第25話 召喚器制作 Ⅰ 遙か遠き日々の備え
第25話 召喚器制作 Ⅰ 遙か遠き日々の備え
視点:セリカ・シーリング
場所:クイーン王国 クイーン王城ポーション生成工場
日時:2033年 4月4日 午後 0時45分
ポーション生成職員の女性が休憩場所として、広々とした会議室を提供してくれた。その会議内のテーブルには、わたくし達の為にポーション生成職員達が用意してくれたハイパーポーション 12本が置いてある。
それをせっせと真央ちゃんが布の手提げに入れてゆく。
何か楽しいことがあったのか、真央ちゃんは口笛を吹いている。曲にはなっていないのだが、実にリズムカルだ。
イヴちゃんは先程から、山のような書類を片手で捲り、左眼で目を通して、同時に右眼で和紙製ノートに注意事項や改善作案等を書き込んでいる。もの凄い処理速度にも関わらず、たまにわたくし達と会話してわずか、十五分で完了してしまった。
イヴちゃんが書類やノートを脇にどけて、机上に上半身をだらしなく、寝かせる。
イヴ「一仕事完了なのだぁー」
セリカ「楽勝ですわね、イヴちゃん」
イヴ「んー、ボクでなければ、1日仕事なのは理解してくれ、セリカ。速読、速記がなければ、不可能なのだぁ」
真央「全く、便利な能力よね。それって訓練でモノにできるわけ?」
イヴ「可能なのだ。鬼未来講座を受ければ」
イヴちゃんがそう言うと何処か、遠い眼をし始めた。魂が何処かにお留守にしていそうな雰囲気がしてちょっと、怖い。
真央「あー、いいわ。あ、あたし、まだ、ラスボス戦に挑むようなレベルじゃあないし」
イヴ「うーむ、しかし、王族の公務には有利に働くのだ。よし――――」
腕時計型携帯電話のマナーモードを解除しようとするイヴちゃんの腕を必死の形相で止める真央ちゃん。
そうですわね、止めますわ、それ。
未来様に知られたが最後、徹底的に指導されますからね。
真央「よし! じゃねぇー、今、誰に連絡しようとしていた!」
セリカ「それは鬼未来様?」
イヴ「なのだ!」
真央「うがー。あ、イヴ! 今、休憩タイムよね」
イヴ「そうなのだが……ルルリが再起動するまで。再起動したら、ジョーカーが連れてきてくれるのだ」
真央「だったら、召喚器をあたしとセリカに頂戴。ねっ」
とウィンクをする真央ちゃんに対して、イヴちゃんは快く承諾の意を込めて、首を縦に振った。
真央「この部屋で召喚器を生み出すの? 何も器具を使わないのね」
イヴ「大丈夫なのだ。服を脱ぐ必要がある。セリカ、真央平気?」
真央「まぁ、イヴと寝る時はイヴに合わせて、裸だから平気よ。で、でもジロジロ見るのは無しよ!」
セリカ「そうですわね、ジロジロは恥ずかしいです」
イヴ「それはないので大丈夫だ」
なんか、婚約者として、側室候補としては複雑な気分だ。
イヴちゃんの性教育はアイシャちゃんのお姉様 リイーシャ・ローラント凪紗南天皇家メイド長に任されている。
基本的にイヴちゃんは常に自身の身体を巡る治癒の力で処女膜も再生してしまう為、リイーシャさんから、「遊びのHは駄目、やるならば本気の赤ちゃんを授かるHでお願い致します」「痛いですよー、破るの、血出ますよ。お覚悟を」と教え込まれている為、15歳にありがちなH欲が全くない。
性欲は幾らかはあるようで、それは軽いキスだとか、抱きしめ合うとかの何処の中学生でしょうか? レベルである。
健全な笑顔が少し、Hなイヴちゃんの身体を想像してしまいそうになったわたくしの心に突き刺さる。あれが無償の愛情なのですね。
しかし、それはわたくしも、そして、心は読めないが同じ立場の真央ちゃんも面白くない。
真央「それは………」
と、恋愛方面にはツンデレな真央ちゃんは真っ赤な顔をして俯き、黙る。
ここはわたくしがバッチリ言いましょう。一番、お胸がでかいですし、なんかお姉ちゃんっぽいです!
