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創世する世界のイヴ # Genesis to the world's Eve  作者: 遍駆羽御
本編―――― 第1章 凪紗南イヴ皇女様と、愉快な仲間達
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第6話 真昼の白銀雪

 第6話 真昼の白銀雪


 視点:凪紗南イヴ

 場所:地球 旧世界 静岡県 伊東市 桜の里、地球 新世界 静岡大スラム 伊東村開拓予定地 桜の里

 日時:2033年 4月2日 午前 11時40分



 未来お姉様がバベルの塔の動きを可能な限り、あらゆる手段を使って探りを入れているのは知っていた。どうやら、予が思っていた以上に調査の精度が高く、伊東村周辺で何かが起こるかもしれない動きまで掴んでいたようだ。それでジョーカーにその用意をさせていたらしい。

 テスラはレディーベアトリーチェからその情報を知った。

 そのことがテスラより送信されたメールに書いてあった。


 イヴ「ふぅー、ジョーカーが動いているか。知らなかったのだ。あれには命令が効かないのだ」


 アイシャ「奴はイヴを慕っています。個人的には大嫌いですが、イヴに害を与えないでしょう。おそらく、イヴの戦闘実地訓練予習をする良い機会になると、場をならしに来たのでしょう」


 近いうちに実地すると未来お姉様より申しつけられている戦闘実地訓練が頭によぎる。必要なまでの凪紗南流の苛烈な修行が脳裏に浮かび、頭が痛くなった。

 精神的なものなので、治癒魔法では回復できない。


 プリムラ「蒼薔薇の騎士隊の聞き出したハンターギルドの情報ではテロリスト 300名以上って情報があるのよ!」


 イヴ「ジョーカーに数は通用しない。英雄クラスの戦力を保つ文字通り、最後の切り札。それがジョーカーなのだ」


 プリムラ「英さんと同じレベルって、凪紗南天皇家は化け物か!」


 アイシャ「あれは天皇家に仕えているのではない。イヴ個人に仕えている。いや、信仰している狂信者です。ですから、嫌いです」


 イヴ「会う度に、それを正そうとしているのだが…………ふぅー」


 ジョーカーは眠たそうなのんびりさんな空気を出しているのに何故か、その変な信仰は変えないと強情なところがある子(きっと、予と同じくらいの身長なので子という表現でいいであろう)なのだ。


 ハンターギルドと魔法ギルド、蒼薔薇の騎士隊の一部は既に先行した蒼薔薇の騎士隊の仲間達を追いかけるべく、伊東村へと飛行車に乗車して行ってしまった。


 飛行車が静かな疑似エンジン音を立てて、ハンターギルド職員の前に停車した。

 予のメイド長 リイーシャが予の額の汗を拭う。緊張しているのか、戦場を前に。


 ハンターギルド職員「お車が用意できました。皆様、お乗り下さい」


 アイシャ「イヴ皇女様」


 アイシャは飛行車の白いリムジンタイプの屋根を横目で眺め、低い声で予に自分の意志を伝えた。


 イヴ「良き働きを」


 賛成だと微笑みをもってして、アイシャに応える。

 アイシャは軽く、予に会釈をして、クールな顔立ちに笑顔の華が咲く。そして、白いリムジンの飛行車の屋根の上に軽やかに飛び乗った。

 くらっと、白いリムジンの飛行車が揺れた。


 ギルド職員「聖女様、何を!」


 それにアイシャが応えることは決してない。何故か、知らないがアイシャは予の人間関係に基づいてコミュニケーションを図っている。きっと、クールな反面、恥ずかしがり屋なのだな。

 可愛らしいではないか、と笑う。

 こほん、と咳をして、予は皇女様モードに戻る。威厳ある声でアイシャに命ずる。


 イヴ「応えよ、アイシャ」


 こく、とアイシャが頷く。


 アイシャ「車では殺してくれ、と言わんばかりなもの。上ならば、どんな攻撃にも対処できる。地雷を埋めるには時間が掛かり過ぎるし、イヴ皇女様が確実に来るルートが算出できない以上、それはない。情報操作も完全です」


