第29話 召喚器制作 Ⅴ 戦場に降る銀の雪
重要な治癒永続の陣 過去話 続く。
第29話 召喚器制作 Ⅴ 戦場に降る銀の雪
視点:北庄真央
場所:竜族の国 北庄 北庄王城付近
日時:2031年 7月14日 午後 1時38分
心愛『ほう、これは用意周到。人望がない』
真央『なんで、貴族を護っているはずの国軍が!』
イヴ『予の思っていた以上に竜王家は求心力を無くしていたのだな』
アイシャ『……ちっ、いけるか……』
セリカ『あら? まぁ。囲まれてますわ』
源『おしまいだ』
ジョーカー『殺す?』
それぞれ北庄王城から脱出したあたし達は口々にそう言った。
20000人もの軍人が城を囲んでいた。
皆、遠距離用の弓矢を装備している。いつでも、放てるぞ! と構えていた。
ちらほら、と見たことのある貴族の顔がある。
そいつらは北庄竜王家をここで滅ぼしても痛くないという無表情な顔をして、軍人達の肉の壁の内側に立っていた。偉そうに仁王立ちで。
随分と余裕だ。それはそうね、こちらに撃って出る手なんかない。
北庄の城にいるメイド、軍人、庭師、料理人などなどが震えている。
誰だってそうだ。リンテリア教を馬鹿にしていたパパでさえ、『リンテリア様、お助けを。お助けを』と祈り初めてしまいたいくらいに死の恐怖に心が焦り、身体がそれに縛られて動けない。
真央『終わりだ……潔く』
あたしとパパは死のう。そうすれば、他は助かるとイヴに提案しようと重い口を動かし続けようとした。
しかし、銀色の少女の銀と金のオッドアイは死の恐怖に縛られてはいなかった。
ただ、冷静に銀糸をかき上げる。
イヴ『ジョーカー、それはせぬ、殺すな。………永続神化をして共鳴神技を撃つ』
真央『共鳴神技?』
聞いたことのない流派。
イヴ『体内にある魔法と技の源を創造し、命を支える臓器アナムネーシスの器を共鳴させて、莫大な威のある技 共鳴神技が可能になるのだ』
真央『そんなの聞いたことない!』
いや、それ以前に不可能だ。魔法の源 魔力、技の源 SOULは同じ現象に介入させると相互消滅を起こし、不発に終わる。
だが、心愛に耳打ちされているイヴの顔はいつもの尊大さを保っている。
セリカ、アイシャはお互いに槍、聖剣を構えている。その表情に悲壮感はなく、イヴに対する信頼が顔に現れている。
イヴ『アナムネーシスの器の一つが予でなければならない縛りがあるのだ』
その言葉を言ったイヴの両肩を突然、現れた銀色の髪のセミロング少女神 リンテリアが軽く叩く。
少女神 リンテリア『そうそう、虫の技じゃないからねん。神の運命粒子を消費する神の技なのよん。神の運命粒子は回復するけどん、今のいーちゃんだと一回が限度ねん』
イヴ『駄目神、ストーカーか』
アイシャ『そのポジションは私です!』
いや、それはどうだろうかと。
しかし、初めて見た世界を管理する神様はなんというか、駄目オーラを放っていた。
よれよれのTシャツから乳首が見えそうだし、Tシャツには【年収1000万円以上のロリっこ、私を保護して♪】と印字されてあった。
下はスパッツと………なんだ、この駄目さ。
駄目神様は何やら、虚空を舌で一生懸命、ぺろぺろしている………。
少女神 リンテリア『いつでも、ぺろぺろを狙ってるよん。永続神化したいんだねん。あ、潜在的な力を少しの間、引き出してあげるんから、全身ぺろぺろ?』
イヴ『……待って考える』
少女神 リンテリア『では、いくよん。今回限りのLevel 3000バージョンで♪』
真央『強くない、それ?』
さすが、神! 人の潜在能力を引き出せるのか。
あたしの能力も引き出して欲しいものだ。
少女神 リンテリア『虫、いーちゃんの本当の力の一欠片もないのよん』
あたしを見る目はイヴに向ける優しく、人の良い笑顔ではない。
ああ、人間を人間と認識していないのか、とすぐに理解した。
イヴ『……お胸ぺろぺろ一週間で、永続神化のみ』
イヴが絞るような声で小さく、宣言した。
少女神 リンテリア『ふざけるな! お前には向上心がないのか!』
イヴ『変態』
少女神 リンテリア『そうだ、お姉ちゃんは変態だ。何が悪い』