イヴちゃんの両腕を握りしめて、イヴちゃんの金銀の瞳を見つめる。
セリカ「イヴちゃん、婚約者としてどうなんでしょう」
るーちゃん「さすが、リンの娘。天然なのじゃ、ある意味」
魔剣のるーちゃんが呆れた声でイヴちゃんをそう評価した。
イヴちゃんは困惑した表情を浮かべつつ、魔剣のるーちゃんを机の上に置いた。そして、召喚器制作の為に着ているドレスを脱ぐ。
イヴちゃんの裸体はいつ見ても変わらず、肌がしっとりとして生まれ立ての幼女のようだ。傷一つない透き通った白い肌。
女の子だと控えめながら主張する小高い丘はこれから永遠に変わることなく、少女の神秘性を秘め続ける。
小高い丘の中心にある桃色の果実はいずれ、子の生命を慈しむ源の原水を流すだろう。その子にはわたくしの子も含まれる。胸元が熱くなった。そのわたくしの約束された未来に。
いつも、妹のマリアがお風呂にイヴちゃんと一緒に入浴してこちょこちょと弄ぶへそは小さく纏まっていて保護欲を誘う。
脇には毛が一本もなく、常に甘い薔薇の香りをうっすらと周囲に振りまく。その為か、イヴちゃんに香水の類いは一切、必要ない。役不足なのだ。その高貴な香りだけで老若男女問わず、身分も問わず、動物ですら、イヴちゃんを求めてすり寄ってくる。人間には過ぎた媚薬そのもの。それ故にイヴちゃんの私物を盗んで処罰されたものは多くいる。その場ではイヴちゃんに「めっ!」されて許されるが………イヴちゃんの周囲はそれを決して許さない。まるで大切な蒼薔薇についた害虫を処理するように罪は裁かれるのだ。
触れただけで壊れそうな雪の如き白い肩に直接、触れる権利を有しているだけでわたくしは幸福なのだろう。触れているだけで気持ちが高揚してしまう触り心地の良さ。誰をも許す優しさと同じ柔らかさがその原因なのだろう。そして、それは永遠だ。
オペラグローブをゆっくりと外し、机の上に無造作に放る。
現れたしなやかな細い腕は普段、日本刀を振るうとは想像できない苦労を知らない大人の世界に染まらぬ純朴な少女のモノだ。
爪の色は真っ赤な紅い血がイヴちゃんにも流れているんだと強調するヴァーミリオン。
銀糸の如く、滑らかな髪は小振りなお尻の処まで伸びている。
そんな神秘性をさらに上げているのが、白い貞操帯だ。それはイヴちゃんが襲われた際に万が一にも子を孕まないようにする防波堤になっている。
通常の場合はイヴちゃんではなく、婚約者やイヴちゃんの信頼のおける者や未来様が鍵を持っている。
わたくしはイヴちゃんに鍵を手渡すと、イヴちゃんはその貞操帯の中央の鍵穴に鍵を入れて、貞操帯を外した。
少女らしいショーツを脱ぎ捨てた先には15歳とは思えない無毛の女性器が露わになる。
全裸の天使が微笑む。
イヴ「ちゃんとセリカと」
イヴちゃんは背伸びをして、わたくしの唇に自分の唇でそっと、触れる。
セリカ「まぁ」
イヴ「真央も」
イヴちゃんは真央の翡翠色の瞳をじっと、眺めてから、真央ちゃんの唇に自分の唇を重ね合わせる。
