第17話 時代が求めるいつものどこかで見た争い
第17話 時代が求めるいつものどこかで見た争い
視点:凪紗南イヴ
場所:クイーン王国 クイーン王城
日時:2033年 4月4日 午前 8時35分
女王報告会議。
基本は全体の流れを自分とは異なるそれぞれ畑違いの大臣の動きを把握することである。女王である予はそれぞれの大臣の仕事を評価し、気になった点を全ての大臣のいる席で話しを合う。いわば、畑違いの発想を手に入れる為の作業でもある。遠い道ではあるが、重要なことだ。
円卓に座るのは、女王 兼 法務大臣でる予を膝の上に乗せた外務大臣 シルフィーヤ・リベリオン、宰相 兼 学問大臣 真田心愛、王内大臣 エスター・カルディコット、貴族大臣 ティフ・ガーソン 、中央大臣 コナー・ラッセル、国土大臣 ロイス・バーニア、財務大臣 エリアーヌ・ペリエ、軍務大臣 クロウス・ハウゼン、魔法大臣 オスヴァルト・ビュッセル、厚生労働大臣 レメイ・リェオ、農商務大臣 アラン・リデル だ。
重々しい空気が室内を満たしている。
めいめいに予に報告をし、その内容に対する反応を待っているかのようだ。
予の横で、真田心愛が直立不動に立って、ボードにチョークで色々と書き込んでいる。
心愛「まぁ、宰相としてあげられる問題点はこんなところだろう。イヴ、お前からは何かあるか?」
イヴ「うむ………まずは」
予は妙にクッション性能に優れた背もたれ(シルフィーヤの豊満な胸)にもたれ掛かる。人肌で丁度良い。しかし……威厳はかなりのマイナスだ。
イヴ「外務大臣 シルフィーヤ・リベリオン」
シルフィーヤ「はっ、治癒姫様」
そう、予をからかうようにシルフィー姉様は言った。
昔から、シルフィー姉様は予をからかって弄ぶのが大好きだ。予もシルフィー姉様がいつも、構ってくれたので成長してからも嫌だとは言えず、そのからかいに愛情を覚えてしまう。
クロウス「こりゃあ! イヴ女王様になんて言いようじゃあ! 温厚なイヴ女王様はお許しになるかもしれんが爺やは許さんぞぃ!」
爺やが円卓をだん! と力強く叩き、シルフィー姉様に注意した。
誰かがそれにまたか! と苦笑をするが、爺やだけ毎回、毎回、本気なので、顔がトマトのように真っ赤だ。
シルフィーヤ「いちいち騒ぐんじゃあないわ。事実でしょ、子猫の鳴き声なんていう団体であっちへ、こっちへと治癒魔法で怪我人を治癒してあげているのだから」
イヴ「シルフィー姉様」
さすがに、このままでは威厳がないので予専用の銀色の椅子に座ろうとするが……シルフィー姉様の両腕が予のお腹に巻き付いて離れない。ジタバタしても離れない。
シルフィーヤ「それにしてもこの部屋暑いわ。城御用達の風屋さんをお呼びなさいな、そこの王族守護騎士の方」
しれっと、風魔法で空冷を行う風屋を呼ぼうとする。
守護騎士1「え、あのどうしましょう、先輩」
守護騎士2「俺に振るなよ、しかしなぁ」
さすがに、守護騎士達もツッコミたいが……突っ込めないらしい。彼らは貴族でも家を継げない者で、そういった者が守護騎士となる。
城と王族を守る役なので勿論、優秀でない者や素行に難がある者は選考から外れる。遺憾なことに最後は親の国に対する貢献度で決まってしまう。やはり、功労者は無視できないのだ。そんな風に選ばれた彼らだが、この重鎮が集まる場を守護している彼らでも顔に覇気が無く、予が素で「こいつら、どうにかしなければ」と思ってしまう程の実力のなさだ。地方騎士の方が実力は勿論、胆力もある。
そんなヘタレに代わって予自ら、ツッコむ。
イヴ「予を膝の上に載せておるからだろう! いつも、いつも、予は偉いんだぞ!」
シルフィーヤ「え? そんなまさか。いいえ、ば、ばかな」
シルフィー姉様が予の顎を撫でて、猫みたく大人しくさせようとしている。予は人間なのに……。
イヴ「何故、打ちひしがれるのだ。とにかく、ここの部分だ、ここ。予はこれをもっと、詳細に聞きたいぞ」
