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 ひやり、とした感触があった。僕の首には後数ミリで刺さる所までナイフが当てられている。そのあまりの恐怖から、僕は動くことが出来なかった。


「まさかこいつらを瞬殺とはね。大した女だよ、アンタも。そこに転がってる能無しの男共より、アンタの方がよっぽど危険なくらいさ。でも、ここまでだね」


 金城は僕の頬を舌で舐めた。自分次第で人質はどうとでもなるぞ、というメッセージらしい。しかし姉さんは別の意味で捉えたようだ。


「ちょっと、あんた何してんのよ! 空の顔舐めていいのは、私だけなんだからね!!」


 姉さんはぐっと踏みこもうとしたが――。


「やめときな。それ以上近づくと、大事な弟の命がないよ」


 金城はそう言ってナイフを持つ腕に軽く力を込めた。首からぽたりと、一筋の血が垂れ落ちる。大した怪我ではないはずなのに、足はガクガクと震え、背中からは冷たい汗が流れた。


「さあて、どうしようかな、アンタら。最初はちょっと痛めつけてやろうかなって思ってたけど、二人ともただじゃ済さまないよ。そうだねえ、まずは弟の死ぬ瞬間をじっくり見物しててもらおうか。アンタ、相当のシスコンのようだしね」


 そう言いながら、金城はもう片方の腕で僕の首を締め上げた。美少女に密着されるのはまんざらでもないが、今は状況が状況だ。


「待って!」


 姉さんはつらそうに叫んだ。


「お願いだから待って。何でも言うこと聞くから。空だけは見逃してあげて」


「ハッ! 笑わせんなよ。二人ともただじゃ済まさないって言っただろ。アンタは弟が苦しむのを大人しく見てればいいのさ」


「やめて! 死ぬから! 私が代わりに死ぬから!!」


 姉さんはそう喚き立ててるが、ふざけてる。そんなことをさせるくらいなら舌を噛んで死んだ方がましだ。しかしそんなことをしても、どうせ姉さんは僕の後を追ってしまうだろうから、同じことだ。タイミングを見て逃げ出すのがベストなのだが、金城にはまるで隙がなかった。


 姉さんは動くことができないようだった。眼に涙を浮かべて、悲愴な面持ちで僕を見ている。姉さんにそんな顔をさせている自分が、たまらなく嫌だった。


 どうすればいい。僕に出来ることは何もないのだろうか。

 いや、そんなことはない。考えろ。


 僕が助かり、姉さんも助かる方法を……!


 その時、背中に何かの感触があるのに気づいた。横目でその感触の正体を確認する。やっぱり。金城だって女だ。一瞬だけなら、何とかなるかもしれない。


 次は視線を後ろに向け、金城の動向を窺う。金城は姉さんとにらみ合っていた。いいぞ。僕よりも姉さんに注意がいっている。このまま金城に刺し殺されるなら、と僕は一か八かの勝負に出た。


「金城! さっきから背中に胸が当たってるよ!」


「はっ? む、胸!?」


 僕がそう叫んだ瞬間、金城にわずかな油断が生じた。そこに僕は右手で金城の腹部に思い切り肘打ちを食らわせた。


「ぐっ……!」


 たまらず金城はナイフを落とし、後ろに引き下がった。その隙に、僕は金城から逃れられる距離まで転がった。


「でかしたわ、空!」


 そう叫びながら姉さんは金城に向かって駆け出した。


「しゃらくせえ!」


 金城もまた、体勢を立て直し姉さんを向かい打とうとしている。


 その後に起こったことは、正に一瞬だった。

 ファイティングポーズを取る金城に対し、姉さんが猛然と飛び掛っていったのだった。

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