【Episode3】
多少書き直しました。
目の前で槍を構える同級生。
それに対して、わたしは丸腰も良いところ。周囲には破壊された武器が散乱し、狭い闘技場が更に狭くなったかのようだ。
「保健室まであと何分だろうか?」
思わず呟いたわたしに迫る鋭い突き、その側面に拳を叩き込むことで何とか矛先をずらす事に成功する。
だが、やはり強化された一撃はその程度で防げる程甘いわけがなく、二の腕を軽く切り裂いていく。
それに痛がることもなく──もう慣れてしまっている──、即座に懐に入り込もうとすると同時に前方から迫る氷塊。それを避けようと身体を捻ると、──脇腹に鋭い一撃が叩き込まれた。
「がっ!」
空へと落ちる身体を執拗に狙う氷の弾幕は容赦なく、全身から熱を奪い去っていく。
意識が朦朧としている中、最後に見たのは──歪んだ笑みを浮かべ、突きを繰り出す同級生だった。
保健室を退室した後、わたしは闘技場へと一人侵入する。
既に陽は落ちているので辺りには誰もいない。教師すらもこの時間帯は誰も此処には近寄らない。
それが、何よりも嬉しい。最近では、昔のように人が恐ろしく感じてしまう。こんな姿を見たら、彼女はまた情けないと溜息を吐くのだろうか? それとも、もう呆れてすらくれないのだろうか?
「……」
頭を切り替えるために鍛錬を始めるとしよう。
さて、先ずは準備運動でも……。
◆◆ ◆◆
フィルはいつも通りに闘技場で訓練を開始した。
それを見ることしか出来無い自分は卑怯者だ。彼の努力を知っていながら、それに対して応える事が出来無い。
「ごめんなさい」
洗礼された剣筋に見惚れる。それには一切の強化が使用されていないせいで遅く、弱々しい。誰よりも技量が高いのに誰よりも弱いとは。神様とやらは意地が悪い。貴方が彼に呪いを掛けなければ、わたし達は幸せでいれたと言うのに……。
別れを告げた時の表情を忘れる事が出来無い。傷付けた事実を受け入れる事が出来ず、ただ逃げる事しか出来無いわたしを、どうか許さないで欲しい。
「本当に、ごめんなさい」
未だにわたしを想い努力する姿は酷く痛々しい。
それに応える事はもう二度とできない。穢れてしまったこの身体を貴方の前に晒す勇気は、未来永劫手に入れることは出来ないだろう。例え貴方が許してくれても、わたし自身が耐えることが出来ないのだから。
「……愛してる」
今も、昔も、そしてこれからも。わたしは貴方の隣には居れないけれど、それでも貴方を愛し続ける。
貴方と会話することも、貴方と手を握ることも、もうわたしには出来ないけれど。貴方の笑顔を忘れなければ、わたしはいくらでも頑張れるから。
視界の先には我武者羅に動き続ける最愛の人。
その動きは明らかに対人戦を意識したもの。何度も敗れているのか、その顔は酷く苦しげだ。動きを見ていると分かるが、相手は槍と魔術を併用した戦い方をしているらしい。おそらく今日敗れた相手の事を意識しているのだろう。
「頑張ってね」
フィルなら絶対に勝てるから。わたしだけは信じているから。




