22
僕は通話を終えると、ベッドに寝転んだ。
頭の中では姉さん、玲子さん、そして父さんのことを思い出していた。
交通事故で亡くなった親父が残してくれたのは、三千万円の自賠責保険のみだ。親族の命と引き換えでは安すぎるかもしれない。しかし高額すぎるのかもしれないし、あるいは相応なのかもしれない。
大体、僕は父の死を悲しんでいたのだろうか。
悲しくない、と言えば嘘になる。どちらかと言えば悲しい。しかしそれは、悲壮や悲痛といったのものではない。どうしてだろうか、胸の底から悲しさが沸いてこないのだ。
僕は父の葬式を思い返してみた。そして加害者に向かって「父さんを返せ!」と泣き叫んでる自分をイメージしてみた。
……あきれるほど似合っていない。
ごろり、と寝返りを打った。眼に入り込んでくる電球の明かりがやけに眩しく感じた。倦怠感はあるし、眠気もある。それなのに頭が冴えて仕方がない。ふと勉強机に視線を向けると、上方に飾ってある、古びたオルゴールが眼に映った。
――だって、親子なのに会うこともできないなんて悲しすぎるから。
かなみの言っていることはお節介に過ぎないが、決して間違いではない、と思う。今や虐待やDVの類は珍しくもないし、貧困の為子供を育てられない親も増えてきてると言う。それらに比べたら、まだ僕の母はマシだったと言えるだろう。
しかしこれほど会いに行くのを躊躇してしまうのは、やはり彼女を母親として受け入れていないからだろう。端的に言うと、自分を捨てた母など不必要なのだ。あの事件以降、僕は彼女と会うことを頑なに拒んでいた。肉親だからとか、血縁がどうしたとか、そんな口当たりのいい美辞麗句をすっ飛ばし、僕は育ての親と姉を選んだのだから。
自分で決めたことだし、未練はない。
それなのに鬱々としてたまらない、というジレンマ。
普通に考えれば、長い間自分の子供を赤の他人に預けるような母なのだから、哀れみなど覚えるはずがない。キッパリと割り切った方がいいのは明らかだった。だけど僕は迷っていた。母との関係を断ち切ることに悩んでいた。
僕は、母さんに会いたいのだろうか。会いたくないのだろうか。自分でも分からなかった。
電灯の照明を落とすと、布団を被りゆっくりと瞼を閉じる。眠られないが、もう寝てしまおう。僕は何もかも忘れて就眠につこうとした。
意識が途切れそうになる中、ある風景が浮かんできた。
川岸でわが子を手にかけようとする、凄まじい形相の母を。
「かあ、さん……」
そう、思わず僕はつぶやいていた。




