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「アンタが自らの姉を殺していてもかい?」


 その言葉を聞いた時、銀夜は死刑宣告を受けた咎人のように顔を真っ青に染めていた。そして、

「どうして……どうして……」

 と繰り返した。


「どうして、逸海が……」


「どうしてアタイが知ってるんだって聞きたいんだろ? 話は簡単さ。アンタの姉貴とアタイの姉貴は同級生だったのさ。だからあの事件の真相も知ってるってワケ」


 思わずあの事件とは? と口走りそうになった。

 しかし僕は、全く別のことを金城に向かって言った。


「金城、君はとことん人が嫌がることをする質のようだね」


「言っただろ。何としてでも銀夜をアタイ等のグループに入れるってね」


 金城は鼻を鳴らして言った。


「でも、もし仮に銀夜が実のお姉さんを殺していたとして、どうして銀夜は警察に捕まっていないんだ? 口からでまかせもいい加減にしろよ」


「周りに気づかれないように殺したに決まってるだろ。罪に問われない殺人なんて、世の中にゃゴマンとあるんだよ」


「銀夜がそれをやったと言うのか」


「だから言ってるだろ。なんなら銀夜に聞いたらどうだい」


 金城は卑属な笑い方で言った。何を馬鹿なと切り捨てたかったが、銀夜の様子はただ事ではなかった。


「銀夜、正直に答えてくれないか。君は本当に……」


 僕がそこまで言うと、彼女は唇をブルブルと震わせながら、

「違う……わたくしは、お姉さまを殺していません!」


「そんなこと分かってるよ。でもね」


「ご主人様?」


「君のその戸惑い方は、ハッキリ言って普通じゃない。何か抱え込んでいることがあるなら、隠さず話してほしい。僕は君の力になりたいんだ」


 それは虚言ではなく本心からの言葉だった。僕はいつの間にか、自分が本当に銀夜の主人のつもりで接していたのかもしれない。


「アンタ何粋がってんの? もうすっかり銀夜の彼氏気取りかい」


 金城が冷やかしを入れてきた。僕は答える。


「そういうことじゃないよ。前にも言ったけど、僕と銀夜はそういう関係じゃない。でも無関係でもない。新聞部の部員として、後輩として、友達として、僕は銀夜の手助けがしたいんだ」


 そこまで言った時、銀夜はフラフラと前のめりに倒れそうになった。僕は銀夜に駆け寄りその肩を掴もうとしたら、その時――


「い、いや!!」


 彼女は僕の手を荒々しく振り払った。

 バチン、と大きな音が反響した。


「銀……夜?」


「あ、あう……も、申し訳ありません、ご主人様。ですが、後生ですからもうわたくしには関わらないで下さいまし」


 銀夜はぼやけた視線のまま僕に謝罪をした。


 僕は銀夜を見つめた。宝玉のように青みがかった瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。拒絶されているのか。銀夜の後方にいる金城に眼を向けると、彼女はニヤニヤとほくそ笑んでいた。その笑みには勝者の愉悦が感じられる。視線を銀夜に戻すと、彼女は「今日はもうお引取りください」とだけ言った。


「何も言わずに黙って帰れって意味かな?」


「わたくしには、逸海と話し合うことがあります。ご主人様がいては言いにくいことでございます。何卒、ご承知置きを」


「しつこい男は嫌われるよ」


 金城が茶化すように言ってきたが、僕はかまわず銀夜に声をかけた。


「金城の仲間になるつもりなのか?」


 彼女は答えなかった。


「せっかく普通の高校生に戻れたのに、また不良に戻るの?」


 僕がもう一度尋ねた時、銀夜はようやく口を開いた。


「もう一度だけ申し上げます。もう、わたくしには関わらないでください」


 なら何故そんなすがるような眼をしてるんだ! 

 と叫びだしそうになった。しかし、それより早く金城が僕の前に立ちふさがった。


「そういうことだから。とっとと消えな」


 僕は答えず、彼女の後ろにいる銀夜に向かって言った。


「最後にひとつだけ言っておきたいことがあるんだけど、いいかな」


「何でございましょうか」


 銀夜の問いに僕は返答した。


「何か困ったことがあったらすぐ言ってくれ。僕は君の……ご主人様なんだから」

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