第28話 召喚器制作 Ⅳ 王族のあるべき姿
第28話 召喚器制作 Ⅳ 王族のあるべき姿
これは今から2年前の記憶。
イヴに出逢った時の記憶。
ここにあたしの願いの原点は在る。
視点:北庄真央
場所:竜族の国 北庄 北庄城
日時:2031年 7月14日 午後 0時20分
あたしは北庄竜王家の姫の身分だけでここにパパの命令で座らされている。
そのパパは脂ぎった汗を流しながら、クイーン王国女王 イヴ・クイーンやシーリング王国第一王女 セリカ・シーリングやリンテリア教会聖女 アイシャ・ローラントといったあたしと6歳ほどお姉さんの異世界 リンテリアの重要人物と会食をしている。
その会食の空気は砂漠地帯の多い北庄国特有の乾燥した熱い空気を跳ね飛ばして、あたしに冷たい汗を流させるくらい、スパイシーなモノになっていた。
それもそうだろう。
彼女達は北庄に抗議にきたのだ。
異世界連合を代表して、異世界連合の言葉を伝えにきた。
イヴ『北庄源竜王様、異世界連合の決定は事前に伝えている。テロリスト 華井恵里の息の掛かった古代魔法研究会 エクストラの研究長 バスト・エルゲーを匿っているらしいな。引き渡せ』
メイドが用意してくれた野菜スープ、パン、数が豊富の果物などに手をつけることなく、着席してすぐに銀色の髪のわずか13歳のロリ少女 イヴが容赦ない言葉をパパに浴びせる。
パパはプライドだけは無駄に高い人間だ。文系、理系の能力は乏しく、暴力で人を従わせる。あたしに言わせれば、異世界リンテリアの中で最低の資質の王だ。
そんな愚才が139cmほどの幼い女王に言われたら、腹を立てるだろう。案の定、パパはテーブルをナイフを持った拳で激しく、叩く。
その振動でワイングラスが傾き倒れた。
ゆっくりとシルクの白い布に薄紫色が侵略している。
それはあたかも、周辺諸国であったアリス族の国々を侵略によって吸収した竜人の強欲を表しているようだった。
噂ではイヴはその滅びた国々の一国 ローリンの姫 ふわり姫を匿っているらしい。
源『黙れ! 英雄の娘よ。貴様の親が英雄であって、貴様はただの小娘にすぎない。我が国にはそのような愚物、存在もしない。世界の警察のつもりか? そこのハーフエルフの小娘に資金を渡し、最近では偽善の施しもしているようだな。ご苦労なことだ、生きる価値のない力なき存在に』
あたしはその言い方にイラッとした。しかし、ここであたしが言葉を紡ぐことは許されていない。ママは生きる価値のない力なき存在としてこいつに切り捨てられた。
ママのようになるな、お前は素質がある、と繰り返し言われてきた。
しかし、油ぎったお腹がボールな中年男性であるパパが、雪のように白い肌の少女よりも強いとは思えなかった。
パパ以外のこの席に座る北庄の大臣達は気がついている。
イヴ・クイーンを包む強者のオーラに。
ただ、座って聖女アイシャが淹れた紅茶であり、クイーン国側が準備した茶葉、ティーカップで紅茶を飲んでいる。源が発言している間も。
銀と金のオッドアイは冷厳な怒りの光を示しているのに、パパはそれを感じていない。
喋り終わった後、パパの性奴隷でもあるメイドを「ん、額」とおよそ、人に何かを頼む台詞ではない言葉で呼び、額の汗を拭かせた。
パパの料理のみ、巨大な人間の若い女性の肉が盛られている。
これは北庄竜王族の料理人しか知らない事実だ。
北庄竜王族には、弱い雌を喰らって、魂を取り込むことで己の力を増す。そんな科学的根拠もない風習が今も信じられている。
あたし以外の北庄竜王族の人間は皆、それを今も実行している。あたしはそんなことに荷担する料理番の人間にも嫌気が差して、生活圏をこの会談の場となっている北庄城ではなく、ママが幽閉されていた竜帝の洞窟で暮らしている。
イヴ『………その力なき民の努力が積もって、積もって予達のような権力者は豊かな暮らしができる。そして、予達はその礼に民から与えられた権力で民を纏め、民の幸福の為にあらゆる努力をする。それがこの世の摂理。予も証拠が出なければ、こちらに赴きはしない。予は唯一、権力者の中で源、貴様が大嫌いなのだ』
