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創世する世界のイヴ # Genesis to the world's Eve  作者: 遍駆羽御
本編―――― 第3章 眠れる天賦
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第93話 世界一 ダザイヒーロー登場

 

 第93話 世界一 ダザイヒーロー登場


 視点 神の視点  ※文法の視点名です。

 場所 地球 旧世界 東京都 千代田区、地球 新世界 東京都 凪紗南市

 日時 2033年 4月9日 午後 3時37分



 悲鳴が上がり、恐怖が連動を始め、人々は我先にと、この場から離れようと走る。走る際に小石に脚を引っ掛けて、倒れて膝を擦り剥く人々が多く出た。

 それを気にすることなく、突如、蒼空より地上へと降り立った招かれざる客――ディメンションモンスターと正式名称を持つ4階建ての家屋に相当する巨大な鈍色の全身甲冑の姿をした機械人形が凪沙南市を闊歩する。

 当然、それが四体もいるのでお行儀良く、町中を歩ける訳がなく、直接、農家から仕入れて新鮮な野菜を安い値段で売るのがウリの八百屋の建物がディメンションモンスター――――ディスターの脚部にぶつかり、砂場が波にさらわれるように簡単に崩れた。


 八百屋の店主「ああ、うちのお店! うちのお店が。親父の保険金で購入した土地と店が! あそこには俺の夢が詰まっているんだ! やらせるか!」


 ねじりはちまきをしたスキンヘッドの八百屋の店主が崩れてゆく自分の城 八百屋へと歩を進める。彼の目には今頃、病院で元気な赤ちゃんを産んでいるであろう奥さんと産まれてくる赤ちゃんとの平和なお店経営しか映っていない。

 学生時代、陸上選手だった店主の脚は野菜の配達のおかげで今も現役そのものだった。しかし、それが悪い方向へと働いてしまった。人間のアドレナリン過剰による興奮状態は長く続かない。


 八百屋の親友「修太郎! 止せ、戻ってこい。今から行っても何もならない。建物だけではなく、お前もやられるぞ!」


 小学校時代からの親友である男の声は今までに聞いた事がない程、切羽詰まったモノだった。その声が急速に八百屋の店主の頭を冷やしてゆく。

 すると、今まで聞こうともしなかった巨人の足音が八百屋の店主の福耳にまで届いた。もう、それを聞いてしまっては大の男であろうとも腰を抜かしてその場に尻餅を着くしかなかった。


 見上げて確認する巨人の頭はまったく、見えず、顎しか見えなかった。冷たい何の躊躇いもない機械的な動きは八百屋の店主に死を覚悟させた。


 八百屋の親友「何、やってんだ! 逃げろ! バカヤロウ! お前、駅伝のエースだったじゃないか……。一番、距離のある人工山 蒼山あおいやまを区間賞で走り抜けただろう。頼むから根性出せーーーーーーー!」


 そんな必死の形相で他の人々が逃げる中、唇にメガホンの形に両手を宛がって叫ぶ八百屋の親友の声も、四体のディスターが自慢の鋼鉄の拳で無造作に建物を壊してゆく音も、泣き叫ぶ幼い子ども達の声、大人達の様々な感情を含んだ声、自動式の戦闘機 ラーシからの射撃音も…………死を覚悟した八百屋の店主の耳には聞こえてこなかった。


 ただ、彼は走馬燈の真っ直中にいた。只今、八百屋の店主が初めて100点をさんすうのテストで取って、両親から褒められた時の思い出が上映されている。

 もはや、世界との今生の別れ……そう思うと、八百屋の目から大粒の涙が零れて、鼻水が垂れて唇から口内へと入ってくる。しょっぱい味がした。


 八百屋の店主「もう、終わりだぁ。ごめん、麻衣子……」


 最期に愛おしい妻の名前を呼んで八百屋の店主は目を堅く閉じた……。



 視点 凪沙南イヴ

 場所 地球 旧世界 東京都 千代田区、地球 新世界 東京都 凪紗南市

 日時 2033年 4月9日 午後 3時39分


 予とりりすはすぐに互いに頷き合って、展望室付きの自動車から、逃げ遅れた人々を救うべく、走り出そうとするが……扉の前を未来お姉様が塞いでいた為、出られなかった。そんな予とりりすの事を放って置いて未来お姉様は護衛の宮内庁の黒スーツ達に指示を出す。