速読で会議中、再確認した外交資料 219ページの3行目を指さす。
シルフィーヤ「ああ、えーと、スユーフの武器輸出量軽減に伴うクイーン王国は勿論のこと、各国の店頭に並ぶ武器が高価になるかもしれないとの事。私からクイーン王国の大使館に連絡し、詳細を調べさせました。どうやら、偽物が出回っているそうです。それも大量に」
イヴ「うむ、要するにコピーが他国に流出してしまい、それで信用を落としてしまわぬよう、対策を考えているのだな。ここで防いでおかねば、スユーフのドワーフ達の名に傷がつき、彼らは他の土地へと居を移してしまうかもしれない。さすれば、技術も、と」
シルフィー姉様の腕が予のお腹から離れた隙を狙い、予は椅子から飛び降りる。両腕を組んで、円卓の周囲を一周する。予の一手が決まった。
鉢に植えられた観葉植物 ウリルル(葉を磨り潰して、白湯に入れたモノが風邪薬になる)の赤い葉を撫でながら、予はシルフィー姉様に命ずる。
イヴ「シルフィーヤ、ドワーフ達に万が一の場合はクイーン王国が場を提供するとそれとなく、風の噂程度に流しておくのだ」
それとなく、風の噂程度に、が重要だ。
誰もがその言葉の意図に感づいて反対の意見はない。
シルフィーヤ「ええ、深層心理に植え付けるのですね。もしかして、の希望を。それが英雄の娘 イヴ女王様ならば、あり得る話しです。100%の勢いでドワーフに勧誘を行っているのでなければ、向こうの国もイヴ女王様のご両親に世界を、国を救っていただいた手前、文句はそんなに出ないでしょうね」
ティフ「それはどうかな、向こうのラザーン・スユーフ王はまだ、お若い。激昂してイヴ女王様に対して、何かマイナスになる宣伝を打ってくる可能性があります。さすがに……今はどの国も大きな争いになる事を避けています。北庄の紛争がこちらに飛び火してきていますからね」
頭部に茶色の毛一本だけ生えた貴族大臣 ティフ・ガーソンが自分の意見で間違いないよね、とおどおどした感じでさすがに……と加えた。
イヴ「ラザーンか、あの戦争史大好きオタクか………頭が痛いのだぁ」
頭が痛いと表現する為に予は心愛の膝上に飛び乗り、心愛の腕に頭を擦りつける。さすがにおふざけが過ぎたのか、心愛に頭をはたかれた。
それはいつもの余裕を保った予の態度であると解釈したのか、会議は止まることなく、続く。
クロウス「イヴ女王様、クーデタの気配をそのスユーフで関知しました。我らが軍の影が」
イヴ「予が予想した通り、その準備を進めているのは、スユーフ第二王女 ジャンヌ・スユーフか。転生者と超能力者の特性を両立する異端の存在、貧民に堕とされた民も知らぬ王女。本人さえも自分が王女とは思っておらんだろうに」
スユーフ第二王女が生きていた事実は、スユーフ宰相が良心の念に苛まれ、懺悔に来たリンテリア教会の彼の懺悔を聞いていたアイシャから聞いた(本当はいけないのだが……何故か、そう言った情報を止めろと言ってもしばらくしたらまた、予に伝えてくる)。
第二王女 ジャンヌ・スユーフ暗殺命令を出した人間は第一王女 クーア・スユーフの日記を盗み見したメイドから露見した。メイドがクイーン王国の大使館に助けを求めて、その見返りとしての情報だ。
第一王女 クーア・スユーフがどんな理由でか? は知らないが、第2王女 ジャンヌ・スユーフを排斥した。
シルフィーヤ「イヴ女王様、治癒永続やりますか?」
やらないんでしょ? とも、取れるような微笑で微笑む。
クロウス「それはお止め下され! あれはイヴ女王様とセリカエルフ姫様、聖女 アイシャ様が北庄に」
イヴ「爺や、興奮してあの時のように倒れるでないぞ。予はスユーフにそれほど、経済戦略的価値を見いだしてはおらぬ。勇者のお父様ならば、助けにゆくのだろうが、予は自分の命をチップにしてまでのお人好しではない。それに今はその時期でもない。戦力がそれだけならば、予もジャンヌ側に予の軍勢とはわからぬ形で人材を派遣したであろう。しかし………」
