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最弱の有能冒険者  作者: 夜つ七
第一章 ─劣等生─
3/13

【Episode1】

 さて、今日はギルドの依頼で薬草の採取に来ている。薬草の名前は魔癒草(まゆそう)、魔力を回復させる特殊な薬剤を作るのに必要な薬草だ。見た目は治癒草ちゆそうの色違いだが、群生地が全然違うので探すのは一苦労だ。

 依頼達成の為には10枚必要だが、思いの外早く終わったのでフィールドワークがてら森を散策してみる事に。新たな薬草の群生地が見付かれば御の字である。

 適当に森の奥へと歩みを進める。普段は魔物がいるので危険だが今日は特別。アウェイン先生から借りた“魔除の臭い袋”があれば【A級】以上の魔物でなければ近寄ってこない。コレを借りる為に土下座したのは良い思い出だ。


「……こんな道具に頼らなきゃこの森の奥に行けないんだよな」


 この森に出てくる魔物はアベレージ【E級】、森の主を除けば冒険者なら余裕で撃退できる程度である。だが、魔法と気術の使用出来ない自分ではその程度の場所でも非常に危険だ。高い技量と身体能力があれば無くても問題ないが、達人の領域には程遠い自分では不可能である。

 涙を堪えながら森の探索を続けると少し入り口から少し左に入った所に治癒草の群生地があった。これは少し意外だ。治癒草は水場の近くにしか生えない筈なんだが?

 観察してみて分かった事は此処は地下水が染み出ていると言う事。成る程、川や泉の近くにしか生えないというのは固定概念でしかないのか。湿った場所にも生える事があると言う事を知れたのは非常に大きい情報だ。川の近くでしか育たないと思っていたが、これなら寮の裏で育てる事が可能かもしれない。


「これは試してみよう」


 治癒草の成長速度は非常の早く、詰んでも2日で新しい葉が生えてくる。成功すれば一々採取しなくてもよくなるかもしれない。

 とりあえず、森の土と治癒草を根子ごと採取して帰る事に。早く帰ってアウェイン先生に相談しなくては。







「…………」


 反応が芳しくない。もしかしたらこれは既に試されている方法なのだろうか?

 だとしたらこの反応も納得だ。既に成功、または失敗している事をやろうとしている劣等生に呆れているんだろう。また一人空回りしてしまった。


「お前は、……相変わらず面白い奴だな」

「す、すいません」

「謝るな。単にどう反応していいか分からなかっただけだ」


 何故凄く楽しげに微笑んでいるアウェイン先生に思わず身震いする。自覚していないようだが、この女性は笑うと非常に恐ろしい顔になる。魔王も逃げ出す怖さと言えば伝わるだろうか?


「何故怯えているかは分からんがとりあえず落ち着け」

「はい。それで今回の考えはどうでしょうか?」

「悔しいが、そんな事を考えたのはお前が初めてだろうな。普通冒険者にとって薬草とは採取する物、薬剤師はギルドに依頼するか買い取るのが一般的。もし成功したら薬剤師からすれば万々歳の話だ」


 思わずガッツポーズ。これが成功したらギルドの受付さんが言っていた傷薬の供給問題が軽減するかもしれない。そうすれば多くの冒険者が助かるだろう。これは気合いを入れなければ……!


「アウェイン先生、鉢植え借りて良いですか?」

「ああ、好きなだけ使ってくれ」


 許可を頂いたので早速鉢植えに治癒草を植える。村に住んでた時に教えてもらったように砕いて粉にした鶏の骨も少し混ぜてみる。こうすると多少は植物が成長しやすいんだとか。野菜じゃないので当てはまるかは分からないがやらないよりやった方が良いだろう。 一応採取したのも4株あるので森の土を使うものと、普通の土を使うもの。それに骨の粉を入れるか入れないかによる変化を観察してみようと思う。もしかしたら川の近くに生えている物と森に生えている物は何かが違うかもしれない。それを調べることが出来たら結構いい発見かもしれない。前にギルドの受付さんも同じ手順で作った傷薬でも効果に差があるときがあると言っていたので、薬草の質というのも調べてみようと思ったのだ。




 ◆◆  ◆◆




 今回の事はある意味予想の範囲内だ。あの少年はやりたい事はとりあえず試すタイプなので似たような事をやるだろうとは思っていた。思っていたんだが


「まさか薬草を育てようとは」



 冒険者と言うのは現地での自給自足が基本だ。一定の拠点を持つ者は少ないのが原因だろう。

 基本的に討伐依頼を優先し、採取依頼は精々最初の頃だけだ。まあ、討伐と比べれば地味で利益も少ないのでしょうがないと言えばしょうがないが

 ギルドも材料不足を嘆いてもそれの解決案を考えれる程の余裕はない。何せ彼等の仕事量は冗談抜きで人が死ぬ量である。過労死したギルド職員は毎年少なからず存在する。

 そして薬剤師にとって薬草とは買い取るか依頼を出して採取してもらう物である。もともと薬草が魔物の生息地と重なりやすく、知識以外は一般人と変わらない私達には採取するのは難しいというのも理由の一つだ。「あいかわず面白いな」


 実技は最下位でも知識は最上位。発想もなかなか面白く、ギルド職員からは信頼されている。街では人気者で、学園以外の冒険者からの評価は高い。戦うのは苦手でもその情報量は凄まじい。冒険者よりもアドバイザーの方が向いてそうだ。


「まあ、本人が気付いてないのは笑える話だがな」


 最近では上位の冒険者達の依頼に着いていき倒した魔物から様々なデータをとっているらしい。その知識欲が何処からくるのか知りたい物だ。

 知り合いのギルド職員の話ではフィルをギルドの職員にしたいという話もあるそうだ。何度か手伝ってもらった際に普段の二倍近いペースで仕事が終わったらしい。戦闘以外は本当にハイスペックな奴である。




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