源『その証拠が何かは知らないが、口の聞き方に気をつけろ。滅ぼ――――』
パパがそう言い切ろうとした瞬間、パパの首に聖剣 エクスカリバーが突きつけられる。完全に気配すら感じさせない黒いローブを着た小柄な少女からは、規格外の魔力とSOULが漏れている。
あまりの濃度に本来、パパを守護する役の軍人達は武器を床に落としてしまっていた。それに気が付かず、誰もが小柄な少女――――ジョーカーと呼ばれるクイーン王国や日本の皇族に従うのではなく、”イヴ”という少女のみのワイルドカードと呼ばれる少女を茫然と眺めてしまっていた。
源『何をしている早くこの狼藉者を斬れ!』
セリカ『まぁ、大胆ですわ。どなたも凄い筋肉ですね。でも、わたくしはイヴちゃんのナイ乳にしか興味ありません』
イヴ『コメントしづらいのだぁ』
先程のパパに示した冷たい口調とは違い、普通の少女のような蜂蜜たっぷりの甘い声でセリカに応え、セリカの桃色の長い髪をイヴは自分の小指に絡ませて遊ぶ。
ん? 凄い筋肉? その言葉に気になって、あたしが後ろを振り向くと……信じられない光景が広がっていた。
アイシャ『武器も、防具もないのにどうやってジョーカーを退けるのでしょう。ジョーカークラスならば、ドラゴンを1000体、対峙させても勝利できますが……それは貴方の軍人達にも可能でしょうか?』
アイシャの台詞でようやく、パパは事態に気が付く。
そう、軍人達の剣や鎧、上着までもがジョーカーによって破壊されていた。木っ端みじんに。
しかし、ジョーカーが動いた気配は全くなかった。
真央『………み、見えなかった?』
イヴ『良い洞察力なのだ。真央竜姫』
真央『ありがとう、イヴさん』
イヴ『イヴで良いのだ。よろしく、真央』
真央『よろ――――』
金と銀の綺麗な瞳に、小さな身体から香る薔薇の香りに誘われて、あたしはお人形のように繊細な指に自分の指を絡めさせようとした処を、
源『真央。貴様は喋るな。貴様の仕事は有力な者と子を成すだけだ。それくらいできるだろう、あの雑魚から産まれた貴様でも。それまでは、子どもはよく食べて、よく遊んで、よく眠ればいい』
真央『は、はい、パパ………』
イヴ『そのような言い方はいくら――――』
源『口を挟むな。それとこれを早く退けてくれぬか?』
ジョーカー『これ、壊す? 壊さない?』
イヴ『壊さなくて良いぞ』
ジョーカー『これ、壊す? 壊さない?』
イヴ『壊さなくて良いぞ』
ジョーカー『これ――――』
真央『おい、ドラ〇エの強制イベントかよ。応えありきなのにわざわざ、聞くんじゃねぇー。それより、経験値とゴールドの低さを改善しろ。1レベル上げるのに30分ってこっちは勉学で忙し――――』
源『真央!』
いけない。
腕時計型携帯電話のアプリのドラ〇エ3ネタを駆使してツッコミを入れてしまった。ちなみに世界天秤条約で例外的に王族や一部有力者は携帯電話の所有が認められている。
ジョーカー『え? やってるドラ〇エ3? 教えてどうやってオルテガ、仲間?』
意外にも聖剣 エクスカリバーを鞘に収めたジョーカーが話に乗ってきた。そのわりには眠そうな声だけど。
イヴ『ジョーカー、今はテリーがどうして使えない男なのか? の議論は良いのだ。テリーは姉想いの良い奴なのだ』
えー、イヴってゲームやりそうな感じがしないのに………ドラ〇エ6ネタだと。
あたしはその多種多様性に驚いた。
これはネタにできる。そう、年末に日本で開催されるコミケの同人誌制作によし、タイトルは【あたしの国のろり皇女様がオタクなわけがない!】で行こう。
とあたしが一人、決意している間も会談は続く。
源『小娘、その証拠を見せてもらおうか?』
イヴ『良いだろう、今、ホログラム ウィンドウに映すのだ』