 ハンター「予測なんて外れるものだぜ、聖女さん」


 蒼薔薇の騎士達と共に予の護衛を勤めてくれているハンターギルドのハンター達の1人がそう不作法な口調でアイシャに話しかけた。

 予は身分を気にせぬが…………他の位の高い者は身分を気にする。アイシャの身分はリンテリア教の聖女だ。当然、アイシャは何も応えず、きっとその無骨者のハンターに冷たい目線を少しだけ、向けたであろう。後はいない者と思っているのか、戦場である伊東村の方を眺め、白いリムジンの飛行車の屋根に正座する。

 こんなとこで諍いを起こしたくはない。

 予はアイシャにアイコンタクトを送るが、アイシャは微動だにしない。


 イヴ「応えよ、アイシャ」


 強めにアイシャに命ずる。


 アイシャ「予想が外れようとも、この聖剣 ローラントの聖なる一撃を浴びせるまでです」


 そっと、プリムラが金の髪を掻き揚げつつ、予の耳元で囁く。


 プリムラ「…………治らないの、まだ。イヴ以外、豚だとでも思っているのかしらね」


 イヴ「アイシャは優しい子なのだ。そんな真似はしないのだ。ただ、人見知りなのだ」


 プリムラ「一度、見せてやりたいわ。…………イヴがいない冷厳なる聖女様を」


 そんなはずないのに、プリムラはきっと、アイシャを誤解している。昔から誤解されやすい心の優しい良い子なのだ。きっと、アイシャは全ての人間を慈しむ聖女の眼差しをそのクールな面持ちの裏に表現しているに違いない。

 うん、とアイシャの方を見て、頷く。

 アイシャは予の意図が解らないのか? 首を傾げる。


 メイド長 リイーシャに白いリムジンの飛行車の扉を開けてもらう。まず、白いリムジンの飛行車内にプリムラが入り、予がその次に入り、最後にリイーシャが入った。


 リムジン内には運転席と後部座席は壁で仕切られていて、その壁には予とは13歳年上の天才画家 クリエル・エーテの作品【蒼と銀の夜】と題された彼女の代表作であり、時価 59億キュリア(日本円 59億円)する予が3歳の春に記念に、とクリエル本人からぜひに、と描いて貰ったクイーン王国の財宝の一つだった。

 満月の光を浴びて、純銀色の髪の幼女を慎ましやかな胸に抱いた10代の少女 リン・クイーンが風音を聴いている。素晴らしき音色に平穏を感じて蒼い少女 リンは涙を流した。

