【Episode6】
誤字を直さしていただきました。
大事な場面での誤字、本当に申し訳ありません。
戦闘科の職員室で、凍ったスライムを手渡す事で試験は合格する事が出来た。
ただし評価は最低の【E-】。苦労したのにあんまりではないかと言えば、たかがスライムで何を言うと怒鳴られる。
それならば元の試験で出された課題を受けさせて欲しいものだ。いくら冒険者の方々の力を借りたとは言え、わたしが自分の足で赴いた事実は変わらないのだから。
「それは仕方ないだろう。冒険者の力を借りてもいい、そんな前例を作れば試験の価値が磨耗してしまう。これは所謂能力試験。実力を知る為にあるのに他人の力を借りれては本末転倒にも程がある」
「それはそうですが」
「そもそもだ。スライムの核、いや精霊を捕らえたのもわたしの道具であり、お前自体は特に何もしていないだろう」
そう言いながらコーヒーに角砂糖を大量投下してドロリとした液体を美味しそうに飲み干すアウェイン先生は、酷く楽しげに浮いている精霊を指で突つく。
「嫌がってますよ」
逃げるようにプランターの中へと逃げ出す精霊を尻目に、わたしはスコーンを口に放り込む。口の中で柔らかな果糖の甘みが広がり、思わずポルフィルン──お茶の一種。紅い色と香ばしい香りが特徴。別名は紅茶──が恋しくなった。
「ところで劣等生」
「何ですか?」
「前から聞きたい事があったんだが、……聞いてもいいか?」
常に単刀直入なアウェイン先生には珍しく、まるで責めるような口調で問い掛けてきた。
内容は分からないが、余程大切な事なのだろう。それならばわたしも覚悟を決めて答えなければいけない。
「ええ、答えられる範囲なら」
「そうか。なら、──」
言葉よりも先に、細い指がわたしの胸板を撫でる。その撫で方が誰かに似ていると疑問に思うよりも早く、その質問が部屋に響いた。
「お前は何に呪いを掛けられ、どのような条件でそれを解除するつもりだ」
◇◇ ◇◇
教会の聖堂に腰掛ける銀の女神。
優しげに笑う彼女から逃げるように、僕は全力で駆け出した。
後の反動を気にする事もなく、全力で気術で強化した身体は矢のような速さで教会を脱出する。だが、
「逃げないでフィリルシェリア」
目の前に3つの月が浮かぶ。空に輝く銀月と、逆さに笑う二つの氷輪。
それが何かを理解するよりも先に、白魚が唇をくすぐった。
───身体はピクリとも動かない。
こんな恐怖はあり得ない。まるで身体が──思考するのもおぞましいが──世界から切り離されたかのようだ。
それを起こしたのは目の前の女神。生と死を司る女神は小さく笑い、僕の胸を貫いて、──。
「君を守る為だ。許しておくれフィリルシェリア」
笑う。笑う。笑う。笑う。
響き渡る声と、吐き気がする激痛と、溶けるような虚脱感。
胸の中に異物が滑り込み──。
「条件は解るでしょう? ほら、覚悟を決めなさい無辜なる魂。そうじゃなければ───」
◇◇ ◇◇
最悪な一夜を思い出す。胸を襲う幻痛は、解けるように消えてしまった。
「どうした?」
「──いえ、何でもありません」
こびり付いた恐怖を頭を払うことで追い払う。この感情は忘れたい。
「そう、ですね。相手が何かも知っています。解除する方法も解っています」
「なら、何故それを実行しない。褒美は何か分からないが、少なくとも今よりもまともになれるだろうが」
「不可能ですよ。何があろうと絶対に」
「それは何故だ?」
くだらない事ならぶん殴る。そう言わんばかりの鋭い瞳を真っ正面から受け止めて口を開く。
「解除の条件は『ルキナ・フェリスの殺害』ですからね。わたしには何があっても不可能です」