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 部活動も終わり、僕は銀夜の家へと向かっていた。

 言うまでもなく、彼女に復学するよう説得する為だった。

 今日尋ねるという旨は、既にメールで伝えてある。返信は帰ってこなかったが……今の銀夜なら、僕に会ってくれる。いや、彼女が会わざるを得ない文章で、メールを送っておいたのだ。

 

 そんなことを考えながら、青信号になった道路を渡ろうとした時だった。

 その違和感に気づいたのは。


「……気のせいか」


 僕は辺りをキョロキョロ見回しながら、一人呟いた。何となく誰かに見られている気がしたのだ。やはり昨日の一件が尾を引いているのかもしれない。首をブルブル振ると、銀夜の自宅まで急いだ。


 銀夜の家は都心部のほぼ中心にあった。いや、それが家と呼べるものかは分からないが。とてつもなく高い堀のその建造物は、もはや大名屋敷と言った方がよさそうだった。


 家の中に入ると、恭しい態度の女中が出迎えてくれた。どうやら銀夜が話をつけてくれてたらしい。広大な玄関を通ると、何百畳もありそうな居間があり、いかにも日本家屋といった造りの邸宅だった。


「お嬢様は二階の自室でお待ちになっております」


 女中はそう言うと、階段を上って僕を銀夜の部屋の前まで案内してくれた。

 ドアの前に立った時、心臓が早鐘を打つように高鳴っていた。

 まるで、初対面の人間と会わなくちゃいけない時のように。

 しかし、ここまで来て引き返すわけにはいかなかった。正直言うと、もう帰りたい気もするが。とにかく僕は意を決すると、ドアを二回ほどノックして中に入った。


 すると――。


「お待ちしておりました、ご主人様」


 銀夜は、ドアのすぐ前に待っていた。

 身体の前で腕を組み、姿勢良く立っている。


「お待ちしておりました、じゃないよ。二日も学校を休んで、何をしてるんだ、君は」


 僕が非難の言葉を口にすると、彼女は礼儀正しく頭を下げ、

「ご心配をおかけして、申し訳ありませんでした」

 と、か細い声で謝罪をした。


 銀夜は袖にメッシュの入った、黒のワンピースを着ていた。綺麗な白銀の髪とのコントラストは、まるで絵画のように神秘的な美しさを漂わせていた。だが、僕は彼女を見てると不安な気持ちになってきた。その原因は、痩せこけて少し窪んだ頬と、輝きの無いその瞳にあるのかもしれない。


「銀夜」


 僕が声をかけると、銀夜はゆっくりと頭を上げた。


「何でございましょうか」


「久しぶり、だね」


 銀夜は答えた。


「久しぶり、というほど間は空いておりませんわ」


「あ、そうだった……」


 彼女は表情ひとつ動かさずに、

「ご主人様。そのような閑談をしに訪問されたのではないのでしょう? 本題に入られてはいかがですか?」


「確かにそうだね。僕は今日、君に言わなければならないことがあったんだった」


「何で、ございましょうか」


 銀夜は注意しなければ聞こえないほど小さな声で聞き返した。

 できれば、言いたくない。躊躇せずにはいられなかった。

 胸の芯にズキズキするような痛みを感じながらも、僕は言った。


「メールでも書いたんだけど、もう一度言わせてもらうよ。君は……お姉さんを殺したんだね……?」

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