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「空の痛み……百倍にして返す!」


 姉さんは不良グループに向かって走り出した。


「このやろう!」


 不良グループの一人が先陣を切って迎え撃ったが、時既に遅し。

 姉さんはそれより早く、敵との間合いを詰めていた。


「死ねや!」


 繰り出される強烈な蹴り。

 その蹴りを姉さんは肘で受け止めた。そして次の瞬間には膝関節を捻って投げ飛ばし、更に落下する相手の腹部にかかと落としを入れていた。


「ぐふっ!」


 相手の背中が地面につく。と同時に次の相手が跳び蹴りを放っていた。

 岩のようにごつごつした足が、姉さんの顔に――。


「姉さん!」


 僕は反射的に叫んだ。姉さんが相手の蹴りを食らったと思ったのだ。

 だが、姉さんは身体をよじって攻撃をかわしていた。そして体勢の崩れた相手の足を抱えてジャイアントスイングをし、別の不良に向かってぶち当てた。


「ぎゃっ!」


 二人は絡み合う形で倒れた。ピクリともしないところを見ると失神しているのだろう。しかし安心は出来なかった。残った一人が姉さんに向かって突撃してたからだ。相手は懐から何かを取り出した。キラリと閃光が走る。その手に握られていた物は、折りたたみ式のナイフだった。

 

 本気なのか。背筋に震えが走った。

 こいつは本気で姉さんを殺すつもりでいる。


「姉さん逃げて!!」


 僕は声の出る限り叫んだ。

 しかし、姉さんは逃げる素振りを全く見せなかった。


「殺してやる!」


 相手は無慈悲にもナイフを姉さんに向かって突き刺そうとした。

 紛れもなく、姉さんを殺すつもりで。


「なっ!?」


 叫んだのは姉さんではなく、相手の方だった。


 姉さんは迫り来るナイフをかわし、相手の腕を右脇に挟んでいた。

 そのまま相手の左肘をつかむ。


「ふっ!」


 姉さんは気合を入れ、相手の懐に入り込むと上半身を捻り、引き込みながら一本背負いで投げ落とした。

 相手は背中から地面に叩きつけられた。ひゅう、という情けない声が漏れる。その隙に、相手の鳩尾に姉さんは掌底打ちを入れていた。


「ぐう……」


 相手はそう呻くと失神したようだった。もう二度と起きれないかもしれないが。とにかくピンチは脱した。僕は安堵したと同時に消沈していた。結局姉さんが全て片付けてしまったからだ。やっぱり僕は姉さんに比べて出来が悪い。


「やったね。姉さ――」


 そう、僕はうかつだった。


「!?」


 姉さんに駆け寄ろうとした時、僕は何者かに後ろから羽交い絞めにされた。振り返ると、金城が禍々しい笑みを浮かべている。

 その時僕は気を抜いていたことを激しく後悔した。よりにもよって、金城のことをすっかり忘れていたのだ。姉さんは一瞬遅く気づいたが、それより早く金城はナイフを取り出していた。

 

「空……!」


 姉さんは悲痛な顔でその光景を見ていたが、近づくことは出来なかった。まさか、僕が人質に取られるとは考えていなかったのだろう。僕も、金城がそこまで卑劣な人間だとは思わなかった。

 金城はニタリとほくそ笑んだ。


「形勢逆転だね。さあ、こいつの命が惜しかったら、大人しくしてもらおうか」


 そう言うと金城は、僕の首筋にナイフを押し当てた。

 

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