アイシャ&真央『『悪いわ、変態!』』
少女神 リンテリア『素晴らしきユニゾン。仕方ないねん、胸ぺろで許す! そーれ♪』
そーれ♪ と気の抜けた言葉と共にイヴが光に包まれて、
イヴ『よし、行くのだ!』
と言い放って、光の中から姿を見せた。
銀色の2枚の翼を背に生やしていた。莫大な力をイヴから感じる。
これが神の力……と思わず、息を呑んだ。
少女神 リンテリア『適当にがんばれー』
そう言って駄目神様はその場に座り、何処から出したのか? 裸の幼女の3次元絵の描かれたエロ漫画を読み出す。
イヴ『ジョーカー』
ジョーカー『了解』
イヴ&ジョーカー『『エンゲージ・アナムネーシス』』
その言葉の威に応えて、イヴの薬指とジョーカーの薬指を紅い魔力とSOULの籠もった糸が結ばれる。
双方の間で激しく、魔力とSOULの輝きが行き来している。
ジョーカーが聖剣 エクスカリバーを構える。
徐々に聖剣 エクスカリバーの刃先が白く輝き、そこから上空へ1000メートルほど伸びた螺旋状に絡み合う光が構築された。それは僅かな時間の間に。
ジョーカー『手加減難易度高! しかし、実行。共鳴神技 神葬流 秘奥義 螺旋追想破斬』
聖剣 エクスカリバーを容赦なく、20000人もの軍人が城を囲んでいる正面へと振り下ろす。
螺旋の光は人間のように意志のあるように正面の軍人達を目指し、その胴体を激しく突き上げる。
空中へと投げ出される軍人達の叫び声など、意に関さず、さらに光の螺旋は円のように城を囲む軍人達をさらなるターゲットと見定め、走ってゆく。
みるみるうちに軍人達は空中へと投げ出され、堅い土の乾燥した地面に叩き付けられた。
気が付けば、ジョーカーの一振りのみで15000人くらいの人間が地に伏していた。
辛うじて息をしている。微かに細かな呼吸音が聞こえた。
リイーシャ『イヴ皇女様、今のうちに!』
見計らったように何処からか、来客が多い時に使用する通常よりも大きな馬車をメイド服を着た金髪の女性が操って、イヴの目の前に停車した。土煙が巻き上げる。思わず、あたし達は咳をしてしまった。
馬が急に停止したことに不機嫌そうに嘶く。
アイシャ『ナイスタイミングです、姉上』
イヴ『駄目だ、間に合わぬ』
どうやら、増援が来ることを前提にしたイヴの発言。だが、とようやく、役に立てるのだとあたしは微笑む。
真央『なら、あたしの出番ね』
イヴ『なに?』
見てなさいよ、というようにあたしは微笑み、両腕を組んだ。
真央『見せてあげる! 竜変身を! はっ!』
あたしの意識が一瞬、暗転して、景色が、視点の高さが全く変わる。
あたしより遙かに背の小さいイヴに合わせて、首を曲げて、その場に中腰になる。
今のあたしは身長 590cmのルビーサラマンダードラゴンという小さな紅い竜に変身したのだから、北庄の者以外は目を丸くして、驚いていた。
頬が緩くなる。なんか、過剰に褒められている気がした。それは幻だけど。
イヴ『大きいのだぁー。照り焼きバーガー何個食べればそうなるのだ……』
真央『関心どころが微妙。それより、乗った乗った』
馬車を鋭い爪で指さして、乗車を促す。
促されて、セリカ、アイシャ、ジョーカー、心愛、パパ、リイーシャは馬車へと乗る。
乗ろうとしないイヴはあたしにアドバイスを送る。
イヴ『真央、魔法や技の効果範囲外の……おそらく、高層ビル 50階立て屋上辺りまで高度をあげるのだ。ドラゴンもそこまでは来られないのだ!』
真央『そんなことしたら、息できねぇーよ!』
当然のことだとあたしのツッコミにイヴはうん、うんと二度、頷く。
イヴ『大丈夫なのだ! 全員に風魔法 エアタンク!』
一瞬、風が全員の身体を包み込み、すぐに消えた。
消えたのは視覚で認識できる現象で、あたし達は肺呼吸から魔法呼吸へとシフトした。
真央『一つの詠唱で数人に。魔法の定義を越えている』
イヴ『永続神化した状態ならば、かなりの魔力・SOUL制御が可能となる。さて、テスラお手製の選挙アプリを立ち上げて」
腕時計型携帯電話のホログラム ウィンドウを作動させてからジャンプして、馬車の上に軽やかに着地する。
