんてこともある。それはここに買い食いに来ている学生の間では有名だ。
そして、予はここの女王なので必ず、謝れる可能性がある。それはなんか、双方にも利益が無い。カウンターから身を乗り出して、御菓子の並ぶ棚を見つつ、カウンターを気が付いてくれ! と何度も叩く。
イヴ「ハチロウ! 予だ、予。イヴだ!」
予の声に気が付いたのか、はっとした表情で青い長い髪を後ろで縛った男性が予の顔を見て、素早くお辞儀をした。
ヨレヨレのエプロンを直してから、優しいゆっくりとした口調で予に接客を始める。
露店主 ハチロウ「イヴ女王様、今日は何をご入り用で」
イヴ「ペロペロキャンディーを2本、頼むのだ!」
露店主 ハチロウ「ああ、レイ会長様のかい。あの人。毎日、買いに来るよ。そういやぁ、タバコ加えていたのに、数年前からキャンディーだなぁ」
イヴ「タバコ臭いのは嫌いなのだぁ。臭いと言った後、ヒール リフレッシュで口臭を改善したことがあるのだぁ。それからか……あ」
そう予が一緒にファッションパーティーを見に行った時に発言した次の日から顔色が青かった。あれは予に嫌われたと思ったのだなぁとあの頃は台風災害に対する備えに忙しくて気が付かなかった。そうすると……。
イヴ「すまぬことをしたのだぁ……」
露店主 ハチロウ「まぁ~、最近、異世界連合から解禁された情報に癌ってモノになりやすいんだろう、タバコは?」
イヴ「そうであるなぁ、止めて正解なのだ」
完全に止めたご褒美に今度、何か贈ってやろうと予は心の片隅に記憶しておく。
店主は真ん中の棚から、何本も刺さっているペロペロキャンディーのうち、2本を無造作に選び、予に手渡した。
露店主 ハチロウ「ほい、ペロペロキャンディー。今日は妻のやつ、メロン味にしたぜ。2つで230キュリアだ」
イヴ「500キュリアなのだ。おつりはハチロウの娘 メイリのおやつ代に、なのだぁ」
と言って、予は100キュリア星を五枚、店主に手渡した。
予に礼のお辞儀をするのを手で制してから、待っていてくれた小学生2人組にペロペロキャンディー メロン味をそれぞれに手渡した。
ありがとうございます、と予にお礼を言って、小学生2人組は明るい日の差す道を歩いていき、次第に姿が見えなくなった。
あれが予の護っているモノ一部と思うと、予はもっと、努力せねば! とそんな思いに駆られた。
露店主 ハチロウ「なぁ、平民がローリンの貴族の娘を……」
イヴ「権力者でない方が良いのだ」
苦悩の顔を浮かべる店主に予はそうではない、と諫める。
彼の義理の娘 メイリは3年前、予がフワリ・ローリン姫と共に砂漠の地にて彷徨っているのを見つけて、保護をした。
当時 6歳のフワリ姫を胸に抱いた12歳のメイリの服装は誰かの血で濡れていた。焦燥した顔のメイリは予の顔を見て、震える唇を動かした。
メイリ『銀色の瞳? その容姿。先程、助けてくれた”本物”と大差ない体格の……大きな鎌を持った魔法使い様?』
イヴ『ん? 本物? 予は一人なのだ。それより、その子はフワリ姫だな。予はイヴ・クイーン。クイーン王国の女王、統治者だ』
メイリ『え? 同時に風魔法を何十発も放っていた魔法使い様ではないのですね……。失礼しましたイヴ・クイーン女王様。私はフワリ姫を”北庄により滅亡したローリン”から逃す為に最後の任務として女王より命じられた四大貴族の一家 スノウデンのメイリと申します』
イヴ『ニーテ女王は?』
メイリ『北庄との戦いで戦死なさいました。最期はフワリ姫を護っての……槍と魔法に貫かれて、焼かれても、フワリ姫を守り抜いた立派な母親としての最期でした。こうなることが解っていましたから、ローリンで若くてその年代で一番、魔法と剣の腕に冴えがある私がフワリ姫を……。全て、北庄のブレスに燃え尽くされました。男は殺されて、女は犯されて……子どもは臓器を引き抜かれて死にました。多分、生き残っているのは数百人にも満たないでしょう……』