 それがこの絵画に描かれたストーリーだった。

 予はこの素晴らしい絵画が嫌いだった。もう、予とお母様の時間は永遠に交わることがないのだから。


 いつの間にか、走行音が耳に聞こえてきた。外は見ない。ただ、自分の履いているプリンセスブーツの爪先をじっと、眺めていた。

 世界はままならない。あの時、蘇生魔法の力に目覚めていたならば。

 世界はままならない。あの時はもう、変えられない。

 だから、変えてやると、金銀のオッドアイが煌めく。もう、二度と理不尽な暴力に流される人間の涙を見たくない。


 イヴ「…………必ずお母様が救った世界をより良き未来へと導くのだ」


 リイーシャ「無理しないで、イヴ・クイーン様」


 プリムラ「わたくしが協力しますわ、イヴ」


 2人の掌から、予の手の甲へと伝わる熱がとても、優しかった。




 視点 蓮恭二

 場所:地球 旧世界 静岡県 伊東市、地球 新世界 静岡大スラム 伊東村

 日時:2033年 4月2日 午後 0時10分



 200人も人間が倒れていた。何処にも外傷がないように思えるが、200人の人間、誰もが白目を向いて…………太陽の光にも反応せず、眩しそうに眼を逸らさなかった。

 死んでいる、例外なく。

 その不思議な地獄絵図を作り出したカラス色のフードを目深に被ったローブの少女 ジョーカーは目を瞑り、正座の状態でお祈りをしていた。

 その表情はとても、安らかで今にも眠ってしまいそうだ。

 その姿に僕を含めた村民やハンターギルド、魔法ギルド、警官達はあ然としていた。誰もがジョーカーの一挙手一投足に注目を集めている。

 そして、ジョーカーは静かに立ち上がった。先ほどのテロリスト200人を殺した時よりもやり遂げた表情で。


 ジョーカー「祈り終了」


 こちらへと一歩ずつ、ゆっくりとジョーカーは歩いてくる。

 一歩、進み、眠りそうになり、立ち止まる。涎が垂れそうになり、じゅるりとすすった。

 そして、一歩、踏みだし、ふぁぁ、と小さな可愛らしいロリ声欠伸をする。

 この人は睡眠をちゃんととっているのだろうか? と肩の怪我がじんじんと熱を保って痛むのを忘れて見入ってしまった。


 ふと、ジョーカーが立ち止まり、燃えさかる郵便ポストよりも、僕達には見えない遙か先を眺めている。


 ジョーカー「来る、神様」

 そう、ぼそっとジョーカーが口にした。


 その唐突な宣言から、幾秒も経たずに上空から無数の白銀の雪が舞い降りた。ゆらゆら、と舞い散る。

 それは僕達を驚かせた。4月の初旬で比較的暖かい部類に入る静岡大スラムにおいて、それは不可解だった。


 恭二「雪なんてリアルで見たの初めてだ」


 桜花「そうだな。母上が幼い頃に雪が積もったと聞いたことがある」


 恭二「でも、これは白くない」


 銀色の雪の粒が肩に触れた。その瞬間、傷が癒えてゆく。


 恭二「え、これ、イヴ皇女様の…………」


 桜花のばっさりと斬られた背中の皮膚も赤い血が消えて、一太刀の跡がすっと消えてゆく。後には…………健康的な10代少女の肌が蘇っていた。傷一つない。

 もう、その再生力には言葉も出なかった。


 桜花「うぁ…………」


 倒れていた味方側の人間達の――――頭、足、肩、背中、胴体、脇腹、首筋、耳、指先、胸元………等々の傷を無節操に銀色の雪達は癒やしてゆく。

 銀色の雪達が傷を癒やす度に味方側に笑顔が零れる。


 一方、テロリストの傷を銀色の雪は癒やさなかった。まるで意志があり、拒絶しているようだ。残った約100人程のその場にいるテロリストは誰もが武器を携帯したまま、空を仰ぎ見ていた。


 いつの間にか、テロリストを200人も殺したジョーカーが忽然と音もなく、消えている。そんな事も雪の不自然さに気をとられ、気づけなかった。いや、それがなくても察知するのは無理だろうと身体が、心が理解していた。あの200人殺しは恐れを通り越して、現実離れの放心だったのだ。


 銀色の雪達が踏み荒らされ、燃やされた庭の花壇の花々に触れる。燃えカスだった箇所が時間が逆転するように再び、生命力を吹き返してゆく。

 銀色の雪は優雅に天空よりふわり、ふわりと、風に煽られてこちらへと降りてくる。


 世界で唯一、治癒魔法をイヴ皇女様が使用できると誰もが知っていた。

 10歳の頃、恋歌の顔が半分、焼け爛れた顔を治癒魔法 ヒールで治癒した場面に立ち会っていた僕と桜花でもこれほどの大規模な治癒魔法ができると思いもしなかった。

 歴史で最近、勉強した竜族の国 北庄での治癒永続の陣と呼ばれる紛争で、イヴ皇女様が全ての勢力を癒やし続け、闘うのは無意味だと治癒魔法で語った事実。最終的には誰も傷を負わなかったあの戦いの結果を誰もがその授業内容が挙がった次の休み時間に嘘だろう? どうせ、日本特有の皇女様、バンザーイなノリだろうと笑って、信じようとはしなかった。