イヴ『と!』
真央『何してんの? そこ屋根、危ないわよ』
イヴ『これから利益無き争いをする馬鹿共に無限地獄を体験してやらせるのだ』
と、底意地の悪い幼女がいたずらをする時の笑顔をイヴは浮かべた。
真央『無限地獄? なんのこと』
イヴ『ゆくのだ、真央』
あたしの言葉を無視して、燦燦と降り注ぐ暑い光の元 太陽を指さした。
あたしは馬車を両手で抱きしめるように持って、巨大な翼を羽ばたかせて、空へと飛んだ。
それを確認した軍人達は弓矢 約900発、炎の魔法 ファイアボム 約3000発を放った。あたし達を撃墜させようとそれらは迫る。
もう、駄目だと眼を瞑った。
その瞬間、異様に飛行速度が上がり、攻撃を回避した。攻撃対象を失って、多くの弓矢や炎の魔法が互いにぶつかり威力を消失した。攻撃より上の高度へと上昇できたのでこれは多分、イヴの無属性魔法 スピード ゲイザー。
しかも、かなり、アップしたことから、50%の魔法大学顔負けの魔力濃度だっただろう。
普通は魔法を発動する際に、微かに魔力が膨れあがるのが周囲に伝わるはずだが………全く、それがない?
背筋がぞっとした。これが神と人間との差。
徐々に高度を上げてゆくが、イヴは難しそうな顔をしていた。何やら、『予は自分の能力を超えなければならない民の為に』と同じ言葉を繰り返し続けている。とても、口を挟める余地はない。
イヴ『そこで高度を維持するのだ!』
イヴの言葉に従い、上昇から高度の維持に翼を羽ばたかせる。
イヴが腕時計型携帯電話を目線に近い位置まで上げて、顔を近づけると………先程、準備したホログラム ウィンドウにイヴのロリ顔が映る。
何やら、イヴが腕時計型携帯電話の別のホログラム ウィンドウを表示させて、しばらくホログラム キーボードにて、弄っていると………イヴを映したホログラム ウィンドウはもの凄い大きさになった。
これならば、数十キロ先にもイヴの顔が確認できそうだ。
それを確認してから、イヴは出現させたバーチャルのマイクに向かって演説を開始する。それはイヴの挑戦だった。
華井恵里に踊らされた者達の呪縛を解く挑戦だった。
イヴ『貴族を護り北庄竜王家を滅ぼしてそれにとって代わろうとする国軍、民を護るべく竜帝の洞窟付近にて防衛を敷くリンテリア教民衆守護義勇軍、反北庄王家の戦力でありながら華井恵里に騙されちゃったキリアナ率いるキリアナ戦線!』
言葉を切ってから、胸が少し膨らむほどに息を吸う。そして、吐く。
再び、言葉を紡ぐ。その言葉は冷たく、凜々しく………容赦ない。
イヴ『おそらく、諸君らはこれより、この紛争にて、一度も誰も傷つけることが叶わないであろう。尚、”紛争ごっこ”がもう、嫌だになったら、シオリル平原に代表を送ることだ。予は3者の代表が交渉のテーブルに着くまで待とう。何、計算ドリルでも解きながら待っている。焦らずともよい』
そう言葉を言い切ると、腕時計型携帯電話の選挙アプリに関する処理を完了させた。
さぁ、続きだというように己を律するように両足を何度か、叩いてあたしの聞いたことのない属性 治癒魔法のイデアワードを唱える。
イヴ『エンジェル フィールド』
銀色の雪が降り始める。その一つ一つがHP全回復させる効果のある魔力を保有している。しかし、それでは満足できないのか、イヴは首を振って『失敗』と苦々しく呟いてから、さらに銀色の塊 二つをそれぞれ右手の平と左手の平に構築してゆく。
真央『ちょ、あ、あんた』
その明らかに無理をしている魔法の行使にあたしは焦った。
普通の人間がこれほど、魔力を放出していては確実に死んでしまうからだ。だから、魔法を習得しようとする人間はまず、初めに自分の限界以上に魔力を放出するなと教わる。その禁を破ることで魔法を成す禁断の方式を……絶唱式と呼称している。
噂程度に聞いたそれが今、成功するか、しないか? の瀬戸際にある。
イヴ『越えろ! 今一度だけ、予の魔力をもっと、収束させて素早く!』
両手の平を重ね合わせようとするが……二つの銀色の塊は反発し合い、イヴの意志に逆らい、銀色の塊同士が少しでも接触すると弾かれる。
