第103話 ヒーローの呪いを受けた日 前編
第103話 ヒーローの呪いを受けた日 前編
視点 久米野豪
場所 地球 旧世界 東京都 千代田区、地球 新世界 東京都 凪紗南市
日時 2033年 4月9日 午後 4時20分
~セリカ・シーリング班~
ディスターの撃破に成功したが……その後、突発性時空の歪みによって刹那空間ゲートが生じて、地球と一時的に繋がった空虚次元空間から、スカルドラゴンの群れが出現した。
その後、散開して今、セリカ・シーリング、僕、覇道プリムラはスカルドラゴンの群れと対峙していた。
ヒーローには2種類、いると言われている。
ヒーローとして純粋にあらゆる悪と闘う正統派ヒーロー。
ヒーローという身分を利用して、元々のヒーロー創設の要因となった秘密化学結社 エルスエデンの壊滅を己の憎しみのみで志す偽物のヒーロー。
残念ながら、僕は偽物のヒーローだ。
決して、エルスエデンを僕は許すこと等できない!
僕には戦い前にいつもする儀式がある。
2年前の12月31日 僕は久米野豪としての人生を自ら捨ててヒーローになった。その日を瞼の裏側に思い起こすのだ。今も見えない血の涙を僕は流し続けている。
視点 久米野豪
場所 地球 旧世界 東京都 千代田区、地球 新世界 東京都 凪紗南市
日時 2031年 12月31日 午後 9時20分
30歳になったら、童貞は魔法使いになるんだぜ! について議論をしながら一緒に飲んでいた警察の同僚 赤石和を彼のアパートに放り込んでから、僕は家族が待っているであろう自宅へと急いだ。日本は13年前に異世界 リンテリアとの交流が始まり、無数の時空の歪みから危険種動物が出現した事により、武器の携帯が許される物騒な世界になった。
尤も、勇者様が核兵器による空気汚染をなんとか、してくれたリスクがその危険種動物なのでそれくらい、僕達、平凡な人間は我慢しなければならない。
丁度、僕が見ている前方に【地上世界開拓者募集!】の広告看板が設置されていた。その看板の中で僕ら 日本人が尤も、慕っているイヴ皇女様が泥まみれになって畑を耕していた。
豪「皇女様も変わってるよなぁ。汚れ仕事なんて下々の者に任せておけば良いのに」
だが、そんな庶民を差別も、区別もしない凪沙南イヴだからこそ、同人誌に勝手に描かれるまでに人気になったのだろう。国民の全てが思っている。銀色の髪、金銀の瞳のプリンセスの為ならば、苦労を惜しまないと。
豪「全く、国中、ロリコンだらけだな」
夜空を見上げると、冬に咲く星々が綺麗に輝いていた。今のご時世ではプラネタリウムでしか鑑賞できない星々をいつも、見られるなんて贅沢だ。抽選に当選して、地上にある凪沙南市 住宅区に1年前、家を建ててよかったなと思う。
星々の輝きにより、荒んだ心が浄化したおかげか…………あるのか? どうかも分からない組織 エルスエデンが関与している事件の捜査チーム φ(ファイ)の激務から、自宅でまったりしように気持ちを切り替えることができた。
そうなれば、年が26歳であろうと自宅へ向けてスキップをしてしまうのも無理からぬことであろう。
誰もいない暗い夜道を住宅の群れの灯りを手がかりにして、器用にスキップをする。
なんか、だんだん、楽しくなってきた。
背中に背負っている大剣の重みなんて忘れてしまいそうだ。
*
父親や母親、妹 久米野朱が自宅にいるはずなのに……灯りが付いていない。まだ、除夜の鐘が鳴る時間帯でもないのだから、外出しているって事は考えにくい。刑事のカンがこれは何か、事件に巻き込まれたんだと告げている。だが、僕は頭をデタラメに振って、そのカンを否定しようとした。
刑事の習性なのか、心は否定しているのに、身体は肯定して、背中に背負っていた大剣を構えた。
そして、静かに2階建ての自宅の扉を開いた。開くまで心臓がかつて無いほど、太鼓を叩いていた。
警戒しながら、父親や母親、妹 久米野朱が寛いでいるであろうリビングに向かう。向かう途中、咽せるような血の匂いが漂ってきた。
殺人現場をもう、何十件と経験している僕には解った。もう、三人は生きていないだろう。出血の量が酷すぎる………。見てもいないのに解ったのだ。それが僕には悲しくて仕方がなかった。
リビングに続く扉をゆっくりと開けて、リンビングに突入する。
????「やぁ、やっと、帰ってきたね。エルスエデンだよ、お兄ちゃん♪」
それは鋭い緑色の虹彩を保っていた。
それは黒く長い髪を保っていた。
それは華奢であり、6歳くらいの少女であった。
それは鮮血に染まったピンク色のワンピースを着ていた。
それ――少女の周囲には僕の父親や母親、妹の肉塊であったモノが血の海に転がっていた。
僕は吐きそうになりながらも、大剣を構えた。
神経が研ぎ澄まされてゆくような怒りの中、僕は極限の集中力を保って、少女との距離を詰めた。
躊躇いなんてなかった!
しかし、少女の振り上げる手の方が早かった。
????「覚えておいてお兄ちゃんを殺す私の名前。私は朱姫。バイバイ、お兄ちゃん♪」
少女の振り上げた手から竜巻が生じた。
竜巻が僕の身体を切り裂いてゆく。血が止め処なく、頭から、胴体から、右手から、左手から、右脚から、左脚から、盛大に流れた。
風魔法 トルネードを! 心理詠唱式で……。そんな年ではない! かなり、若いぞ! と頭が分析して僕はパニックになりそうだったが……僕の意識はパニックの上限になる前にブラックアウトを起こした。
朱姫と名乗った少女が僕に毒々しい笑みを浮かべているのが解った。しかし、それに対して何も出来ず……僕は消えてゆくだろう。