イヴが腕時計型携帯電話を操作しようとした時、北庄城の城壁が轟音を立てて崩れた。それは自然のものではなく、ドラゴンの集団による竜魔法 ドラゴンブレスの炎タイプの攻撃によるものだ。
誰もが数多くある窓に立ち、それぞれ状況を確認する。
イヴはすぐに隣にいた金髪ツインテールの軍服少女 真田心愛に話しかける。
イヴ『心愛の予想通りなのだ………。住民は現地のリンテリアの信徒で臨時結成した義勇軍を動かし、避難させているのだ。行き先は竜帝の洞窟で?』
ちょ、竜帝の洞窟って。
そこ、あたしのお家。マイ ハウスよ。
あたしはさもそれが自然だと言うかのように勝手に自分の住処が避難所にされることに驚愕していたが……反対はしようとは思わなかった。
あたしの住処はパパの住処である北庄城から30キロ先のオアシス内にある。
心愛『俺達はどう脱出するか? はリハーサル通りに行くぞ。と言っても敵は足下がお留守だ。竜族の悪い癖だ』
イヴ『竜変身すれば、自分達竜族が最強だと勘違いしているのだ』
なんで、こんなに冷静で居られるのだろう。
あたしやパパ、北庄側の竜人達は皆、恐怖に顔を引き攣らしている。
イヴ『これが成功すれば、華井恵里はこの混沌とした土地で自ら表に立って、暴れることは不可能になるのだ』
心愛『数年は、の話だ、イヴ。その間に世界を』
何の話?
数年? 世界をどうするの? 二人のロリっ子の会話が全く聞こえない。
あたしの耳に届くのはあたし達、王族を殺そうと城の森林を燃やす憎悪の籠もったドラゴンの声だ。
軍人『俺達、一部の北庄国軍は名称をキリアナ総司令の名と同じキリアナ戦線とする! そして、虐げられた国民の為に俺達は王族を倒す!』
イヴ『………はぁ。馬鹿ものが。華井恵里に、古代魔法研究会 エクストラの研究長 バスト・エルゲーに騙されおって。奴の目的は古代魔法 レアルカオスの実験と魔力をため込んで魔法として転用できる神具 スレイプニルの奪取だ。ここにあるのだろう、そこで無様に震えている竜王よ?』
源『黙秘する』
イヴ『……真央だけ助ければ、とりあえず、竜族は安泰か……。そうだろう、真央?』
真央『その前に、あ、あたしは王族とし、て、こ、こく、み、んとき、貴族の救助を』
本当は逃げたかった。
それでも、それは王族としてあるべき姿ではない。
パパのように無様に床に座り込んでハゲ頭を両手で押さえて震えている場合ではない。
震える身体に、萎える尻尾に、言葉すらまともに言えない心に昔、読んだイヴの父親 凪紗南春明とその仲間達の軌跡を描いた日本の漫画 勇者様冒険記の台詞を刻み込む。
勇者様は、イヴのパパは仲間に『僕が怖いのは今までお世話になった世界中の人達が不幸になることですよ。ここで震えていては、立ち止まっていては、失われるのです、笑顔が。運命を変えよう、みんな』と言った台詞を。
それこそがあたしをパパの理念 強い奴が弱い奴を搾取して世界は構築されているに完全に決別しようと思った心の武器の一つだ。見えないあたしだけの聖剣だ。
いつか、紛争だらけの貧しい国を再建する。誰もが平等で、明日食べるパンに困らないようにする。
そして、奴隷達を人間にしているイヴ、セリカと共に歩きたい。
それがあたしの夢だ。
だけど、それに足りなくとも、と自分で研いだママの形見 正宗と呼ばれる日本の妖刀を抜いた。
あたしの腕をイヴが掴む。
イヴ『止めるのだ、その刀は拳闘士 北庄真奈九が所有していた時は一度も血に汚れたことはない。非暴力を唱え続けていたそなたのママの誇りを無駄にするな。それが例え、現実には不可能だとしても、その刀、その魂は護るべきなのだ』
心愛『親父はヘタレなのに、お前はそう言うか。アイシャ、こいつは強くなるぞ』
アイシャ『はい。強くなります。確実に』
セリカ『わたくし、見習いますわ。ここで出て行けば、森林破壊をなさっているドラゴンさんにドラゴンステーキにされてぶち殺されますのに』
あたしはその言葉に早くも自分、殺されるのか………とチビリそうになった。