 未来「当初のマニュアルに従って、ハッチエリアから第一地下都市 大和へと退避する。恐らく、あの木偶人形の持ち主はエルスエデンであろう。ならば、ヒーローが出てくる。それも、最も化学結社 エルスエデンを憎んでいるヒーローが、な」


 未来お姉様の言うエルスエデンとは化学こそが人間を超人へと進化させて幸福の道へと昇華させる。その為にはどんなに非道なことでも許されると考えている化学の盲信集団だ。今まで地球、異世界 リンテリアの民達が何十万人と彼らに誘拐されて恐らく、人体実験に使われているであろう。その効果もあり、日本のファクトリーを除外すれば、世界で一二を争うテクノロジーを保っている危険な集団だ。勿論、テロ組織として認識されていて、資金源もテロ組織から委託された実験で稼いでいる。その実験を嬉々としてライフワークにしている集団だからこそ、恐ろしいのだ。

 予の国民も何万人とエルスエデンにさらわれているので……はらわたが煮えくり返りそうだ。両手を握りしめて、今すぐ、懲らしめてやりたい気持ちを落ち着ける。闘いは軍人や護衛の仕事なのだ。そう、自分に言い聞かせる。


 そして、同様に人々を助ける役割を持つ役職の者もここには充分にいる。自分の役割はここから脱出して、後に無事だとインターネットTVを通して国民に顔を見せることだ。


 未来お姉様の指示が伝わったようで、予達の乗車している自動車が退避を始める。


 イヴ「確か……エルスエデンの末端 機械の軍勢がスユーフの情勢にちょっかいを出しているかもと……情報が」


 りりす「イヴお姉様。あれは末端ではないぞ。エルスエデンを統べるのは6人の博士。博士の下にはそれぞれ軍勢が付いている。表立って行動が知られているのは機械の軍勢を率いるマリネ博士のチーム……他にも様々なタイプの軍勢が存在する」


 イヴ「それを予にレクチャーしてくれぬか?」


 りりす「良かろう、イヴお姉様。四体のディスター。あれはブロンズパワーディスターという多くの軍のスタンダードスペックを用いている。そこから……巨人の軍勢 ハルフ博士のチームであろう」


 イヴ「ハルフ? 数年前に死んだはずの……ドイツの有名な化学者ではないか」


 りりす「彼は禁忌の技術を、未だ、人が辿り着けない魔法と化学の融合を。”魔化学”を成し遂げようとしてドイツ当局に拘束、暗殺された。イヴお姉様も知っているけど、今の地球のテクノロジーを保ってしても……魔法化学反応を起こし、実験場ごと、大変な結果になるのが関の山。未だ、人類には見果てぬ荒野よ」


 真央「あー、イヴ妹? その荒野ですが……そちらの」


 予は真央の暴露話に合わせて、偉そうに身体を反らせた。


 りりすはそれを何か? あるのか? と眺めている。さぁ、驚くといい! ゆうしゅうなあねのじつりょくを!


 セリカ「そちらのイヴちゃんが魔法化学反応の安定にテスラ博士と共同研究で成し遂げちゃってます。あ、秘密ですわよ。シークレット♪」


 りりす「な……今後50年、基礎研究から始めないと成し遂げられないと言われたノーベル賞を10回、受賞するくらいの偉業をイヴお姉様が……」


 驚いているのだろうけど、りりすの顔は無表情で、言葉が棒読みだ。しかし、りりすの機嫌が確実に上昇している事を姉妹の絆で解る。


 イヴ「えへっん! なのだ」


 アイシャ「さすが、です。偉いです、イヴ」


 咲良「ぐぅー、偉い」 ※器用に立ったまま、睡眠中……。


 りりす「……弱いのですから、我に戦闘を任せてイヴお姉様は研究に没頭した方が国の利益に繋がるのでは……」


 イヴ「うっ」


 りりすの言葉に宮内庁の黒スーツ達が何やら、柔らかい表情を浮かべて理解を示している。それに反して、「この皇女は……」と言いそうなくらい、未来お姉様が頭を抱えている。


