28
先生が部室から出て行くと、僕と恭子は顔を見合わせ、コクリと頷いた。
ふたりで先生から貰ったビニール袋を見つめる。たっぷりと時間をかけて眺め入ったところで、恭子は顔を上げて言った。
「どうだ?」
僕も顔を上げた。
今から言う言葉を頭の中で組み立てながら。
「……これ、本物なのかな」
僕は言った。
「もしかしたらウイッグなのかもしれない。誰でも銀髪になれるし、最近のは質がいいから簡単にはバレない」
「ういっぐ、とは何だ? なぜ誰でも銀髪になれるのだ?」
「分かりやすく言うとカツラのことだよ。実際に人毛を使用している場合もあるから、見た目には偽者かどうか分からない」
「真犯人がそれを被って銀夜になりすましたというのか?」
「可能性はあるね。身長が同じくらいでマスクもしてれば、銀夜だというイメージを刷り込むことが出来る」
「なるほどな。しかし、それは疑わしいな」
「何で?」
得意になった推論に口を挟まれたので、僕は多少早口になって聞き返した。
「いくら精工に作られているとはいえ、つけ毛はつけ毛だ。黒髪ならともかく、銀髪ならまがい物だとすぐに分かるだろう」
「それをバレないようにするために、深夜の時間帯を選んだんじゃないかな」
「カツラなら激しく動けばズレる。ましてや喧嘩などしては落ちてしまうだろう」
「だ、だからそれを誤魔化すためにニット帽を……」
「そこまでして銀夜に変装する理由はなんだ?」
「えーっと、だね。あ、そういや、校長の人間関係ってどうなんだろう? 意外と学校関係者以外が犯人だったりして」
自分で口にしてから、気が滅入ってしまった。なぜなら、途方もない時間をかけて校長の対人関係をリサーチしなければならなくなってしまう、からだ……。
「おそらく違う、と思う。犯人は校長のスケジュールや帰宅ルートまで知っている。わざわざ銀夜のことを利用しているのも学校関係者だからだ」
「犯人はうちの生徒ってことか。卒業生とかは?」
「あの校長は去年東京から赴任してきたはずだ。ならば、今在学中の女子生徒が容疑者ということになる」
「……把握」
それだけ分かっても、状況は大して変わっていないように思える。結局銀夜を救うには彼女の無実を証明するか、真犯人を探し出すかの二通りしかないのだ。
「だけど三学年の女子全員を調べるのは無理だよなあ」
「戸塚家の力を使っても、すぐには分からない。対象が絞れれば別だがな」
「……そうだね」
「ちと待て。こういう時は、朱音先輩に相談してみてはどうか?」
「ねえ、さん?」
僕は間を置いて答えた。
「どうして姉さんなの?」
「私は、あの人のことはどうも好きになれぬ。恋敵でもあるしな。しかし……あの並外れた頭脳には頼らざるを得ないだろう」
恭子は苦い顔でそう言った。
「姉さんに頼る、か……」
「あ、嫌ならいいのだが……」
「別に嫌じゃないよ」
僕は静かに答えた。
「でも、これは僕たち新聞部の問題だ。だから僕たちだけで解決したい。それに、この事は他言無言だって緒方先生が言ってたじゃない。赤の他人とはいえ姉さんだし、それはまずいよ」
「私もその意見には賛成だ。しかし、一つだけ同意しかねるな」
「何?」
「お前と朱音先輩は赤の他人ではない。姉弟だ。血の繋がりや戸籍など関係なく、な」
「…………」
僕は黙り込んだ。確かに恭子の言うことにも一理あるかもしれない。でも、それでも姉さんにだけは頼りたくなかったのだ。
「私は、これで失礼する」
恭子は椅子から立ち上がって言った。
「先ほど緒方先生が仰ってた資料を取りに行く。その上で独自に捜査を進めていくよ。二人固まって動くより散らばった方が効率がよかろう」
「僕がいたら足手まといになりそうだしね」
「逆だ。私にはお前の助けになりそうもない。悔しいがそれが出来るのは、あの人だけだ」
あの人……?
一寸考えて分かった。
「……ねちっこくて、嫉妬深くて、独占欲が強くて、デレッデレなあの人ね」
「ははっそうだな」
恭子は笑みを浮かべた。
僕は言った。
「じゃあ、恭子は僕と別行動だね?」
「うむ。銀夜が交戦したとされるグループについても、調べてみるつもりだ」
「それなら、探ってほしいやつがいる。金城逸海って女だ」
「誰だそいつは?」
「詳しくは言えない。でも、そいつが鍵を握っている気がする」
「鍵?」
きょとんとした表情の恭子に聞かれ、僕は答えた。
「そう、銀夜の秘密の鍵だ」




