第92話 嵐の前の喜び
第92話 嵐の前の喜び
視点 神の視点 ※文法の視点名です。
場所 地球 旧世界 東京都 千代田区、地球 新世界 東京都 凪紗南市
日時 2033年 4月9日 午後 3時00分
凪沙南市は地下都市 大和の上に築き上げられた地上世界の都市であり、旧世界の千代田区全てが皇居扱いである。
一部、一般の人達に解放された土地があり、そこには住宅地やその住人が利用する商業施設、働く会社が多く建てられている。これを推し進めたのが当時 5歳だった凪沙南イヴだった。
当時の幼いイヴはこう言った。
イヴ『地下都市は住める面積が限られている。その弊害として、新婚さん達がいちゃいちゃするお部屋が不足しているのだ! 予は子ども達が暮らしやすい世界作りの一歩として、皇居の土地を一部、格安で貸し出す』
よく未来に相談せずに発言してしまった。それが紆余曲折を経て、今に当たる。
10年前には原っぱだった場所には凪沙南りりす第二皇女が通りかかるのを沿道にて待ち構えている日本国民が待機していた。老若男女全ての方が小さな日本の国旗を握りしめている。
既に道路や、飛行車の光で上空に記されたスカイロードは封鎖されていて、凪沙南天皇家関係の車両しか入れない。
空の警備は何機もの、自動式の戦闘機 ラーシが空を我が物顔で飛んでいる。ラーシは全て、第一地下都市 大和の日本軍基地 大和基地で操作されている。
地上の警備はパワースーツに身を包んだ日本軍、警察が行っている。パワースーツは迷彩柄の暗視スコープ機能を搭載したヘルメット、自動装填銃や防弾盾を隠し収納したアームパーツ、脚力強化のブースターを搭載したレッグパーツ――――ノーマルバスターをセレクトしていた。
無骨なパワースーツに身を包んだ日本軍、警察 約30万人が沿道から道路へと日本国民が進入しないように目を光らせつつ、テロリスト等の脅威にも目を光らせている。
皇族が関係する大きな式典にも関わらず、警備があまり、物々しくなっていないのは少女神 リンテリアの異例の宣言があったからだ。
3日前に地球、異世界 リンテリアの二世界の上空に少女神 リンテリアの銀髪のおかっぱ頭が映りだし、珍しくきっちりとしたタンクトップにジーパンという服装をしていた。
少女神 リンテリア『りりすちゃんの晴れ舞台を邪魔する悪い虫は魔法少女 リンテリアちゃんが教育的指導しちゃうかもよん♪ いや、今回は必ず、する。以上! せいぜい、楽しい時間を過ごしなさい虫達』
その宣言を聞いたちょっと、日本にちょっかい出しちゃうぞ♪ と意気込んでいた国々の主導者達は顔を青くしてぶるぶると震えていた。
いつも、エロロリ漫画しか読んでない印象のある少女神 リンテリアが人間に介入した事は珍しく、イヴは不安な日々を過ごしていた。
イヴ『地球に槍の雨が降るのかもしれない。駄目神が初めて文句の付けようがない仕事をした。いつもならば、オチがつくのだぁ』
と、イヴは独り言を言っていたが、その予想は外れて、現在に至る。
晴れ晴れとした澄んだスカイブルーを見上げて、凪紗南イヴと凪紗南りりすの姉妹は振り袖を確かめるように、デザインを新幹線に似せた自動車の上に設置された展望室を所狭しとくるくる、風車の如く、回る。
振り袖の桜模様が相まって、さながら、二人は花の妖精のようだった。
イヴ「りりす、振り袖がとても、似合うのだ!」
黒髪を自由に遊ばせている愛すべき妹 りりすに瞳同士でも会話しながら叫んだ。その叫びは公の場では私を律しているイヴにしては珍しく、展望室を護衛している宮内庁の黒スーツの人々が油断して啞然とした表情を見せてしまうほどだった。
同じく、展望室内にいる凪紗南未来はしょうがない……と溜息を吐く。いつもならば、もうすぐで国民達がいる解放地区に入るのだから自分を律しろとお小言を言っているだろう。心なしか未来の表情は普段よりも柔らかい。ほら、唇が緩んでいる。
りりす「イヴお姉様、はしゃぎ。魔王が勇者に出逢ったくらいはしゃいでいる」
棒読み口調だが、イヴはりりすの機嫌が良いことを姉妹の絆で感じ取っている。そんなりりすは冷たい氷ではなく、冷たいように魅せている厨二病だと宮内庁や政府関係者に早くも理解されたようだ。
それは一生懸命、警備や設営などをしている彼らに対して、イヴが――
イヴ『こんにちはなのだ! 今日は予と妹 りりすの為に汗水流してありがとう』
――と真っ当な挨拶をしたのに……。りりすは――
りりす『我の新しい下僕よ。涼やかな風、優しき太陽に身体を包まれつつ、働いてくれて我は感謝している』
――厨二病仕様だった……。そのおかげでりりすの性格に対する予防のようなモノができて、政府関係者達は自分の想像とは違う第一皇女のイヴがある程度、成長するまで身分を隠されて育てられていた第二皇女に普通に接することができるようになった。