お手洗いに行きたい………。
イヴ『国民は凪紗南未来天皇代理様と雨雲英さんが救ってくれているのだ』
真央『英雄の仲間 慈愛の雨 スグル様が』
イヴ『あー、その呼び名は本人の前では言わないであげて欲しいのだ』
真央『何故? 雨のように地上に墜ちてはその度に幾十の敵を殲滅する強さと、獣人の女性に紳士的な姿からつけられたお名前が』
心愛『……性癖……だろう、それ』
セリカ『ええ、それですわ』
と、心愛とセリカがあたしとイヴが話している近くで互いに口を耳に近づけては内緒話をしている。
真央『性癖?』
セリカ『何でもありませんわ。こっちの話ですわ』
イヴ『それと貴族だが、どうやら城付近に豪邸を建てて暮らしている為、警備は国軍だ。大半の者は助かるだろう。それが終わった後………』
心愛『国民を守護するリンテリア教民衆守護義勇軍、貴族を守護する北庄王国軍、反北庄竜王家 キリアナ戦線の三つ巴の紛争になるな』
セリカ『裏で操るのは、古代魔法研究会 エクストラの研究長 バスト・エルゲー』
アイシャ『さらにその背後には華井恵里の協力があるでしょうね』
源『まさか、我々が闘っているうちに神具 スレイプニルを!』
恵里『ご明察。そして、もういただきました。それとこれ、あげるいーちゃん』
突然、現れた黒い白衣を羽織った黒髪ロングヘアの魔女はそう言って、持っていた人間の頭部のみをイヴの方へと投げた。
頭部のみのバスト・エルゲーだったモノは床にぶつかり、脳漿をぶちまけた。
その魔女が現れた瞬間、冷静だったイヴの顔が憎悪に染まる。そこまで、両世界の民から人を憎まない天使とまで言われた彼女が憎む存在は一人しかいない。彼女のママを殺した。彼女のパパを殺した。世界の全てを壊す勢いで殺し続ける魔女。
真央『華井恵里………』
恵里『あら、いーちゃんの新しいセフレ?』
イヴ『セフレとは何だ! そんな訳の分からぬ事を言わずに! くたばれ、華井恵里』
13歳という年で光魔法 セイントランスの心理詠唱式での攻撃が発動した。それ自体も凄いのだが魔法を打った直後に!
イヴは天叢雲剣を抜剣して跳躍する。
イヴ『ここで倒す! 未来お姉様の見よう見まねの技 凪紗南流 禁止奥義 命運断罪剣。SOULの全てを込めれば、予にだって――――』
イヴは技の力の元となるSOULを足に絡ませて、跳躍しようとするが、アイシャの両腕が腰に巻き付く。SOULはそれに伴い、収束した。
アイシャ『させませんよ』
イヴ『放せ! アイシャ。あれはここで殺すのだ!』
腕の中で暴れるが、決してアイシャはイヴを放そうとはしない。
まるで子どもが駄々をこねているようだ。あんなにも大人びていたイヴが。
それほど、華井恵里が憎いのだろう。
誰もがバベルの塔のテロ活動を知っている。無差別に、ただ、世界を壊す為だけにバベルの塔は破壊活動を行う。そこに慈悲はない………。
その為、バベルの塔に対峙したら、殺すか殺されるか? の二択しかないが、あたし……いや、あたし達北庄の者達は戦えそうにない。
軍人でさえ、華井恵里の漆黒の瞳に映っただけで震え上がり、恐怖のあまり、失神した。その失神した同僚を他の軍人が震える足を必死に動かし、抱き上げる。
その光景を当たり前だという風に眺めていた華井恵里がイヴに優しい口調で語りかける。しかし、顔は全然、笑っていない。
恵里『いーちゃん、それはまだ、駄目。未来ちゃんの剣技っていーちゃん向きじゃないの。残念。それにね』
丁度、イヴの放った巨大な光の槍が華井恵里にぶつかるが避けようともせず、光の奔流に巻き込まれる。
目映い光に包まれて姿の見えない華井恵里が熱心な教師のような口調でイヴに諭す。
恵里『幼女の攻撃が効くわけないでしょ』
華井恵里は不気味に微笑んでいる………。
イヴ『………ラグナロクならば、確実に。しかし、あれは………』
そう呟くイヴの顔色は悪く、元が白い為、青ざめているのがはっきりと解る。
