第5話 天命。イヴ皇女様のジョーカーカード
第5話 天命。イヴ皇女様のジョーカーカード
視点 ジョーカー
場所:地球 旧世界 静岡県 伊東市付近、地球 新世界 静岡大スラム 伊東村付近
日時:2033年 4月2日 午前 11時05分
私はあの日、見上げた眩しい光を放つ太陽のような存在をブチ殺すと決めた。
そう、遠い遠い私が私でなかった時代に親友の亡骸を必死に抱え、何度も血を吐き、何度も嗚咽し、何度も親友の名を呼び、何度も血を吐き、何度も追っ手に斬りつけられ、何度もひび割れた骨格を動かし、何度も思い出を反芻して力に変えて…………できたのは少女神 リンテリアの下に逃げ帰ることだった。そして、私は一度、終わった。
親友の声が聞こえる。
決して、徹夜でイヴ神様に害する歩くlevel up素材を狩っていて寝不足なのではない。睡眠時間も30分摂取済みだ。
適当にその辺の危険種動物を上手に焼けましたをして、がつがつとその肉を喰らった。
親友「――――ちゃん、今度の仕事は楽勝だけど、やっぱり、困っている人がいるんだから、全力で挑まなきゃいけないのだ!」
親友の声を聞きながら、私はこくっと頷いた。
その心優しき、私よりも遙かに様々な才に恵まれた親友の姿がない。
私は欠伸をしつつ、欠伸で溢れた涙を拭きもせず、歪んだ景色――――薄暗い桜の木々のヒンヤリとした影の中、周囲の桜の木々に手を伸ばす。
ぬかるんだ地面に足を捕られそうになる。寝不足でふらふら、なんて事ない。
あれ? 視界がぼやけすぎて、真っ白になってく。
任務中なのにいけない。
姿が見えない親友の幻に私はまた、叱られてしまう。
顔の頬が少しだけ緩んだ。
私の耳に微かな音が聞こえた。
隠してある私の背中にある六枚羽根がノエシスの存在を感じ取る。隠してある大抵の人には見えない六枚羽根が私の脳にその在処を教えてくれるが、その前に”真上へと飛ぶ”。敵の、テロリストの、血生臭い武器の匂いを嗅ぎ取った。微風に乗ってぷんぷんと匂う。
イヴ神様くらいの私の背丈の数倍はあろう高さの桜の木々の枝をその木々達に宿るノエシスを感じ取り、目も向けずに、隠してある六枚羽根を動かし、避けてゆく。
その時間に有したのは強者でなければ感じ取れない刹那。
数キロ先にイヴ神様と、出来損ないの弱すぎる聖女、後………その他大勢が飛行車に乗り込み、地面を走ってこちらへと目指している。
また、ふぁあ、と欠伸が出る。決してやる気ないなんて事ない。大勢になんか、やる気ないよね、と言われるが。
ジョーカー「まだ、眠い。けど、天命。頑張る、神様、守る。間引く、テロリスト」
やっと、私の鼻の感覚についてきた隠してある六枚羽根がノエシスの存在を教えてくれる。私の鼻が算出した位置と同位置だ。
私の気配にも気づかない男性テロリストが血塗れの剣とライフル型自動装填銃を脇に置いて、桜の木々の影に隠れて用を足そうとジッパーに手をかける。
なんか、ばっちぃものを見てしまいそうなので、上空で停止し、そのまま、ローブに隠れた腰に帯剣した左右一本ずつの武器のうち、聖剣 エクスカリバーを鞘から抜いた。
聖剣 エクスカリバーを一振りする。鋭い風が巻き、地上へと下ってゆく。私はやれやれ、ばっちぃものを見ずに安心したととりあえず、欠伸をした。
用を足そうとしていたテロリストはジッパーを右手に握ったまま、横に倒れた。
倒れた反動で今まで辛うじて繋がっていた首が天にも昇ろうか、という程の鮮血を吹き出して、胴体から離れ、草むらの中を転がり、大木にぶつかり止まった。
血塗れの地面を避けて、ゆったりと欠伸をしつつ、地上に降り立つ。
ちょっと、ゆらっと目眩がして転けそうになった。私はちょっと、頑張って踏ん張った。おかげで血塗れ地面ダイブは避けられた。
良かった、ふぁああ、眠い。
ジョーカー「眠くないよ。ちょっと、世界、揺れてる、問題なし」
