第95話 あたしの職場を護れ! 後編
第95話 あたしの職場を護れ! 後編
視点 北庄真央
場所 地球 旧世界 東京都 千代田区、地球 新世界 東京都 凪紗南市
日時 2033年 4月9日 午後 3時55分
ディスターの大型トラックのような手の平があたしのバイト先のキューティーなマスコット 雌牛のみなみちゃんの頭部を掻っ攫おうとしている!
真央「てめぇ! みなみちゃんに何をする。うちの稼ぎ頭だぞ!」
あたしは急いで周囲の空気を吸い込み、パタパタと浮いてると言えるし、飛んでるとも言える状態で竜魔法 ファイアドラゴンブレスを放つ。
人間を黒焦げにするような灼熱の炎が最も、あたしのバイト先 南屋の牛丼店 凪沙南天皇支店に近い、ディスターの手の平を焦がす。
おかしい? 威力がいつもよりも小さい。ふと、あたしは先ほどの未来様の言葉の一部を思い出す。
未来『ディスターという神、ヴァンパイア族、ヒーロー以外の物理攻撃、魔法攻撃を全て半減するゼウスの心臓搭載の木偶人形』
なるほどと思い、自分一人で戦うのは得策ではないだろうと今更ながらに熱くなりすぎた脳みそを冷静という感情で冷やす。
一生懸命、こちらへ目指して走る足音が聞こえる。この一生懸命さは一人しか思い当たらない!
あたしの婚約者 凪沙南イヴがあたしのすぐ近くにいる。だから、あたしは振り向かずにイヴに託す。
真央「イヴ! あたしのバイト先の稼ぎ頭 みなみちゃんをしっかり、護りなさい!」
イヴ「了解なのだ! 神化!」
その言葉と共に、薄い膜のドームが少女神 リンテリアが構築した結界を越えて、構築された。
それが構築されてまもなく、銀色の雪が蒼空を舞う。この雪は味方、敵問わずにMPを全快にする神の雪、幼女の生を見守る幼女神 イヴの雪。
イヴ「無属性魔法 パワーゲイザー、凪沙南流 夢幻鏡突」
銀色の髪の少女があたしの横を素早く、通過して、今もみなみちゃんの頭部を狙うディスターの手の平の中心部を突いた。
イヴの刀は白銀に輝いていた。
イヴの放った突きがディスターの手の平にヒビを入れて、そのヒビがあっと言う間に広がり、ディスターの拳が粉々に砕けた。
イヴに反撃しようと損害を受けたディスターは残った方の拳でイヴの小さな身体を吹き飛ばそうとした。
しかし、それは成されなかった。
ディスターはゆっくりと倒れてゆく。
あたしはその原因に目を向ける。りりすが凪沙南皇家の宝剣 天叢雲剣でいとも簡単にディスターの右脚を薙いで切断してしまった。もの凄い勢いで切断したディスターの右脚が公園の砂場へと吹き飛ぶ。
あたしがりりすの剣戟に驚いているうちに倒れたディスターの左脚を咲良が眠そうな声をあげて――――
咲良「新羅天元流 大蛇の蹴り。眠く、仕方ない。外し、ごめん」
――――踵蹴りを喰らわせる。
新羅咲良の踵蹴りは予想以上の破壊力を秘めていて、踵蹴りが当たった瞬間、ディスターの左脚に亀裂を生じさせて、さらに腰部、胸部、頭部へと亀裂を生じさせる。そして、その亀裂が限界を超えた瞬間、ディスターの巨体がバラバラに砕けた。
砕けた胸部から出てきたディスターのコクピットである繭が人間の心臓を10倍の大きさにしたようなゼウスの心臓に癒着して道路へと転がる。
真央「よっしゃぁああ! 肝心な所でいつも、火事場の馬鹿力を発揮する咲良、ありがとう。これでCM2億円プレイヤーのみなみちゃんを首ちょんぱしようとしている不届き――――」
咲良「危ない。真央、くぅー」 ※我慢できずに寝てしまった咲良ちゃん
真央「えぇ……」
咲良の声にあたしは自分の身体が大きな影の下にいる事を確認する。どうしよう……とあたしが次の行動に考えあぐねている時にセリカのいつもよりも真剣な言葉が飛ぶ。
セリカ「真央ちゃん、しゃがんで頭を両手で押さえて下さい」
真央「こうか?」
あたしは真央に言われた通りに道端にしゃがんだ。
セリカ「はぁあああああ! 風魔法剣 トルネードですわ!」
あたしの頭上で何やら、大きな音が聞こえる。あたしはしゃがんでいるのだから、地面しか見えない。アスファルトしか見えない! 怖い。
そんな恐怖に戦いているあたしの頭部に何やら、物体A、物体B、物体C、物体D、物体E、物体F、物体Gがぶつかる。
くすぐったい痛みにあたしは目を閉じた。
しばらくすると、ドーンという音があたしのいる場所から離れた処から聞こえてきた。
フェニックスリボルバー「ふっ、決まった。これがフェニックスキック。ヒーローの技だ」
クールに気取ったヒーローの声が聞こえる。
あたしはこのまま、目を瞑っても仕方がないと思い、目を開いた。
真央「これが当たっていたのか?」
無残に風と槍の攻撃で切り裂かれた太い指が五本、転がっていた。手の平は粉々の部品になってしまっている。
真央「こりゃあ、痛いはずだ。たんこぶできてる?」