 いや、信じられないのかもしれない。


 ただ、美しかった。

 真昼の太陽に煌めく銀色の雪が振るファンタジーが。


 そのファンタジーを超越する神秘が蒼薔薇のマントを装備した騎士に左右を守られ、金髪のアイシャ・ローラント聖女様が前へを守り、後ろをインターネットTVで何度も見たことのある覇道財閥当主 覇道プリムラ様が守っていた。

 そのファンタジーを超越する神秘が歩む度に、煌めく白銀の髪が揺らめき、そこから微風に乗って薔薇の優しい芳香が香ってきた。

 テロリストですら、口を塞ぎ、神秘の存在――――凪紗南イヴ皇女様をただ、鑑賞していた。一つの完成された美術品を眺めるように。

 僕や桜花を初めとした村民達やハンターギルド、魔法ギルド、警官達もただ、鑑賞していた。

 美しいさくらんぼう色の唇は、この場で起こった暴挙を許さないと意気込みを保って閉じられている。

 銀色の右眼、金色の左眼は凜々しい光を帯びている。その光は日本の皇族として、クイーン王国の王族としての威厳、産まれもってしての才覚だ。

 服装は僕達では到底、手の届かない美しいドレス、ペンダント。頭上にはクイーン王国の女王戴冠式でイヴ皇女様が頭上に戴いたプリンセス エルフストーンのティアラが載っていた。


 さっと、ゆっくりと、オペラグローブに包まれた腕が、銀色の雪が降り終わった太陽を目掛けて挙がる。

 それはイヴ皇女様のテロリストに対する一切の妥協は許さない彼らの終わりを示す合図だ。

 それが解ったのは――――


 アイシャ「ふっ!」


 ――――といつの間にか、聖剣 ローラントを構え、イヴ皇女様の登場にあ然としているテロリストの1人の女性をアイシャ聖女様が突き殺したのとほぼ、同時だったからだ。その剣筋に一切、迷いはなく、引き抜いた聖剣の冷たい刃に付着した鮮血がアスファルトに垂れた。