真央「ちょ、そういうの…………嬉しいけど」
イヴ「愛しているのだ」
そう言ったイヴちゃんの銀と金の不思議な瞳は潤いを魅せていた。
セリカ「わたくしも」
わたくしもイヴちゃんに続いて、王宮メイド服を脱ぎ、下着も脱いで素肌を晒す。
何故か、イヴちゃんと真央ちゃんがわたくしのお胸を見て、「ぐぬぬぬぬ」と声にならない声を上げている。まるで、小動物のような声だ。
真央「あ、あたしも、よ」
大胆にも真央ちゃんはセーラー服を素早く、男の子のように恥じらなんかなく、脱いでゆく。実に必要があるから、こうするのよ! といった感じだ。
イヴ「では、まず、召喚器とは? を話す。万物全てはデウス エクス マキナの海に只一つ、存在する運命粒子の総合体であり、一粒、一粒には運命粒子の結合した設計図(個の運命図)が書き記されている。そして、一粒、一粒は同等の設計図を持っていると引かれ合う性質(生誕共鳴弦現象)及び、総量が足りないと再生し合う性質(創世共鳴現象)を持っている。
それらを利用して、個の運命図から切り離されたモノを召喚器と呼称する。また、召喚器は生誕共鳴弦現象と創世共鳴現象の性質を保有しているので、壊れても再生をする」
真央「なんて、エコな武器。だから、欲しいのよ、それ」
眼を輝かせて、イヴちゃんのお胸を突っつく真央ちゃんは恥じらいという言葉をジャ〇ニカ学習帳に書き連ねるべきだと思う。
セリカ「他にもどんな特徴が?」
イヴ「普段は自分と同じ個の運命図を保有しているので、このように――――」
イヴちゃんの手の平付近の中空から、空間を割って鞘に入った日本刀が出現する。
イヴ「取り出し――――」
日本刀を両手に持った状態で、日本刀がゆっくりと光の粒に分解し、その粒はイヴちゃんのへその中に消えてゆく。
イヴ「このように収納できるのだ! 便利なのだ」
真央&セリカ「「おお」」
召喚器の出現のメカニズムにわたくしと真央ちゃんは感嘆の声をあげて、拍手をした。
るーちゃん「イヴ。それは他の神には作成可能なのか?」
イヴ「駄目神曰く、これは幼女神の特性で一番、生誕に近い神だから、だそうだ。幼女だし、とか適当、言っていた。多分、嘘なのだ。きっと、再度訪ねてものらりくらりだろう」
るーちゃん「しかし、リンテリア神様はとことん、人間を舐めているのじゃ」
魔剣 るーちゃんはそう言った後、溜息を吐いた。
中の魂さんが最後の魔王 ルリア様なので別に不思議ではないのだが、魔剣の姿だと何処か、不思議に見える。
イヴ「さて、この召喚器は装備時に特性があるのでお得だ。しかも成長する! 未来天皇代理様で試したところ、Level 1000が最大のようなのだ」
真央「で、先程、判明したように心の成長でLevel up。なんか、いつ、成長するのか解らないのが難点ね」
セリカ「さぁ、さぁ、まずはわたくしから、召喚器 聖なる箒なんかが良いですわ。決して折れない箒! これで世の中を綺麗にしますわ」
あー、頭に思い浮かぶ。
ピカピカになった緑の世界が!
