第91話 小動物園
第91話 小動物園
視点 神の視点 ※文法の視点名です。
場所 地球 旧世界 東京都 千代田区、地球 新世界 東京都 凪紗南市
日時 2033年 4月9日 午前 11時30分
微風が優しく少女達の髪を揺らす。それはまるで世界に一輪しか咲いていない華のようだ。
白銀の華(凪沙南イヴ)、漆黒の華(凪沙南りりす)、金色の華( アイシャ・ローラント)、桃の華( セリカ・シーリング)、深紅の華(北庄真央)、緑陽の華(新羅咲良)が静かに同じ花壇に咲いていた。
バスケットの中には卵、レタス、カツ、チーズ、鮭、シーチキン、ピーナッツバター、苺ジャム、ブルーベリーなどの具一杯なサンドイッチがある。イヴ達は会話を楽しみながら、お喋りとお喋りの隙間時間にサンドイッチを食した。
イヴが「ん~!」と口をすぼめて、自慢の銀の後ろ髪を前髪と合流させて、金銀の世にも珍しいオッドアイを含む顔全体を他者から見えなくする。まるで、それは美しい銀の簾のようだ。その高級品の如き柔らかさを保つ簾をりりす、アイシャ、セリカ、真央、咲良がそれぞれ、一掴み持ち上げて再び、可愛らしい小学生顔を日の光の下へと晒す。
誰もが目を瞑るイヴの渋い顔を心配そうに見つめていた。
真央「あんた、大丈夫?」 りりす「イヴお姉様? 水、静かなる流水を飲むと良い」 セリカ「まぁ、まぁ、イヴちゃん、どうしたんですか?」 アイシャ「イヴ! イヴ! しっかりして下さい! 今、人工呼吸をしてあげます」 咲良「ん、呼吸、正常?」
5人が同時にイヴを心配して、イヴとコミュニケーションを図ろうとする。
だが、イヴはゆっくりと口内に入ったサンドイッチを嚥下すると、腹を抱えて笑い出した。実に少女らしい高い声で笑う。
イヴの頬にはピーナッツバターが付いていたのを目ざとく見つけた一匹の子猫が寄ってきて、すぐにイヴの肩に飛び乗ると小さな舌でイヴの頬に付着したピーナッツバターを一舐めした。
にゃーん♪ と子猫が鳴くとイヴはその子猫を撫でながら、笑いに消費した酸素を急いで取り入れる。酸素を補給中ですよ♪ と告げるように、ドレスに包まれたイヴの腹部が上下に動く。
イヴ「うー、美味いのだぁ! なぁ、にゃんにゃん、ピーナッツバター、美味しかったよなぁ」
イヴは立ち上がり、子猫の身体を持ち上げてそう、子猫に話しかけた。直ぐさま、子猫はにゃーとイヴの言葉に反応する。ここ――――イヴ専用の小動物園に住まう住人達は頭が非常に良く、今も子猫はイヴの言葉に肯定するように頷いてくれる。
イヴ「お前達は可愛いなぁ。なぁ」
なぁ、なぁ、と言う度に子猫の肉球をぷにぷにする。そのぷにぷには癒やしの効果があるのだろうか、徐々に午後3時のりりす第二皇女様日本帰還パレードへの緊張が解けてゆくのをイヴは感じた。
真央「脅かすな。てっきり、あたしはイヴ妹と同じ厨二病を患ったのか? って恐怖に戦いたわよ!」
セリカ「厨二病のイヴちゃんも観てみたいですわ」
アイシャ「厨二病雌豚と同じになるイヴは嫌です。それでも、私はイヴを愛する自信が1000%、ありますが……」
りりす「我のは厨二病ではなく、魂の在り方である。よって、厨二病という狭きワールドに……ん?」
イヴと子猫の触れ合いを羨ましく思った黒猫 リルがりりすのニーソに包まれた脚を何度もジャンプしながら、猫パンチを続けている。その合間に甘い声をりりすに向けて発している。
その意味が古代魔法 バベルスペルを唱えなくとも、りりすには理解できた。何せ、黒猫 リルはりりすと同じ年に産まれたりりすの最初の下僕(友達)だ。
りりすはいつもの無表情のまま、黒猫 リルを自分の目線まで持ち上げる。そして、話しかけた。
りりす「我の下僕 漆黒のキャットよ。あまり、情けない声を出すではない。そなたは凛々しき雌猫、そんな声を出さずとも日頃の褒美に肉球をマッサージしてやろう」
そう言って、りりすは黒猫 リルの肉球をぷにぷにし始めた。
にゃーんとリラックスし始める黒猫 リルの表情を見て、りりすは褒美をやって良かったと思った。思えば、こんなにも心地よい油断で包まれている事はなかった。
口には出さないが、イヴ、アイシャ、セリカ、真央、咲良がいれば、今ここに自分では勝てない強力な敵が現れても勝ててしまうのでは? と錯覚する高揚感を感じている。
イヴ「ぷにぷに~」
りりす「ぷにぷに~」
そんな凪沙南姉妹の声に釣られて、小動物園に住まう猫達が近寄ってくる。犬やウサギ達も近寄ってきたが……猫が鳴き声で牽制している為、それ以上は近づけない。
猫達も黒猫 リルや子猫のように肉球をぷにぷにしてもらいたいらしく、真央やセリカ、アイシャ、咲良の足下に近づいてきた。
真央「何、こいつら?」
セリカ「きっと、抱っこをして! と近寄ってきているのですわ」
アイシャ「猫……。イヴ、どうすれば?」
咲良「ぷにぷに?」
イヴ「抱いてあげると良いのだ!」
りりす「猫は可愛い。それが全て」
真央、セリカ、アイシャ、咲良はそれぞれ、近くの猫を抱きしめて、猫の肉球をぷにぷにし始める。
真央「ぷにぷに、気持ちいい」
セリカ「猫、最高ですわ」
アイシャ「猫をイヴの次に可愛い生物と認定しましょう」
咲良「ぷにぷに。ぐぅー、ねむっ」
イヴ達のお昼は猫達の肉球に彩られた。ぷにぷには最強であることがここに証明された。




