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 僕がツラを貸したその先は、かなみや恭子と行ったことがある喫茶店だった。おお、いつものウエイトレスさんもいる。


 案内され席に座ると、僕はアイスコーヒーとハワイアンパンケーキ、金城は紅茶と、何とジャンボチョコレートパフェを注文していた。僕がポカンとした眼で見てると彼女が、

「な、何よ。何か文句あるっての?」

 と、頬を膨らませた。


「いや、何を頼んでも別にいいんだけどさ。君のキャラにチョコレートパフェって合わないなと思ってさ」


 僕は率直な意見を口にした。


「フツー、女の子に向かってそういうこと言う? アンタ、結構デリカシーの無い男ダネ」


「ごめん、気に触ったなら謝るよ」


 しばらくしてから注文の品が並べられ、僕らは思い思いに手をつけた。


「で? 僕に用があったんじゃないの?」


「用がなくっちゃ、話しかけちゃダメなの? ぶっちゃけ大した用はないんだ。ただ、アンタと話がしたくってね」


 金城は、チョコレートとバナナの乗ったスプーンを口に含みながら言った。


「さっき、銀夜の家に行ってたっしょ。どうだった?」


「どうっていうのは?」


「銀夜は学校に戻る気があるのかって聞いてんの」


「さあ……もしかしたら、もう戻らないかもしれないけど」


「アハハ。やっぱね。あいつ、強情だから」


「おたくは銀夜のこと……もう、諦めたんだろ?」


「ああ。アタイはもう、銀夜に未練はないよ。いや、元から無かったけどね」


「へえ……」


 メープルシロップのかかったパンケーキを頬張りながら、僕は熟慮していた。


「……そういうこと、か」


「? どうしたの?」


「つまり、こういうことだ。金城、君は元々、銀夜を仲間にするつもりはなかったんだね。でなければ、最初からお姉さんのことをネタに銀夜を脅そうとしたはずだ。そうしなかったということは、銀夜を引き入れると不都合があるってことだ」


「ふうん……」


 僕がそう言うと、金城は一人納得したように頷いた。


「アンタ、よく気づいたね」


 彼女は紅茶を一口だけすすると、

「そうさ。アタイは銀夜のことが嫌いだからね。アタイがアイツと出会ったのは中二の時だったんだけど、当時からすましてて気に入らない奴だったよ。銀夜がグループに入るまではアタイが頭だったのに、いつの間にかアタイより銀夜がリーダーみたいな感じになってさ」


「銀夜がおたくをトップの座から追い出したってこと?」


「いや、そうじゃない。でも、銀夜は何でも出来たからね。頭もいいし、喧嘩も強いし、何より親が政財界の大物だからね。周りの奴らが勝手に祭り上げてたってワケさ。それまでコツコツ頭張ってたアタイは、いいツラの皮さ」


――逸海は、わたくしと同じでしたから……。


 先ほどの銀夜の言葉を思い出す。なるほど、そういうことか。銀夜がお姉さんに嫉妬していたように、金城もまた銀夜を妬んでいたのだ。それで、自分と似た彼女になら破滅させられてもかまわないと思ったのだ。いや、もしかしたら、銀夜はそれを望んでいたのかもしれない。自らを罰するために。


「そんなことよりさ」


 金城の言葉に、ハッと我に返った。


「アンタ、今付き合ってる女とかいんの?」


「いないけど……って、急に何を言い出すんだよ」


 思わず金城の顔を見ると、彼女は耳元まで顔を赤くしていた。


「だ、だからさ……」


 金城はモジモジしながら、ためらうような姿勢を見せた。


「ア、アタイと付き合わない?」

 

「……は?」


「は? じゃないっての。いいジャン。不良が気になるってんなら、もう止めるから。アタイをカタギの女にしてよ」


 古いヤクザ映画の、それも極道の妻のような台詞だが、真剣さは伝わった。正直、金城は良い女だ。悪い話ではないのだが、僕は断ることにした。


「ごめん。君とは付き合えないんだ。恋人じゃないけど、姉さんがいるから」


 僕がそう言うと、金城は一瞬だけ眼を潤ませた。


 しかし、すぐにしかめっ面になると、

「はん。やっぱアンタシスコンだわ。いいよ、今のは忘れて」


 金城の表情は、いつもの通りに戻っていた。しかし、どこか儚げで、そして、悲しそうに見えた。今日は何だか、やたら女の子を泣かせてるような気がする。僕はいたたまれなくなって、アイスコーヒーを流し込むように飲み終えると、自分の代金だけ置いて席を立った。


「そりゃあシスコンにもなるよ。シスコンの姉に育てられたからね。その姉さんが首を長くして待ってるからそろそろ帰るよ。不良からはちゃんと足を洗ってね」


「……るっせ。アタイに命令すんな」


 金城は俯きながら、小さく呟いた。


「あはは。それじゃあ、元気でね」


 肩を落としている金城に別れを告げて、僕は喫茶店を後にした。

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