第14話 歌唱兵器イヴちゃん
どのくらい昔のことか、解らないので5000年前と修正させていただきました。
第14話 歌唱兵器イヴちゃん
視点:凪紗南イヴ
場所:クイーン王国 クイーン城下街
日時:2033年 4月4日 午前 7時20分
*
親愛なるイヴ・クイーン様へ
Lilithなるめす…………いいえ、Lilithなる歌姫の到着が遅れるそうです。
何でも、くそぶ………いいえ、ファンにシーリング国のレイキンホテルからレイキンワールドゲートに行くすがら、Lilithの乗車する馬車が囲まれてしまったんですね。
早く、けちら………いいえ、歌姫らしい気の使い方でファンにサインをしてあげたそうですよ。
この分だと…………Lilith到着はお昼くらいですね。それまで暇なので、駄目神と一緒に往生するまでゲームをやってますよ。え? 懺悔を聞いてやりなさい? いや、ですね。そもそも、駄目神に祈ってどうにかなると? 駄目な奴に祈ったら、余計駄目になりそうです。そう思いますよね、イヴ。
イヴ、30分後、またメールします。
*
イヴ「今日は珍しく、駄目神がリンテリア教の行事に出席しているのか? 珍しい。いつもであれば、地下都市 秋葉原で買い物にしておるだろうに」
アイシャのメール内容に対してホログラム ウィンドウを消去しつつ、ため息交じりに感想を述べた。
窓は開けっ放しで新鮮な空気が馬車内を満たしてくれる。予の髪がぐちゃぐちゃになる度に甲斐甲斐しく、予が膝上を借りているセリカが櫛でとかしてくれる。
セリカ「ふんふん♪ らんらんらぁ♪ らぁん♪」
鼻歌も鮮やかな桃色の唇から紡がれ始めている。
よし、予も唄おうと息を吸う。
そして――――
イヴ「明日を征く翼が♪ 僕らには♪」
予の美しい歌に合わせて馬車も喜んでいる。馬車が軽やかにステップを踏む。まだ、ダンスの経験が社交界であまりない貴族の小娘のように。
自然も予の歌に手拍子を打つ。
森が初恋の人と手を繋ぎ、どうしよ、どうしよっと動揺している幼女のように浮かれている。
おっ、予の美声を聴けたのが嬉しいのか! クイーン王国が保護しているコウモリ達も道ばたにバタバタと倒れてゆく。それを介抱すべく、予の居城 クイーン王城に続く道であるルリアロードを守護する青い顔をした陸軍騎士達がコウモリ達を運んでゆく。
イヴ「よほど、ボクの歌声に感激して失神したのだな。Lilithになった気分なのだぁ! よし、また!」
真央「やめろ! クソ音痴女王様! 音階がぐちゃぐちゃじゃない、あんた!」
と、真央が予の頭をぱしっ! と叩く。いい音がするのだ。
音痴? そんな事はない。いーちゃんはお歌がお上手ね、とお母様にいつも褒められていた。それはあり得ない。あまりな言い掛かりに予は少し、不満だ。
だが、不満なんか感じている暇はない。
先ほど、ヒールリフレッシュを掛けてやり、少しは綺麗になったルルリだが、ママがいない事実に不安を覚えて、両肩を抱いて俯いている。
ルルリ「………イヴ女王様、イヴ女王様、歌が、歌がぁ……うぅ、ぶるぶるるる」
何やら、ぶつぶつと喋っている。
よほど、不安なのだろう。それ、プラス、位の低い一般国民からすれば、国の頂点に立つ女王にこんな近くで会える切っ掛けは一生涯ない人間が多い。
他の王族よりも、予は民に接する機会も多いので会えるかも知れないが。
予はよく城下街に遊びに来ているが、そんなことだから、よく軍務大臣 クロウス・ハウゼンにこう言われるのだ。
クロウス『イヴ女王様、お待ち下され。少しは爺やめの話をお聞きになりなされ~。また、城下街でハイカラなお品をお召し上がりになるのですか。じいやは許しませんぞ。毒にやられたらどうするのです』
イヴ『爺やは心配性なのだ。予には毒の類いは効かぬ。普段から自然と治癒の力が働いているのだ! では、行ってくる!』
そんなことを思い出していると、口がにやけそうになる。が、不安に思っている者の前で笑えば、誤解を与えてしまうと思い直し、真面目な表情を保つ。
イヴ「ルルリ、そんなに怯える必要はないのだ。城に連れて行くのは先ほども言った通り、行方不明事件の件数がいつもよりも多いのだ。だから、少しでも手がかりが早く欲しいとルルリのお話も聞きたいだけなのだ」