ずっと、バベルの塔のテロリスト達の動向を探っていた凪紗南未来からもしかしたら、ということで渡してくれた伊東村の地図を広げる。
後少しで伊東村役場に出るはずだ。
私の背丈ほど、ある草むらをかき分けて前へと進む。
途中、下手な隠れ方をしているバベルのテロリスト達を適当に拳で、物理で、ぶん殴る。どのテロリストも一撃で臓器が損傷して絶命した。
多分、みんな、使い捨てであろう。
華井恵里。凪紗南天皇家の分家 華井家の人間であり、イヴ神様の父親 凪紗南春明の元婚約者の妹でありながらイヴ神様の両親を殺した女。それを皮切りに地球、異世界 リンテリアで様々な甘言やそれが効かないと残酷な手段を用いて手下を増やして、様々な地域でテロ活動を続ける世界の敵。
凪紗南イヴ神様を光とするならば、華井恵里は闇だろう。
本当は恵里を軽く屠ってやりたいが、真の目的完遂の為、生かしておく必要がある。残念だ。
テロリストの血で濡れた拳をイヴ神様からプレゼントして頂いた高級ティッシュで拭き取る。
イヴ『予の友人 新羅咲良もジョーカーと同じように眠そうな顔をして、あっ、咲良の場合は深夜の通販番組の見過ぎであるが、それが原因で涎まで時々、垂らしているのだ。全く、困った新羅家当主なのだぁ。ジョーカーもそうであろう。これを使うと良いのだ』
そんな言葉を思い出しつつ、私はまだ、未使用のティッシュの香りを嗅いだ。
イヴ神様と同じ体臭と同じ薔薇の香りがする。
ジョーカー「くんか、くんか、神の香り」
いけない任務だ。
私はやや、慌てて再び、歩き出した。
*
私は下級バベル テロリスト level 55を25人、やる気なさそうに手加減して屠った。
私の真の敵は想像以上に手強い。
少女神 リンテリアに昨日、会い、もう、何千回目になるであろう質問をした。
今の私で”あのお方”に勝利することは可能か?
そんな事は私も解っていた。けれども、私の親友が私の目の前で倒れてゆく姿が、死に様が目に焼き付いて離れない。今の私の状況はまるでラノベの主人公だ。
しかし………と歯を食いしばる。目深に被ったカラス色のフードを右手で握りしめる。右手が震える。
少女神 リンテリア『それはチミがいちばーん、良く知ってるでしょ。あの子に勝てるのは魔法を超越した魔法、技を超越した技、存在を超越した存在にならなければ無理ゲーだねん。しかぁぁああし――――』
ラノベの主人公ならば、どんな苦難も異性の仲間達ときゃきゃうふふふしつつ、ご都合主義なパワーで解決するのだろう。
しかし、しかし!
私の現実はそう甘くなかった。
少女神 リンテリア『――――チミはそこには至れない。もう、運命粒子のステージが違う。ドラ〇エで言うとチミは天空装備を身につけられないパ〇スだねん』
幾ら、機会を与えられようと! 握りしめた左手から血が地面に流れる。爪が真っ赤に染まり、皮膚が痛々しく、破損している。なんて、脆弱なのだろう。これが種の限界か。
幾ら、運命粒子の接合率、level upを重ねようと、種の限界が存在する。私の今の種の限界levelまで後少しで迫る。そこから、”まだ”、level upできるがそれでも、焼け石に水だ。
ジョーカー「………私の親友、”愚か者”、ない。”栄光なる者”」
ようやく、私の背よりも高かった草むら地獄が終了し、草独特の青臭ささから、生臭い血の匂い、戦場の匂いに変化した。
私の目の前にはおそらく、魔法で焼かれた家屋が無数に点在していた。その家屋の中から獣のような断末魔を上げる男性や女性、少年少女、年端もいかない幼児の声が聞こえた。私の種はとある目的の為に人の死には敏感だ。確実に断末魔を上げている殆どの人間はこれは死ぬなと思った。
ざっと、聞いた感じでは…………127人くらいだろう。
腰に左右、帯剣した鞘から聖剣 エクスカリバーと魔剣 デーモンスレイヤーを抜いた。
