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最弱の有能冒険者  作者: 夜つ七
第一章 ─劣等生─
4/13

【Episode2】

 薬草を育て分かった事は3つある。

 一つ目は土によって成育が違うという事。森の土では元気よく育つが、学校の土では全然ダメだ。多分だが、森の土は柔らかいのでよかったんだと思われる。作物を作るために耕すのは柔らかい土にする為だと聞いた覚えがあるから多分間違いない。

 二つ目は鶏の骨を入れた方が育ち易いが、入れすぎると逆に死んでしまう事だ。多分これは貴族がなるという贅沢病と同じだろう。食べ過ぎはよくないと最近ではなくなった病気だが、それは植物にも言えるらしい。

 そして3つ目だが、これが一番重要だ。同じ薬草でも違いがあるという事だ。例えば同じ鉢植え育てても片方は青々と育つのに片方は枯れてしまう事もある。多分だが、これはそれぞれの耐久力が違うんだと思う。同じように育て方は一緒なのに使った際の効果に差がある物もある。なので最近では効果が高い物は高い物通しでくっ付けたりしている。もし種子が出来た時にそれが引き継がれるかもしれないと今から楽しみである。


「という訳で、これからはある程度は治癒草を安定供給出来ると思います」

「そうか。ありがとうフィルちゃん」


 仲のいいギルド職員Aさんことアインさんに薬草を渡す。普段からお世話になっているのでお代はいただかない。

 アインさんはいわゆる獣人の方で、青い髪を押し上げるように犬っぽい耳が存在する爽やか美形だ。最初女に間違われた時は不倶戴天の敵かと思ったが、何度か話す内にギルドで一番親しい人になった。


「フィルちゃんは相変わらず冒険者らしくないね」

「ケンカ売ってます?」

「褒め言葉だよ」


 たまに失礼な発言が飛び出してくるが、悪気がないのが分かっているのでケンカにはならない。というか絶対に勝てないので買わない。


「ところでフィルちゃん。グレゴリー達が不気味谷に依頼があるらしいんだけど一緒に行かないかだって。どうする?」

「不気味谷ですか。そうですね、ありがたいですが今回はお断りします。そこは一ヶ月前に行って情報の整理中ですし」


 不気味谷は本来なら自分程度では入口にも行けない場所だが、何故か他の冒険者の方々によく連れて行ってもらえる。調査や観察、現地の地図作成などして何とか足を引っ張らずに住んでいるが、気になった事を全部知りたがる性格のせいで何度も迷惑を掛けてしまった。皆さん優しいので許してくれるがそれに甘える訳にはいかない。


「御詫びに作成した地図と魔物のデータ一覧を渡してもらえませんか」


 手帳と地図をアインさんに手渡す。この程度では全然恩返し出来ないが、それでも渡さないよりはいいだろう。


「……え、いいの? これフィルちゃんのお宝情報でしょ?」

「まあそうですけど。でもそれは写しなので別に問題ないです」


 というか自分が持ってても参考にする事が出来ないので他人に持っていてもらった方がありがたい。


「それじゃ僕は寮に帰ります。また薬草持って来ますね」

「あ、うん。気を付けて帰るんだよ」


 ……いつになったら子供扱いを止めてもらえるんだろうか?



 ◆◆  ◆◆


 彼が去ってから約30分程で一匹のゴリラ男が現れた。名前はグレゴリー、ほんの少し前に【B級】にランクアップした冒険者の一人だ。


「よう、アインの旦那。フィル坊は来たか?」

「ああ、今回は遠慮するらしいよ」

「またかよ」


 残念そうに肩を落とすゴリラに周りからざまあみろと言う視線が注がれる。相変わらず大人気のようだ。尤も、それも仕方ない事だろう。目の保養にもなるし、何より戦闘以外なら本当に有能な少年だ。いや、有能なんて言葉じゃ足りない。冗談抜きでアレは化物だ。

 知識欲、観察眼、発想、記憶力、技術習得速度、語学習得速度、計算速度、情報処理能力、空間把握能力、状況把握能力、思考速度、身体能力……挙げようと思えばまだ挙げれるが、とにかく戦闘以外なら冗談抜きで天才だと言い切れる。何故冒険者をやっているのか、本当に理解出来ない。


「そうだ、フィルちゃんから預かり物があるぞ?」

「なんだ、また菓子でもくれるのか?」

「いや、不気味谷の地図とそこに出る魔物の情報が書かれたメモ帳」


 その言葉を吐いた瞬間、ギルドの空気が凍り付いた。それは自分以外の職員も含める。

 フィルのメモ帳、通称お宝情報。

 手に入れれば一ランク上の魔物でも倒せるようになると言われている魔物図鑑だ。情報一つでそんなに変わる訳がないと他のギルドでは馬鹿にされるが、それは間違いだ。コレはもう、なんとういうか酷い。どんだけ細かく調べてるんだよとこの街の冒険者なら誰もが一度は絶句する程だ。

 例えば大角鬼(オーガ)と呼ばれる魔物がいる。圧倒的な膂力と生半可な剣では弾く肉体が特徴で、中には魔法を使う個体すら発見されている【C級】の魔物の一体だ。冒険者の登竜門と呼ばれている程に手強い魔物なんだが、あの子の情報さえあれば負けることはないだろう。というか、弱点から部位による肉質の違いや効果の高い魔法、移動速度や魔法の有無をよくこれほど細かく書ける物だ。しかも絵が上手いのでわかりやすい。


「え、いいの?」

「写しだから問題ないってさ」


 その後、野太い叫びを上げながらギルドを飛び出すゴリラがいたのは、まあ、しょうがないだろう。

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