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創世する世界のイヴ # Genesis to the world's Eve  作者: 遍駆羽御
本編―――― 第2章 1000キュリアの祈り
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第13話 馬車にて。民の声を聞く。

 第13話 馬車にて。民の声を聞く。


 視点:凪紗南イヴ

 場所:クイーン王国 クイーン城下街

 日時:2033年 4月4日 午前 6時50分


 *


 親愛なるイヴ・クイーン様へ

 まだ、イヴのお目当てのめすぶ………Lilithは到着していません。

 不本意ながら聡明なイヴに似ているLilithは何故か、イヴの主催するパーティーには音楽活動が忙しく出席できないとイヴに近づくことを抑え、教会にすら、イヴの推薦状でローラントの大聖堂で唄う名誉を得られたのに断っていますね。それも何度も。

 ものすごく、匂うのですが…………あっ、いや、イヴの好きなLilithがイヴを悲しませる真似しませんものね。

 マスコミに言われているイヴリリ不仲説なんてないですものね。

 イヴ、30分後、またメールします。


 *


 予は馬車に揺られながら、腕時計型携帯電話のホログラム ウィンドウに表示されたアイシャのメール内容を確認して落ち込んだ。ごろん、と真央の膝上に倒れ込もうとする。


 真央「鬱陶しい」


 だが、それは真央の手の平によって阻止されて、セリカがいる予の右側へと押し返された。


 女性1「コウモリを模した国旗に、その横にイヴ女王様のお印の蒼薔薇の旗! イヴ女王様よ、ミナミ」


 女性2「魔法雑誌 マジカのコラム、読んだわ。治癒魔法の特集! 凄いわね、腕が一本跳んでも再生可能。病気もエルフ特有のミルギア病なんかも治しちゃうんでしょ! 異世界から入ってきた梅毒? や、エイズなんかも治癒可能とか」


 男性1「マルタは興奮しすぎだよ。でも、解るなぁー。そんな凄い人なのに全然、偉ぶらない。いや、言葉遣いなんかは小さい子が尊大に喋ってる感じで偉ぶってるんだけど」


 女性1「なに、言ってんの? それが今の異世界で流行の萌え? らしいわ。イヴ様の自称 変態お兄ちゃん 明日葉様がPC雑誌でそう言ってたわ。まー、検閲があってほとんど、真っ黒なんだけどね」


 男性1「それ、読む意味あるのかな………」


 予の帰国を知った民達の楽しげな声が馬車の分厚い壁を通して聞こえてくる。きっと、表情も喜怒哀楽、豊かで本当に絶望している人間なんぞいないことが締め切ったカーテンをわざわざ開けずとも解りそうだ。

 そんな民達の幸福を実感すると自然と予の心が平静になってく。真央の手の平に押された予の身体が勢い余って、セリカの膝上に到達しそうになる。


 それを真央と同じように、

 セリカ「えい♪ ですわ」

 とセリカが予の右肩を押して、真央の方に追いやる。


 イヴ「あうー」


 真央「鬱陶しいわ」


 イヴ「あうー」


 セリカ「それ! イヴちゃんボールですわ。今度こそ、点を」


 真央「なに、すりゃあ、点数に繋がんのよ!」


 イヴ「目、目がぁー、目がぁー」


 セリカ「見ろ、人が照り焼きバーガーのようだ」


 イヴ「40秒で食卓にデリバリーしな」


 真央「何、イヴの民をイヴに喰わそうとしてんのよ」


 何度も予はイヴボールとして、真央とセリカの間を行ったり来たりしている。結果、目がものすごく、回った。

 こんな時にも治癒魔法は便利なのだ。

(ヒール)

 目眩の消えた予は最終的にセリカの膝上に身体を倒した。


 セリカは優しく予の白銀の髪を撫でた。幸せなのだ。


 セリカ「良い子、良い子ですわ、イヴちゃん」


 イヴ「しあわぇー」


 真央が何か、言いたそうにこちらを見ている。


 真央「べ、別に羨ましくないんだからね。勘違いしないでね、竜族の国 北庄を立て直す為にイヴの側室候補になったんだからね」


 何故か、そう言う真央の顔はみるみるうちに真っ赤に変色してゆく。


 イヴ「真央、ヒールが必要ならば、いつでも言うのだ!」


 真央「あんたねぇー、はぁー、もういいわ」


 そう言って真央は予の銀髪を撫で始めた。セリカも予の銀髪を撫でているので、なんだか、動物園のふれあい広場で人気のペンギンさんになった気分だ。


 ここ、クイーン城下街はファッションに関する店が主に建ち並び、しのぎを削っている。とはいっても、予の帰国を歓迎する声以外の彼らの商いの声は外まで聞こえてこない。

 ファッションを扱う店だけではなく、クイーン王国では店員の一切の外での客引きを法律で禁止している。

 元々、古来からクイーンの民は人懐こく優しい人柄であり、法律で禁止していない頃もそれなりに礼儀正しかったらしい。


 イヴ「予の民達は人が良いのか、国外で詐欺に遭うことが多い。電話が普及していれば、互いに用心し合い、防げるやもしれぬ。しかし、予のような王族のみが腕時計型携帯電話をリンテリア世界に持ち込める。歪なのだ、世界天秤条約」


