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 僕は姉さんとは別々の部屋で寝ている。

 そんなことは当たり前だろうと言われるかもしれないが、実は中学の頃までは一緒のベッドで寝ていたのだ。しかし高校に上がる際、頑なに嫌がる姉さんを説得し、何とか止めさせた。何しろ道徳や倫理の問題もあるし、人目にも悪い。年頃の姉弟が同じ部屋で就眠していたのだから、当然の処置といえるだろう。


 だからこそ金曜日の今朝、姉さんが僕の隣で眠てるのに気づいた時、びっくりして思わず声を上げそうになった。姉さんは体のラインがはっきり浮かび上がるような、薄く透けたネグリジェを着ていたのだから。


「もしもし、姉さん? 起きて」


 体を揺すりながら言うと、姉さんはごにょごにょとうわ言で答えた。


「ふふ♪ 空これ気持ちいい?」


 どんな夢を見ているのかは分からないが、ろくな夢じゃないことは確かだった。


「何言ってるんだよ。それに何でここにいるの?」


「んー……我慢しなくていいのよお」


「うるさいっ! さっさと起きろ!」


 思わず怒鳴ってしまった。


 多少乱暴な物言いではあるが、この状況では仕方ないだろう。


「あ、あれ、空……?」


 姉さんは眼をパチパチしながら呟いた。


「おはよう、姉さん」


 僕は答えた。


「さて、質問です。この部屋は、僕の部屋です。なのにどうして姉さんがいるのかな?」


 均整の取れた肢体が、ランジェリー越しにもハッキリ分かる。姉弟が寝所を共にする時の服装ではない。一体どういうつもりで僕のベッドにもぐりこんだのかと問い詰めた。


「だって、私は空のお姉ちゃんなんだよ! なら一緒に寝るのは当然じゃない! 他にも、一緒にせっ……」


「はい、そこまで」


 その先を喋らせないように、僕は姉さんの言葉を遮った。姉さんは明らかに不服そうな顔をしていたが、構わず僕は続けた。


「姉さん。何度も言うようだけど、姉弟は一緒に寝るもんじゃないんだよ」


「あー! 空ったらまたそんな反抗的なこと言う! 昨日のお仕置きがまだ足らなかったのかしら?」


「悪いけど、十分すぎるほど足りてるよ」


「うー。私の愛する空だったら、そんなこと言わない。あ! ということは、貴方は空の偽者ね! このー、本物の空を返せ!」


「はいはい。そういうのいいから、質問に答えて? どうして姉さんが僕の布団で寝てたの?」


「えーっとね。空の寝床に、また美月銀夜が潜り込むかもしれないから。もちろんその牽制のためよ。誓ってそれ以外の意味はないのよ? ましてや空の寝込みを襲ったり、寝顔を写真に撮って脅かしたりなんて、まったくもって考えてないんだからね?」


「…………」


 自白同然の姉さんの言葉に、僕は絶句としてしまった。


 初夏の清清しい太陽を体で感じながら、僕は銀夜のことを考えていた。

 まずメールや電話の類が一切こなくなった点。一昨日は容量オーバーするくらいメールがきていたというのに。どうにも釈然としない。

 更にはあれほど僕のメイドであることを固執していたにも関わらず、今朝は迎えに来なかった点だ。

 

 まあ釈然としないならば、元々あれだけの美少女が、僕などに傾倒する方がそもそもおかしいわけで。しかし僕に飽きたのならまだしも、銀夜は明らかに金城に脅されていたのだ。


 まさか、銀夜の身に何か?


 僕は昨夜から、そのことばかりを考えていた。しかし考えを決めるのは銀夜で、僕が判断すべきことではない。でも僕には予感にも似た恐怖を感じていた。それは時間が経つにつれ大きく膨大していくのだった。


 しばらく歩くと、レンガ作りの校門が見えてきた。

 周りにいる通学途中の学生と、ベゴニアの匂いがする花壇を横切る。

 下駄箱の辺りまで来ると、何故か皆大騒ぎをしていた。

 嫌な、予感がした。

 僕は見知った顔を見つけると声をかけた。


「おはよう、白絵」


「あ、おはようございます……部長」


 白絵は昨日の快活ぶりが嘘のように沈んでいた。


「何か、あったの?」


 そう尋ねると、白衣は悲壮な面持ちで答えた。


「あ、あの、噂なんですけど、本当にただの噂話で……」


「噂? どんな?」


 少し苛々した言い方になっていたかもしれない。だけど、彼女には申し訳ないが、今の僕はそれどころではなかった。


「昨日、河川敷で、不良グループ間の抗争がありまして……」


 出だしから結論までの間には区切りがあった。


「うん、それで?」


 僕はそう促した。白絵は、正に僕が危惧していた通りのことを言った。


「そこに、銀ちゃん――美月銀夜さんが加勢に入ったらしいんです。ある高校側について、相手側をほぼ一人で殲滅させたそうです。偶然近くを通りがかった友達から聞いたんですけど、その人銀色のロングヘアーで、自分でこう名乗ってたみたいです。私は『シルバーブレット』だって」

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