きっと、ラグナロクと呼ばれるモノは気軽に撃てる代物ではないのだろう。
恵里『撃てもいいのよ、それ。大陸一つ吹き飛ばす威力らしいわね。そこに転がっている男の組織でお勉強させてもらったわ。ああ、授業料として楽しい楽しい夢を一時だけ見させてあげたの。古代魔法 レアルカオスっていう実在しない魔法の実験場提供っていう。馬鹿よね、人間程度が』
イヴ『それでも人間なのか!』
イヴはアイシャの腕の中で華井恵里に向けて、心の底から憎悪を吐き出しているような叫び声を放つ。
その声は広い部屋の空間に反響して、何度も聞こえた。
胸が切なくなる幼い少女が泣いているような声に華井恵里は容赦なく、嗜虐的に軽く言葉を返す。
恵里『それはいーちゃんにお返しするわ。それでも神様? 神様は人間を虫程度にしか思っていないわ。いーちゃんも幼女神様の誇りに賭けてここは、私を倒せるかもしれない魔法 ラグナロクを唱えるべきでしょ。虫の住む大陸の一つ』
イヴが神様であるのはパパから聞いた。
パパはイヴが産まれた時にリンテリア神から直々にローラント島の聖堂で聞かされたらしい。
あたしはその事実と一緒に、神の怒りを買ってはならないとも教えられた。
理解した。
きっと、これは神の領域の戦いのだと。
恐怖を通り越して、これから起こるであろう神の領域にあたしの好奇心は満たされ初めてゆく………。
恵里『壊しなさいな、ほら、華井恵里の! いーちゃんの怨敵の心臓はここよ。ああ、いーちゃんのお父様は私が散々、逆レイプした後、殺したわ。私の胸を無理矢理、吸わせたわ』
華井恵里はそう言うと、自分の並みサイズの胸を指さした。
恵里『気持ちよかったわ』
そう言っているのにまるでそうではなさそうな無表情だ。
それと呼応するようにイヴから銀色の光が漏れ始める。濃度の高い魔力? なのだろうか。
イヴ『やはり、お前はここで倒す』
恵里『いいわ、本当の絶望を見せてあげる。これを見て果たして戦えるかな、いーちゃん?』
そう言うと、惜しげも無く、華井恵里は自身の腕時計型携帯電話を操作してあたし達全員が確認できるようにホログラム ウィンドウを巨大化させた。まるでシアタールームのスクリーンのようだ。
そこには逃れられない死の香りが視覚化されてあった。
<華井恵里
~ステータス~
Level 17000
HP 測定不可能 素質 S
MP 測定不可能 素質 AA
SOUL 測定不可能 素質 legend
STRENGTH 測定不可能 素質 A
SPEED 測定不可能 素質 B
MAGIC ATTACK 測定不可能 素質 A
CONCENTRATION 測定不可能 素質 B
DEFENCE 測定不可能 素質 B
MAGIC DEFENCE 測定不可能 素質 B
INTELLIGENCE 測定不可能 素質 A
transcendence ∞(人間の限界を超えた者) 素質 impossibility
属性適正 炎・水・地・風・氷・雷・光・闇・毒・無・古代
常識外魔法 ――――
武術 ――――
装備
魔鎌 業火の魂 攻撃 200000 相手にダメージを与える度に+攻撃 2000増加。
ペンダント 偽りの夢の残滓 魔法性能力 177500
黒い白衣 物理防御 7700 魔法防御 10000 >
各々が恐怖の棒読みの声を呟く。………絶望を通り越して己が無力であると示した。
銀色の髪の少女は聖女の腕の中で俯いて。
イヴ『測定不可能、Level差があり過ぎる……』
桃色の髪の少女はぽけーとした表情で頬に右手を当てて。
セリカ『人間の魂の限界値は15000Levelと言われていますわ』
あたしはその現実離れしたステータスを何かに例えて。
真央『遙かに超えてる。なにあれ、RPGでいうとこのラスボスでしょ、あれ! ラ〇ォスとか、アル〇ィミシアとか、100%中の100%のト〇ロとか、そんなLevel。ふざけんな、倒せるか、あんなの』
