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「それでは、班をわけよう」
緒方先生は僕らの身を引き締めるように言った。
「まず、白絵と黒川は銀夜の学校内での評判、昨夜の足取りを聞き込め」
「分かりました。あたし、頑張っちゃいます!」
先生の言葉が言い終わらないうちに、白絵は声を張った。
「頼んだぞ。事件が起きた昨夜、銀夜がどこで何をしていたか。それだけでも分かれば大分有利になる」
「任せてください。あたし、学校中から情報を集めてきます」
白絵は意気込みをこめて言った。小柄な体をゆらゆらと揺らしながら。
「ね、黒ちゃん。早速いこっか」
黒川は、ふうっと息を吐きながら答えた。
「仕方ないわね。他に方法はないみたいだし。では、先生、部長、戸塚先輩。失礼します」
僕らに軽くお辞儀をするなり、白絵と黒川は教室を出て行った。
部室から二人が出て行くのを見届けると、先生は僕と恭子に向かい合った。
「妙なことになったな」
先生は薄く笑いながら言った。でも確かに色々な感情とが混ざり合って、僕らの心境は複雑だった。
「かまいませんよ。揉め事や厄介事には慣れてますから」
肩をすくめながら答える。そして、
「それより、僕らはどうすればいいんです?」
僕は話を進めるように促した。
「うむ。それでは本題に入ろう」
先生は口を開いた。
「お前たちに依頼したいのは、真犯人探しだ。あの銀夜が暴行事件を起こしたなどと、私にはどうも信じられん。しかし、我々教師が動けば色々と目立つ。さっきも言ったが、調査は内密に行いたいのだ。だからすまん……お前たちだけで動いてくれ」
「分かりました。でも、これだけは教えてください。緒方先生は犯人の目星はついてるんですか?」
「すまんが、心当たりが多すぎる。何しろあの校長は評判が悪い。私が知っているだけでも十人ほど理不尽な理由で停学処分としているからな」
「そうなんですか……」
僕と恭子はがっくりとした。犯人探しだと息巻いたはいいが、結局犯人を絞り込むどころか、糸口さえないのが現状なのだ。
「停学になった者達の資料は頂けますか」
そう恭子に聞かれると、先生は首を縦に振った。
「かまわんよ。本来ならそういう情報を生徒に渡すのは禁じられているのだが、緊急事態だ」
「そうですか。なら、しらみ潰しに探していけば何か分かるかもしれませんね」
恭子は奮起しながら言った。しらみ潰しというのは、全員に聞き込みしにいくということだろうか。それはそれで骨が折れそうな作業だ。
「しかし、私と空だけでは人手が足りませんな。もっと何か、足がかりになるような物はないのですか」
恭子の言わんとしてることを先取っていたのか、リクルートスーツの内側に手を入れながら、先生は答えた。
「足がかりなら、ある」
そう言って先生がテーブルの上に置いたのは、
「校長が握り締めていた、犯人の毛髪だ。校長に訳言って拝借してきた」
刑事ドラマでよく見る、証拠品を入れるビニール袋のようなものだった。その中に入っていたのは、透き通るような銀色の髪の毛だった。
「これは、犯人の物なんですか」
恭子が驚きながら尋ねた。
「では、これを警察に持ち込んでDNA鑑定でもしてもらえば、事件は解決するのでは?」
「いや、恭子。この件は新聞部だけで調査しないといけないから、警察は駄目だよ」
「空の言うとおりだ。警察に行けないからお前たちに頼みたいんだよ。この色合いからすると、ほぼ銀夜で決まりかもしれんが、まあ……これはとにかくお前に託す」
緒方先生はビニール袋を僕に渡した。手にとって眺めてみると、色素の薄いプラチナブロンドのようだった。これが犯人の物だとすれば、銀夜のと見比べてみれば事実は証明できるだろう。しかし、銀夜は欠席しているのだから、その区別は不可能だった。
「すまん、私はこれから小用があるので先に帰る。お前たち、くれぐれも無理しないようにな」
先生は僕たちの顔を見比べながら言った。
一応頷いてはおくが、僕には直感めいたものがあった。
この事件は、そんな覚悟でたやすく解決できるものではないと。