表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/44

38

 次の日。土曜日なので三時間目で下校時刻になり、僕は新聞部の部室へと足を運んだ。室内には恭子、緒方先生、白絵に黒川と、お馴染みのメンバーが既に着席していた。


「来たか空。待っていたぞ」


 緒方先生は僕の顔を見るなり、立ち上がって言った。


「僕を待っていたって、どうかしたんですか」


「とぼけるなよ。東藤のことだ。お前が事件を解決してくれたんだろう?」


「僕は……別に」


「謙遜するな。昨夜は大活躍だったそうじゃないか」


「そんな大したことはしてないですけど。それで、東藤はどうなったんです?」


「それなんだがな」


 先生は表情を曇らせた。まさか、校長は警察に被害届を出したんじゃないだろうか。理由はどうあれ、教師に対して暴力を振るったのだ。それがどういう意味を持つかは、分かっているつもりだが。


「そんな顔をするな。校長に聞いたのだが、警察沙汰にはしないそうだ」


 先生は言った。


「大事にしても、我が校にとっては不名誉にしかならんからな。退学という話も出たが、私が説得した。まあ、特別指導は免れないだろうがな」


 ああ、そうなったのか。


「それでも、ちょっと後味が悪いな」


「まあ……お前からすると、同級生を告発したように感じるかもしれん。しかし、気にすることはないんだぞ」


「ええ、分かってます。それで、銀夜は?」


 白絵が悲しげに答えた。


「それが……銀ちゃん今日も来てないんです」


 僕は銀夜の陰りのある表情を思い描いた。

 なるほど、まだ許せないのか、自分が。


「美月さんに対する、生徒達の誤解は解いておきました」


 黒川が言った。


「一昨日起こった不良間の抗争には、美月さんは一切関わっていなかったと。ほぼ全生徒に広めておきました」


「じゃあ、銀夜はいつでも学校に戻れるってことか?」


 僕がそう聞くと、黒川は肩をすくめながら、

「どうでしょうね。美月さんに復学する意思がないなら、無駄なことだと思います。人の口には戸が立てられない、とも言いますし」

 

「難しい言葉を知ってるね。でも、もう大丈夫だと思うよ」


「大丈夫、とは?」


「言葉の通りだよ。銀夜は、そんなに弱い子じゃないから」


 自分で言いながら、本当にそうか? と自身に問いかけていた。人は誰しも弱い存在だし、銀夜がこれからどういう行動を取るのか、僕には予想もつかない。


 だけども。いや、だからこそ。


「ま、大丈夫と言ったら大丈夫なんだよ」


 半分誤魔化すようにそう言いながら、僕は椅子に腰掛けた。


「空」


 すると、向かいの席に座っていた恭子が不機嫌そうに話しかけてきた。


「どうしたの? 恭子」


「どうしたの? ではないっ」


 彼女はなぜか憤慨しているようだ。


「昨夜はどうして私を東藤の所まで連れていってくれなんだ。奴の住所を聞きだした途端、急に電話を切りおって。私をのけ者にするつもりだったのか? 許さんぞ!」


「そ、そんなことないって。ただ、大切な親友を危険な目に合わせたくなかっただけさ」


「そのような甘言に騙されたりはせぬぞ。今度でえとに連れていくというなら話は別だがな」


「……思い切り、騙されてるじゃんか」


「ふん。それよりも、よくあの東藤を説き伏せたものだな?」


「まあ、色々大変な目にあったけどね」


「どういうことだ?」


「簡単に言うと、不良グループに呼び出されて廃工場の中で暴行を加えられたり、ナイフを突きつけられたりしてた」


 僕がそう言うと、恭子は顔を赤くして、

「そ、それならば尚更だ。私がいれば、一騎当千の活躍をしたものを」


「気持ちだけ受け取っておくよ。それに、あいつらとの決着はもうついたんだ」


 あいつらとの決着だけはね。僕は心の中でつぶやいた。


「ふうむ……」


 恭子は一人頷きながら、僕の顔を食い入るように見つめていた。もしかして、僕の説明ではまだ納得していないのだろうか。


「どうしたの? まだ怒ってる?」


「いや、そういうことではない」


 恭子は僕の言葉を否定した。


「この数日で、何だかお前が一際頼もしく見えてきてな。そうかと思えば、酷く頼りないようにも見える。まったく、不思議な男だよお前は」


「それって、褒めてるの? けなしてるの?」


「言葉の通りだ。他意はない」


「何だかな。僕はそんな分かりづらい人間じゃないと思うんだけど」


「そう思ってるのは、お前だけだ」


 ……そんなにハッキリ言わなくったって。


「あ、それ分かります! 部長さんって、何だかとっても変な人ですよね」


 へこんでいるところに、白絵がダメ出しをしにきた。


「何を考えてるのか分からないし、掴みどころがないし。でもいざとなると、とっても頼りになって。あたし、部長さんのこと、尊敬してきました!」


「元は尊敬してなかったみたいな言い方だね」


 白絵は心から僕を賛美してくれてるみたいだが。掴みどころがないとか、何を考えてるか分からないと言われてもあまり嬉しくはない。


「ええ。少なくとも尊敬に値する人物だとは思っていませんでした」


 白絵の横から黒川がバッサリと僕を切り捨てる。


「黒川。君ねえ……」


「でも」


 黒川は、何故かもじもじしながら僕の言葉を遮った。


「それは私の目が節穴だったからだと気がつきました。最初は異能な人物など中々いないなどと言いましたが、撤回します。部長は美月さんの言うとおり、素晴らしいお方だと思います」


 黒川は頬を赤らめながらそう言った。褒められるのは嬉しいが、そうあからさまに褒められると、背中がむず痒くなってくる。


「お前達、言っておくがな」


 突然恭子が白絵と黒川の間に入り込み、両者を怒りの目で睨みつけた。


「空は私のものだ、勝手に手出しをしたら命はないぞ」


「ひ……ひい!? 戸塚先輩、何だか怖いですう!」


「ふむ……戸塚先輩と部長との関係も、中々に興味深いものですね」


「お前達、そこまでにしておけよ」


 騒ぎ立てる恭子と白絵と黒川に対して、先生は軽く叱咤する。


「銀夜のことはひとまず置いといて、もうすぐ体育祭があるんだ。今日は新聞記事の作成に力を入れていくぞ」


 緒方先生がそうまとめると、僕らは一様に返事をした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