アイシャ『戦争の条項違反です。抗議なされてはイヴ?』
イヴ『いや、もう終わってしまったことなのだ。予はいつか……ハンバーガーフリーク同士だったニーテ女王の仇を、ローリン国の民達の仇を討とう』
メイリ『その時は私も』
イヴ『いや、もう、お前は貴族では無い。国がないのだ。姫共々、平和に暮らすのだ平民として、予の国 クイーン王国で』
その決断は正しかった。3年間、メイリは普通の平民の少女として、貴族や王族が悩む集に囚われることなく、個のみで平和に暮らしている。
それも一つの道なのだ……。
それを創ってくれた店主に予はこう諭す。
イヴ「貴族の人生ばかりがメイリの幸福ではないのだ。貴族、王族は大変なのだ。特に皇女と女王の役をこなす超絶可愛い予はお尻ペンペンの恐怖に怯えながら両世界で公務をしているのだ。それに……今のメイリは笑えているのであろう?」
その予の言葉に店主は首を縦に振ってくれた。
優しい父親の笑顔を浮かべて。
そのメイリの父親が心配そうに語る。
露店主 ハチロウ「今、北庄で紛争がまた、始まっているのだろう。女王様がいけば……」
イヴ「まだ、内輪もめ程度なのだ。予が巻き込まれたから内政干渉が可能だった。しかし、今や、テロリストや雇われ傭兵の巣みたいになっているのだ」
とは言っても、内政干渉ができないわけではない。
北庄真央第一北庄王女という手札を使えば、いつでも……というよりも予の弱さがあるので使えないのだ。治癒永続の陣で見せた戦法はもう、北庄では通用しないだろう。対策がなされているに違いない。それに……未来お姉様やレア・ミィール妖精女王様などのお偉い方々に止められている。
未来『人を殺す覚悟がないのならば、紛争地帯に行かないことだ。非暴力? 笑わせるな。それは殺し屋の前で暢気にフライドチキンを食べているくらい滑稽だ。行けば、必ずお前は刀を抜く。その時のお前は後悔しているはずだ、断言しよう』
その言葉は全く正しかった。
人の命を奪った事実に予は動揺し、飲まれたのだ……。
露店主 ハチロウ「あのハゲデブ王様、自分でなんとかするって言ってるんだろう」
イヴ「ほう、詳しいなぁ」
露店主 ハチロウ「俺なぁ、メイリにはイヴ女王様を補佐する大臣になって欲しいだよ。馬鹿なオヤジじゃあ、格好がつかないだろう」
一瞬、言葉が出なくなる。
馬鹿な。平民としてクイーン王国で暮らしてれば、まっとうな生を享受できるというのに。
自ら、青い血の呪いを再び、背負うのか。
メイリよ、もう……充分であろうに。
予は銀色と金色の瞳で店主を睨み付けた。本気で殺気を込めて睨んだ。
イヴ「………それがどういうことか、理解しておるのか、メイリは?」
露店主 ハチロウ「誰かが立ったなければ平和は保てない。祖国は消滅したけど愛する国は自分の手で護るってよ」
つまりは政争の末に道半ばで自分の生が汚される可能性もあると織り込みということか、あの地獄から生還しても尚、その心を保てるとは……予は笑った。
イヴ「強いな」
予はあの地獄の光景を言葉で聞くことしかできなかった。北庄には予を疎む連中がそこら中にいるのだ。
レア『魂のしらべを回収にいた妖精の報告では人間の灰の跡のついた光景が何千と広がっていたそうよ。むごい、竜の炎』
しかし……予は便宜上、問おう。その決意を。
イヴ「その話をするってことは予に頼みがあるのだろう。しかし、予はプライベートと国の利益は分ける王だ。それは知ってのことであろう?」
露店主 ハチロウ「俺は娘の為、国の為ならば、死ねる。それは娘も同じこと。それが応えだ、女王様」
店主は予にメイリの書いた手紙を手渡した。
そこに書かれていたのは……ただ一言。
”暴力で変えられる世界なんて在ってはいけない。私は絆と絆が紡ぐ世界をイヴ様と共に、いつか病んだ心が癒えたフワリ姫と共に、生きたい!”