 真央「それって、王族に鈴ってよりも、イヴカード以外にもイヴに鈴をつけておこうって魂胆でしょ、バレバレよ、バレバレ」


 セリカ「まぁ、まぁ、この方に戦力的に適うのはイヴちゃんしかいませんものね。警戒しますわ」


 そう言うと、セリカが連日、世界で取り上げられているバベルの塔のテロ事件の載ったアクレア新聞を予の目の前に広げる。


 見出しは”破壊の女王 華井恵里、リンテリア教会アメリカ ロサンゼルス支部を凍結させる。 死者 3700名 重傷者 4800名 行方不明者 1000名”


 イヴ「派手にやっておる。この前、重傷者 389名をヒトリスビルにて、ヒールマルチをしたのに」


 真央「あの女、それを見越してイヴに嫌がらせしてんのよ、陰険ね」


 セリカ「行方不明者 1000名って………」


 イヴ「あまり、考えるとお昼が食べられなくなるのだ」


 青い顔をしたセリカにそう予はアドバイスした。

 予は民達にバレないように、少しカーテンを捲る。


 イヴ「いい顔をしている。この民達を華井恵里の毒牙にかけるわけにはいかぬ」


 予の馬車に声援を送っている老若男女達は本来、王族が通る時にやる平伏の姿勢をとらずにいる。めいめい、隣の人間と話しながら、買ったたこ焼きを家族と分け合いながら、民が馬車の群れに飛び出して怪我しないようにガードしている騎士に「イヴ様にお花を」と詰め寄りながら、妖精の隠れ里の本拠地 フェアリーランドで伐採された妖精木を材料にした貴族の屋敷の屋上にキャンバスを広げて民の光景を絵に描きながら、予の馬車を見たいと駄々をこねる子を母親が肩車をしながら、と。


 予はその平和な光景を見て、自然と涙を流していた。

 ぽつ、ぽつ、ぽつ、とプリンセスドレスの上に涙の小さな波紋が広がる。


 イヴ「予は民達を守る為ならば、いつか決心する。”ラグナロク”を華井恵里に撃つ、と」


 そう、予には華井恵里を消滅させる魔法がある。

 少女神 リンテリアからお墨付きをもらった少女神 リンテリアが尤も得意とする人類の英知を越えた魔法 ラグナロク。

 誰も知らないパンドラの箱。

 予はそれを撃てば――――


 イヴ「化け物と今度こそ、皆に言われるだろう。その時、民達は予に微笑みかけてくれるのか。人の死はそんなに軽いのか? 華井恵里さえ、生きているのだ………」


 ドレスの裾を両手でぎゅっと、握りしめる。

 そんな予の震える手を真央がそっと、手の平で包み込んだ。


 真央「あんたの相談事、解ったわ。この前、初めて人を殺して、優しいあんただから人の死の重さに飲まれたんでしょ」


 イヴ「………くっ」


 真央「言ったわよね、北庄の時に。あんた、体つきからしても刀なんて持って闘う人間じゃないし。あんたはきっと、照り焼きバーガー食べてるなんか、庶民派なのか、ブルジョアなのか、解らない王族の方がお似合いなのよ。でも、あるのね、華井恵里を倒せる、その………ラグナロク?」


 イヴ「神と神が闘う為の神討伐魔法 ラグナロク。魔法防御を完全に無視する。極めれば、大陸一つを蒸発できる魔法なのだ」


 セリカ「イヴちゃん、撃てないのね? それ、人間の領域で使えば、凄い被害が出ますわ」


 イヴ「…………死んでも使わぬだろう。最初からオプションに入らぬ旧世界の核兵器のようなもの。新世界の重力弾のようなもの」


 真央「なら、使えないもんに気をとられんな! 今はあんたの民の笑顔を見る。ほら!」


 真央はそう言って、カーテンを勢いよく開いた。


 真央「王様がしょぼくれたら、民も心配するわ。相談は後で、ね」


 真央の膝上に抱っこされて、予は涙を治癒魔法 ヒールリフレッシュで消した。

 そして、笑うのだ。この笑顔の下に民よ! 集え! 皆を皆が天真爛漫に振る舞い、夢を誰もが目指せる平和な世界を創る! 皆も皆で創るのだ平和な世界を。

 窓から乗り出して、両手を気品あるゆったりとした手振りで振る。


 少女1「イヴさまぁだぁ! イヴさまぁ、ピーマンたべりゅ?」


 少女1のママ「そうね、お食べになるわ。だけど、背は伸びないわ。ほら、見てあんなに小さくて可愛い」


 なんか、余計な評価が予の背と胸に下った。

 その評価に予の腰を予が馬車から落ちないように抱いてくれる真央と、反対の窓から手を振っているセリカがぷっ、と含み笑いをした。

 予は負けない。


 男の子1「しょうらい、イヴさまみたいな女の子と結婚するんだ!」


 男の子1のパパ「地球の人はロリがあまり好きじゃないみたいだけど、俺達、リンテリアの男にはご馳走だもんな。ステーキだもんな。イヴさまはお椀に入った甘いおしるこだけどな」