私の足下に今にも息絶えそうな幼女がいる。可哀想に背中が斬りつけられている。きっと、逃げる際にテロリストに斬られたのだろう。
幼女「いたい、よぉ。まま、いたいよぉおおお!」
ジョーカー「あと少しだけ、我慢。イヴ神様、治癒魔法、治癒する」
その前に死なないように、保たせなければならない。私はローブの備え付けの裏ポケットから、おうちから、適当に持ってきたピース ポーション 300㎖ バナナ味を取り出す。
そして、私は屈み、幼女に手渡そうとする。
ジョーカー「さぁ、飲む。これで、ひとまず、安心」
幼女はゆっくりと手を伸ばし、ピース ポーション 300㎖ バナナ味に手が届く寸前まで行って、泥にまみれた顔でこちらを見つめる。その瞳は絶望の色に濡れていた。頬には今も涙が流れ続ける。人はここまで泣けるのだろうか。いや、かつての私も、今の私も、この子と同じように心の中で泣き続けている。
幼女「でも、ままとぱぱ、殺された。わたしに払えないよぉ」
やっと、捻り出した幼女の小さい声は戦場にはありがちな背景だった。
いつも、弱者が犠牲になる。ぐっと怒りを静めながら、私は幼女の頭を優しく撫でた。
ジョーカー「おごり、無料」
幼女の掌にピース ポーション 300㎖ バナナ味を載せる。小さな、まだ、労働を知らない掌だ。きっと、この後に到着するイヴ神様がこの子の掌を守ってくださる。きっと。
幼女「ありがとう、お姉ちゃん。代わりにこれ、あげりゅ」
幼女がスカートのポッケから取り出したのは、5円チョコだった。
昼ご飯はまだ、だったのでありがたく貰う。
ジョーカー「ありがとう。悪者は私、退治」
魔法で変化した声ではなく、本当の声でありがとう、を言いたかった。
それはできない。私には成すべきことがある。
幼女を御姫様だっこし、炎に巻かれていないまだ、比較的安全な家屋の扉を叩く。
20代くらいの女性が青ざめた顔を出した。
私は幼女を下ろすと、すぐさま、鞘に帯剣した聖剣 エクスカリバーを20代くらいの女性に掲げて見せた。
20代くらいの女性「どなた…………って、あなた様、それはイヴ皇女様に不敬をする者に自分の判断で処断できるライセンスの一つ 聖剣 エクスカリバー」
私がどんな地位にあるか、20代くらいの女性は理解したようで幾分か、顔色がよくなる。
幼女の右肩にそっと、触れて、
ジョーカー「この子を頼む」
と普段の辿々しい日本語ではなく、しっかりとした口調で言った。正直、しんどい。
20代くらいの女性は頷いた。
さすが、皇族の御威光。国民は全員、凪紗南天皇家である凪紗南未来と凪紗南イヴを神様だと思い、崇めている。つまり、皇族の血筋は人間ではなく、神という認識だ。
イヴ神様が本当の神様 幼女神であると国民は勿論、地球や異世界 リンテリアの民も知らない。知っているのは一部の人間のみ。
ジョーカー「しばらく、隠れてる、ここで。すぐ、イヴ皇女様達、来る。死なない限り、助かる」
そう、文字通り、”死なない限り”
それは治癒魔法を唯一持つ凪紗南イヴの絶対的領域。
その領域さえ、嘘であり、世界中の人間は知らない。知られてはならない、蘇生魔法を凪紗南イヴが行使できることを。
その嘘をしっかりと信じている20代くらいの女性と、幼女はもう、自分たちが助かったように微笑みを互いに浮かべる。実際にイヴ皇女様に会える機会だとでも思っているのかもしれない。
幼女がこちらを向いて、私に話しかける。
幼女「お姉ちゃん、頑張って。あたしはなみみ! お姉ちゃんは?」
ジョーカー「私、この世界にいてはいけない、死ぬ、世界の理、拒絶し蘇った存在、ジョーカーカードのジョーカー」
幼女「うん、頑張って、ジョーカーさん」
*
私は下級バベル テロリスト level 50を20人、やる気なさそうに手加減して屠った。
村人達の死体に手を合わせつつ、level up素材を適当に狩りながら、伊東村役場を目指す。災害なんかのセオリーではこういう公共機関に人間が集まる確率が高い。
