第27話 召喚器制作 Ⅲ 勇気
第27話 召喚器制作 Ⅲ 勇気
視点:北庄真央
場所:クイーン王国 クイーン王城ポーション生成工場
日時:2033年 4月4日 午後 1時03分
銀色と金色の瞳があたしの裸体を捉える。
いつも、感じる。イヴという小学低学年のあたしよりも背の低い少女の身体から発せられる一種の覚悟………いや、己の生を全うしてゆこうという勇気を感じられる。
アルビノの少女の白い肌があたしの肩に触れた幻想じみた白い指先から伝わる熱はイヴも平凡な才しか保たないあたしと同じ人間なんだと教えてくれる。
イヴはあたしの頭を撫でると微笑んだ。
イヴ「緊張しなくても大丈夫なのだ。痛いなんてことはないのだ」
真央「あんた、召喚器を創る時、意識が遠のくって言ったわよね。覚えてんの、それ?」
じっと眼でイヴを睨むと、その威圧に負けてイヴは後ずさりしそうになるが………腕を掴んで阻止した。
あたしより、小振りな胸を指で突く。
ほら、答えてみなさいよ、と言うように。
イヴ「た、確かに覚えてないのだが……ボクも」
と、自分の胸元を指さし、力ない言葉を放つ。
イヴ「そして、セリカも」
と、セリカの胸元を指さした。言葉に少し灯が灯る。いつものイヴ特有の尊大さに。
その灯りに人々は群がってくるのだ。あたしや槍の感触を確かめるように室内でぶんぶん振り回しているセリカ、アイシャがその代表格だろう。
イヴ「そして、そして、鬼未来様も!」
締め切った布のカーテンを勢いよく開けるイヴ。
全裸である事を忘れているのか、無邪気に青空を指さす。
風に揺れる銀色の銀糸一つ一つから、薔薇の香りがこちらまで漂ってくる。あたしみたいなイヴにどっぷりと填まっている人間にはこれ、麻薬だ。
しかし、と背にある竜の羽根を羽ばたかせて、気持ちを切り替える。
目映い光を取り込んで、人間には不可能な光合成をするかの如く、両手を天に伸ばして背伸びをするイヴにあたしは容赦なく、お仕置きの一撃を食らわせる。
竜の尻尾でイヴの子どもを産める年齢に到達したにしてはミニマムなお尻を引っぱたいた。
ぱちん、と良い音が室内に響く。
イヴ「ひぅん。び、びっくりするのだぁ。ま、真央の尻尾か」
イヴがあたしの尻尾を撫でようとしたので、あたしは慌てて尻尾をイヴから遠ざけた。以前、イヴに尻尾を撫でられ続けて心地よさのあまりに失禁してしまった記憶の扉が開きそう………あたしはその記憶の扉に急いで板を打ち付けた。
顔周辺の温度が急激に上昇している。は、恥ずかしい。
真央「あ、あんたね。そんなにいつまでも、幼女みたいな恥ずかしいことしない。未来様に言いつけるわよ」
イヴ「そ、それだけはご勘弁を。今、振り返ってみると確かに王族として恥ずべき幼女さだったのだぁ。せっかく、1ヶ月前、初生理が来たということなのでお祝いしてもらう予定なのに」
王族が生理を迎えた。
それはその国の貴族にとっては良いことだ。確実に国が次代へとバトンを紡げる確証になるのだから。
あたしがカーテンを再び、締め切ると部屋は薄暗くなった。まだ、部屋に灯りを灯すのは早いだろう。召喚器生誕の際に余波で消えてしまうことだろうし。
真央「クイーン王族では親しい女性を招いてパーティーをする。その開催日がまさか、マスコミに情報拡散してるなんてね。あっちの世界はルゥイッターでイヴ皇女様が子どもを産めるようになったよオメっ! みたいな文章で拡散。こっちの世界では各地の劇団を通して拡散」
イヴ「みんな、優しいのだぁ。見ず知らずのボクの為に祝いの言葉をくれるなんて」
真央「見ず知らない人なんて……」
そこで言葉を切り、イヴの容姿を改めて、萌えという観点から観察する。
お尻らへんまで伸びている銀色の癖のない髪。萌える。
銀の右眼と金の左眼のオッドアイ。しかも、一時魔力ブーストと一時脳内処理速度向上による疑似未来予知の厨二病仕様。萌える。
AAカップのお子様ロリ胸。こちら(美少女ゲームイラストレーター業界)の言い方では、ちっぱい様。萌える。
139cmの低身長。これで高校1年生だというのもポイント。こういうマスコット的な要素のあるキャラはあざとくいかなくても程々の人気が出る。ちっぱいと連携をとれば、2乗の萌え力を発揮する。萌え………鼻血が出そうなので考察はこれくらいにして、あたしはイヴに向かって口を開く。
真央「いないわよ、そんなの。あんた、少しはお淑やかな女性さを身につけなさい。素のあんたはいつも、あたしやセリカ、アイシャに抱き……ついても良いわよ、たまには。無邪気な笑顔で知らない人に話しかけない。悪い人かもしれないでしょ。道を歩きながら照り焼きバーガーを食べない。お行儀が悪いでしょ。いつも、予とか言ってる時の凜々しいあんたでいなさい!」
イヴ「まるでお子様みたいだな、ボク」
真央「いや、反省しろよ、女王様。さて、イヴ、あたしにもの凄い武器を創るのよ」
イヴ「任せて、なのだ!」
そう元気よく、あたしに返事すると………イヴが眼を閉じた。
その瞬間、再び世界が揺れた。
眼を再び、開いたイヴの両眼は両方とも透明な銀色の光を瞳に宿していた。
それと同時にイヴの背から、8枚の銀色の翼が生じる。
あたし達には理解できない力が室内を、このポーション生成工場を、クイーン王国を、異世界 リンテリアを包んでゆく。
それは絶対にそうだろうと、あたしはその力の強さに直感で感じていた。古い歴史を保つ竜族の王家の人間だからこそ、感じるのかもしれない。
そして、目の前に立つ少女の強さは2年前の竜族の国 北庄での治癒永続の陣という誰もが傷つき、誰もが傷つかない2年前の紛争最終局面に舞い降りた銀姫と呼ばれる少女の強さを逸脱していた。
叶わない、追いつけない………と落胆の色を隠せないあたしの胸元にイヴの手の平が押しつけられる。
そして、紡がれる聖句。それはただ、荘厳に。
イヴ「創世する世界の果てで少女は謳う再生の未来、破滅の過去、停滞の現在を。されど、たゆたう魂に抱かれて少女は願う、再生の炎を」
イヴの手の平があたしの胸元に沈んでゆく。
真央「う、腕があたしの胸に! ちょっと、ホラー」
イヴ「さぁ、少女の強き願いから産まれた少女の願い人。汝は何を願う?」
真央「あたしの願い?」
イヴ「何を願う? それが運命を創世する力となる。さぁ、運命の少女の情熱よ」
真央「あたしは」
決めろ、というかのようにイヴの言葉があたしの心に小さな波紋を描かせる。その波紋は今も努力という言葉で拡散するのを押さえつけていた。
あたしでは竜族を再建できないのではないか? という不安。
その不安を今は取り除いてあげるというように優しい眠気があたしの身体を包み込む。それはイヴから発せられるあたし達では知り得ない何か。
SOULでも、魔力でも、ノエシスでも、プリミティブイデアでも、ない何か。
瞼が重くなってゆく。
確信した。
ああ、あたしはこれから探しにゆくのだ。
”何が願い? あたしの願いは……”




