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最弱の有能冒険者  作者: 夜つ七
第一章 ─劣等生─
7/13

【Episode5】

 アクセス数が19万を超えました。

 読者の皆様方、本当にありがとうございます。

 これからも楽しんでいただけるよう、努力させていただきます。

 学園の中で尤も大変な行事が存在する──実技試験だ。

 今回の内容は不気味谷の中に存在する石版に書かれている内容を提出しろと言う物だった。

 わたしは既に調べ終わっているんですがと提出すると、その後一人だけあまりにあんまりな内容に変えられてしまい、一人項垂れる。


「あの脳筋なりに考えはあるんだろうが……」


 アウェイン先生に相談してみると、頭を抑えながらコーヒーを出してくれた。苦いが、この苦さは嫌いではないので美味しくいただいた。


「と言うか、先ずお前一人だと無理だろう」

「ええ、確実に」


 出された試験内容は「スライムの討伐」だ。

 スライムは不定形と呼ばれる魔物の代表格として有名である。所謂初心者用、子供でも倒せる雑魚魔物として有名なんだが、──実は此処に落とし穴が存在する。

 不定形の魔物の特徴は、魔力による抵抗力が非常に低いことであり、同時にあらゆる物理的な攻撃を無効化すると言うものだ。攻撃手段が全て通用しない存在相手にどう戦えと言うんだろうか?


「まあ、スライムなら攻撃されて死ぬことはないだろう。そう思ってソレに決めたんじゃないか?」


 確かにスライムは攻撃手段を持たない、いや、正確には攻撃意思が皆無の非常に優しい魔物だ。

 他の魔物と違い、体の維持に必要なのは水のみ。余程の事がない限りは生物を襲う事はないだろう。襲われても身体がただの水なので不快なだけで、子供のように小さくなければ溺死する恐れもない。そう言う意味では確かにわたし向きの魔物ではある。

 尤も、討伐しろとか無茶を言うなと多少は言いたいが。


「そうだな、取り敢えず試験前に対策を考えて見てはどうだ? 冒険者の中には不定形の魔物を倒す際に魔法を使用しない者も存在するそうだ。その方法を調べてみるといい」

「……そうですね。あ、コーヒー有難うございました。とても美味しかったです」

「あんな苦いものをよく飲めるな」

「出したの先生ですよね?」

「いや、学園の支給品だ。何の嫌がらせかこんな豆ばかり送ってくる。こんなものより、魔法薬の原材料になるものでも送ってもらった方が嬉しいんだがな」


 薬草茶の方が好き、と言う意味だろうか? それとも嗜好品よりも実用品の方がいいと言う意味だろうか?

 どちらかは分からないが、多分イメージで決めてるんだろうなと一人納得して街へと向かうことにした。


 ◇◇  ◇◇



「それならわしが知っとるよ」

「本当ですか!」


 ギルドの角で酒を呑んでいた小柄なご老人はカラカラと笑いながら、まあ座れと指で指示をする。

 それに従い座ると、ご老人は優しげに語りだした。


「スライムだけではないんじゃが、不定形の魔物や守護者(ガーディアン)系の魔物にはそれぞれ核と呼ばれる物がある」


 初めて聞く話に知識欲が疼く。どのような物なのか、ソレはどんな機能を持つのか、考えるだけでも楽しくなってきた。


「そこはわし等であれば心臓と脳と同じでのう。そこが無ければ奴さんは身体を維持する事が出来ん」

「そ、それは何処にあるんですか!」


 身を乗り出すと急に後ろから襟を引かれる。不思議に思って振り向くが、そこには誰も/何も存在していない。

 もしや目の前のご老人の魔法だろうか?


「それは自分で見付けなさい。君は冒険者なんじゃろう。ならば、知るには己の力で、な」

「……はい。ご教授有難うございました」

「なに、年寄りの話を笑わず聞いてくれる者など最近はおらんからな。わしも楽しませてもらったわ」


 かっかっかと、本当に楽しげに笑うご老人に再度頭を下げ、情報料代わりに酒代を支払って店を飛び出した。

 

 ◆◆  ◆◆


「ふむ、頑張れよ若人よ」


 核が何か気付けたならば、あの子は間違いなく何かを得る事が出来るだろう。

 それを間近で見たいという思いもあるが、これでも割と忙しい身。取り敢えず今日は帰るとしよう。


「あの子、呪いが解けるといいのう」


 ◇◇  ◇◇


 学園の北に存在する泉の周辺にスライムは生息している。

 これは水辺で無いと生き残れないからではなく、この周囲には外敵と呼べる魔物が存在しないからだと言われている。

 それを裏付けるかのように、この周辺に存在する魔物は全てが子供の悪戯で死に絶える程弱々しい物ばかりだ。事実この周辺ならば自分でも討伐することが可能な魔物が多数生息している。……ただし、それと同時に利益が全く見込めないので誰にも見向きされていない。精々子供達が遊びに来るか、冒険者の真似事をする程度しか利用価値がないのだ。


