第19話 魔剣 レーヴァティン
第19話 魔剣 レーヴァティン
視点:凪紗南イヴ
場所:クイーン王国 クイーン王城
日時:2033年 4月4日 午前 10時30分
身心ともに冷えてしまうような空気が階段を下がる度に酷くなってゆく。予が着用しているプリンセスドレスは肩が剥き出しになっているので尚更、寒々しい。
思わず、両腕をぎゅっと、抱きしめてしまう。
白い息を吐きながら、中間地点の踊り場に到着する。一般職員が入れる区画では最下層の宝物庫がその奥の通路にずらりと並んでいる。全部で50室ある。それぞれ年代別やカテゴリー別に分かれている。
予は宝物庫を警備する王族守護騎士の一人を手招きで呼び寄せる。
女性守護騎士1「女王様、何かご用向きでしょうか?」
直立不動のまま、王族守護騎士は予の言葉を待つ。予の見える範囲にいる王族守護騎士達は平伏して、予の言葉を待っていた。膝が冷たい床に触れ、寒そうだ。
心が痛くなる。おそらく、予の見えない範囲にいる王族守護騎士達も平伏しているのだろう。
イヴ「来る途中、料理長のみーたんにチョコクッキーを焼いてもらったのだ。ほれ」
予は風魔法 エアで宙に浮かせていた樽を床にゆっくりと下ろした。
その樽と予の顔を何度も繰り返し、王族守護騎士達が確認している。
予はわからないのか? とため息を吐く。
イヴ「出来たてほやほやだ。身体が」
自分用に紙袋に包んで貰ったチョコクッキーを一囓りする。粉が床に散る。
それを気にせずに、予は少々、はしたなく、二度目の一囓りにトライする。
イヴ「身体が温まるのだ。味もほどよい甘さで大人の味だ」
王族守護騎士達「「「ぷっ、イヴ女王様が大人ぁ、ぷっくすすす」」」
何処からか、入ってきたコウモリ達も、「きゅきゅきゅきゅ♪」と笑うように鳴く。
スカートを少し上げて、予は自分の平坦な胸元と、丸みを帯びていない太ももを確認した。
イヴ「わ、笑うでない。そのうち……成長するのだぁ」
女性守護騎士1「大丈夫ですよ、そのままで。民の間ではあまりのイヴ女王様の可愛らしさに、2年前にできた東京イラストレータースクール リウスの初代卒業生達がイヴ女王様モノという種類の漫画を全国に発信しているそうですよ」
イヴ「それは喜んで良いやら、恥ずかしいやらなのだぁ。予はもう、ゆくぞ。その樽のチョコクッキーは宝物庫番の者達で仲良く分けるのだ! では」
そんなやりとりをしつつ、予はここからは王族でも、王座に座っている者しか許されない区域へと足を踏み入れる。
また、一歩。また、一歩と進む度に才の低い者でも解るであろうプリミティブイデアの濃度に上昇してゆく。
かつかつ、と予の足音のみが寂しく響く。それを心配したのか、コウモリが一匹、予の右肩に止まり、「きゅい♪」と可愛らしく鳴く。予は大丈夫という意を込めて、コウモリの頭部を撫でた。
コウモリは「きゅい♪」と鳴くと、遙か上にある地上に続く踊り場を目指して羽ばたいた。あそこまでは20階立てのマンションほど、距離があるだろう。
であるから、ここまで降りてくるコツはあまり、下を見ないことだ。
階段を下り終えると、そこには予に似た魔王 ルリアの像とお母様に似たリリア・クイーンの像が互いに見つめ合い、笑っていた。
何故か、生前……二人は笑い会う関係にはなかったのだろうと勝手に想像してしまった。
ルリア像の長い髪に触れる。
イヴ「るーちゃん、ボクはるーちゃんのように妹と闘うのか? それは嫌なのだ。絶対阻止なのだ」
顔が似ていることから、ルリアとリリアは姉妹だったのだろう。最期の魔王と勇者の恋人である貴族が刃を交えないはずがない。
そんな推理から破滅しか見えなかった。予の心臓が激しく鼓動を打つ。
予は独りでいたくなくて、鮮血をイメージしたクリムゾンカラーの重々しい扉を体重を乗せてゆっくりと開いた。
その場は剣の間と呼ばれている。クイーン王国のアイリーンクリスタルの番人 魔剣 レーヴァテインが台座に突き刺さっていた。
その刃には………――――を殺めて幾星霜、我は悔恨の想いを込めて血族の刃と化すと古代クイーン語で刻まれていた。――――の部分は台座に埋もれていて確認できないが多分、最期の魔王 ルリアの妹と予が推測するリリア・クイーンの名だろう。
ということは必然的に”予達、クイーン王族の血を継ぐ者は最期の魔王 ルリアの血を継いでいることになるだろう”。