金色の髪の聖女は愛しい少女をその腕で抱きしめて。
アイシャ『聖剣では無理ですね。神剣でなければ太刀打ちできません』
総統閣下と呼ばれているドイツの有名な指導者だった前世の少女は両肩を両腕で包み込んで。
心愛『………厳しいな』
パパはあまりの恐怖に耐えきれず、朝食に食べた若い女性の肉を吐き出した。
源『う………』
恵里『あら、雑魚が吐いてしまったようね。臭いからまず、そいつ殺す』
まるでゴミ出しをするかのように華井恵里は手に持つ大きな鎌をパパの頭に目掛けて振り下ろす。
あたしは思わず、眼を瞑った。
しかし、悲鳴が、パパの絶叫が聞こえなかった。
恐る恐る眼を開けた。
大きな鎌を聖剣 エクスカリバーで受け止めるジョーカーの姿があった。
恵里『いーちゃんの信者さん、無粋よ』
ジョーカー『虫………強くない』
恵里『試してみる? と言いたいけど、貴女と闘うにはここは狭いし、被害が大きくなる私のね』
狭いといっても、この部屋は日本のデパートの端から端までの広さほどはある。それでも狭いと言うのだから、ぞっとする。
華井恵里は親戚のお姉様のように自身を睨み続けるイヴに手を振った。
恵里『バイバイ、いーちゃん。華井恵里のマリオネット劇場を楽しんでね』
そう言うと、華井恵里という人間の形をした絶望はかき消えた。
どんな魔法か? は知らないが正直、ほっとした………。
誰もが「はぁー」と助かったなんて気持ちを溜息に込めた。
心愛『退いてくれて助かったな。あれと闘うのは今は得策ではない。可能性があるのは神であるイヴの神剣 エデンのみだ。それも同Levelならが条件だ』
イヴは床に座ったまま俯いて、涙を流していた。その表情は銀色の髪に隠れて解らない。
イヴ『………』
静けさを破ったのは、ドラゴン達の痛々しい悲鳴の合唱だった。
あたしは急いで窓の外を確認した。
何やら、見えない糸? のようなモノでドラゴン達は拘束され、四肢をぶった切られ、一人、一人、氷付けにされている。
竜変身が解けると、両手両足の無い氷付けの人間が完成していた。
それが既に100人以上、存在していた。
圧倒的な数 10000人以上と対等以上に渡り合っているのは着物を着た眼を閉じた黒髪おかっぱの長身の可憐な少女だった。
指先には無数の糸が結ばれていた。それらは敵対するドラゴンや木などに繋がっている。
心愛『リハーサル通り、聖心がドラゴンを足止めし始めたな。時間がない! ゆくぞ!』
と、みんなを心愛が急かす。
パパや北庄側の人間は勿論、アイシャ達も出口の扉に向かうが、イヴは一人、動こうとしない。
イヴ『………』
真央『ちょ、イヴ?』
あたしはさすがに心配になり、イヴの肩を揺する。
心愛『竜族は力持ちだったな! すまんが、イヴをお姫様抱っこしてくれ』
真央『し、仕方ないわね』
イヴを無理矢理、お姫様抱っこした。
銀色の髪に隠れた顔は可哀想なくらいに真っ赤になって………頬に絶え間なく、涙の道を描き続けるイヴの表情だった。
イヴ『ごめんなさい、ごめんなさい、お母様、お父様。ボクは一歩も動けなかった………。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさ――――』
あたしがお姫様抱っこしている間、壊れたラジオのようにイヴは呟き続ける。
その声がイヴのパパやママに届くことはないのに。
一体、どうしたら、ここまで可愛い少女の心に暗雲を立ち込ませることができるのだろう?
華井恵里の実力も、心も……規格外過ぎる。
真央『あれがイヴの敵。魂のステージが違いすぎ………』
いずれ、あたしはイヴと同じ民を助け導く王族の在り方を実践する限り、華井恵里と闘わなければならない。
憂鬱だ。
そんな気持ちを抱きながら、あたしの民、北庄の民がいる竜帝の洞窟にイヴ達と共に向かう。
太陽は容赦なく、あたしの体力と、心の平穏を奪ってゆく。
華井恵里のLevelを17000に修正しました。 8月19日。