 男性の声「うわぁあああああああ! 飛んでる。飛んでる!」


 そんな体育系男の声にびっくりして、予、アイシャ、りりす、真央、セリカの五人は全面硝子窓からその声のする上空へと視線を向ける。ちなみにズッ友 咲良は立ったまま、眠っている(もはや、護衛とは思えないヨダレの垂れそうな幸せな寝顔)。


 何か、上空に腹部に炎の模様を刻んだ白い全身甲冑のダサイヒーローがいる。予はこのヒーローを絶対に認めたくない。だって、ダサイ。

 格好いいと思っているのか? 装備している血が多少、付着した先端が破けているマントが風に揺れる。

 お姫様抱っこされているねじりはちまきをしたスキンヘッドの男性がそのダサイヒーローに向かって叫ぶ。


 男性の声「うわっ! 趣味の悪い甲冑野郎に! 抱きかかえられてる。悪夢だぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ! 夢なら覚めてくれ。おかぁああああさん!」


 同情する。

 ただ、その意味で予、アイシャ、りりす、真央、セリカの心は一つになった。


 りりす「あれは? 何だ?」


 予を見て、ドSな角度の唇の歪みと笑みを浮かべる予の妹 りりす。

 あれだけ、エルスエデンの事に詳しいのだから知っているであろう。予はそう言いたかったが……りりすが予の耳元で囁く。


 りりす「無知な我に教えてくれ、我が愛する聡明な姉よ」


 イヴ「えーと……予の凪沙南市御当地ヒーローかな」


 りりす「名前は?」


 また、りりすが予の耳元で囁く。

 それが一番、ダサイのだ。言いたくない……。


 真央「なんて拷問を」


 セリカ「可哀想ですわ」


 アイシャ「仕方がありません。くっ、私が。だが……」


 そんなふうに3人、予を心配知ってくれているが、顔には「あ、私でなくて良かった」と書いてある。

 そんな雰囲気を察してくれたのか、いや、くれていなくても……良いタイミングで未だ、空中で救出した男性をお姫様抱っこしているヒーローが口を開いた。


 ヒーロー「ダサくはない! 最高に格好いいだろう。もはや、ヒーローのスタンダードと言われるくらいだ。そんな私の名はフェニックスリボルバー。この凪沙南市の御当地ヒーローだ」


 そして、ヒーローは暴れ回る四体のディスターに向かっていつもの決め台詞を叫ぶ。


 フェニックスリボルバー「またしても、化学結社 エルスエデンか! おのれ! 私が正義の制裁を与える!」


 格好いい台詞だが、とにかく、格好がダサイので台無しだ。


 イヴ「うっ、ち、ちなみに借金が2兆円もある不幸なcharmポイントのあるヒーローなのだ!」


 りりす「無理して戯けなくても良いです、イヴお姉様。あれは最悪のヒーロー。ヒーローとしての厨二力が欠けている……」


 りりすに「お労しや」と頭を撫でられながら、ヒーローと四体のディスターとの睨みを観戦しようと思っていた。


 しかし、蒼空から今度は四体のディスター以上の厄介人が舞い降りる。

 銀色のおかっぱ頭のちびッコにしか見えない少女神 リンテリア様だ。そのリンテリア様の本日の服装は【働いても働かなくても最期には皆死ぬ】というある意味では滅びの呪文が印字された大人用の白いTシャツを着て、Tシャツの裾で見そうで全容が見えないピンク色の短パンを入っていた。足下はサンダルでキメている。


 少女神 リンテリア「その勝負、待ったぁあああ!」


 ある意味、神様として間違えた存在の駄目神様はいきなり、叫んだ。


 予には解る。

 これはとんでもない厄介なイベントが発生するぞ、と。




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