それを魔剣 レーヴァティンに魂のみを宿してまで現世に留まる最期の魔王 ルリア…………るーちゃんに訪ねることは心情を察してできない。
魔剣の背後には成人男性と同じくらいの大きさの白銀のアイリーンクリスタルが輝き放っていた。この輝きがリンテリア王城並びにリンテリア城下街内に危険種動物が侵入してこないようにしている。
ここのアイリーンクリスタルにノエシス情報を与えるのは現在の女王の役割だ。
しかし、予にはそれを熟すことはまだ、無理だった。
自然と涙が溢れてきた。悔しかった………。
るーちゃん「泣くでないイヴ。仕方の無いことじゃ。ノエシス情報者のlevelより2倍以下のlevelの危険種動物を退くことができる。Level 5のイヴでは現在保持されているリンのノエシス情報の強さには適わない。母は偉大と納得しておけ」
魔剣の鍔の中央に填まっている第一神層世界の鉱石 ラグナ石が、るーちゃんが女性特有の高い声で喋る度、紅く点滅した。
鍔の左右はコウモリの漆黒の翼の意匠である。
イヴ「るーちゃん、それでもなんか、女王としてちゃんとしていない気がして悔しいのだ」
るーちゃん「身体がまだ、神の力についてきてないのじゃ。詮無きこと。最近、己と周囲の親しい者のLevelを上げやすくする神の特性を発揮し始めたばかりじゃしな」
イヴ「あ、るーちゃんって昔、邪神と闘ったことがあるから詳しいのだな。予は邪神と一戦交える気概はないのだぁ」
その言葉に激しくラグナ石が紅く点滅する。かなり、激しい。
るーちゃん「情けないぞ、それでもリンに続く魔剣 レーヴァティン継承者か!」
果たして、魔剣を振るう事もできないもやし女王を継承者と呼んで良いのだろうか? と疑問が脳裏に浮かぶが、すぐさま否定する。
よし! と気合いを入れて、頷く。
るーちゃん「だがな、残念なことに現在、少女神 リンテリアにより、邪神どもはイヴとその周辺を襲ってはならんとなっておる。破った者はラグナロクの刑とか、この間、リンテリア神が遊びに来た時に言っておったのじゃ」
イヴ「前から疑問なのだ。るーちゃんとあの駄目! 神はどんな知り合いなのだ?」
るーちゃん「我らが一族に最高の高みを約束して下さった恩神じゃ。あのお方は」
イヴ「そんなたいそうな者か、あれが。きっと、今日はローラント島で教会内で堂々とロリエロ本を読んでいるのだ、あの駄目神は」
あの駄目神を知る者ならば、誰でも想像できる。教会内の長椅子を1人で独占して、素足のまま、足で太ももを掻きつつ、だらしない淫乱な笑みを浮かべて、ロリエロ本を寝転んで読んでいるんだろう。
たちの悪い事に最近はお父様とお母様の親友の息子 新刀寺明日葉を従者にして、秋葉原を探索している。もはや、神の威厳はなく、ロリモノのラノベ、アニメ、漫画、小説などをコレクトし、主に予をモデルにしたモノを好む悪癖まであの駄目神と自称 予のお兄ちゃんである明日葉にはあるのだ。最悪だ。
思い出しただけでも顔が青ざめる。
るーちゃん「有名税じゃ、我慢せい。我がイヴの幼い頃から言い聞かせておるじゃろ」
イヴ「解っているのだ。了解なのだ。それで今日はるーちゃんにお願いがあるのだ!」
るーちゃん「我が配下のコウモリは常にイヴの周囲を観察して、状況は理解しているのじゃ。ルルリとやらの頼みでルルリママを探すのじゃろ?」
イヴ「話しが早いのだ」
るーちゃん「しかし、イヴの貧弱な幼女体型では魔剣 レーヴァティンは一振りもできん。お守り的役割に徹するしかできないのじゃ」
イヴ「それでもOKなのだ。るーちゃんがいるだけで勇気100倍なのだ」
るーちゃん「嬉しい事を言う。よし、我を抜け。ゆくぞ」
予はるーちゃんの承諾を得て、るーちゃんの魔剣 レーヴァティンを初めて抜く為に歩を進める。柄を両手で持ち、一気に引き抜いた。
白刃の先にはやはり、予が予想した通り、古代クイーン語で我が妹 リリア・クイーンを殺めて、と刻まれてあった。
イヴ「るーちゃん、予は………」
るーちゃん「見届けさせてくれ、最期の魔王 ルリア・クイーンと勇者の恋人の貴族 リリア・クイーンの姉妹の悲劇の再来ではなく、今度こそ、ハッピーエンドを」
予はるーちゃんの言葉に頷くことしかできなかった。
それはきっと、切実な願いなのだから。
<凪紗南イヴは魔剣 レーヴァティンを手に入れた。尚、装備はできますが、攻撃 ????? と表示され、現在のイヴでは一振りもできません>