「見付けた」


 泉から30フィート(約30メートル)程離れた場所で、半透明なジェル状の存在が何をするわけでもなく、ただぼんやりと存在していた。

 あれこそがスライム。子供にすら負ける最弱の魔物の一体。練習用と嘲られる最弱の不定形魔物。

 そして、自分にとっては鬼門の物理無効と言う面倒な特徴を持つ敵だ。


 遠目から観察してみるが、どう見てもジェルの中にはそれらしい物が存在していない。もしかしたら同色で、見ただけでは分からない物なのかもしれない。

 警戒することなく近づくと、あちらもわたしに気付いたようだ。

 スライムは少し此方へと近付きながらも敵対意思はないようだ。


「……よし」


 真っ二つにする勢いで剣をスライムへと叩き付ける。凄まじい轟音を立て、剣は大地へと突き刺さるが、やはりスライムは無傷だった。


「簡単に出来たら苦労はしない、か」


 そもそも、このようなあてずっぽうな方法で核とやらを破壊できるとは思ってもいない。

 物理無効と言うのはそんな単純なものではなく、巨大な槌でぺしゃんこにされてもすぐに戻れる程に耐性があるからこそ無効と言われているのだ。

 斬撃など素通り、潰しても即座に復活し、弾き飛ばしても時間が経てば元通りだ。

 本当に核などあるのだろうかと不安になり、一つの可能性を閃いた。


「……まさか、外に存在している?」


 思い出したのは傀儡と言う禁呪。

 人に魔力を流し込み、意のままに操ると言う外道な魔法。

 アレは使用された物の意思など関係なく、強制的に実行させられると言う恐ろしい魔法だ。

 書物に書かれれば確実に犯罪行為に使用されており、現在では知る者が存在しないと言われた魔法だが、その中で唯一。その魔法を使用して平和を作り上げた魔法使いの伝記が存在していた。

 それは無機物に命令する事で、まるで生物のように動かすと言う内容だった筈。


「試す価値はあるか」


 鞄から小さな球体を取り出す。アウェイン先生特性の道具だ。

 これは染色球と呼ばれる道具で、空気中の魔力に特殊な染料を使用して輝かせると言う、本来ならば子供の遊び道具にしかならない物だ。

 だが、アウェイン先生が作成したコレは遊び道具と言えるほど可愛らしい物ではない。


 スライムに向かって染色球を投げ付ける。

 避ける素振りも見せず、真正面からそれを飲み込んだスライムの体は徐々に青く染まっていく。──ここまでは問題ない。

 問題があるとすればそれは今起きている現象だ。

 スライムの遥か後方、泉の中から伸びた魔力の線を伝うように、青い輝きは広がっていく。

 それと同時に、スライムに変化が起こり始めた。青く輝くスライムは更に光を強めていき、──気が付けば氷像と化していた。

 その冷気が伝うかのように、一直線に凍り付く魔力の線と、それから逃げ出すように泉から飛び出す半透明のナニカ。

 空を滑るように飛ぶナニカは凄まじい速度で逃げていくが、その中の一体だけが逃げ遅れ、そのまま冷気に包まれて氷像と化した。


「……凄まじいな」


 使用した本人だというのに呆然とその光景を眺めてしまう。泉も含め、周辺の物がほぼ全て凍り付いてしまった。……なる程。人に使うなと言っていた理由が理解できた。こんな物を使用したら確実に殺してしまう。


「まあ、今はどうでもいいか」


 氷像の中身は小さな、それこそ掌サイズの精霊だった。

 精霊は精神(アストラル)生命体と呼ばれる魔物の一種だ。魔力を喰らう事で成長する種族であり、魔法による攻撃だと逆に成長すると言う厄介な性質を持つ魔物だ。

 だが、精霊は肉体を持ってはいないものの、物理的に世界に干渉出来るせいか、こちらからも触ることができる。スライムとは逆に物理的攻撃に非常に弱いので、上位の精霊になるまでは基本的に何処かに隠れていると言われている。


 つまりスライムは、早く成長したい精霊達が用意した撒き餌のような物だったのだろう。魔力に弱いのはおそらく操る魔力の糸が他者の魔力に触れることで切れてしまうからだ。成長途中では精霊でも、いや、強大な魔力を持つ聖霊だからこそ制御する事が難しいのだろう。


「……それにしても、どうしようか」


 精霊は魔物に分類されているが、その殆どが無害な物ばかりだ。悪戯が酷い時もあるが、中には人の為に働いてくれるものすら存在している。教会が契約している守護精霊や王の身辺警護をしている騎士精霊達がその代表だろう。

 この学園周辺では殺害しても問題にならないが──そもそも括りとしては魔物だ──、学園には他国から学びに来たものも多く存在する。殺害した場合、彼等にバレたときに生きてこの故郷に帰れる気が全くしないのでやめたほうがいいだろう。

 氷を砕き、中で失神している精霊を取り出す。かなり衰弱しているようで、たまに身体が薄れてしまう。このままだとすぐにでも消えてしまうかもしれない。

 しょうがないと、指先をナイフで切り裂く。鋭い痛みと共に赤い熱がこみ上げてくるが、それを無視して精霊の口へと血を流し込む。

 これはあくまでも応急処置だ。魔力を使用することの出来無い自分では直接魔力を渡す事が出来無い。だが、魔力自体が存在しない訳ではないので、血を媒介にして多少は手渡す事が出来る。

 暫く飲ませていると、身体が透けることがなくなり、血色も──と言っても半透明なんだが──良くなって来た、ような気がする。

 これなら大丈夫かと、布でくるんで鞄の中へとしまい込む。物に潰されないよう、小箱に入れたが呼吸はしないので大丈夫だろう。


「これがあれば、大丈夫だろうか?」


 凍り付いたスライムを拾ってそのまま学園へと歩き出す。

スライム討伐の試験はこれで終了するのか。多少不安だが、先ずはこの精霊をアウェイン先生に見てもらうとしよう。



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