 なんか、それも喜べない。

 またしても、背後から真央とセリカの含み笑いが聞こえる。

 ひぃーんと馬車をひく2頭の馬がタイミング良くいなないた。絶対、予を笑ったのだ。


 その他にも個性に溢れている民達の声を聞いていると、何やら、騒がしい声が聞こえてくる。


 騎士1「こらっ、待ちなさい! イヴ・クイーン女王様の馬車だぞ。小娘でも無体を働けてば、首が飛ぶぞ」


 騎士2「そうだよ、聞き分けなさい。世の中にはルールがあり、それを」


 女の子「いや、いや、いやだぁよぉ、ルルリは女王様に、ママを探して! ってお願いするんですぅ!」


 騎士1「例の失踪事件ならば、騎士団の方で捜査はしてる。わざわざイヴ・クイーン女王様の手をわずらわす必要は皆無だ!」


 騎士3「そうだ、戻りなさい」


 騎士2「親戚か、お父さんとか、と」


 予は女の子の切羽詰まった声を聞いて、小学生体型にあった可愛らしい胸が熱くなった。

 真央は予が何をするか、解っているのか、駄目よと首を横に振っている。

 セリカは「あらあら」と苦笑していた。


 女の子「そんなのいないもの。昨日、おばあちゃん! 死んじゃったもの!」


 イヴ「くっ」


 プリンセスドレスの裾をぎゅっと、握りしめ、口内の唾を飲み込む。

 お母様、今から王族としてあるまじき、えこひいきを行うのだ! 駄目ね、いーちゃんと転生宮で笑って下さい。


 イヴ「馬車を止めよ!」


 騎士4「しかし、イヴ・クイーン女王様!」


 イヴ「良いから止めよ………」


 騎士4「はっ」


 予の命令に従い、騎士はすぐさま、馬車を止めた。


 そして、予は真央の膝上から飛び降りて、予の姿を戸惑いと不安の瞳で見つめている7歳くらいの女の子の下へと急ぐ。

 尚も、予を止めようとする警備の騎士達を手の平で制する。

 周囲に集まる民達が一斉に予の姿を見て沈黙した。まるでお気に入りの映画が上映されるのを今か、今か、と映画館で待ち侘びる客のように。


 女の子はとても、綺麗とは言い難い格好をしていた。だが、服のセンスは女の子が愛されていたんだと如実に伝わるものだった。

 クイーン王国の女の子が一番、元気な感じがして動きやすい! と誰もが評価を下すレイお兄様が経営しているお店の中の一つ キュートクールガールの服だ。

 このお店の服は女の子が着ているように鮮やかなピンク色の春のまだ、寒い風が吹く季節にはベストチョイスなパーカーや、背伸びの子どもな感じの黒いホットパンツのような多彩なセンスの服が多い。

 だが、そんな可愛い服も埃に塗れて、パーカーの袖には卵の黄身らしき黄色が付着している。

 寂しそうに尻尾は垂れている。

 髪はぼさぼさのロングヘアにこちらも悲しそうに犬耳が垂れていた。

 お風呂に何日か、入っていないのか、少し異臭が漂ってきた。


 予は女の子が怯えないようにゆっくりと優しく自己紹介をする。


 イヴ「予はイヴ・クイーン。この国の女王様をやっているのだ。そなたの名は?」


 女の子「ルルリ・ミカサギです。お願いです、女王様! ママを探して! 女王様は勇者様の娘様なんでしょ。勇者様の娘様なら、きっと………」


 少し落ち着きがなく、早口でルルリはそう言った。

 ルルリは背後にあるホットパンツのポケットに手を突っ込むと星型の形で銀色の1000キュリア星を予に差し出した。

 予は受け取れずに、ルルリのお金の載った手の平を押し返すが、それでもルルリは諦めなかった。


 ルルリ「ルルリの今月のお小遣いです。これでどうか、女王様」


 イヴ「…………」


 ルルリ「…………」


 真央「とりあえず、もらいなさい。労働の対価よ。それって必須なんだから」

 と、予の代わりにルルリの手の平から1000キュリア星を手に取った。


 そして、予の胸に押しつけた。

 予はそっと、その1000キュリア星を受け取り、太陽に翳した。


 ルルリの汗できらきらと銀色に光っていた。

 1000キュリア星に描かれている予のお母様 リン・クイーンが予に「それで良いの、いーちゃん」と微笑みかけてくれている気がする。


 イヴ「とりあえず、お城でお話を聞くのだ」


 これがルルリと予の忘れられない行方不明事件へと足を突っ込む最初の一歩となった。






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