真央「いや………それもあるけど、イヴの歌に………」
セリカ「そうですわ、破壊歌声に…………」
イヴ「ない! それはない。予の歌声は世界一なのだ。お母様がいーちゃん、お歌がお上手ですねって褒めてくれたんだ」
ルルリ「………同じなんですね、リン元女王様も」
顔を上げて、ルルリの犬耳がぴんっとしっかりと立つ。例のお願い以降、予の顔を見ようとしなかったルルリが予を見つめる。
そして、笑った。
ルルリ「ルルリはママに泥んこになって帰ってくると今日も元気に遊んできたんだね、えらいねって言われまし………たぁ」
涙ぐむ目を泣いてないよと誤魔化すように袖で拭う。それでも、赤くなった鼻がひくひくと動く。
予はルルリの頭を撫でた。
イヴ「ルルリ。まだ、間に合うのだ。予は間に合わなかったのだ。いや、あの時の予はおごっていたのだ」
真央「イヴ」
セリカ「イヴちゃん」
それ以上は何も言わずに、窓の外を眺める。
石で築かれた巨大な城が小高い丘の上に建っていた。
その巨大な城は旧世界の東京ドームを完全再現した東京新ドームの60個分の広大な築城面積だ。風格は堂としたモノで幾つもの尖塔が聳え立っており、その窓から魔法に長けた王族守護騎士が周囲を見張っている。
人の警備以上に巨大な城の背後は幾つもの滝があり、その滝の源流は人が登るのは不可能な富士山ほどの高さを持つ崖だ。ロッククライミングすら難しい。
また、城に来たる道は頑丈な跳ね橋の1カ所しかない。普段は跳ね橋は上がっていて城への道は閉ざされている。
城の周囲には流れの遅い水深の深い川が流れている。川の名はクイロイ川。クイーン王国で一番、長い川だ。妖精女王が居城するフェアリーランドの地にまで続いており、妖精女王の妖精族の使者はこの川を利用して直接、クイーン王城専用港まで来る。
これはお母様とレア・ミィール妖精女王が同じ英雄であり、親友だから、実現したことだ。何でもお父様の案らしい。
イヴ「予はお母様から多くのモノを託されているのだ。頑張るのだ」
そう1人、呟く。
見張りの王族守護騎士が予の乗車する馬車に気が付いて、跳ね橋を上げる。鎖の重々しい音が辺りに響く。あと少しで総点検しなければいけない時期なのだろう。そういえば、4月は城のメンテナンスが尤も、入る時期か…………と思考する。
その間に完全に跳ね橋は下ろされる。
予の馬車以外はここで馬車を守護騎士に引き渡し、守護騎士が中身を調べた後、守護騎士が城の右側にある馬車駐車場に止める。これはお父様が考えた方法で何でも、城に危険物を持ち込ませないようにこちら側で調べるらしい。当然、馬車の所有者にも誰か残ってもらい、その主旨を解ってもらう。今では何処の国も真似をしている。相手方が不機嫌になることはないのだ。
予の馬車は他の馬車とは違い、城の中央にあるルリア像へと横着けされた。このルリア像、予とそっくりなのだ。
セリカ「いつ見ても、5000年前の最期の魔王ルリアとイヴちゃんは似てますね。わたくし、びっくりです」
と、セリカが元気よく、飛び降りてそう言った。
イヴ「しかし、予とルリアに血縁関係はないのだ。クイーン王族は5000年前、最期の魔王 ルリアを倒した勇者の恋人の貴族がその源流なのだ。名をリリア・クイーン」
と、セリカの真似をしたが、飛び降りるのに失敗してたたらを踏んだ。地面に転ぶと思い、目を瞑ったが何やら、柔らかいモノに防がれる。
目を開けると、そこには予のよく見知っている少女がいた。
クイーン王国 宰相 真田心愛。
真田心愛は156cmの小さな背にはぶかぶかな真っ白な軍服とフリルスカートを履いていて、お尻の位置まで伸びた金色の髪に赤いリボンで形成されたツインテールとなかなか、可愛らしい格好だが、言葉は男らしい。それは彼女が転生者だからだ。
イヴ「相変わらず、薄い胸なのだ、総統閣下様」
心愛「それは仕方ないだろう。俺は気分、男なんだ。そこは神様が気を利かせたんだろう。なぁ、神様代表薄い胸神様」
しばしの間、睨み合ったフリをするが………
イヴ「数日ぶりなのだ、姉妹」
心愛「ああ、数日ぶりだ、姉妹」
と、腕と腕を合わせて、挨拶とする。