それを実現すべく、神様! イヴちゃんの力を手に入れる。
イヴ「あ、あまり、格好悪いのは作りたくない、かな。予は……」
そうイヴちゃんが苦々しい? 笑みを浮かべた後、両眼を閉じた。
瞬間、何かが変動する………。
”世界がずれたような気がした。”
視点 リン・クイーン
場所:転生宮
日時:2033年 4月4日 午後 0時50分
転生神「今のは少し、まずかったよ、リン」
私はその言葉に神の鎖を制作する手を止めた。
転生神様が巨大なホログラム ウィンドウの前で、いーちゃんが本当の力を限定的に発現させた姿を見つめてそう述べた。
リン「ええ、あの子の本当の敵に見つかるところでした」
本当の力のいーちゃんで在っても、今の状態では全てが足りない。
それを補うべく、勇者様が大好きなRPGみたく、レベル上げが必要になる。
”また、いーちゃんの力に耐えうる武器や防具は全ての世界に存在しない。”
それを創るべく、私は勿論のこと、リンテリア神様、未来ちゃん、ルリアさん、レア様などのいーちゃんの秘密を全て知る者が動いている。
転生神「見つかったところで、戦線を越えてこちらまでには来ないよ。彼と同格の年増がいるのだからね。あー、勿論、七女神の方々もいるね」
湖の遙か先にある空に浮かぶ島の群れを転生神様は指さす。
それは私を含む人間という種の最終防衛ライン イグニスシステムが構築されている島々だった。
リン「リンテリア神様ですか。あのお方がそんな地位にあったなんて。神様って」
転生神「昼行灯なのさ、普段は。まぁ、今はイヴ君と同格の子をスカウトしに行っているみたいだよ、この戦いに勝利する為に」
リン「巻き込むんですか、りりすちゃんも?」
母である華井恵里には怨嗟の念がある。しかし、りりすにはない。勇者様と少し似ている正義感がある子なので可愛くもある。
イヴとりりすが仲良くしてくれるのが今の私の夢だ。
転生神「デウス エクス マキナの意志さ。りりすが”まだ”、生きているのは。それを助けられるのは、本当のイヴ君の力と未来神様の力」
私はそれが実現することを祈る。
りりすという妹がイヴに暴虐の力ではなく、別の力を教えてくれるはずだ。
リン「何万年もの神々の戦いに終曲を奏でる為にイヴとりりすを計画していたんですね、未来神 ミル・リンテリア様は」
そのミル様は駄目神のフリをして、各神層世界で戦力を人間からも集めている。人間から神に引き上げた子もいるそうだ。
これを知ったら、いーちゃんはどう言うだろうか?
思わず、笑ってしまった。
転生神様が私に珈琲を注いでくれた。
大の珈琲好きで、執事服で男装した転生神様が珈琲の香りを鼻で楽しむ姿は絵になっている。金髪碧眼の身長 180cmと女性にしては長身だ。
転生神「少数精鋭ではあるけど、力のある神はこちらの勢力に加わっている。まだ、持ちこたえるさ」
リン「急がないといけませんね」
床に置いた神の鎖を眺めて、私はそう決意した。
もはや、二度と生を受けることができないという恐怖に進行を鈍らせている場合ではない。
転生神「皇命かい? 歴史上、最強の神剣と呼ばれた全ての神々が恐れた武器の復活か。でも、君の理論では………」
リン「消滅するでしょう、私は。それでも、果たします。だって、いーちゃんはリンの娘ですから」
珈琲カップが床に落下して、白磁の破片が辺りに散らばる。
珈琲色の水たまりが出来上がる。
想像したのだろう、転生神様は。恐怖で顔が引き攣っていた。
縛った転生神様の髪がゆらゆら、と強風に揺すられる。
転生神「強すぎる。敬服するよ。だから、私は人間の味方をし、人間を観察する。神にはない運命に抗う意志を尊ぶ転生神 ローナ・クオリアは。さぁ、共に見よう、君の自慢の娘の物語を」
リン「ええ、応援します、いーちゃんの戦いを」
私の娘が誕生させた成長する神剣は今、2つ。
未来ちゃんの夢幻。
いーちゃんの深淵の刀。
リン「ミル・リンテリア様はいつまで、いーちゃんに幼女神なんて嘘を吐き続けるのかな……」
転生神「おそらく、華井恵里を倒して、大魔王の存在を知った時だろう。セオリーだろう、RPGの」