イヴ皇女様の実力に合わせて少しでも間引いておかなければ、ならない。
弱ちぃ聖女様では不覚をとる可能性大だ。あんなのが何故、イヴ神様の婚約者なのか、腹立たしい。
しばらく、行くと伊東村役場が見えた。
伊東村役場前に村の住人達、魔法ギルド、ハンターギルド、警察官達VSテロリスト達の構造が出来上がっていた。
既に両者共に闘っているようで、互いに死者が出ている。死者はそのまま、戦闘に巻き込まれて踏まれたり、それを見かねた仲間に建物の影の方に避難させられていた。
それにしても、村の住人達、魔法ギルド、ハンターギルド、警察官達は自動装填銃を何丁か、使っているのに、テロリスト達は使っていない。
つまりは魔法が多少、使える、または、俺、ちょー強ぇえええ! と勘違いした集団。たまにいる勘違いちゃんの使い道といえば、何も重要な情報を渡さずに――――
ジョーカー「捨て駒以下雑魚。恵里、いつも、イヴ神様、嫌がらせか」
私のやる気なさそうな台詞に一瞬、戦場に静寂が訪れた。自動装填銃を撃つ音は聞こえるが。
テロリストの何かが私を目指してやってくる。
そのうち、男性二人のテロリストが私に斬りかかろうと走る。
私は少しだけ、ほんのちょびっと、雀の涙ほど、回避に力を注いだ。
男性二人のテロリストの剣を左に避け、右に避け、欠伸をする。眠くないはず、睡眠30分とった。
テロリスト「な、なんだ! こいつ。チビのくせに」
テロリスト「くそ、強い。ってか、動きが見えない。魔法か!」
と、口々に情けない台詞を吐く男性二人のテロリスト。
どう見ても、小学高学年にしか見えない幼い体つきの私にびびっている。こちらからもはっきり、と見える小型犬が寒さでふるふる震えているようだ。
ジョーカー「基本的な動き、早回し、する。それ、可能。ここ、あなた、死に場所」
はっきりと私は宣言した。
村の住人達、魔法ギルド、ハンターギルド、警察官達から歓声が聞こえる。
恭二「お、女の子、君は?」
桜花「…………」
私はその二人を知っていた。
ボサボサ頭の黒髪の少年 蓮恭二は眠そうな眼を精一杯、見開き、こちらに斬りかからんほどの眼力だ。しかし、弱々しい殺気だ。そこいらのゴブリンすら、殺せない腰の入っていない剣の構え方。肩を怪我している程度で男が痛がるな、ヘタレ。精霊のコートが、イヴ神様のコートがあんな男の匂いに染まってしまっている。
もう、一人の状態は…………私には羨ましい巨乳と長身の二つを保持している長髪の金髪 池内桜花の剣構えはなかなか、見所がある。一般人レベルでは油断のならない鋭い目つきも良い。しかし、血の匂いとその箇所から背中を大分、怪我をしているようだ。
5年前の3日間、姫乃と偽称したイヴ皇女様をストーカー、げふん、もとい、影から護衛をしていていた。その時、庶民生活をイヴ皇女様に教えていた3人のうちの2人だ。それ以来だが、随分と消耗している様子である。
ジョーカー「私? ジョーカーカード。本来、物語、在ってはならない、存在」
自己紹介、ついでに自分の地位をここに集まった人間達に証明しようと二本の剣を構える。
右手にイヴ皇女様に不敬をする者を処断する正義の光の剣。
恭二「聖剣 エクスカリバー」
左手にイヴ皇女様から与えられた召喚器であり、魔を魔にて制する闇の剣。
桜花「魔剣 デーモンスレイヤー。もしかして、イヴ皇女様のジョーカーカード」
桜花の言葉に村の住人達、魔法ギルド、ハンターギルド、警察官達は「やった! 俺たちは助かったぞ!」「よし、最強が来たからにはもう、こいつら、終わりだな」「ってことはイヴ皇女様も!」「けが人を集めて治癒魔法を唱えてもらいましょう♪」「イヴ皇女様、バンザーイ! イヴ皇女様、バンザーイ!」と反応する。
