第113話 永劫の闇 前編
第113話 永劫の闇 前編
視点:凪沙南りりす
場所 地球 旧世界 東京都 千代田区、地球 新世界 東京都 凪紗南市 皇立桜花学園
日時 2033年 4月10日 午後 1時07分
お昼時にイヴお姉様に召喚器は過去の残滓から形成される心の形だと教わった。我の過去は我すらも思い出したくはない永劫の闇で模られている。
我、イヴお姉様、アイシャ、セリカ、咲良、メイシェは溝口あかり先生から借りた3階の使われていない教室へとエレベーターで向かう。
そのエレベーター内で召喚器と呼ばれる武器の制作過程を教わる。
その過程でイヴお姉様の裸を明るいところで見られるのは我得であるが…………。
りりす「我も全裸でなければ駄目なのですか?」
イヴ「服を脱がずにすると…………召喚器制作の際に服がぼろぼろになるのだ」
りりす「は、恥ずかしいが脱がねば……」
今、着ているブレザーとスカートは未来お姉様が我に用意してくれた制服。その制服をボロボロにしてしまえば、未来お姉様の逆鱗に触れるであろう。モノを大切にしろ、と。
しかし……と、我はイヴお姉様の金銀のオッドアイを見つめる。
は、恥ずかしい。
イヴ「ん? 予も脱ぐから恥ずかしくないのだ」
セリカ「わたくしと咲良ちゃん、メイシェちゃんは廊下で待っているから恥ずかしくないよ」
アイシャ「私は近親相姦希望厨二病 りりす第二皇女様の裸には興味ない。互いに置物と思うようにしましょう」
相変わらず、人を出荷寸前の豚さんのように見る朱い瞳をしている。なんだか、酷くプライドを傷つけられた感覚に襲われる。ここまで言われて黙っている漆黒のプリンセス りりすではない。
りりす「良いだろう、我も汝を置物と思うようにする」
そう言って、我はブレザーを脱ごうとする。脱ごうとするが、メイシェに邪魔される。
メイシェ「りりす様! ここ、まだ、エレベーターの中。ここで脱いだらただの変質者よ」
咲良「ぐぅー」 ※咲良は深夜の通販番組の見過ぎで日中、常に眠いです……。
メイシェの意見に同意するように? 咲良が首を縦に動かす。その無意識の行為に咲良は目覚めて周りを見まわして言う。
咲良「寝てないよ」
誰もが寝ていただろう、と言いたげな表情を浮かべる。
*
セリカ、咲良、メイシェは廊下で待機して、我、イヴお姉様、アイシャだけが使用していない部屋へと入る。
イヴお姉様が溝口あかり先生より預かった鍵で扉を開けて部屋に入ると何故か、何もない部屋に少女神 リンテリア様がいた。
リンテリア様は寝転がっていつも通り、エロロリ漫画を読んでいた。銀色のおかっぱ頭がトレードマークの可愛らしい少女風の神様なのにとてつもなく、残念だった。
イヴ「何故、いるのだ? 少女神 リンテリア様?」
少女神 リンテリア「いーちゃんが全力で召喚器制作を行うと……地球が少し、揺れるねん。だから、少女神 リンテリアこと、私がサポートをするべく、来たねん。前回はいーちゃん、完全神化して」
イヴ「完全神化って?」
少女神 リンテリア「あー、いーちゃん、意識が定かではなかったのねん。完全神化はヴァンパイア族の血の影響を受けない完全なる神の血のみでの神化。通常では神化してもヴァンパイア族の血が邪魔をして神の力を半分程度にしか使いこなせないねん。何の因果か、召喚器制作時のみ、完全な状態を取り戻してる。いわゆる暴走に近いねん」
イヴ「うーん、召喚器を創る時、一時的に意識を失う。そこから多分、完全神化してると思うのだ」
少女神 リンテリア「身体に悪い影響が出ることもなし。今はあっちに置いておくと良いねん」
あっちに置いておくという言葉と同時に少女神 リンテリアは何もない空間のところに箱があるように持ち上げて、横へとずらした。
少女神 リンテリア「さぁ、いーちゃん、脱ぎ脱ぎしましょう♪」
イヴ「………サポートということは予の力をある程度、抑えられるのだな。ということはブレザーを脱がなくても……」
そう、イヴお姉様が言った瞬間、少女神 リンテリアはちっ、と舌打ちをした。
イヴ「最初はりりすの召喚器を創るのだ。準備は良いか? りりす」
りりす「服を脱ぐ必要がなくなったとなれば、後は我の心次第、大丈夫」
イヴ「了解なのだ」
イヴお姉様がゆっくりと目を瞑る。
それを確認した後に少女神 リンテリアがイヴお姉様の背中に両手を当てた。
部屋がガタガタと揺れて、イヴお姉様の身体が銀色の光に包まれて、イヴお姉様の背中に8枚の銀色の翼が生えた。
イヴお姉様の瞳が銀金のオッドアイから両眼の虹彩が銀色へと変わる。
少女神 リンテリア「……完全神化したいーちゃんの力が思いの他、強い……。これが……なのか。この状態なら…………に勝てるかもしれない。全ては未来神の未来に予想された通りに進む……」
イヴお姉様は我に問う。
イヴ「創世する世界の果てで少女は謳う再生の未来、破滅の過去、停滞の現在を。されど、たゆたう魂に抱かれて少女は願う、再生の炎を」
その力ある言葉はイヴお姉様の心の中に常にあるような気がした。
イヴお姉様の優しい気配とは他に神の畏怖のような見えないオーラがあり、我は思わず、息を呑んだ。
イヴお姉様の右手が我の胸元に触れる。
触れた瞬間、我の胸元へとイヴお姉様の右手が沈んだ……。沈んだというのに我の身体に何ら異常は無い。
アイシャが我の背後で同じように息を呑んでいた。
アイシャ「これが神の領域なのですか。なんて神々しい」
イヴお姉様特有の蜂蜜や砂糖をふんだんに使ったお菓子のような笑みでイヴお姉様は我を見守っていた。
イヴお姉様の小さな唇が声を奏でる。
イヴ「さぁ、少女の強き願いから産まれた少女の願い人。汝は何を願う?」
りりす「我の願い?」
イヴ「何を願う? それが運命を創世する力となる。さぁ、運命の少女の闇よ」
りりす「我は……」
どんどん、瞼が重くなってゆく。
我は理解した。
このまどろみは我の捨ててきたモノを呼び起こすモノ。我に再び、闇を纏え! と促す狂気。しかし、その狂気は我の胸元から供給される優しさによって相殺されてゆく。
纏うのではなく、使えとその優しさは我の心に提案している。
良いだろう、使ってやろう我の過去、我の闇を、とその優しさに応えた。
これから我は夢へと赴き、我の闇を集める作業にゆくのだ。
”何が願い? 我の願いは…………”