イヴ「うーむ」
イヴがすぐにあたしの紅い色の髪を指で搔き分けて、たんこぶを発見しようとしている。しかし、なかったのか? 「うーむ」と唸った後、イヴが最終結論を下す。
イヴ「ないようなのだ。おかしい。これくらいだとたんこぶ処ではすまないのに……」
アイシャ「さすが、雌竜豚です。防御力が半端ないですね」
真央「羨ましいだろう、アイシャ。これが竜族の身体能力」
セリカ「脳みそが可哀想な方々が多いのでわたくし、お勉強会のボランティアがはかどります。ありがとうございます、真央ちゃん♪」
全く、悪気のない天然ダークなセリカの言葉と微笑みがあたしにダメージを与えた。
<セリカの天然発言により、真央は心に9870のダメージ>
アイシャ「あっ、そうそう、イヴ。一匹、機械豚を始末しました」
アイシャの視線の先には両腕、両足を聖剣 ローラントによって切断された一体のディスターだった。
あたしを潰そうとしたディスターの方にも目を向ける。
そのディスターは炎に包まれて、焼かれていた。
傍にはダサイヒーロー フェニックスリボルバーが戦闘の構えを取っている。先ほどは装備していなかった金色の刃の大剣 フェニックスブレード! を装備していた。
ディスターが焼かれている姿を見て、フェニックスリボルバーは機械みたいな冷たい声で言う。
フェニックスリボルバー「後はブロンズパワーディスター 一体だけだ。子ども達は危ないから退いてくれ」
こいつは子ども達が危ないから……と本気で思っている反面、あたし達がなるべく、操縦者を殺さないように戦っているのが気にくわないからそう言っているのだ。
あたしがそれに反論しようとする。
だが、りりすがそれよりも早く、フェニックスリボルバーに問う。
りりす「ダサイリボルバーよ。我にはりりす第二皇女様様の戦闘がぬるいと聞こえるぞ。どうやら、汝は憎しみで戦っているようだ? なぁ、ダサイリボルバー?」
フェニックスリボルバー「結果は同じだ。これはヒーローとして悪を挫く闘い。その結果は同じだ」
まるでフェニックスリボルバーは自分自身にそう言い聞かせているようだった。
最後の一体のディスターが今まで壊していた薬局を壊し終えて今度はこちらへとやってくる。
気まずい雰囲気が流れているのをイヴが空気の修復を試みる。
イヴ「ヒーローよ。今は、予はお前の闘い方に口は出さない。その代わり、予の闘い方に合わせろ。これは皇女からそなたへの命令なのだ。良いか?」
銀色の髪が特徴的な小学生にしか見えない体型のイヴが今だけはそれ以上に大きく見える。それは肉体的なことではなく、精神的な大きさだ。同じ国の姫としてのカリスマ性が大きく突き離されている気がした。
フェニックスリボルバー「仰せのままに、イヴ皇女様」
劣等感をイヴに感じても仕方がないとあたしはふと、空を見上げた。蒼く透き通った青を見れば、気持ちが切り替わる気がした。
蒼い空にヒビが入っていた。
それはどんどん、大きくなってゆく…………。
真央「イヴ、アイシャ、りりす、セリカ、咲良、ついでにヒーロー!」
イヴ「どうしたのだ?」
アイシャ「敵は後一体だけ、何を?」
りりす「ん、あれは空?」
セリカ「突発性時空の歪み……。刹那空間ゲートが構築されようとしている」
咲良「まずっ。あ、寝てないよ。来る、敵多く」
フェニックスリボルバー「気配が解るのか? 眠りロリ娘」
咲良「イエス。けど、違う。ただのロリ娘」
そう言ったにも関わらず、咲良は眠りそうになる。目を瞑って、こくっと首が上下に無意識に動き、それにびっくりして咲良は再び、目を開く。器用だ。
あたし達が見守る中、どんどん、蒼い空のひびが広がってゆく……。
イヴ「新しい敵が来る前に予達は協力して残り一体のブロンズパワーディスターを倒すのだ。パイロットは生きたままで」
りりす「我にとってそれくらいサバトの儀式前だ」
アイシャ「了解しました、イヴ」
セリカ「やりますわ。風魔法剣を存分に振るいます」
真央「くそっ、次から次へと……あたしのバイト先を破壊しようとするアホ共が!」
咲良「それ、目的、ちがう。ぐぅー」 ※咲良が何度目かの夢の世界に旅立ちました。
フェニックスリボルバー「まずはヒーローの技を魅せてやろう。子ども達に!」
子ども達? あたしも入っているの、そこに……。
見たくねぇーよ、ダサイヒーローの勇姿なんて。
フィギュアを発売したら、即ワゴン行きであろうネタにしか思えないヒーローがゆっくりと残りの一体 ブロンズパワーディスターへと歩む。
<イヴ達のLevelが上がりました!>
<凪沙南イヴはLevel 48になりました>
<アイシャ・ローラントはLevel 70になりました>
<北庄真央はLevel 50になりました>
<セリカ・シーリングはLevel 49になりました>