<凪紗南イヴのlevelがlevel 2になった>


 それを皮切りに黒人の騎士が叫声をあげる。


 ドーガ「行くぜ! 先輩達! 俺が全部、テロリストのクソ野郎共は殺し尽くしてやんぜ!」


 黒人の騎士は近場にいた男性テロリスト 1人を斬りつける。

 そのまま、黒人の騎士と男性テロリスト 1人は剣と剣越しに力比べを開始する。既に男性テロリストは息も絶え絶えだ。

 それを見逃さず、黒人の騎士は叫び声をあげて、そのまま、男性テロリストの脇腹を斬りつけた。

 黒人の騎士が息を整える最中、男性テロリストは膝から地面へと倒れ伏し、そのまま、動かなくなる。

 あぁああ! とそれに反応した竜族の女性騎士は悔しそうに獲物を探して、テロリストの群れに同じく蒼薔薇のマントを着た騎士達と一緒に突っ込んでゆく。


 千里「燃える展開なんだから少しは踏ん張ってみなさいな、弱虫テロリスト」


 竜族の女性騎士の騎士の剣 2本での斬撃で女性テロリストは地に伏した。


 蒼薔薇の騎士1「やぁああ! 斬って、斬って斬り伏せろ! 手加減なんていらないぞ」


 蒼薔薇の騎士1の騎士の剣での突き、男性テロリストが胸を押さえながら絶命した。


 蒼薔薇の騎士2「はあぁあああ! やぁああ!」


 蒼薔薇の騎士2の騎士の剣での中段攻撃、女性テロリストが腹部を押さえて倒れた。


 蒼薔薇の騎士3「てやぁりゃああ!」


 蒼薔薇の騎士3の騎士の剣での突き、男性テロリストの腹部に刺さり、浅い呼吸を繰り返してゆっくりと死に至る。


 蒼薔薇の騎士4「うりゃああ、その首、とったりぃぃいい!」


 蒼薔薇の騎士4の騎士の剣での下段攻撃、男性テロリストは股間を切り裂かれて絶叫しながら絶命した。


 騎士達がテロリスト相手に次々と交戦してゆく。

 何の迷いもなく、傷を負い、倒れそうになる者もいるが………


 イヴ「ヒールマルチ」


<イヴの治癒魔法 ヒールマルチ、蒼薔薇の騎士達のHP40%回復>


 その全ての命を自分の手中に治めたかのような支配者の如き尊大な声は再び、真昼の青空に銀色の雪を降らせる。

 その雪が騎士達に触れる度に、彼らの傷は癒えてゆく。

 そう、蒼薔薇の騎士が守りし、忠誠を誓いし、姫様は絶対的な生命の支配者なのだと僕が大げさに感じてしまうほどにその威力は理不尽だった。


 ライトノベルでよく、主人公がチートな力を使うがこれ程、チートな能力が果たしてライトノベルに存在しただろうか。


 蒼薔薇の騎士が闘うのをよそにメイド服を着込んだ若い女性が伊東村役場から僕の父親 蓮太郎次郎はすたろうじろう村長を連れてくる。村長も頭に血を流していたが、イヴ皇女様の銀色の雪に触れた瞬間、完治した。

 村長は驚いているようだったが、メイド服の女性に急かされる。


 イヴ「アイシャ、蒼薔薇の騎士達はそのまま、テロリストの駆逐。プリムラは予の護衛。ハンターギルド職員、魔法ギルド職員及びハンター諸君、警官諸君は消火活動を。消火終了後、予はヒールマルチを展開する」


 イヴ皇女様は村役場の職員が用意した白いソファに腰をかけて、光沢のある木テーブルに両肘をついて、両掌の上に自分の頭を載せた。思いっきり、リラックスしている。剛毅というよりも、まるでそこだけ、舞踏会のような煌びやかさがある。


 途中、テロリストの唱えた炎魔法 ファイアボールが幾つも飛んでくるが、プリムラ様が唱えた強力な光魔法 クリティカルレイで全て、相殺される。中空で炎の塊が圧縮された光の一閃に吹き飛ばされるのは圧巻の光景だ。

 村長は縮こまってイヴ皇女様の向かい側にある白いソファに腰をかけた。


 リイーシャ「イヴ・クイーン様、アサッムティーのミルクでございます」


 メイド服の女性がワゴンで紅茶の入ったティーカップを2杯、運んできた。

 イヴ皇女様の目の前に湯気を立てるアサッムティーを一杯、置く。

 取っ手をオペラグローブに包まれた手で持ち上げると、ゆっくりと口に含んだ。

 喉がごくり、と鳴る。


 イヴ「ふむ、うむ、美味」


 イヴ皇女様の微笑みは小学生のような純粋さに溢れていた。

 何故、戦場でそのように微笑みのか? 僕には理解ができない。少し腹が立った。


 恭二「イヴ! 不謹慎だぞ。みんな、死んだんだ! 暢気に紅茶なんて――――」


 アイシャ「喚くな、豚。ぶぅーぶぅー、五月蠅い」


 この場に居るテロリストを粗方、片付け終えたアイシャ聖女様が僕に冷水のような言葉を与えた。


 僕が間違ったことを言っている、とふざけるな。みんな、闘っているんだ! 恋歌だってその戦場の犠牲になってしまったんだ! ふざけるな。

 僕の事を暢気に紅茶を飲んでいる父さん――――蓮太郎次郎村長が残念な者を見るように目で責めた。

 なんで! なんで! 正しいじゃないか! こんなとこで寛いで! と僕は拳を握りしめた。


 プリムラ「感情論に左右される年代なのですわ、可愛いじゃないですか、アイシャ」


 アイシャ「この豚は解っていない。イヴの意図も、イヴがここに来るリスクも、こんな豚に」


 意味がわからない、と僕はプリムラ様、アイシャ聖女様に詰め寄ろうとした。それを桜花が僕の肩に手を置いて止める。


 桜花「止しなさい、恭二。イヴ皇女様が慌てて檄を飛ばすの、と、優雅に指揮を執るの、どちらが味方に勇気を与え、敵に心理的なプレッシャーを与えられる?」


 ハンター「若いな、小僧。戦場では感情論を持ち出した奴から死んでゆく。倫理? それも持ち出した者から死んでゆく。純粋に力が強い者が生き残る。そこに慈悲はねぇ」


 ハンターギルド職員「道場で剣術を囓っているようですけど、A級ハンターになるなら、その無慈悲を理解できないと死にますよ。恭二さんの性格、素質ではハンターには向いていません」