その作業をゆったりとあたし達を追って飛んできた駄目神様がロリエロ漫画を横目で見つつ、観察していた。
少女神 リンテリア『へぇ、凄い。自力で。この日だけ産まれる治癒魔法 エンジェル フィールド、蘇生魔法 リヴァイヴの融合魔法 ヘブンリー ヒール』
信じられない………。
あたしの思考が停止した。
蘇生魔法? イヴという存在は人間を蘇らせられるのか。
それが本当。いや、本当なのだろう………。それが白日の下に晒されれば、世界は崩壊するだろう。みんながイヴを頼り、生にしがみつく。イヴをどうにか、手に入れようとする。
ここに明確な世界の破滅の種がある……。
130cmほどの小学生のような可愛さと、激しい風に晒されながらも揺るがない銀色の髪の少女の凜々しい金銀のオッドアイの両輪を備える少女は第四次世界大戦のトリガーになるだろう存在。
誰もがイヴの影響力を見て、そう嫉妬交じりに評価したが……それさえ生ぬるかったのだ。真実は……。
ただ、あたしは憧れを込めて、少女神 リンテリアに説明を求める。
真央『そ、そん、な魔法の融合?』
少女神 リンテリア『………計画を早める』
そのような呟きが偶然、あたしの耳に届いた。
やはり、虫として認識されている人間であるあたしの言葉に耳を貸さない。
ちょっと、いらついた。だが、無意味だろう、それが絶対的な力なんだ。
イヴ『融合魔法 ヘブンリー ヒール』
両手の平が完全に触れあった瞬間、その言葉はイヴの淡いピンク色の唇が開き、紡がれた。
両手の平にあった銀色の光はさらなる高みへと上昇して、銀色の雪と化して、先程とは全く、遙かに距離が異なる竜の国 北庄のあるドラゴン島の端から端へと広がってゆく。
イヴ『魔力がどんどん持ってかれる』
持続させるのがつらいのか、イヴは馬車の上に寝転がり、自分の放った銀色の雪を浴びながら、小刻みに呼吸をしている。
どうやら、起き上がる力もないらしい。
それだけで済んでしまうのだから、神様は理不尽だ。
いつの間にか、駄目神がいなくなっていた。
ってか、オタクだから、秋葉原にエロゲでも購入しに行ったのだろう。イラストレーターを目指すあたしだからこそ、解る。こんなことがなければ、お伴をしたいくらいだ。
あたしは眼下に広がる戦場を竜族の身体能力が高いからこそ、見える視力で眺めた。
ある者は頭部に剣が刺さっていて血が流れているのに戦いを止めない。
ある者は敵兵を盾にして弓矢や魔法を防ぎつつ、戦いを止めない。
ある者は敵兵に両足を切断されて動けなくなったが、両足が治癒の雪によって再生されて戦いを止めない。
ある者は壊れた武器を捨てて、素手でとりあえず目の前にいる敵に拳を振るい、戦いを止めない。
三つ巴の勢力達は地が震える怒号を上げて、闘う方法は様々だが……戦いを止めない。
30分。
60分。
2時間。
3時間………。
愚かすぎる。せっかく、神に救われる機会を創ってもらっているのに、それをラッキーだと短絡的に考えて目の前の敵を倒し、その先にだけあると思い込んでいる栄光ある明日の為に武器を取り、戦いを止めない。
*
真央『これでも戦いを止めないなんて』
イヴ『時期に止めるのだ。誰一人、死なない戦いに大した意味もない。戦争は誰かの死があってこそ、続ける意義が発生する。死が尤も人の憎悪の連鎖を生むのだ』
でも、それ優しくて残酷で……狂ってるよ、イヴ。
*
イヴが予想した通り、この紛争 治癒永続の陣と後に名付けられた争いはたった1日で午後9時にシオリル平原にて、イヴ・クイーンがしばらく、竜の国 北庄を臨時統治することが条件として紛争は終わった。
神、イヴがいなければ、竜の国 北庄は滅んでいただろう、細分化の果てに。
羨ましかった。運命を切り開くその意志とその力に。
そして、あたしは凪紗南イヴ、イヴ・クイーンという三次元ならば、メインヒロインに起用されるであろうロリ少女に恋をしている自分に気が付いた。
素直に自分にありがとうと言いたかった。
それくらい、イヴに恋い焦がれていた。
そんなあたしをまた、運命はあざ笑う。
くそったれ。




