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 先生が部室から出て行くと、僕と恭子は顔を見合わせ、コクリと頷いた。

 ふたりで先生から貰ったビニール袋を見つめる。たっぷりと時間をかけて眺め入ったところで、恭子は顔を上げて言った。


「どうだ?」


 僕も顔を上げた。


 今から言う言葉を頭の中で組み立てながら。


「……これ、本物なのかな」


 僕は言った。


「もしかしたらウイッグなのかもしれない。誰でも銀髪になれるし、最近のは質がいいから簡単にはバレない」


「ういっぐ、とは何だ? なぜ誰でも銀髪になれるのだ?」


「分かりやすく言うとカツラのことだよ。実際に人毛を使用している場合もあるから、見た目には偽者かどうか分からない」


「真犯人がそれを被って銀夜になりすましたというのか?」


「可能性はあるね。身長が同じくらいでマスクもしてれば、銀夜だというイメージを刷り込むことが出来る」


「なるほどな。しかし、それは疑わしいな」


「何で?」


 得意になった推論に口を挟まれたので、僕は多少早口になって聞き返した。


「いくら精工に作られているとはいえ、つけ毛はつけ毛だ。黒髪ならともかく、銀髪ならまがい物だとすぐに分かるだろう」


「それをバレないようにするために、深夜の時間帯を選んだんじゃないかな」


「カツラなら激しく動けばズレる。ましてや喧嘩などしては落ちてしまうだろう」


「だ、だからそれを誤魔化すためにニット帽を……」


「そこまでして銀夜に変装する理由はなんだ?」


「えーっと、だね。あ、そういや、校長の人間関係ってどうなんだろう? 意外と学校関係者以外が犯人だったりして」


 自分で口にしてから、気が滅入ってしまった。なぜなら、途方もない時間をかけて校長の対人関係をリサーチしなければならなくなってしまう、からだ……。


「おそらく違う、と思う。犯人は校長のスケジュールや帰宅ルートまで知っている。わざわざ銀夜のことを利用しているのも学校関係者だからだ」


「犯人はうちの生徒ってことか。卒業生とかは?」


「あの校長は去年東京から赴任してきたはずだ。ならば、今在学中の女子生徒が容疑者ということになる」

 

「……把握」


 それだけ分かっても、状況は大して変わっていないように思える。結局銀夜を救うには彼女の無実を証明するか、真犯人を探し出すかの二通りしかないのだ。


「だけど三学年の女子全員を調べるのは無理だよなあ」


「戸塚家の力を使っても、すぐには分からない。対象が絞れれば別だがな」


「……そうだね」


「ちと待て。こういう時は、朱音先輩に相談してみてはどうか?」


「ねえ、さん?」


 僕は間を置いて答えた。


「どうして姉さんなの?」


「私は、あの人のことはどうも好きになれぬ。恋敵でもあるしな。しかし……あの並外れた頭脳には頼らざるを得ないだろう」


 恭子は苦い顔でそう言った。


「姉さんに頼る、か……」


「あ、嫌ならいいのだが……」


「別に嫌じゃないよ」


 僕は静かに答えた。


「でも、これは僕たち新聞部の問題だ。だから僕たちだけで解決したい。それに、この事は他言無言だって緒方先生が言ってたじゃない。赤の他人とはいえ姉さんだし、それはまずいよ」


「私もその意見には賛成だ。しかし、一つだけ同意しかねるな」


「何?」


「お前と朱音先輩は赤の他人ではない。姉弟だ。血の繋がりや戸籍など関係なく、な」


「…………」


 僕は黙り込んだ。確かに恭子の言うことにも一理あるかもしれない。でも、それでも姉さんにだけは頼りたくなかったのだ。


「私は、これで失礼する」


 恭子は椅子から立ち上がって言った。


「先ほど緒方先生が仰ってた資料を取りに行く。その上で独自に捜査を進めていくよ。二人固まって動くより散らばった方が効率がよかろう」


「僕がいたら足手まといになりそうだしね」


「逆だ。私にはお前の助けになりそうもない。悔しいがそれが出来るのは、あの人だけだ」

 

 あの人……?

 一寸考えて分かった。


「……ねちっこくて、嫉妬深くて、独占欲が強くて、デレッデレなあの人ね」


「ははっそうだな」


 恭子は笑みを浮かべた。

 僕は言った。


「じゃあ、恭子は僕と別行動だね?」


「うむ。銀夜が交戦したとされるグループについても、調べてみるつもりだ」


「それなら、探ってほしいやつがいる。金城逸海って女だ」


「誰だそいつは?」


「詳しくは言えない。でも、そいつが鍵を握っている気がする」


「鍵?」


 きょとんとした表情の恭子に聞かれ、僕は答えた。


「そう、銀夜の秘密の鍵だ」

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