桜花の言葉にテロリスト達は「うわぁ、殺される、命だけは」「逃げろ、逃げろ、逃げろぉおお!」「お金を、弁償しますから許して下さい」「た、隊長はお前、見なかったか! 隊長ならば、隊長ならばぁあああ!」「隊長、用を足しに行って戻ってないぞ」「逃げたのか! 隊長ぉおお!」
色々、言っているが、テロリストを許すつもりはない。
私の任務を遂行させてもらう。
ジョーカー「テロリスト 350名。大分、いる。倒す、神様、弱い。不覚、とる! 間引く」
その言葉にテロリスト達は闘おうとしたり、逃亡しようとしたり、土下座をしたりするが、そんな行為に意味はない。
終わる、命達が。
ジョーカー「神葬流 オト ノ ネ」
私は聖剣 エクスカリバーと魔剣 デーモンスレイヤーの刃同士を全身を駆け巡るSOULを交えて、響かせた。
響かせた音はテロリスト 200人の心臓にダメージを与えてゆく。
この死の音に絶えられる雑魚は存在しない。
故にそれらの命は確実に終わる。
ほら、呻き声一つも出せずにただ、その場に倒れた。
血も流さずに男性女性問わず、テロリストが200人も絶命している。その不思議な光景に誰もが息を飲んでいた。
私にとっては別に不思議ではなく、ただ、眠い。ふぁー、欠伸が出た。また、大きい。ドーナツがお口に入りそうだ。
恭二「一度の攻撃で200人、倒した?」
桜花「嘘。実力が違いすぎる」
いつも、言われていることなので無視をして………あれ、イヴ皇女様の薔薇の香りが近づいてくる。
誰にも見えない六枚羽根をぴくぴくと動かし、風を読む。
飛行車の走行音が聞こえる。ここにいる人間にはまだ、聞こえない距離だが。
ジョーカー「イヴ皇女様の気配。間引き完了。倒せる」
恭二「イヴ皇女様が来るなら、テロリストを倒せないのか!」
ジョーカー「神様、強くならない、困る」
恭二「敵討ちか! そんな酷いことをあの子にやらせるのか!」
何を怒っているのか? 蓮恭二が私に詰め寄ってくる。
私のフードを剥がそうとする手をひょいっと回避して、勝手に激怒しているイヴ神様と何の関係もない蓮恭二にウザイので答えることにした。
ジョーカー「あんな雑魚、すぐ、殺せる。せいぜい、神様の経験値、良い」
そう、あの程度の相手を私と同じくらいの、いや、それ以上の手際で殺してもらわなければいけない。
本来、神と人間とでは種が違うのだ。
なれば、神にとって人間は蟻と同じようなタグに分類される。人間が自分たちは特別だなんて思っているのは人間だけなのだ。
そういう意味でイヴ神様には”人間程度”殺せるようになってもらわなければ、と笑みがこぼれる。
イヴ神様の香りがする。ああ、何とも優しい香りだ。血生臭い戦場を忘れてしまう。
ジョーカー「我が信仰は幾千年よりも遙か遠い想い出と、共に、さぁ、ワルツの舞台へ、その為に…………」
と私は呪文のように、自らを縛る呪縛のように、呟く。自分の心に。
ピッッ、ピッッ、ピッッ――――と、そんな間抜けな音が村の住人達、魔法ギルド、ハンターギルド、警察官達と、テロリスト達の間に響き渡る。
おっ、と、ホログラム ウィンドウを起動させて、音の発生源である時計型携帯電話のアラームをキャンセルする。
そして、ローブの裏ポケットから照り焼きバーガーとイヴ神様の写真、厚手のハンカチーフを取り出す。
今回のイヴ神様の写真は、イヴ神様が北庄真央の勤める南屋の牛丼 凪紗南天皇支店で松阪牛の牛丼を注文して、「そんなのねぇーよ、このブルジュアが!」とツッコまれてしゅんとしている可愛らしいシーンだ。
恭二「え、照り焼きバーガーと皇女様の写真を取り出して――――」
桜花「祈り出した! 何、この人!」
私がイヴ神様への供物である照り焼きバーガーを厚手のハンカチーフの上に置いて、イヴ神様のいる方角に手を合わせたまま、座って深く腰を落としている様を、蓮恭二と池内桜花は指を差して驚いている。
他の人々も完全に固まっている。
とりあえず、苦情は述べておく。
ジョーカー「お祈り中。静寂」