安穏を選ばないのか……。
目を閉じる。
リン『いーちゃん、王族は犬死にすることは許されません。ただ、民の為、世界の為に平和の理想を体現する為に死んでゆくのです。それは唯一の道 王道なのですよ』
王道しかない予に……貴族の道を選んだメイリ。
どうするのだろう、ふわりは。それは心が癒えての話か。
今はただ、祝福しようメイリによくぞ、戻ってきた、茨の道へと、と。
メイリが貴族に、クイーン王国の予のそばで働けるほどの貴族になるには簡単だ。
予のめがねに適った人間とつがいになれば良い。それが避けられない方法。
イヴ「それも一つの道なのだな。良かろう、その選択、予が見届ける。追って貴族の……それ相応の。んー」
イヴ「真央?」
真央「何よ、イヴ? ってか、早くご飯、食べに行こう。すげー、時間オーバーしてる」
イヴ「メイリは百合か? それともノーマルか?」
真央「な、何を聞くのよ。そ、それは……百合じゃなかったっけ。あんたの写真で……ああ、言えねぇー」
セリカ「ああ、それは慰めネタランキングのお話ですね。一位 イヴちゃん 2位 真央ちゃん 3位 わたくし 4位 イヴちゃん&アイシャちゃんー」
イヴ「ふへ?」
真央とセリカの会話が解らない。つまりは予は何かの癒やしアイテム扱いなのか? としばし、眼を瞑り考えに耽る。
露店主 ハチロウ「すまん、イヴ女王様。うちの娘が」
イヴ「な、慰め? 予の写真で元気になるなら、良いのだ。民の為になっているのだな。気分が良いのだ!」
とかっと眼を見開いてよくわからないが無理矢理、答えをはじき出した。
ルルリ「あ、あのー、それは……」
真央「イヴはそういうの幼女並みだから、気にしない。あたしはあのままが良いし」
セリカ「で、どうしてそんな話に?」
先程のメイリの話を真央達に説明する。
真央は溜息を吐いた。
セリカは嬉しそうに微笑んだ。
ルルリはただ、話のスケールの大きさにおろおろしている。
真央「あんたねー、肩入れしすぎ。桜花学園の入学推薦状で良いでしょ。そっからは本人の実力と運次第ね」
セリカ「そうですね、クイーン王国の貴族の方も通っていまし、派閥を築いていますわ。イヴちゃんの推薦状ならば、虐められないでしょう」
イヴ「では、さっそくなのだ。和紙と筆を」
そう言って入学推薦状をその場で即したためる。
この手の書類は何度も書いているので楽なものだ。
予がしたためる周囲で真央達がしゃべり出す。
ペロペロキャンディーを舐めながら。
真央「あんたって本当にお人好しね。まさか、全てのローリン人を救おうってしてんの」
イヴ「可能な限り救うのだ。ローリンが崩壊した3年前に他国にもそれぞれ受入金 30億キュリアで受け入れをお願いした。追跡調査で躓きそうになった者の改善をお願いもしているのだ」
真央「はぁー、イヴ教」
イヴ「ん?」
セリカ「イヴちゃんのペットとして名目上 飼われているふわりちゃんを巫女として定めて、イヴちゃんと同じ優しい行いをみんなでしましょう宗教」
ルルリ「良いことですね、悪い人が減ります」
イヴ「まずいのだ」
ルルリ「ん?」
イヴ「一番、あちらの世界 地球で戦争を起こす要因となったのはなぁに? はい、ルルリ」
ルルリ「わ、わかりません」
小学生には難しい問題かもしれない。いや、異世界 リンテリアは基本、リンテリア神を崇めるリンテリア教なのでこの世界は疎いのだ。
信じることの狂気に。
信じることの救いに。
リフレッシュ ヒール→ヒール リフレッシュを修正。5月24日。