 そう言う大人達の言葉に僕は納得できなかった。人間はそこまで落ちぶれてはいないと反論したかった。


 だが、それをせいひつなオーラを纏ったイヴ皇女様に阻まれる。言葉ではなく、雰囲気に呑まれた。きりっとした銀糸の如し眉が吊り上がる。金銀のオッドアイは全然、笑っていない。しかし、口元は優雅に微笑んでいた。

 鈴の音のような声色が尊大に鳴り響く。


 イヴ「そう、虐めてやるな、皆の者。恭二よ、戦いは既に数十分前、情報操作戦から始まっておる。殺すだけが戦いではない。とかく、古来より情報量、情報の質が多い者の方が有利だ」


 ハンター「アニメやラノベではありませんからね。実際の戦場は華やかではありませんぜ。先ほどまで俺らがやっていたような雑草狩りですよ」


 この人達は人の命を雑草と表現した。僕にはできそうにない。そんな心のない割り切り方は無理だ。

 イヴ皇女様もそういう感情を保っているのか、特に動じることもなく、村長にお悔やみの言葉を申し上げている。


 そこへ、蒼薔薇の騎士の人がイヴ皇女様に報告しにやってきた。


 蒼薔薇の騎士「ヒールマルチ使用範囲の消火及び、周辺敵存在の排除完了しました。ご指示を」


 イヴ「本陣を動かす。アイシャは遊撃に出よ」


 蒼薔薇の騎士「はっ」

 と、騎士は他の隊員に伝えるべく、走って行く。


 アイシャ「はっ、了解です、イヴ」


 アイシャ聖女様はイヴ皇女様の命に従う。それはまるでイヴ皇女様の専属の騎士のようだ。そうでなくとも、婚約者の立場が比翼の鳥の関係に見えてしまうのだろう。

 僕はそんな関係に嫉妬した。あの銀色の優しく凜々しい光が傍にいる。それはなんて憧れなんだろう。


 イヴ「蒼薔薇の騎士達とハンター諸君、警官諸君は、一部は何グループかに固まってテロリスト殲滅。一部は解るな? ハンターギルド職員、魔法ギルド諸君も」


 蒼薔薇の騎士「イヴ皇女様の護衛は俺、ローソスを含め、50名で行う。30名はテロリスト殲滅。班を5班に分けろ! 40名は土木作業と被害の算出に駆り出される職員の護衛だ! きりきり動け! 報告は必要だが、指示待ち人間はいらんぞ!」


 イヴ皇女様の出した指示は少しだったのに蒼薔薇の騎士を初めとしたそこにいる味方勢力が力を合わせてそれぞれが何処の地区を担当するのか? 即座に話し合われてゆく。それをイヴ皇女様はお気に入りのハンバーガーを物色しているかのように眼を細めてただ、見守っていた。


 恭二「…………僕は姫乃ちゃんにずっと、置いてきぼりだよ」


 大人達やイヴ皇女様、アイシャ聖女様、プリムラ様が働く片隅の村役場の自動販売機に背を預けて、自然とそう呟いていた。



【視点外での戦闘成果】

 蒼薔薇の騎士達

<蒼薔薇の騎士達は下級バベル テロリスト level 48×60体を倒した>

<蒼薔薇の騎士達の平均levelが平均level 78になった>

 ハンター達

<ハンター達は下級バベル テロリスト level 45×25体を倒した>

<ハンター達の平均levelが平均level 67になった>

 警官達

<警官達は下級バベル テロリスト level 45×20体を倒した>

<警官達の平均levelが平均level 65になった>







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