真央「笑えよ、アイシャ。今日は婚約者 イヴの大切な1日だぞ」
アイシャ「あんなに向日葵のような無垢なイヴの笑顔を引き出せる近親相姦希望厨二病皇女が羨ましいです。とても、笑えません」
セリカ「あら? アイシャちゃんは案外、心の狭い人なんですね。めっ! ですわ」
半分、セリカは冗談で言ったのかもしれないが……クール面しか人々に魅せられないアイシャとしては心にクリティカルヒットの言葉だった。
アイシャは展望室の全面硝子窓に頬を当てて、窓に指で私は心が狭い……と文字を書く。
真央「あんた、たまに容赦の無い一撃を与えるなぁー。そう言うのを腹黒って言うのよ」
セリカ「あら? わたくし、お腹なんて黒くありませんわ。いつも、朝昼夜 3回、入浴してますわ」
そう言うと、セリカが着ていたパーティードレスの裾を持ち上げて、スカート部位を盛大に捲ろうとした。それを真央が直ぐさま、セリカの手を払い止める。
真央「あんた、天然すぎ。そう言うのはセリカが1番、気にするレディーとしては恥ずかしいことでしょ」
セリカ「そうでしたわ。わたくし、失念しておりました」
そう言うとセリカは誤魔化すように微笑んだ。その微笑みは真央には真似のできないプリンセス色の微笑みだった。
……静かにアイシャの傍に近寄ると真央も展望室の全面硝子窓に頬を当てる。指で窓にあたしはプリンセス(笑)と書いた。
アイシャ「ようこそ、負け犬の地へ」
真央「……窓って冷たいや」
アイシャ「……ああ、冷たいです」
未来「お前達、思い思いの行動を取るのは止めろ。もうすぐ、日本国民に土地を開放している地区に入るぞ。姫らしい表情をしろ」
その言葉に1番、過剰な反応をしたのは姫ではないただの護衛役 新羅咲良だった。立ったまま、眠りこけていたのをそんなことありませんよと言うかのようにキリッとした表情で辺りを見まわしている。その動きの一つ一つがとても、胡散臭かった。
咲良「いーちゃん、寝てないよ?」
イヴ「おお、寝てない? のだ、ズッ友 咲良は」
咲良「うん、ズッ友」
りりす「ズッ友? 我もズッ友の仲間になりたいぞ」
咲良「うん、りーちゃん、ズッ友」
そんなズッ友の輪が広がりつつ、イヴ達の乗る展望室付きの自動車を真ん中に配置した自動車の列が待ち侘びている日本国民の目の届く所へと進んでゆく。
割れんばかりの拍手と共に両世界で有名な歌姫 Garden of the GodsのLilithが第二皇女 凪紗南りりすだった事実に国民達は喜びの声を上げる。
どの声もりりすを称える声であり、重なり合い、判読不可能になっていた。だが、人々の希望に満ちた笑顔でイヴ、りりす、アイシャ、真央、セリカ、咲良、未来はそれを好意的なモノであると理解していた。
国民達の声援に応えて、イヴ、りりすはゆっくりとした動作で手を振る。
この時から、白銀の姉妹とイヴ、りりすの事を称す人々の声が出始める。それはこれから、地下世界から地上世界へと再び、人間達が本格的に移住して安定するであろうイヴ、りりすの時代への期待感が成せる好意の反響であった。
イヴとりりすは共に皇族に伝わる神剣 天叢雲剣を握り締めて、蒼穹へと掲げる。
神剣の煌めく刃を観て、国民達はさらに皇族を褒め称えた。
イヴ「……りりす、この民達の笑顔を裏切らぬように頑張ろう」
りりす「……イヴお姉様、我は命を賭して民達を護ろう」
そのりりすの言葉の意味をイヴが知るのは大分、後になってからだった。
イヴが普段通り、聡明な冷静さを保っていたのならば、きっと、りりすをその場で問いただし、歴史の流れは大きく変わっていただろう。しかし、そうはならない。
その事実を少女神 リンテリアは上空でロリエロ漫画を読みながら思った。
少女神 リンテリア「まだ、未来は未来神 ミル・リンテリアの傍にある。完全な形で。……覚醒の時は未だ、遠い。覚醒した瞬間、両世界は存在の意味を知る。イヴの民達よ、勘違いするな。選択を誤るな。何故ならば、世界の意味はそこに住む者達が決めるべきだから……」
少女神 リンテリア……いや、未来神 ミル・リンテリアにとって何度も予知した道に未だ、過ぎず……本当のprologueはミルの観る遠き先にあった。
そして、ミルは知っていた。
乱入者 ディメンション モンスターが現れることを。
少女神 リンテリア「さぁ、いーちゃんの経験値が振ってくるよん。いーちゃん、りーちゃん、真央、セリカ、アイシャ、咲良、同じく乱入者のヒーローが上手く連携すれば、勝てない敵じゃないよん」
その言葉を言い終えたのを待ち望んでいたかのように、巨大な機械人形が4体、蒼穹から地上へと降り立った。
人々の間から恐怖の悲鳴があちらこちらで上がる。それはあっという間に感染して、恐怖の合唱になった。
少女神 リンテリア「さて、さてん♪ 予知通りに虫達を説得して上手く、いーちゃん達の経験値に結びつけるイベント発生♪」