心愛の目の前にあったココアが湯気を立て美味しそうな香りを放っている。
その湯気を見つめながら、こういう争いには必ず、ちょっかいを出してくる人物を頭に思い浮かべる。
憎しみで頭がどうにかなりそうだったが、首を左右に振り切り変えた。
イヴ「いるのであろう、華井恵里が」
クロウス「本人直轄ではない模様ですが………科学崇拝者 エルスエデンの末端 機械の軍勢の者じゃ」
イヴ「最悪なのだぁ」
シルフィーヤ「ああ、あそこね」
オスヴァルト「機械兵という異世界の、こちら側ではロストテクノロジーのあれを独自で生み出したリンテリア世界最大の科学の盲信集団の一つか。これだから薄汚れた血のものは。パワーバランスを理解していない」
レメイ「そんなことになったら、レメイ! ちょー忙しくなるですよ、ぷぅー」
ぷぅーと蜂蜜をスプーンで掬い取りながら、緑色のセミロングの妖精さんで、厚生労働大臣 レメイ・リェオはそう文句を言った。
蜂蜜を口に運んでうーんと唸っている。
オスヴァルト「頭でっかち娘、それはここにいる皆、だ。機械兵は魔法しか効かない。倒すには優れた雷魔法 Aランクくらいの魔法が使え、戦場に熟達した者がしかし、先の枯渇騒動で………」
好きなモノは権力だ! とすがすがしい程、はっきり言うスキンヘッドの魔法大臣 オスヴァルト・ビュッセルは苦々しく、手元にある自分が調べた資料を眺めていた。
その資料がメイドの手を経て、予に渡る。
予と、予の読む資料を覗き込んだ心愛は同時にうげーとはしたない声を出した。
機械兵とは戦争時に機械兵のみだけで軍勢を形成し、戦法を駆使して戦える考える頭を保っているらしい。
その一例がずらり、書き込まれていた………。人間のような情けがなく、分が悪い。
世界天秤条約を向こうは一方的に破るのに、こちらはその範囲内で戦わなければならない。異世界リンテリアに本来ない技術は地球連合が吟味し、それを異世界連合を通して少しずつ伝えてゆく。それ以外の技術の伝播や持ち込みは禁止するという条約の枠内で。
クロウス「まだ、ラザーンにつくか、ジャンヌにつくか、決まったわけではないが……どちらについても、若者の血が大量に流れるのう、それも無辜の」
機械兵は兵士とそれ以外の見分けをつけられない。
戦場にはそんなの不要という考えもあるが、そもそも、そんな人間の脳に近い思考パターンを未だ、地球側も獲得できてないのだ。
ある意味、半端な技術だ。
イヴ「機械兵、それもエルスエデンが相手ならば、ヒーロー達も駆け付けるであろう。しかし………」
シルフィーヤ「駄目よ、イヴ女王様。正式に助けてくれ! って言われなければ無許可の内政干渉に。北庄の場合は日本、シーリング、クイーン、リンテリア教がイヴ女王様の干渉に対して後押ししたわ。イヴ女王、英雄の娘を危うく、失いかねなかったんだからね。理由としてはまだ、あるけど、それだけで充分だった。今の経過ではただの後片付け? どうすんの? を知らない小娘になってしまうわ」
クロウス「両勢力を誘惑する蜂が放たれている頃じゃのぉ。どう焚き付けるのか、見物じゃ」
イヴ「全く、無能な戦争オタクはとりあえず、兵器を出して、どーん! 制圧、力で押さえつけろ、と考えておるのだろう。求心力のある政治プランがそこになければ、民はついて来ぬ。理想論なんてもってのほか、だ」
シルフィーヤ「あら、イヴ女王様ってその理想論の為にポーションで経済コントロールを意図的に行ってるじゃないですか。あれ、自分に逆らったら、ってパターンでしょ。私よりドSね」
イヴ「ふふふふっはっはははは!」
予はシルフィー姉様のある意味、大正解の答えに驚き……そして、盛大に爆笑してしまった。腹を抱えて、円卓に頭をつけて、どんどん! と円卓を叩いた。
純粋な人間からすれば、予の成していることは神の侵略と見られるのだろうか?
幼女の生を見守る神、未だ一部の者にしか知らぬ神 イヴの。




